熊谷信太郎の「セクハラ」

近年、いわゆるセクハラやパワハラが職場での大きな問題となっています。いずれのハラスメントも、企業活動に重大な支障を与えることから、職場の労務管理上無視できない重要な課題です。

日本のゴルフ場においては女性のキャディが多数を占めています。また、フロントやレストラン、経理には女性従業員が多く、メンテナンス部門やキャディマスター、支配人には男性が多いという特徴もあります。キャディやウエィトレス等の従業員に対しいわゆるセクハラ的行為があった場合、ゴルフ場経営会社は使用者としてどのような責任を負うのでしょうか。

今回は、セクハラを中心に企業の安全配慮義務について検討します。

 

企業の安全配慮義務

使用者には、労働者の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるとされています。古くから判例により確立されてきたもので、労働契約上の付随義務とされています。

その後、平成18年施行の労働契約法において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と安全配慮義務が明示されました(労働契約法5条)。

安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、業務内容等により個別具体的に決せられ、職場環境配慮義務(セクハラ、パワハラ)も、この安全配慮義務の一つであるとされています。

セクシュアルハラスメントとは、「相手方の意に反する性的な言動で、それによって、①相手方に仕事をする上での一定の不利益を与えたり、②職場の環境を悪化させたりすること」であり、男女雇用機会均等法11条に規定されています。

一方、パワーハラスメントとは、職場における職権等の力(パワー)を利用した人権侵害であり、法律上の定義はありません。

 

パワハラとは

労働者は、労働契約に基づき、その労働力の処分を使用者に委ねることを約しており、使用者はその雇用する労働者に対し、業務遂行のために必要な指示・命令をできる権限(業務命令権)を有しています。

そのため、業務上必要な指導や注意など適正な業務命令権の行使が、権限の濫用や逸脱と認められない限り、たとえそれで部下が嫌な思いをしたとしてもパワハラとは評価されません。

この点の著名な裁判例として、いわゆる東芝工場事件判決があります。

これは上司の常軌を逸した言動により人格権を侵害されたとして、部下が上司と会社に対し民事上の損害賠償請求をした事案です。

東京地裁八王子支部平成2年2月1日判決は、上司にはその所属の従業員を指導し監督する権限があるから、その指導監督のため、必要に応じて従業員を叱責したりすること自体は違法性を有するものではないとしました。

しかしながら、上司の行為が権限の範囲を逸脱したり合理性がないなど、裁量権の濫用にわたる場合は、そのような行為が違法性を有するものと解すべきと判示しました。

そして、休暇を取る際の電話のかけ方のような申告手続上の軽微な過誤について、執拗に反省書等を作成するよう求めたりする行為はその裁量の範囲を逸脱するものとして、会社及び上司が部下に対し連帯して15万円の損害賠償額を支払うよう結論付けました。

 

セクハラとは

一般に、セクハラには①対価型と②環境型の二類型があるとされています。

①は「上司Aが従業員Bに対し交際を求めたが拒否されたため、Bを配置転換した」など、性的関係を拒絶されて腹いせに解雇したり、人事の査定を低くするようなケースです。

②は、「社員Cが、職場で業務上不要な性的冗談を繰り返したことにより、従業員Dが不快感を持ち就業意欲が低下した」など、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就労環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるようなケースです。

セクハラの場合はパワハラと異なり、労働契約の内容となっていない職場では全く不要であるはずの「性的な言動」を要件とすることから、それにより相手方に不快感や精神的被害を与えた場合には違法と評価されやすい性質を有しています。

そして「相手方に不快感や精神的損害を与えた」といえるかどうかは、外形上同一の行為であっても、相手方の受け止め方により異なるので、セクハラの成否も異なってくる点に注意が必要です。

例えば、女性従業員の容姿を話題にするような行為や、飲み会の席においてカラオケのデュエットやチークダンスを誘うなどの行為も、相手方の受け止め方によりセクハラになる場合もならない場合もあります。

行為主体と相手方の受け止め方によって、同じ言動でも、「素敵な同僚に褒められて(誘われて)嬉しい」と思われる場合もあれば、「残念な感じの上司にあんなことを言われて(誘われて)気持ち悪い。セクハラだ」と思われる場合もある訳です。

もっとも、セクハラと認定されるためには、「相手方の意に反する性的な言動」であることを認識して行うことが必要ですので、服装を褒める等客観的に明らかに「相手方の意に反する性的な言動」であると言えないような行為の場合は、1回でセクハラと評価されるわけではなく、相手方が嫌がる態度を取ったにも関わらず同様の行為を繰り返し行ったような場合にセクハラと評価されると考えられます。

一方、お客がキャディの身体に触る等のわいせつな行為は、客観的に明らかにセクハラと評価できます。このような場合には、ゴルフ場は毅然とした態度で直ちにそのお客に対して厳重注意し、従業員を保護する必要があるものと思われます。

 

企業の使用者責任

セクハラが認定された場合、被害者から加害者に対して慰謝料請求がなされることもあり、加害者の上司や会社も監督責任、使用者責任を問われる場合があります。

例えば、ゴルフ場の例ではありませんが、ビル管理会社に勤務する知的障害者の女性職員に対し、上司が背後から身体を密着させる等したという事案で、大阪地裁平成21年10月16日判決は、上司の不法行為責任を認めると共に、代表取締役が女性職員から苦情を受けたにもかかわらず必要な措置を講じなかったことについて、会社に代表者の行為についての損害賠償責任を認めました。

なお、加害者の上司や会社が監督責任、使用者責任を問われた場合には、上司や会社は、直接の加害者である被用者に対し、支払った賠償金の返還を請求(求償)できます。

もっとも、被用者の行為が使用者の業務としてなされた以上、必ずしも全額の返還が認められるわけではありません。

判例も、「諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」において求償できるとしています(最高裁昭和51年7月8日判決)。

実務的には、支払った損害の50%程度までの求償しかできないと考えておくのがよいと思います。

 

ゴルフ場に求められる対策

では、ゴルフ場はどのような対策を施していれば法的責任を免れることができるのでしょうか。

この点、男女雇用機会均等法11条に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」が参考になります。

この指針が示している必要な措置は以下のようなものです。

①就業規則や社内報、社内HP等にセクハラの内容及びセクハラ禁止の方針、行為者への厳正な対処方針等を記載して配布し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。

②相談への対応のための窓口を予め定め、相談窓口の担当者が相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにしなければなりません。

③セクハラ問題が発生した場合には、相談窓口や人事部門の担当者が、相談者及び行為者とされる者の双方から事実関係を確認しなければなりません。それぞれの主張に不一致がある場合には、第三者からも事実関係を聴取しなければならないでしょう。

セクハラの事実が確認できれば場合には、加害者に対する懲戒処分等を実施し、加害者の配置転換や被害者・加害者間の関係改善に向けての援助、加害者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の措置が必要となります。

場合によっては、調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を講じることになります。

④以上と併せ、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を実施し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め労働者に周知・啓発することも必要となります。

ゴルフ場においてこれらの措置を完全に行うことはなかなか困難な面もあろうかと思いますが、できる限り対応し、健全な企業としての義務を尽くすことが必要でしょう。

 

加害者に対する懲戒処分

セクハラ行為が認定された場合、加害者に対ししかるべき懲戒処分を行うことも必要です。

使用者が懲戒処分を行うためには、予め就業規則にその種類・程度を記載し、当該就業規則に定める手続きを経て行わなければなりません(労働基準法89条)。また就業規則は労働者に周知させておかなければなりません(同106条)。これらの手続きに瑕疵があると、処分自体が無効とされることもあり得ます。

懲戒処分の内容については、加害者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。

セクハラによる懲戒処分の内容については、国家公務員に関する指針がある程度の参考になります(平成12年3月31日人事院事務総長発)。

この指針では、①暴行や脅迫、職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いてわいせつな行為等をした職員については、免職又は停職(免職、停職は、民間企業における「解雇、出勤停止」に相当)。②わいせつな発言や身体的接触等の性的な言動を繰り返した職員については、停職又は減給。③わいせつな発言等性的な言動を行った職員については、減給又は戒告等と定められています。

国家公務員の場合には減給については人事院規則により「1年以下の期間、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減ずる」ものとされています(人事院規則3条)。

これに対し、民間企業においては、労働基準法により、①1回の減給の額がその社員の1日分の平均賃金の50%を超えてはならない、②1ヶ月の減額の総額がその月の月次給与の総額の10%を超えてはならないという制限があるので注意が必要です(労働基準法91条)。賞与から減額する場合も同様です。

例えば月次給与240,000円、平均賃金8,000円(過去3ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割った金額)の場合、1回の処分の限度額は4,000円で1ヶ月の限度額は24,000円となります。

「ゴルフ場セミナー」2014年2月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフと賭博」

韓国のゴルフ場オーナーが、平成21年8月から12月にかけ、利用客から参加費を取り、パー3ホールでホールインワンを出せば6000万ウォン(約550万円)相当の高級自動車を景品としてプレゼントするというイベントを実施しました。

利用客の反応もよかったようですが、何度挑戦してもホールインワンを出せなかった利用客が、オーナーを賭博場開帳の容疑で検察に告発し、昨年10月、「賭博の開帳」にあたるとする憲法裁判所の判断が示されました。

このような高額賞品を景品とするホールインワン・イベントは我が国では許されるのでしょうか。

 

韓国におけるゴルフ賭博

ソウル南部地裁は平成17年2月、1ホールに最高1000万ウォン(約100万円)を賭けるようなゴルフを常習的に行ったとされる事件について、「スポーツ競技は花札などのように偶然によって勝負が決まるものではなく、プレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右する」として、刑法が「偶然により財物の得失を決定する行為」と規定する賭博にあたらないと判断し、賭けゴルフは無罪との判決を下しました。

もっとも、この事件の二審裁判所は、「偶然により勝敗が分かれるからといって、すべて賭博とみなせるわけではなく、どれほどの金をかけて、どれくらい頻繁に行ったかを考慮し、社会が受け入れられるレベルを超える場合、賭博と判断する」とし、「被告人の場合、頻繁に行った上、その金額も大きい」として、有罪判決(懲役刑)を言い渡しています。

一方、ソウル中央地裁は平成17年5月23日、類似の事件において、「ゴルフは実力がある程度勝負を左右するが、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用する」として、被告に罰金2000万ウォンの有罪判決を言い渡しました。

 

我が国における賭博罪

我が国において、賭博罪(単純賭博罪)は50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役、賭博場開張等図利罪は3月以上5年以下の懲役となります(刑法186条)。

この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。

そして「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。

すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。

したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。

 

一時の娯楽に供する物

もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。

この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。

判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。

金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。

 

コンペの賞品やベット

ホールインワンは偶然性の要素が非常に高いので(米国のSports Illustrated 誌によればホールインワンが出る確率は1/45,000)、冒頭の韓国の事例のような場合、景品が相当高額であること等も併せ考えると、賭博罪にあたるという結論にもうなずけるものがあります。

では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。

まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。

この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。

しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。

前述のようなホールインワンに高額賞金をかけて参加費を取って集客するようなケースと異なり、ラウンド中に参加費を支払ってワンオンにチャレンジし成功した場合に賞品を貰えるというワンオンチャレンジのように、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものまで賭博罪に該当するという考え方は多くのゴルファーにとって受け容れがたいものだと思われます。

 

ゴルファーの常識と法の接点

プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベット(またの名をニギリ)は、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。

日本プロゴルフ選手権大会の第1回優勝者である宮本留吉プロが、球聖と呼ばれたボビー・ジョーンズとマッチプレーで対戦して2UPで勝利し、ボビー・ジョーンズのサイン入りの5ドル紙幣をもらったというのも有名な話です。

これなどはゴルフの良きカルチャー、伝統を伝えるエピソードではあっても、賭博と評価するのは、いかにもゴルファーの感覚とかけ離れていると言わざるを得ません。

結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。

先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。

クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。

これに対し、元民主党の国会議員が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当するとされてもあまり違和感がありません。

また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。

もっとも、大手企業の部署内コンペで1口200円の掛け金を集めトトカルチョをやっていたことが内部告発され、社員ら61人が書類送検されて話題となった平成18年の事例などは、1口200円の企業部署内コンペで、警察が動いたことはやや行き過ぎではないかと思われます。

 

ゴルフ場の注意点

ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額によっては、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。

したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。

なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。

例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。

過大な景品類の提供が行われている疑いがある場合、公正取引委員会は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められた場合は、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる排除命令を行います。

さらにアマチュアゴルファーの場合には、1つの競技で受け取る賞品の小売価格の合計は、75,000円以下でなければならないとされており(JGAアマチュアゴルフ規則)、これに違反するとアマチュアを失う可能性があるのでこの点にも注意が必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「入会承認」

昨年8月、長年男性のみが会員であったマスターズ開催のオーガスタ・ナショナルGCが女性会員を初めて2名受け入れたことでニュースとなりました。

今年7月には男子ゴルフメジャー大会・全英オープン選手権が女人禁制の名門倶楽部・ミュアフィールドで開催されましたが、英国のマリア・ミラー文化・メディア・スポーツ相は「いまだ存在する性差別に背を向けてはいけない」という声明を出して大会への招待を辞退し、ヒュー・ロバートソン・スポーツ担当閣外相やスコットランドのアレックス・サモンド行政府首相もこれに同調する等議論の的となりました。

本来、同好の士の集まりであるゴルフ倶楽部は結社の自由を有し、誰を会員として認めるかについての裁量を有しており、入会申込みの際には倶楽部理事会の承認を要するとしているゴルフ場が一般的です。

歴史あるゴルフ倶楽部の中には、会員資格を男性に限定しているところもあるのは周知のとおりです。外国人であることや一定の職業(風俗営業従事者等)に就いていることを入会拒否事由としているゴルフ場もあるようです。

では、ゴルフ倶楽部の入会承認における裁量に限界はあるのでしょうか。

本年8月、この点に関して実務的に参考になる判決がさいたま地裁で出ました。

本件は、埼玉県の株主会員制のゴルフ場(本件倶楽部)の会員が死亡し、その会員の子であるA氏が株式を相続したとして本件倶楽部への入会の申込みをしたところ、ゴルフ場経営会社がこれを承認しなかったという事案です。

A氏は、入会申込みの不承認は裁量権を濫用したものであるとして、ゴルフ場経営会社に対し、①本倶楽部における名義書換と倶楽部理事会の決議無効確認を求め、②仮に本件倶楽部への入会が認められない場合には、不法行為に当たるとして慰謝料の支払いを求めました。

さいたま地裁は、平成25年8月28日、A氏の名義書換請求、理事会決議の無効確認請求、不法行為に基づく慰謝料請求いずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

 

事案の概要

A氏の父親は、昭和46年にゴルフ場経営会社の株式と本件倶楽部の会員としての地位を取得しましたが、平成22年4月に死亡し、A氏が本件株式を取得する旨の遺産分割協議が成立しました。

そこでA氏は、平成23年3月に本件倶楽部への正会員としての入会を申し込みましたが、倶楽部理事会はこれを承認しませんでした。

本件倶楽部の規則等においては、入会(相続により正会員の権利を承継した者を含む)の際には、選考委員会における審査を経た上、理事会において、理事の過半数が出席し、出席した理事全員の賛成による入会の承認が必要とされています。

なお、本件倶楽部では、理事会で入会を認められた申込者についてのみ取締役会に株式譲渡の承認手続を付託するという手続になっているため、株式の譲渡承認については正式な結論が出ていないようですが、A氏が株式の譲渡承認のみを求めればこれを認める方針だったようです。

裁判においてA氏は、会員としての資格要件を満たした入会の申込みは原則として承認されるべきであるという立論の下、①会社は入会を拒否する理由を合理的に説明しないままにA氏の入会申込みを承認しなかったものであり、裁量権を濫用したものと言うべきであるし、この点に関する倶楽部理事会の決議は憲法14条の精神に照らしても公序良俗に反し無効なものであるとして、本倶楽部における名義書換と理事会決議の無効確認を求め、②仮にA氏に対する本件倶楽部の名義書換が認められなかった場合には、会社が名義書換に応じなかったこと、及び入会申込みに当たりこれが認められなかったとしても一切異議を述べない旨の念書を書かせるなどした行為は、A氏の期待権を侵害する不法行為に当たるから、慰謝料として100万円の支払を求めました。

これに対しゴルフ場経営会社は、①本件倶楽部の重要な設立目的の一つは、会員の親睦を図ることにあり、②このような趣旨にそぐわないものとして入会申込みを拒否することは、私的自治の尊重されるべきゴルフ倶楽部としての適正な裁量の範囲内のことであるとして、③倶楽部理事会がA氏の入会申込みを承認しなかったとしても、これが裁量権の濫用となり、或いはA氏に対する不法行為に当たるということはできないと反論しました。

 

さいたま地裁判決

さいたま地裁は以下のとおり判断し、A氏の請求をいずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

①本件倶楽部の規則等では、正会員が相続した場合、その相続人が本件倶楽部の会員としての地位を取得するためには理事会の承認を得ることを必要としており、相続により株式を取得したことから直ちに本件倶楽部の会員の地位をも取得したということはできない。

②本件ゴルフ倶楽部はゴルフの普及発達を促進し、広く会員及び家族の保健と親睦を図り、ゴルフを通じて会員の体位の向上と道義の涵養に努め、地元の振興に寄与することを目的とされているのであって、倶楽部への入会希望者の審査は、原則として私的自治に基づく倶楽部理事会の自主的な判断に任されるべきものである。

③以上より、㋐入会申込みがあったときには原則としてこれを承認すべきものということはできない。㋑入会不承認が不当な目的に出たものである等裁量権を逸脱したものと認めるに足りる証拠はない。㋒入会不承認の理由を説明すべき法的な義務を負うものと認めるべき根拠もない。㋓A氏が本件倶楽部への入会申込みをするに当たり、入会が承認されない場合でも異議を述べない旨の念書をゴルフ場経営会社がA氏に差し入れさせていたとしても、そのことのみでA氏に対する不法行為に当たるものと認めることもできない。

 

結社の自由と法の下の平等

上記さいたま地裁判決も指摘している通り、そもそもゴルフ倶楽部は、同好の士の集まりであり、娯楽施設としてのゴルフ場の利用を通じて、会員の余暇活動の充実や会員相互の親睦を目的とする私的団体です。

そのため、ゴルフ倶楽部はその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は、契約自由の原則から、倶楽部にとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます。

本件は株主会員制ゴルフ倶楽部の株券を相続したという事案ですが、市場で会員権を購入した場合でももちろん同様です。

また、預託金会員制、プレー会員制等倶楽部形態の如何に関わらず、この考え方が基本的に妥当すると言ってよいでしょう。

このように、会員権の譲受人は、ゴルフ倶楽部の理事会等による入会承認を受けなければ、会員たる地位を取得することができないとする会則は法的に有効であり、倶楽部側に入会者決定の裁量があるということになります。

一方、憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。

そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。

この点、外国人のゴルフ倶楽部への入会制限が争われた事案において、東京地裁平成13年5月31日判決は、「私人である社団ないし団体は、結社の自由が保障されている」とし、新たな構成員の加入を拒否する行為が…民法709条の不法行為に当たるとすることが許されるのは、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限られるとして、ゴルフ倶楽部への入会に国籍による制限を加えるのは、社会的に許容される範囲であると判断してA氏の請求を棄却し、控訴審・最高裁もこの結論を維持しました。

会員を男性に限定するというゴルフ倶楽部の取扱いも、ロッカーや浴室、トイレの数等施設利用上の制約のため、社会的に許容される範囲であるとして、許容されるものと考えられます。同様に、女性限定のレディス倶楽部も許容されることになります。

 

実務的なゴルフ場の対応

このように、倶楽部会則における国籍条項も有効と判断されているとはいえ、入会資格を制限する条項は社会的に許容される範囲の制限であるかどうかという議論を呼びがちになるので、会則に明示するのは避けたほうが無難です。入会には倶楽部理事会の承認を必要とし、裁量的に各申込者の入会の許否を決する中で不適当な人物を排除するという方法が実際的です。

また、入会不承認の理由についても、明示すべきではありません。

この点、①倶楽部会則等に入会資格の要件が規定されていれば、その資格を充足している者が入会承認申請すれば原則として入会承認されてしかるべきであり、不承認とするならばその理由を明示すべきである、②入会資格要件が明確なものとしてない場合にあっては、他の会員につき承認し、当該会員につき不承認とする具体的理由を説明、明示すべきであるとの見解の論者もおり、その旨を主張する書籍もあります。本件判決のA氏の主張はまさにそのような考え方に立ってなされたものと言えましょう。

しかし、これは本件判決でも示されたように、倶楽部の入会者決定における裁量に関する誤った理解と言わざるを得ず、実務的にも到底受け入れられる見解ではないでしょう。

もともとゴルフ倶楽部への入退会に関しては、例えば労働者から要求があればその開示が要求されている解雇理由(労働基準法22条2項)などと異なり、法律による規制は及んでいません。

入会不承認の理由を伝えること自体が本人を傷つけ、無用な紛争を惹起する恐れがあり、入会不承認の理由を開示する扱いは通常なされていないと思われます。

そこで実務的な取り扱いとしては、入会不承認の理由を明示すべきではなく、倶楽部会則等に「入会不承認の理由を明示しない」ことを明記するとともに、入会申込の際に、入会不承認の理由を開示しないことについて入会希望者から個別に書面での同意を取っておくことが必要であると考えられます。

「ゴルフ場セミナー」2013年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「暴力団排除とコンプライアンス」

日本プロゴルフ選手権の主催や男子ゴルフのシニアツアーの運営などを行う公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)の現職理事が、本年6月に指定暴力団の会長と、それと知りながら熊本県内のゴルフ場でプレーしていたことが判明し、本年9月に理事を辞任したとして話題になりました。さらに10月には現職副会長も一緒にプレーしていたことが判明しました。

PGAは元理事について、9月17日開催の理事会において、倫理規定に抵触するとして、懲罰諮問委員会の答申に基づき会員資格停止8か月の懲戒処分を決定しました。資格停止は除名や退会勧告に次いで重い処分であり、処分期間中は大会に出場できず、会員を名乗ってのゴルフレッスンもできません。PGAによると、これまでは6か月が最長でしたが、プレー時に原職理事だったことを重く見て8か月にしたということです。

なお、PGAは会員倫理規定の中で暴力団とのつきあいを禁止しており、平成18年と本年2月には「暴力団排除宣言」を出しています。

 

コンプライアンスとの関係

暴力団等の反社会的勢力の排除はコンプライアンス上の要請です。

コンプライアンスとは、狭義には法令、契約、内部規定などのルール遵守を意味しますが、近年では、企業倫理遵守(法令等を遵守するのみでは足りず、明文化されていない社会的要請への適応も含む)と広義に捉える考え方が有力です。

反社会的勢力を社会から排除していくことは、企業にとっても社会的責任の観点から必要かつ重要なことであり、特に近時のコンプライアンス重視の流れにおいて、反社会的勢力に屈することなく法律に則して対応することや、反社会的勢力に対して資金提供を行わないことは、コンプライアンスそのものであるとも言えます。

なお、近年の暴力団は、組織実態が隠蔽され、資金獲得活動の手口の巧妙化が進んだため、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)が示され、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、①組織としての対応、②外部専門機関との連携、③取引を含めた一切の関係遮断、④有事における民事と刑事の法的対応、⑤裏取引や資金提供の禁止の5つの提言が示されました。

今回は、コンプライアンスの観点から暴力団員のプレーについて検討します。

 

暴力団員排除の明示

暴力団員個人のプレーは、暴力団対策法や暴力団排除条例により禁止されていませんが、ゴルフ場は契約自由の原則から、暴力団員とのゴルフ場施設利用契約の締結を拒否することができます。

具体的には、クラブハウス内の出入口や各掲示板、HP等において、「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に入れ墨のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」ということを明示し、暴力団関係者の利用を断る意思を明確に表示することが必要です。

HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効だと思われます。

ゴルフ場のフロントでの受付の際にも、受付票に「暴力団関係者の利用は固くお断り」であることを明示した上で、さらに受付票に「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」という欄を設け、プレー客にチェックしてもらうなどの対応も効果的です。

暴力団員であると分かったときにこれらを根拠にプレーを断りやすくなります。

 

暴力団員のプレーと詐欺罪の成否

「暴力団関係者お断り」のゴルフ場で、会員Aが、知人Bが暴力団幹部であることを隠して一緒にプレーしたことについて、その知人とともに詐欺罪に問われたという事案もあります(本誌平成23年6月号参照)。

この事案において、名古屋地裁平成24年3月29日判決(判決①)は、会員Aに詐欺罪の成立を認め、名古屋地裁平成24年4月12日判決(判決②)は、暴力団幹部Bに詐欺罪の成立を認めませんでした。

両被告人に対して詐欺罪の成否の結論が分かれたのは、両被告人が本件ゴルフ場の会員であるか否か、つまり本件ゴルフ場が「暴力団関係者お断り」であることを両者が知っていたかどうかについての判断の違いによるものです。

この点、会員ではない暴力団幹部Bに詐欺罪の成立を否定した判決②の判断が、一般的な実務感覚や世間の常識から相当ずれたものであることは明らかでしょう。

判決①も指摘しているとおり、暴力団関係者の施設利用は、ゴルフ場に対し計り知れない不利益を与えることになり、暴力団排除条例の施行後、暴力団関係者の施設利用はほとんどのゴルフ場の約款等で禁止されていること、及び暴力団関係者であることがゴルフ場に分かれば施設利用を拒否されるであろうことを、暴力団関係者は十分承知していることは明らかと言えるからです。

とは言え、ゴルフ場における実務的処理としては判決②も踏まえた対応が求められます。

つまり、判決②が判旨した詐欺罪の成立に必要な故意の要件との関係で、「暴力団関係者の施設利用は固くお断り」であるということを、前記のように具体的に意思表示する必要があるということです。

 

暴力団員が来場したら…

暴力団関係者と思われる人物が来場した場合には、すぐに所轄の警察署に受付名簿の氏名・生年月日・住所等を連絡して、暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。暴力団問題の担当部署にゴルフ場の概要を説明し協力を依頼する等、常日頃からの関係作りが大切です。

その結果、暴力団関係者が含まれることが判明した場合には、すぐに所轄の警察署に暴力団排除のための警察官の立会いを依頼し、警察官立会いのもとで、ゴルフ場の利用約款により暴力団関係者は入場及びプレーをお断りしている旨を説明し、もしプレーを始めてしまった後でも、直ちにプレーを止め全員退場してもらう(例えばプレーの前半に判明した場合にはハーフプレーでやめてもらう)といった対応が必要です。

約款等に暴力団関係者の施設利用を制限する旨及びプレーヤー側の事情によるプレー中断の際はプレーフィやキャディフィを返還しない旨の規定があれば、暴力団関係者のプレーを途中でやめてもらう場合でも、プレーヤー側の事情によるものとして、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度(ハーフかラウンド)に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を払えといった要求に応じる必要はありません。

プレーを断ったところ、暴力団員が納得せずフロントで騒ぐ場合は、暴力団員を会議室等の別室に通すことになりますが、暴力団員との対応内容を正確に記録します。

この際、暴力団員に記録を咎められたとしても、対応状況を上司に報告する必要があると説明し、咎められた事実も記録します。

プレーを断る理由を説明しても同じ話を繰り返すのであれば、何度か退去を促した上で最終的に警察に連絡する旨宣言し、なお居座るようであれば不退去事件として110番通報します。この際、退去を促した時刻も細かく記録しておきます。

警視庁や都道府県警察本部では業種別、企業単位での責任者向けに「不当要求防止責任者講習」を実施しているので、組織犯罪対策本部や捜査第四課などの暴力団対策担当部署に相談してみるのもよいでしょう。

 

入れ墨(タトゥー)による入浴許否

本年9月、ニュージーランドの先住民族マオリの言語指導者の女性が、北海道の民間の温泉施設で顔の入れ墨を理由に入館を断られていたことが報道され問題となりました。

女性側は「反社会的な入れ墨とは異なる部族の伝統文化であり差別ではないか」と抗議しましたが、施設側は「入れ墨が見えれば一律で断っている」と説明したということです。

ゴルフ場のお風呂場では、「入れ墨お断り」が多いと思います。

我が国では、入れ墨をファッションとしている芸能人やスポーツ選手も増えてきているとはいえ、反社会的勢力とのつながりを連想させ、入れ墨に対して威圧感や恐怖感を感じる人が多いと思われるため、このような規制がされているのです。

マオリ族の入れ墨は部族の伝統とのことであり、その有する意味合いは日本の暴力団の入れ墨とは異なっているようですが、文化的背景のある入れ墨かどうかを客観的に区別することは実際上困難でしょう。

いわゆる銭湯において多く取られている入れ墨禁止の合理性については、家庭での内風呂が普及しているとはいえ、銭湯が日常生活で保健衛生上必要な入浴施設であることから賛否両論争いのあるところです。

これに対し、ゴルフは趣味的に行われるスポーツであって生活必需のものでないことや、お風呂に入らないでラウンドだけすることも可能であること、入れ墨に対するゴルファー一般の拒否反応が相当強くゴルフ場に風評被害が生じる可能性が高いこと等を考えると、同好の士の集まりであるゴルフ場のお風呂における入れ墨の一律禁止には、現時点では一定の合理性があり許容されるものと思われます。

ゴルフも東京オリンピックの競技種目となり、入れ墨のある民族や外国人観光客の来場も予想されますが、入れ墨による入浴の一律禁止については、入れ墨に対する今後の社会通念の変化により判断されることになるでしょう。

 

暴力団との契約や不当要求

契約の相手方が暴力団のフロント企業であることが判明した場合、契約締結前であれば契約自由の原則から拒絶が可能です。

なお、契約書に反社会的勢力排除条項を入れることは必須です。契約係属中に相手方が暴力団関係者であることが判明した場合でも、これを根拠に契約を解除できるからです。

また、NPO法人や社会活動団体を名乗り、寄付金や賛助金の要求や、機関誌の購読要求等がなされることもありますが、支払う(購入する)必要が無いと考えるのであれば毅然とした態度で断ることが大切です。弁護士による拒絶通知等も有効です。

強引な場合、刑事上は強要罪、不退去罪、業務妨害罪による告訴、民事上は面談強要禁止、架電禁止の仮処分申立て等が考えられます。

なお、相手方が機関誌等を強引に置いていったような場合には、電話や内容証明で引取りに来るよう要請し、期限までに引取りに来ない場合は書留郵便で返送するとともに返送料を請求します。

また、相手方が機関誌等を送付してきた場合には断固として受け取らず、ポストに投函されていたときは「受け取り拒否」と記載したメモを貼り押印してポストに投函します。

この点、特定商取引に関する法律59条では、商品が届いた日から14日又は消費者が商品引取りを業者に依頼した日から7日を経過するまでに業者が引取りに来ない場合は、業者はその商品の返還を請求できなくなりますので、その後は勝手に処分することが可能です。

「ゴルフ場セミナー」2013年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員に対する懲戒処分」

欧米のゴルフ場と異なり、日本等アジアのゴルフ場においては、女性のハウスキャディが多数を占めています。かつて著名な評論家から緑の待合と揶揄されたことがあるように、プレーヤーの中には、女性のキャディをはべらせて楽しみに来ているというような古い意識の人もいるようです。男性のプレーヤーによるキャディに対する猥褻行為やストーカー行為等の相談を受けることも珍しくありません。

また、メンバー同士の喧嘩やメンバーによるゴルフ場従業員に対する暴言や暴行、さらには社会生活上の不行跡の発覚等、メンバーとしてふさわしくない行為についての相談も稀ではありません。

このような場合、会員に対する懲戒処分はどこまで可能なのでしょうか。今回は最も重い懲戒処分である除名を念頭において検討したいと思います。

 

懲戒の種類と性質

除名は懲戒処分の1つであり、懲戒処分とは、団体がその秩序維持を図るため、団体の構成員に対して行う処分です。

民間の企業においても、企業の秩序と規律を維持する目的で、懲戒処分として、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などの制裁罰を課すことが認められています。

ゴルフ場の場合も同様に、クラブという団体を想定し、クラブの秩序維持のために、会員に対して懲戒処分を行うことが認められます。

ゴルフ場においては、①戒告、②一定期間の会員資格の停止、③除名が定められていることが一般です。

会費の滞納(前月号参照)、③クラブの会則、規則違反を規定しているゴルフ場が多いと思います。

会員制には、社団法人制、株主会員制、預託金会員制、プレー会員制、及びこれらの混合制等がありますが、除名処分の法的意味は、それぞれのクラブの性質によって異なります。

いわゆる関東7倶楽部のような社団法人制ゴルフクラブの場合には、除名処分はクラブと会員との間の社団入会契約の解約(将来に向けての解除)を意味します。

株主会員制の場合には、株式会社と任意団体のクラブが併存しているケースが多いので、クラブからの除名処分が直ちに株主たる地位も失わせるかどうかは、会員契約の内容によることになりますが、原則的にはクラブからの除名イコール株主たる地位の喪失にはつながらないと思われます。

預託金会員制やプレー会員制のゴルフクラブの多くは、会員はクラブに入会する形式を取りながら、法的にはゴルフ場経営会社と会員契約を締結するものと考えられますので、除名処分とは、会員の債務不履行による会員契約の解約を意味します。

 

除名の実質的要件

判例学説上、除名処分は、クラブ秩序を乱しクラブの社会的信用や名誉を侵害するようなメンバーとしてふさわしくない行為がある場合、或いはゴルフ会員契約の契約者双方の信頼関係を破壊するような重大な契約違反がある場合に認められると考えられています。

例えば、利用施設を正当な理由もなく毀損する行為、施設利用に際し施設従業員や関係者に暴行したり繰り返し暴言を吐くといったような行為、休日に侵入してゴルフをする等定められている施設利用方法を著しく逸脱した施設利用行為、エチケットやマナーに著しく違反する行為等がこれにあたると考えられます。

裁判例においても、キャディに対して行った強制わいせつとその後の暴言等の対応等を理由として、問題となった会員に対する除名(債務不履行解除)を有効と判断した事案があります(東京地裁平成19年3月14日判決)。

同判決は、「契約の解除は、原告から、ゴルフ場施設利用権をその意思に反して奪い・・・社会的不利益を与えるものであるから、・・・契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とするというべきである」とした上で、①本件行為は非常に悪質なものであり、②原告は、本件行為後も被告クラブの者らによるでっちあげ、陥れである等と主張しており、③本件行為やその後の原告の対応、捜査活動等が従業員や会員に強い不安や動揺を与え円滑な運営上の障害となった等の諸事情を考慮すると、本件行為が、会則の懲戒事由に該当するだけでなく、除名処分の時点において、本件契約の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されたものと言うべきであるとして、本件解除は有効であると判断しました。

なお、本件では、クラブ理事会により本非違行為を理由として来場禁止処分の後に除名処分がなされており、会員側は一事不再理(同一事件については再度の処分を行うことができないという原則)に反すると主張しましたが、同判決はこの点については明言せず、結論として適正手続違反はないと判断しました。

一事不再理は本来刑事罰に関するものであるため、この原則がクラブ内の懲戒処分にも該当するかどうかについては争いのあるところですが、本件は非違行為の後にさらにでっちあげの主張等(上記②)もなされていることから、同原則の適用を前提としても、一事不再理には反しないと事案だと思われます。

 

経営方針に対する反対運動

また、ゴルフ場経営会社の経営方針に反対する会員が、他の会員を組織、扇動して不相当な方法手段で反対運動を行うというような場合にも、団体としての秩序維持や信頼関係の破壊の観点から、除名が認められやすいと考えられます。

例えば、東京高裁昭和63年8月22日判決は、会員の反対運動が、その程度及び態様において、親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を超えたものであったとして、ゴルフ場経営会社側の解除を有効と判断しました。

本事案において、問題となった会員は、増設コースについての追加入金の納入要請が違法不当であるとして、他の会員に働きかけて、組織的・集団的に宣伝した他、会社のゴルフ場の維持管理が不適切であり、会社内部で不正事件が続発している等と一般会員に宣伝したことが認定されました。

また、ゴルフ場経営会社から当該会員に対して警告がなされた上で、解除通告を行った事案でした。

このような場合には、ゴルフクラブの名誉と信用を傷つける等、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約を律する基本的信頼関係が破壊されたとして、東京高裁は契約解除を有効と判断しました。

 

クラブ外での不行跡の発覚

では、ゴルフ場外において犯罪行為をなす等、反社会的で社会から非難を受けるような非違行為があった場合はどうでしょうか。

この点、株主会員制の名門コースにおいて、脱税事件で実刑判決を受けた会員を、クラブ除名事由(「本クラブの名誉を棄損する等会員として好ましからざる行為があったとき」)にあたるとしてなした除名処分の効力が争われた事案があります。

本事案において、第一審は、直接クラブに関係ない行為ではあるが、クラブの名誉・威信を棄損した会員として好ましからざる行為であるとして、除名を有効と判断しました(横浜地裁昭和62年1月30日判決)。

一方、控訴審は、本件非違行為はゴルフ場外のものであり、ゴルフ場施設の他の会員の快適な利用を著しく困難ならしめるほどのものとは言い難く、それによってクラブの社会的評価が低下したとは認められず、会員契約上の信頼関係を破壊するものとは認め難いとして、除名を無効とし(東京高裁平成2年10月17日判決)、判断が分かれました。

最高裁は、原審の判断を維持し、除名を無効と判断しました(最高裁平成7年1月24日判決)。

なお、原審は、暴力事犯や窃盗事犯を反復累行する者やいわゆる暴力団組員のような者については、施設内においても粗暴なふるまいに及んだり他の会員の快適な利用を妨げる行為に出ることが充分に予測されるとして、契約上の信頼関係の維持が困難な例として挙げています。

一方、ゴルフ場の事案ではありませんが、乗馬倶楽部の会員が技術指導官に私的感情から暴行したという事案で、この会員の除名処分を社会通念上相当でないとして無効と判断した裁判例もあります(横浜地裁昭和63年2月24日判決)。

この事案では、私的な感情に基づく口論・けんかの末の暴力であり、被告倶楽部における乗馬スポーツの普及発展等の目的や被告倶楽部の事業との関連性も希薄であるから、被告の体面を毀損し、会員の義務を尽くさなかったとは言えないと判断されました。

 

懲戒処分と手続的保証

懲戒処分を行うためには、会則等で懲戒について定め、会則等で定められた懲戒手続きを経ることが必須です。

そして、争いはあるものの、クラブ内の懲戒処分においても、労働関係の場合と同様に、同一の非違行為に対する一事不再理、二重処罰の禁止の原則が適用されるとする見解が一般的です(反対説も有力ですが)。

但し、非違行為に対する懲戒処分後さらに暴言を吐いたりクラブの名誉を毀損する行為を繰り返すため再度処分するような場合には、新たな事情が付加されたことになるので、同一の非違行為に対して複数回の処分を課すことにはならず一事不再理に反しないと考えらます。

また、懲戒処分も不利益な処分であるため、遡及的処分はできないとされており、懲戒に関する規定が会則に定められる(追加される)以前の行為については、その処分対象とすることはできません。

 

除名の手続

除名処分をする場合、ゴルフ場経営会社は、問題となる会員の行為を具体的に把握する必要があります。

会員からの苦情申し出を受け付けた場合には、日時及び苦情の内容を詳細に記録し、問題となる言動について、写真や録音、動画などがあれば、これらを証拠として保管する必要があるでしょう。

一般に除名処分は、ゴルフクラブ理事会の決議により行う旨規定されているのが通常ですから、除名をなす旨の議題を理事会に上程する上での参考資料として、これらの記録を使用することになります。

そして、弁明の機会を設ける等の手続的保障が必要です。弁明手続及びその準備を行っておくことは、事実関係を精査するきっかけになり、処分対象者の弁解内容を確認するためにも必要です。

さらに、継続される非違行為に対しては警告を発することも必要です。

なお、通常は、理事会の除名決議を経て会員契約を解除するのが通常だと思われますが、ゴルフ経営会社が、除名決議を経ることなく、契約解除の一般法理に基づいて解除することが可能である場合もあると考えられます。

この点、前記東京高裁昭和63年8月22日判決は、契約解除の一般法理を適用して入会契約を解除することは、慎重を期すべきであるのは言うまでもないとして、理事会による除名決議を経るのが原則であるとしつつ、本件においては、①親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を越えた行為であったこと、②警告がなされた上での解除通告であること、③理事会も除名相当の意向を有していたこと等の事実に照らすと、契約解除は有効であると判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2013年10月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場と年会費」

長野県のゴルフ場が、平成25年4月末をもって、会員約1750名のうち、3年以上にわたり年会費の支払が滞った会員119名に対して、一斉に除名処分を行いました。

このゴルフ場は、平成14年7月に東京地裁に対し民事再生手続開始の申立てをし、再生計画に基づいて会員に対し預託金の一部を弁済し、スポンサー会社にその事業を譲渡しました。

一方、スポンサーとなった会社は、旧会員のプレー権を保護し引継ぎましたが、今回、会員としての義務を果たさない者に対し断固たる措置を取ったものです。

年会費の滞納には多くのゴルフ場が悩んでいると思われます。

しかしながら、預託金の据置期間が満了しているゴルフ場の場合には、除名により会員契約が終了して会員の預託金返還請求権が具体化し、預託金を返還しなければならないというジレンマに陥る可能性があるため、年会費滞納者の除名には慎重な考慮が必要となります。

上記の長野県のゴルフ場の場合は、法的整理の際に新クラブへ移行した会員はすべて預託金なしのプレー会員でした。そのため、年会費未払いを理由とする除名処分を、複数の会員に対し一斉に行うということが可能だったわけです。

 

年会費未納者に対する対応

年会費の支払義務は、ゴルフ場と会員との間のゴルフ会員契約に基づいた、会員の基本的な義務であり、会員の優先的施設利用権(いわゆるプレー権)と対価的関係にあるものです。

年会費の不払いに対しては、ゴルフ場経営会社が会員に対し除名等の懲戒処分を行うことが可能です(その旨の会則の定めが必要ですが)。

しかし、まずは年会費滞納者に対しては、催告を行い支払わせるということが基本的対応となるでしょう。

そして、上記の年会費の性質からすれば、年会費を支払うまではメンバーフィでのプレーは認めず、ゲストフィを支払ってもらうといった対応も可能だと思われます。

それでも支払いに応じない場合には、会則等に従った懲戒処分や、通常訴訟や支払督促、少額訴訟といった法的措置等により対応することになります。

 

年会費滞納による懲戒処分

年会費不払いを理由に会員を除名処分とすることは可能でしょうか。せいぜい十数万円程度の年会費の滞納で除名とすることは量定として重過ぎるでしょうか。

この点、消費者契約法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定めています。

消費者契約法は、個人と事業者を対象とする契約に適用されるものですので(但し、労働契約は除きます)、ゴルフ会員契約にも当然適用があり、会員の利益を一方的に害する処分は無効となります。

年会費は入会金や預託金等に比べて低額ではありますが、ゴルフ場の経営・運営に必要不可欠なものであり、年会費支払義務は会員の最重要な義務であると言えます。

そのため、年会費の不払いの場合に除名処分を行うということ自体は、会員の利益を一方的に害し、量定として重過ぎるとまでは言えず、一般的には無効とは言えないと考えられます。

しかしながら、会員契約上ゴルフ場経営会社が会員に対して負っている義務を履行していないときは、場合によって年会費不払いによる除名処分が無効とされる可能性がありますので注意が必要です。

この点、平成元年1月30日東京高裁判決は、ゴルフ場会社において果たすべき義務を怠っていると認められる場合には、年会費の納入を拒否しうる場合もありえると解されるという見解のもとに、①プレー権侵害の程度、②会社側が約束した会員数を守るべき義務の程度、③会員名簿を発行すべき義務の程度、④預託金返還を拒否した事実の存否を検討した上で、結論的には、会社側に義務違反が存せず、年会費の不払いを理由とする除名は有効であると判断しました。

これに対し、前記のような除名により預託金返還の問題を生じるゴルフ場の場合には、預託金返還問題の現実化を避けるために、年会費が支払われるまでの間、除名ではなく会員資格を一時停止するという処分も考えられるでしょう。

会員資格の一時停止と言っても、来場自体を禁止するというものから月例競技会への参加を認めないというものまでいろいろなパターンが考えられると思います。

但し、期間を定めない資格停止は、会員に与える不利益性から法的有効性に疑義が生じやすいと思われます。

 

除名処分の際の手続き

除名処分を行う際にはまず支払催告が必要です。

会則上、仮に「年会費を3ヶ月以上滞納した場合、催告なしで直ちに会員としての地位を失わせることができる」という規定があったとしても、民法上要求されている催告の手続きすら踏まずに行うと(民法541条)、消費者契約法10条違反として、除名処分が無効という判断がなされる可能性がありますので注意が必要です。

この点、6年間年会費を滞納した会員に対し無催告で除名処分を行った事案で、東京地裁は、支払催告をしない除名は無効であると判断しました(東京地裁平成3年10月15日判決)。

なお、年会費滞納を理由とする除名手続においては、他の除名事由の場合と異なり、年会費支払義務は財産的給付義務であり通常はその不履行に弁明の余地はないとして、会員に弁明をする機会を与える必要はないという見解もあります。

しかしながら、上記平成元年1月30日東京高裁判決が示すような状況を確認するという意味でも、弁明の機会を与え慎重に手続を行う方が無難でしょう(弁明は書面によるものでも構いません)。

催告をしても支払わない会員に対しては、年会費を2年分以上滞納している場合には、除名が可能とされる事例が多いものと思われます。

 

預託金の没収

年会費の滞納による除名処分が許されるとしても、預託金制ゴルフ場の場合には、除名(会員契約の解除)により預託金の償還義務が発生することになります。

一方、会則上、「除名の場合には預託金を返還しない(没収できる)」という規定を定めているゴルフ場もあるかと思います。

では、ゴルフ場経営会社は年会費を滞納している会員に対し、除名処分を行った上で預託金を没収することは許されるのでしょうか。

この点、十数万円程度の年会費の滞納で、数百万円から数千万円の預託金を没収することも、消費者契約法10条違反として無効とされる可能性が高いものと思われます。

そのため、仮に、預託金償還対策として、「年会費の滞納が長期にわたる会員は、ゴルフクラブから除名でき、預託金を没収できる」という規定を設けたとしても、預託金と年会費の相殺は可能ですが、預託金と年会費の差額を返還しなければならないという事態に陥ってしまいますので、十分注意が必要です。

 

支払督促と少額訴訟

上記のとおり、年会費滞納者に対しては、催告を行い支払わせるということが基本的な対応となります。

催告する際には最低限配達証明郵便を利用することが必須です。

民法上、意思表示は通知が相手方に到達したときに効力を生じるものとされているため(民法97条)、通知が相手方に届いたという証明が必要だからです。

それでも支払いに応じない場合には、法的措置も検討することになります。

もちろん通常の訴訟も利用できますが、年会費の支払請求の場合、請求額はせいぜい十数万円程度といったことが多いと思われます。

通常の訴訟の場合、申立手続費用(東京地裁で請求額10万円の場合、収入印紙1000円と予納郵券6000円分)に加え、弁護士に依頼する場合には、着手金として最低10万円が必要となります(旧東京弁護士会弁護士報酬会規による)。

そのため、手続費用が通常訴訟に比べて低額で、弁護士に依頼しなくても比較的対応が容易と思われる支払督促や少額訴訟の利用が考えられるでしょう。

支払督促とは、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、裁判所書記官から会員に対して未納年会費を支払うよう通知を出してもらう仕組みです。

債務者が2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。

支払督促は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。書類審査のみなので訴訟の場合のように審理のために裁判所に行く必要はありません。

手数料は通常の訴訟の場合の半額で済みます(東京簡裁で請求額10万円の場合、収入印紙500円、予納郵券1200円分)。

なお、債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の通常の民事訴訟の手続に移行します。

一方、少額訴訟とは、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の期日で審理を終えて紛争解決を図る手続です。

同一裁判所では年間10回までという制限があります。

原告の言い分が認められる場合でも、分割払や遅延損害金免除の判決がされることがあります。また、訴訟の途中で話合いにより解決することもできます(これを「和解」といいます)。

原告は、判決書又は和解の内容が記載された和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができます。

 

預託金と年会費の相殺

なお、ゴルフ場経営会社側が預託金と年会費を相殺することも基本的には認められます。

もっとも、ゴルフ場経営会社による預託金と年会費の相殺の主張を退けた珍しい裁判例もあります(東京地裁平成19年4月25日判決)。

この事案では、ゴルフ場経営会社は、預託金据置期間を延長し、会員の退会申請に応じず、代償措置として年会費免除を申し出ましたが、会員は免除に必要とされる所定の手続きを取っていませんでした。

また、この会員は、年会費を支払わなくなる何年も前からゴルフ場を利用していませんでした。

東京地裁は、このような事実関係においては、被告(ゴルフ場経営会社)は、本件預託金の返還ができないという被告側の事情により据置期間を延長して、原告(会員)による被告ゴルフ倶楽部からの退会申請に応じず、その代償的措置として年会費を免除する旨を申し出ながら、免除通知書の不返送という手続上の不備を理由に、年会費の免除を受けるべき実質的理由があり、かつ被告ゴルフ場を利用しなかった原告に対して、年会費の支払請求を認めることは著しく公平に反するとして、年会費の請求は権利の濫用にあたり許されず、相殺もできないと判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2013年9月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「消費者裁判手続特例法①」

アベノミクス効果により、今年の5月には、日経平均株価が5年4ヶ月ぶりに15,000円台を回復し(その後、乱高下を繰り返していますが)、全国の先行指標となる関東地区の主要ゴルフ倶楽部の平均会員権価格も、過去最安値とされる190万円に落ち込んだ政権交替前の2012年11月と比べ、4割以上も上昇しました。

バブル崩壊後の会員権値下がりに2008年のリーマンショックが追い打ちをかけ、多くのゴルフ場が預託金の返還問題に苦しんできました。

平成22年3月末までの法的整理申請件数は643件(既設ゴルフ場数ではおよそ800コース)に及びましたが、ここ数年の倒産件数は減少しており、預託金償還問題のピークは過ぎたという声もあります。

とは言え、会員権の市場価格は預託金額面には及ばず、依然として多くのゴルフ場が、事業を継続し会員のプレー権を保障しながら預託金の償還問題を解決する方法を模索しています。

本誌2012年11月号で連載した「抽選弁済」(毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式)も一つの有効な方法です。

一方、ゴルフ会員権を預託金額面より安い価格で譲り受け、業としてゴルフ場に対して預託金返還請求を行い、差額を利得するという、いわゆる預託金償還ビジネスも横行しています。

このような状況下で、本年4月、悪徳商法の被害者に代わって特定の消費者団体が損害賠償請求を起こすことのできる消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律案(以下「本法案」)が国会に提出されました。

このとき、一部の新聞等で「消費者庁は、ゴルフ会員権の預かり金・・・などの事例を想定している」などと報道され、ゴルフ業界でも話題となりました。

これまで、ゴルフ場経営会社の中には、預託金の額面が低い場合には、訴訟費用とのバランスで裁判を起こされることはないだろうという見通しを持ち、この問題を先送りしていたというところもあるかと思います。

しかしながら、本法案の施行後は、既存のゴルフ場であっても、新たに会員を募集し会員契約を締結する場合には本制度の対象となり、消費者団体による預託金返還請求訴訟が起こり得ますので注意が必要です。

なお、本法案は施行後の消費者契約が対象となりますので、施行前の消費者契約が対象となることはありません。

そのため、上記の一部の新聞報道のように、ゴルフ場経営会社が、現在負担している預託金返還債務について、消費者団体による団体訴訟を受けることはありません。

 

これまでの預託金返還請求訴訟の流れ

預託金の償還問題は、ゴルフ場事業者の側からみれば預託金返還債務の履行(弁済)であり、会員の側からみれば預託金返還請求権の行使(債務の回収)です。

会員とゴルフ場経営会社との間で、預託金の返還についての合意(和解)が成立しない場合には、あくまで返還を求める会員は、ゴルフ場経営会社を被告として、預託金返還請求訴訟を提起する必要がありますが、裁判には相当の費用や労力が必要となります。

訴えを提起する場合には、訴状や証拠書類等を準備する他に、収入印紙と郵券(東京地裁の場合6000円分の切手、現金も可)が必要です。

収入印紙の金額は請求金額により決まっており、例えば、請求金額が300万円の場合には2万円です。

さらに、弁護士に委任する場合には委任状の提出と弁護士費用も必要となります。

弁護士費用については、旧弁護士報酬会規(東京弁護士会)によれば、民事事件の場合、経済的利益が㋐300万円以下の場合には、着手金8%、報酬金16%、㋑300万円超3000万円以下の場合には、着手金5%+9万円、報酬金10%+18万円、㋒3000万円超3億円以下の場合には、着手金3%+69万円、報酬金6%+138万円(但し、着手金の最低額は10万円)等とされています。

例えば、預託金額面が100万円の預託金返還請求訴訟を提起する場合には、収入印紙1万円、予納郵券6000円分、着手金10万円、報酬金16万円の合計27万6000円が最低限必要となるわけですが、鑑定費用などの実費が必要になる場合もあり、控訴すればさらに費用が必要となります。

そうすると、会員が個人で訴訟を起こすのは負担が大きいことになります。

 

消費者裁判手続き特例法案

これに対し、本制度の導入により、消費者はその被害を比較的容易に回復できるようになる見込みです。

本制度は、消費者と事業者との間では情報の質や量、交渉力に差があり、消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることから、消費者契約に関して相当多数な財産的被害を集団的に回復する目的で、国が認定する消費者団体が事業者を提訴して、事業者に賠償請求を行うことを可能とする民事の裁判手続きの特例を定めたものです。

政府は本年4月19日に消費者裁判手続特例法案を閣議決定し、国会に法案を提出しました。

今国会で審議され、3年後の平成28年にも施行される見通しです。

なお、本制度は「日本版クラスアクション」と呼ばれることもありますが、米国等で立法例の見られるクラスアクション(集団訴訟のうち、ある商品の被害者など共通の法的利害関係を有する地位(クラス)に属する者の一部が、他の構成員の事前の同意を得ることなく、そのクラス全体を代表して訴えを起こすことを許す訴訟形態)とは異なります。

米国では、被害者であれば誰でも訴えることができ、ニュースでも取り上げられることが多いように、実際の損害額を大きく超える「懲罰的賠償」が可能です。

これに対し、本制度は裁判の原告や損害賠償の範囲をかなり限定しています。

また、本制度は裁判手続きを2段階に分けている点が大きな特徴です。消費者は、第一段階で団体が勝訴した訴訟のみ参加すればよく、敗訴リスクが低くなるわけです。

 

本制度の手続の流れ

(1)1段階目(共通義務確認訴訟)

まず一段階目として共通義務に関する審理がなされます。

この共通義務確認訴訟の原告となることができるのは、「特定適格消費者団体」だけです。

「特定適格消費者団体」とは、適格消費者団体(消費者契約法に基づき差し止め請求権を行使でき、現在全国に11団体あります)のうち、本訴訟制度の原告として、共通義務確認訴訟を適正に遂行できる体制や能力、経理的基礎等を備えていると内閣総理大臣によって認定された団体です。

第一段階においては、事業者が消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上・法律上の原因に基づき、金銭を支払う義務を負うかどうかの確認が行われます。

(2)2段階目(個別の消費者の債権確定手続)

次に二段階目として、個別の消費者の債権確定手続(誰に、いくら支払うか)が行われます。

この手続を申し立てることができるのは、第一段階目の当事者となっていた特定適格消費者団体です。

そして、当該団体は、対象となる消費者に対して通知・公告(インターネット等も可)を行って、消費者からの個別請求権の届け出と手続遂行についての委任を受け、裁判所に対して、消費者の請求権についての届け出を行います。

このように届け出られた請求権については、請求額について争いのない消費者からの請求については、当該金額で請求権が確定します。

一方、請求額について事業者側が認めなかったものについては、裁判所が双方を審尋した上で請求権の存否・額について決定します。

この裁判所の決定について、双方から異議が述べられなければ決定通り確定することとなりますが、異議が出された場合には、通常の訴訟手続に移行します。

なお、通常の訴訟手続に移行した場合には、第一段階目の手続で認定された争点を除き、通常の民事訴訟と同様の審理が行われ、判決がなされることとなります。

 

救済対象となる権利

本制度は、その対象を少なくとも数十名以上の「消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害」に限定し(本法案1条)、事業者側の利益にも配慮しています。

そして、本制度の対象となる権利は、消費者契約に関する次の①から④に掲げる請求に係る「事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務」です(本法案3条1号~5号)。

①契約上の債務の履行の請求(1号)

本法案によれば、事業を営んでいる者が事業目的ではない個人と結んだ契約は、ほとんど全て「消費者契約」に該当することとなります。

ゴルフ場経営会社と会員との間の会員契約も当然対象となり、会員契約の不履行に基づく訴訟が起こり得ます。

例えば、今年の5月、北海道勇払郡安平町のAゴルフ倶楽部が、700名近くいるとされる会員に案内することなく急遽閉鎖して問題となりました。

本件のようなケースでは、年会費の返還請求やプレー権侵害による損害賠償請求(損害の客観的評価は困難ですが)等が問題となります。

この場合、年会費の金額に比べて訴訟費用がかさむということで、会員個人が単独で裁判を起こすことは一般に困難だと思われますが、本制度により経営者に対する責任追及が比較的容易になります。

具体的には、㋐閉鎖の場合に年会費を返還するような規定があればその履行請求(1号)、㋑そのような規定がない場合には不当利得返還請求(2号)、㋒閉鎖に違法性が認められるような場合には不法行為に基づく損害賠償請求(5号)をしていくことが考えられます。

②不当利得に係る請求(2号)

現行法の下でも、英会話学校の中途解約料等について、不当に高額な解約料を定めたものと認定され、当該解約料の返還義務を認めた裁判例も複数存在します。

このような現状からすると、本制度が導入された場合には、低額なキャンセル料等を規定する約款等も無効となり、当該金額を返金するようにとして、本訴訟制度が活用されることが見込まれます。

そのため、ゴルフ場の会則等においても、無効とされるような規定が含まれていないか、問題点の洗い出しを行っておくことが必要となるでしょう。

③契約上の債務の不履行による損害賠償の請求(3号)・瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(4号)

多数の消費者が購入した製品等について、同一の不具合が存するような場合です。

但し、その製品の不具合により、人の生命や身体、財産に損害が生じた場合(いわゆる拡大損害)は対象外です。

もっとも、ゴルフ場の売店で同一の不具合のある製品を多数の会員に販売するというようなケースは想定しにくいので、問題となることは少ないでしょう。

④不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(5号)

一般的に不法行為に基づく損害賠償請求と聞くと、慰謝料が問題となる事例が思い浮かぶと思いますが、本制度においては、精神的損害に対する賠償はその対象となりません。

「ゴルフ場セミナー」2013年8月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場の会場遅延」

昭和63年に施行された総合保養地域整備法(リゾート法)の後押しもあり、バブル景気時代にはゴルフ場の建設ラッシュが起きました。

平成3年には年間で109コースが開場し、1990年代には日本のゴルフ場の総数は約2400超にまで増加しました。

しかし、バブル崩壊後はゴルフ場の開場は減少の一途を辿り、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年には新規開場はついにゼロとなりました。

一方、平成4年5月のいわゆる会員契約適正化法の施行により(後述)、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

このような状況で、本年5月、神戸市北区で建設中の神戸CC神戸コースが、法律で義務付けられた届け出をせずに会員権を販売していた疑いが強まり、経済産業省が調査していることが報道されました。

神戸CCは、当初の開発事業者が平成7年に開発許認可を取得し(未着工)、マミヤ・オプティカル・セキュリティシステムグループが平成20年3月に事業を継承しましたが、コース変更等により正式オープンが遅れている状態のようです。

本件ゴルフ場は、少なくとも8年前から1口4万円から120万円でゴルフ会員権を販売していたと報道されており、いわゆる会員契約適正化法(後述)による届出が必要となるはずです。

会員契約適正化法の窓口である経済産業省商取引監督課も「50万円以上の募集をしたのであれば募集届け出が必要。現在実態を調査しているところ」と説明し、違法性があれば業務指導をする方針だと報道されています。

また、ゴルフ場を開発する際には、森林法に基づく林地開発の手続き(後述)を取ることも必要ですが、本件ゴルフ場ではその手続きも完了しないまま、一部の会員にプレーさせていたことも判明しました。

兵庫県の行政指導に対し、開発業者は「営業ではなく会員権販売のための内覧会で、試し打ちだ」と説明しているようですが、内覧会であっても森林法に基づく隣地開発の手続きを取ることが必要です。

 

森林法に基づく隣地開発許可制度

無秩序な開発を防止し森林の適正な利用を図るため、森林法に基づく林地開発許可制度が設けられています。

1ヘクタールを超える森林の開発をしようとするときは、この制度の手続きに従って、都道府県知事の許可を受けなければなりません。

無許可で1ヘクタールを超える開発行為をした者、許可に付した条件に違反して開発行為をした者及び偽り、その他不正な方法で許可を受けて開発行為をした者等は、開発行為の中止や復旧命令などの行政処分を受け、罰則(150万円以下の罰金)が適用される場合もありますので注意が必要です。

さらに各都道府県の林地開発行為等の適正化に関する条例等に基づく手続も取る必要があります。

例えば、兵庫県の場合には、「森林における開発行為の許可、保安林の指定等の手続を定める規則」及び「森林法による開発許可事務取扱要綱」に従って、管轄の農林水産振興事務所へ相談しながら申請図書を作成することになります。

また、千葉県など林地開発行為について条例で違反行為に罰則も定めているところもありますので注意が必要です。

 

会員契約適正化法

一方、「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律」(いわゆる会員契約適正化法、以下「法」)は、ゴルフ会員権の乱売で社会的に注目された茨城カントリークラブ事件がきっかけとなり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたという悪名高い事件です。

本法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭(預託金、入会金等の名目如何を問いません)を支払い(分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます)、ゴルフ場等の施設(ゴルフ場とそれ以外の施設の契約が一体となったいわゆる複合型施設も含みます)を継続的に利用する役務の提供契約です(法2条)。

なお、いわゆる株主制のゴルフクラブにおいてみられる株式の取得のために金銭が支払わられる契約は本法の対象となりません(平成5年5月19日付通商産業大臣官房商務流通審議官による通達)。

また、社団法人制のゴルフクラブも対象外ですが、社団法人が社員以外の会員種別を設けるなど新しい会員制度を取る場合には対象となる可能性があります(上記通達)。

さらに、既存の会員に対する契約変更の場合には本法の適用はありません(上記通達)。

例えば、ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、本法の対象とはなりません。

これに対し、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、本法の対象となりますので注意が必要です。

 

規制の内容

①募集の届出(法3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

②会員契約締結時期の制限(法4条)

さらに、法4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(法13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

 

ゴルフ場の開場遅延と債務不履行

上記のとおり、法4条により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

但し、㋐本法施行(平成5年5月19日)の前に会員契約に係る施設について、開発許認可を受けている場合、及び㋑本法の公布の日(平成4年5月20日)の前に会員契約の締結をしている場合には法4条の適用はなく、開場前の会員契約締結が許されることになります(法附則3条)。

さらに、㋒地方公共団体の開発許認可取得後に、会員制事業者が銀行等との間で、会員の拠出金の2分の1の返還債務の保証委託契約を締結し、ゴルフ場開発規制法令の諸許認可を得たときは、開場前であっても募集できます(法4条但し書き)。

これらに該当し、開場前に会員契約を締結したゴルフ場の開場が予定より遅延した場合、ゴルフ場経営会社はどのような責任を負うのでしょうか。

会員は、ゴルフ場経営会社との会員契約に基づいて、ゴルフ場経営会社に対し、優先的施設利用権(いわゆるプレー権)を有しています。

ゴルフ場のオープンの時期は、会員がゴルフ場施設を利用し得る時期であり会員にとって大変重要な事柄です。

そこで、ゴルフ場の開場が遅延したり、開場不能と言うべき状況に陥った場合には、会員は会員契約を解除した上で預託金等の返還を請求することができると考えられます。

ではこの場合、募集時のパンフレット記載の開場時期をどの程度遅延すれば、会員は会員契約を解除できるのでしょうか。

また、地震等による造成地の倒壊のような場合であっても、ゴルフ場は責任を負うのでしょうか。

 

平成91014日判決

この点が問題となったものとして、最高裁平成9年10月14日判決の事案があります。

本事案の概要は以下のとおりです。

会員Xは、昭和62年5月にゴルフ場経営会社Yとの間で預託金等納入して会員契約を締結しました。

その当時、ゴルフ場は建設工事中で、募集パンフレットには「完成昭和63年秋予定」と記載され、平成元年に開場することが予定されていましたが、ゴルフ場の建設工事は遅延し、平成元年中には開場することができませんでした。

その後、Yは、平成3年7月、視察プレーの名目でゴルフ場の営業を開始しました。

Xは、平成4年2月、Yに対して債務不履行を理由とした会員契約解除の意思表示を行いました。

その後、Yは、平成4年7月、ゴルフ場を正式開場しました。

その後、Xは、履行遅滞解除に基づく預託金等返還請求訴訟を東京地裁に提起し、一審ではXが勝訴しましたが、控訴審では原判決取消・請求棄却の判決が下されたため、Ⅹが上告しました。

最高裁は、①ゴルフ場を開場して債務を履行する義務は、いわば不確定期限というべきものだが、全く未確定なものではなく、当初予定されていた時期より合理的な期間の遅延は許されるとし、②Xが解除の意思表示をした時点では、既に視察プレーの名目の下における営業が開始され、近々債務の本旨に従った履行ががほぼ確実に見込まれていたというのであるから、債務の履行期が到来していたものと断ずることはできないとして、Xの履行遅滞による解除の主張は理由がないと判断しました(最高裁平成9年10月14日判決)。

 

ゴルフ場経営会社の帰責性が否定される場合

一方、開場遅延・不能がゴルフ場事業者の責めに帰することができない場合には、履行遅延や遅行不能による解除は認められません。

事業者のコントロールできない外来的・客観的要因に基づく地震や台風等自然災害による造成地の倒壊等がこれにあたります。

この他、造成中の土地から埋蔵文化財が発見されたようなケースも含まれると考えられます。この場合、文化庁は、一定期間工事の停止を命令することができるとされています(文化財保護法第4章参照)。

さらに、用地買収の遅延や景気の変動などの事情も含まれるかどうかは判断が分かれるところです。

「ゴルフ場セミナー」2013年7月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場の使用者責任」

昨年の4月、京都・祇園で当時30歳の男性Aが軽ワゴン車を運転中に暴走事故を起こし、運転者を含む8名が死亡、11人が重軽傷を負うという痛ましい事故があったことは記憶に新しいと思いますが、本年3月、男性Aを雇用していた呉服店の女性社長が業務上過失致死傷で書類送検されました。

事故原因は、最終的に男性Aの持病のてんかん発作であると判断され、同社長は、男性Aが持病のてんかん発作で事故を起こす可能性があると知りながら運転をやめさせなかったとして、業務上過失致死傷容疑で書類送検されました(男性Aは自動車運転過失致死傷容疑で被疑者死亡のまま書類送検)。

この事故がきっかけとなり、病気の影響で交通死亡事故を起こした場合の罰則を強化する新法案が閣議決定されたことをご存知の方も多いと思います。

報道によりますと、同社長は一貫して容疑を否認しているということですが、京都府警は、同僚等から得られた証言や社長の携帯電話にその従業員の主治医の電話番号が登録されていたこと等から総合的に考えて、男性Aが車の運転に適さないことを同社長が認識していた可能性が高いと判断したようです。

一方、遺族らによって、男性Aの遺族及び雇用者だった企業に対して、損害賠償を求める民事裁判も進行中のようです。

ゴルフ場においても、クラブバスの運転を業務としているような場合に限らず、キャディであっても日常的にカートを運転することが考えられ、自動車の運転はゴルフ場内外で頻繁に行われます。

てんかんの発作は重大な事故につながる可能性が高く、新規採用者や在職者の健康状態を把握することが重要となります。

では使用者は、てんかんや精神疾患、B型肝炎やHIVウイルスのキャリアであるといった従業員の身体的な問題をどのように把握すればよいのでしょうか。

今回は従業員の健康状態の把握と使用者責任について検討したいと思います。

 

使用者責任とは

使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者(使用者)が、被用者がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合にそれを賠償する責任のことをいいます。

使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは免責されますが(民法第715条第1項)、裁判例では免責を容易に認めていないので、実質的には無過失責任に近い責任となっています。

なお、使用者に代わって事業を監督する者も使用者としての責任を負うとされています(民法715条第2項)。

使用者責任の要件は以下のとおりです。

①使用関係が存在すること

使用者責任が発生するには、使用・被用の関係にあることが必要ですが、雇用関係の有無、有償・無償、継続的・臨時的等の区別を問わず、実質上の指揮監督関係があればよいとされています(大判大正6年2月22日民録23輯212頁)。

したがって、下請負人の場合は、原則的には使用関係にありませんが、元請負人の実質上の指揮監督下にある場合には、使用者責任が発生する可能性があります。

ゴルフ場においても、例えばコース管理を外注した場合に、その会社の従業員が交通事故を起こし、実質上の指揮監督関係があるような場合には使用者責任を問われる可能性がありますので注意が必要です。

②事業の執行についてなされたものであること

事業の執行に伴って損害を与えたことが条件となりますが、その範囲は本来の事業の範囲に限らず、客観的・外形的に使用者の支配領域下にあればよいとされています(外形標準説)。

③第三者に損害を加えたこと

第三者へ被用者が損害を加えたことが709条の不法行為の成立要件を満たすことが必要です。

④使用者に免責事由のないこと

使用者が相当な注意を払った等の免責事由についての立証責任は使用者側が負担します。

 

採用の自由

てんかんの患者については、仕事中に発作が起こった場合の支援体制や安全配慮義務について明確な基準を設けにくいことから、事業主にとってリスクが大きく、事前に分っていれば採用を回避したい気持ちが働くものと思われます。

では、採用段階で、就職希望者に対し既往歴について申告を求めることは許されるのでしょうか。

この点、既往歴の確認は就職差別にあたるとしてこれに否定的な産業医もいるようです。

しかしながら、企業には、経済活動の自由の一環として、その営業のために労働者を雇用する採用の自由が保障されているので、採否の判断の資料を得るために、応募者に対する調査を行う自由が保障されているといえます(三菱樹脂事件判決、後述)。

この点、金融公庫事件において、東京地裁平成15年6月20日判決も、労働契約は労働者に対し一定の労務提供を求めるものであるから、企業が、採用にあたり、労務提供を行い得る一定の身体的条件、能力を有するかを確認する目的で、応募者に対する健康診断を行うことは、予定される労務提供の内容に応じて、その必要性を肯定できるというべきであると判断しています。

この判決の趣旨からすれば、てんかんの発作は重大な事故につながる危険性が高いので、予想される労務提供の内容に自動車やカートの運転が含まれるクラブバスの運転手やキャディとしての採用のような場合には、てんかん等の既往歴の調査や申告を求めることも許されるものと考えられます。

 

労働安全衛生法

使用者には、雇入れ時の健康診断や定期健康診断実施の義務が課せられており(労働安全衛生法66条、同規則43条、44条)、義務違反には罰則が規定されています。

健康診断の受診項目には「既往歴の調査」がありますが、医師がどの程度まで問診を行う義務があるのか、又は労働者がどの程度まで医師に自己申告しなければならないか、といった具体的基準や指針は定められておらず、「一般的に求められる労働能力に支障のある病気に罹患したことがあるか」という観点から、形式的に問診が行われているのが実状のようです。

また、労働安全衛生法違反は刑事責任を問うものですから、民事上の責任を免れることはできず、「健康診断による申告がなかった」、又は「既往歴の確認が適切に行われていなかった」ということをもって、使用者責任を免れることができると考えるのは危険です。

今回の事故をきっかけに、今後行政から既往歴確認に関する指針等が設けられる可能性はありますが、現状において、今回のような事故における使用者責任を回避・軽減するためには、従業員に対する既往歴の調査等が必要不可欠となるものと考えられます。

 

心身の故障を理由とする本採用の許否、健康診断受診命令

既往歴の調査の結果、心身の故障が判明した場合、①治癒しているかどうか、治癒していなければ治癒の予定、②債務の本旨に従った労務提供が今後継続的にできるか等を踏まえて、採用内定の取消、本採用の許否を判断することになります。

この点、いわゆる三菱樹脂事件において最高裁は、

㋐企業者は、契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない

㋑思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない

㋒企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、これに関連する事項についての申告を求めることも、法律上禁止された違法行為とすべき理由はないと判示しています(最高裁昭和48年12月12日判決)。

また、心身の故障を疑わせる従業員に対しては、健康診断の受診を命ずることができると考えられます。

この点、電電公社帯広局事件において最高裁は、就業規則に健康診断受診に関する規程がある場合には、健康診断受診命令に基づき受診を命じ、これに反した場合には懲戒処分も可能であると判断しました(最高裁昭和61年3月31日判決)。

また、京セラ事件において最高裁は、就業規則に規定がなくとも、労働者に何らかの故障のあることがある程度明確になっている場合には、健康診断の受診を命ずることができると判断しました(京セラ事件・最高裁昭和63年9月8日判決)。

 

プライバシーの保護との関係

一方、従業員のプライバシーの保護の観点から、調査事項や調査方法によっては応募者や在職者のプライバシーを侵害する可能性もあるので、使用者の調査の自由も全く無制約ということではありません。

近年、プライバシー権が重視されており、B型肝炎やHIVウイルスなどの労働能力と関連性の薄い疾病についての調査に関して否定的な立場をとる裁判例もありますので、注意が必要です(東京都警察学校事件・東京地裁平成15年5月28日判決、金融公庫事件・東京地裁平成15年6月20日判決)。

従業員のプライバシー保護に配慮し、労働能力との関連性に留意した上で既往歴の確認を行うことが必要でしょう。

なお、会社が実施する健康診断における労働者の健康・医療情報は、健康診断実施義務(労働安全衛生法66条)、健康診断結果通知義務(同法66条の6)が課せられていることから、会社帰属情報といえ、またそのアクセスにつき労働者から黙示の同意が得られていると言えます。

 

てんかんの持病が判明した場合

採用後にてんかんの持病があることが判明した場合、職種変更・職場変更は使用者の労務管理・人事権に基づいて行うことができます。

さらに、てんかんの持病があることを隠して就職したことは重大な経歴等の詐称に該当し、ほかに配置転換ができないと客観的に判断される場合は、懲戒解雇の事由に該当する可能性が高いと考えられます。

ゴルフ場においても、クラブバスの運転手やキャディにてんかんの持病が判明した場合、同様の業務に使用し続けることは絶対に避けなければなりません。

なお、今回のような不幸な事故を招かないためには、本人の申告による情報収集だけに頼るのではなく、使用者や上司による従業員の日常観察が重要と考えます。

このような問題が起こる前にはその予兆として「遅刻しがちになる」「定期的に休暇を取得するようになった」等の異変が潜んでいると言われます。

従業員に心身の故障が疑われる場合には、日頃から観察するとともに、その状況、経過、対応等につき詳細な記録を残していくことが大切でしょう。

「ゴルフ場セミナー」2013年6月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「会員負担金」

本年2月1日、福井地裁において、ゴルフ場が会員に負担金の支払いを強制するのは不当であるとの判決が出されました。

これは、福井県のゴルフ場が会員に緑化事業負担金の支払いを義務づけたのは不当であるとして、元会員の男性が、①同負担金債務の不存在確認と②不払いを理由に差別的扱いを受けたことに対する慰謝料を求めたものです。

福井地裁は原告男性の請求を認め、ゴルフ場側に対し慰謝料10万円の支払いを命じました。

報道によりますと、ゴルフ場は2011年5月以降、記念誌発行や植樹推進などの費用に充てようと、緑化事業負担金として会員に1万円を請求したようです。

福井地裁は同負担金を「会員への対価性がなく、会則などの根拠を欠くもので、支払い義務を負わせることはできない」と判断しました。

ゴルフクラブでは、クラブハウスの増改築やコースの改造などの際、会員にこれらの費用の一部負担を求めることが時折ありますが、このような臨時的な負担について会員に支払義務はあるのでしょうか。

ゴルフクラブと会員の権利義務関係については、社団性の有無で妥当する法理が異なりますので、分けて検討したいと思います。

 

社団性のあるゴルフクラブの場合

社団とは一定の目的によって結集した人の集団です。

その代表格は「社団法人」ですが、それ以外にも「権利能力なき社団」というものがあります。

社団法人とは、社団のうち、法律により法人格が認められ権利義務の主体となるもの(法人)をいいます。

社団法人制ゴルフクラブは、日本における正統的ゴルフの普及・発展に尽くしてきた経緯がありますが、平成20年12月1日の新たな公益法人制度の施行により、公益法人としての存続が難しくなり、一般社団法人への移行を迫られています。

一般社団法人として法人格を取得すると、団体法的解決を図ることが可能となり、ゴルフ場と会員の権益を守ることができるという点が最大のメリットであると思われます。

一方、法人格を有しなくても、いわゆる「権利能力なき社団」として、団体自身が経済的・社会的活動を行っており、社団としての実質を備えていると認められるものもあります。

権利能力なき社団として認められるためには、「①団体としての組織をそなえ、②そこには多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」とされています(昭和39年10月15日最高裁判決)。

社団性のあるゴルフクラブの場合には、ゴルフ場と会員との関係は、団体の規範である定款や会則等の規定するところにより、規定がないか不十分な場合には、民法の組合等の規定により判断されます。

 

一般社団法人の機関

一般社団法人の場合には、社員総会のほか、業務執行機関としての理事を少なくとも1人は置かなければなりません。また、それ以外の機関として、定款の定めによって、理事会、監事又は会計監査人を置くことができます。

社員総会は、全ての社員(会員制度を設けている場合には、社員に該当する会員)で構成します。

一般社団法人における最高意思決定機関は社員総会(会員総会)であり、決算の承認、役員の選任・解任等、法人運営に関する重要事項を決定することができる機関です。

理事会を設置しない一般社団法人の社員総会では、法人運営に関する全ての事項について決議することができます。

一方、理事会を設置する場合において、定款で社員総会の権限について何も定めていない場合には、理事会に一定の権限があるため、その社員総会では法律で定められた事項しか決議できません。

理事会を設置する場合、定款において、社員総会で議決できる事項を増やすこともできます。

各社員は、それぞれ1個(1票)の議決権を平等に持っていますが、定款において、社員によって議決権の数が異なるように定めることもできます。

 

団体と構成員の関係

社員総会は、定款で特に定めのない場合には、社員(議決権)の過半数が出席することにより開催することができ、また決議は出席した社員(議決権)の過半数をもって行われることとなっています。

では、社員総会(会員総会)や、社員総会で選ばれた理事で構成される理事会において、会員に負担金を課す決議をした場合、会員はかかる決議に拘束されるのでしょうか。

あるいは、負担金を支払わない場合には、会則等に従い除名等の懲戒処分が認められるのでしょうか。

社団は、その構成員に対して一定の強制力を有しています。

社員総会(会員総会)は、多数決原理に基づいて活動するものであって、少数派はこれに服従すべきであることも、その本質的要請です。

そして、社団への入社(ゴルフクラブへの入会)は、この強制を受けることを認容したものと言わなければなりません。

しかし、社団の強制力には一定の限界が存することは自明であり、多数決原理によれば何でも可能となる訳ではなく、そこに限界のあることは疑いないところです。

社員総会(会員総会)の決議はオールマイティではなく、①決議の内容となる行為が定款に定める社団の目的の範囲内にあること(社団法人について民法43条)、②負担の目的・使途、負担金の額等から考えて、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がないことが必要です。

例えば、ゴルフクラブが政治献金をすることはそもそも目的の範囲外の行為となると思われます。

これに対し、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金については、目的の範囲内にあると考えられ、その金額が相当で会員の協力義務を否定すべき特段の事情がなければ、負担金の支払義務を認めてよいと思われます。

例えば、会員が予約を取りやすいようにビジターの予約枠を制限し会員の時間枠を増やす際、ゲスト収入の減少に伴う臨時の負担金を社団の構成員に求めるような場合や、地主から返還請求を求められた借地問題を解決しゴルフ場として存続を図るために会員に臨時的な負担を求めるような場合には、その支払義務を認めてよいのではないでしょうか。

これに対し、クラブ資産の運用上の投資の失敗やクラブ運営上の失態により損失を生じた場合には、まず担当理事や理事会の責任が求められるべきであり、安易に負担金を課すべきではなく、会員の協力義務を否定する特段の事情があると考えられます。

 

他の団体の裁判例

ゴルフ場の例ではありませんが、司法書士会の会員に阪神・淡路大震災の際の復興支援特別負担金の支払義務を認めた判例があります(最高裁平成14年4月25日判決)。

一審は、災害救援資金の寄付を「各人が自己の良心に基づいて自主的に決定すべき事柄」であるとして総会決議の効力を否定しました。

これに対し、最高裁は概ね以下のとおり判断し、復興支援特別負担金の支払義務を認めました。

①司法書士会は他の司法書士会との間で業務等について援助等をすることもその活動範囲に含まれる。

②本件拠出金の額(3000万円)はやや多額ではないかという見方があり得るとしても、大災害という事情を考慮すると本件拠出金の寄付は司法書士会の目的の範囲内にある。

③本件拠出金の調達方法についても、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができる。

④司法書士会がいわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の思想信条の自由等を害するものではなく、その額(登記申請事件1件につき50円)も社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。

 

社団性のないゴルフクラブの場合

一方、日本のゴルフクラブの中には、会員によって構成される「団体」としての実質を有しない「擬似クラブ」であって、独立の法的主体となり得るような「社団」とは言えないものもあると言われています(最高裁昭和50年7月25日判決等)。

社団性のないゴルフクラブにおいては、会員の権利義務関係については、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約の内容をなす会則により定められると解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。

この点、本件福井地裁判決も、「社団性をもたない本件ゴルフクラブの会員の権利義務の内容について、会員とゴルフ場経営会社との間の会則等の定めによるのであって、会則等によることなくゴルフ場経営会社が会員に義務を負わせることはできないと解される」と判断しました。

そこで、本件の緑化事業協力金のような負担金が「その他諸料金」として、会員に支払義務を負わせる得ためには、まず、クラブ会則にその旨の規定があることが最低限必要となります。

 

双務契約における対価性

ゴルフクラブにおいては、クラブ会則に、「会員は、年会費その他諸料金を負担しなければならない」という規定を置き、会員に諸料金の支払義務を課しているところが多いと思います。

では、各種会員負担金は「その他諸料金」に含まれると考えられるのでしょうか。

双務契約とは、契約当事者双方が対価的性質を有する債務を負っており、給付と反対給付が対価的関係に立つ契約を言います。

そこで、これらの負担金が、「その他諸料金」に含まれるかどうかは、負担金が給付と反対給付との間で対価性を有すると言えるかどうかにより判断されることになります。

この点、結論としては社団性のあるゴルフクラブの場合と同様に、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金は、その金額が相当である限り対価性が認められるので、負担金の支払義務を認めてよいように思われます。

これに対し、投資の失敗等、クラブ運営上の損失を会員に負担させるようなことは、対価性が認められず、会員に支払義務はないものと考えられます。

また、クラブハウスの増改築は、会員に施設を利用させる義務を負担するゴルフ場経営会社がなすべきことであり、会員は施設利用の対価として入会金や年会費を支払っているのですから、さらに負担金を課すことには通常は対価性が認められず、会員に支払義務はないケースが多いものと考えられます。

さらに、冒頭の福井地裁判決でも問題となった記念懇親ゴルフの費用や、協議会の協力金についても、参加者から参加費を取ればよいのであって、非参加者との関係では対価性は認められず、支払義務はないと言えるでしょう。

「ゴルフ場セミナー」2013年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎