熊谷信太郎の「会員に対する懲戒処分」

欧米のゴルフ場と異なり、日本等アジアのゴルフ場においては、女性のハウスキャディが多数を占めています。かつて著名な評論家から緑の待合と揶揄されたことがあるように、プレーヤーの中には、女性のキャディをはべらせて楽しみに来ているというような古い意識の人もいるようです。男性のプレーヤーによるキャディに対する猥褻行為やストーカー行為等の相談を受けることも珍しくありません。

また、メンバー同士の喧嘩やメンバーによるゴルフ場従業員に対する暴言や暴行、さらには社会生活上の不行跡の発覚等、メンバーとしてふさわしくない行為についての相談も稀ではありません。

このような場合、会員に対する懲戒処分はどこまで可能なのでしょうか。今回は最も重い懲戒処分である除名を念頭において検討したいと思います。

 

懲戒の種類と性質

除名は懲戒処分の1つであり、懲戒処分とは、団体がその秩序維持を図るため、団体の構成員に対して行う処分です。

民間の企業においても、企業の秩序と規律を維持する目的で、懲戒処分として、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などの制裁罰を課すことが認められています。

ゴルフ場の場合も同様に、クラブという団体を想定し、クラブの秩序維持のために、会員に対して懲戒処分を行うことが認められます。

ゴルフ場においては、①戒告、②一定期間の会員資格の停止、③除名が定められていることが一般です。

会費の滞納(前月号参照)、③クラブの会則、規則違反を規定しているゴルフ場が多いと思います。

会員制には、社団法人制、株主会員制、預託金会員制、プレー会員制、及びこれらの混合制等がありますが、除名処分の法的意味は、それぞれのクラブの性質によって異なります。

いわゆる関東7倶楽部のような社団法人制ゴルフクラブの場合には、除名処分はクラブと会員との間の社団入会契約の解約(将来に向けての解除)を意味します。

株主会員制の場合には、株式会社と任意団体のクラブが併存しているケースが多いので、クラブからの除名処分が直ちに株主たる地位も失わせるかどうかは、会員契約の内容によることになりますが、原則的にはクラブからの除名イコール株主たる地位の喪失にはつながらないと思われます。

預託金会員制やプレー会員制のゴルフクラブの多くは、会員はクラブに入会する形式を取りながら、法的にはゴルフ場経営会社と会員契約を締結するものと考えられますので、除名処分とは、会員の債務不履行による会員契約の解約を意味します。

 

除名の実質的要件

判例学説上、除名処分は、クラブ秩序を乱しクラブの社会的信用や名誉を侵害するようなメンバーとしてふさわしくない行為がある場合、或いはゴルフ会員契約の契約者双方の信頼関係を破壊するような重大な契約違反がある場合に認められると考えられています。

例えば、利用施設を正当な理由もなく毀損する行為、施設利用に際し施設従業員や関係者に暴行したり繰り返し暴言を吐くといったような行為、休日に侵入してゴルフをする等定められている施設利用方法を著しく逸脱した施設利用行為、エチケットやマナーに著しく違反する行為等がこれにあたると考えられます。

裁判例においても、キャディに対して行った強制わいせつとその後の暴言等の対応等を理由として、問題となった会員に対する除名(債務不履行解除)を有効と判断した事案があります(東京地裁平成19年3月14日判決)。

同判決は、「契約の解除は、原告から、ゴルフ場施設利用権をその意思に反して奪い・・・社会的不利益を与えるものであるから、・・・契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とするというべきである」とした上で、①本件行為は非常に悪質なものであり、②原告は、本件行為後も被告クラブの者らによるでっちあげ、陥れである等と主張しており、③本件行為やその後の原告の対応、捜査活動等が従業員や会員に強い不安や動揺を与え円滑な運営上の障害となった等の諸事情を考慮すると、本件行為が、会則の懲戒事由に該当するだけでなく、除名処分の時点において、本件契約の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されたものと言うべきであるとして、本件解除は有効であると判断しました。

なお、本件では、クラブ理事会により本非違行為を理由として来場禁止処分の後に除名処分がなされており、会員側は一事不再理(同一事件については再度の処分を行うことができないという原則)に反すると主張しましたが、同判決はこの点については明言せず、結論として適正手続違反はないと判断しました。

一事不再理は本来刑事罰に関するものであるため、この原則がクラブ内の懲戒処分にも該当するかどうかについては争いのあるところですが、本件は非違行為の後にさらにでっちあげの主張等(上記②)もなされていることから、同原則の適用を前提としても、一事不再理には反しないと事案だと思われます。

 

経営方針に対する反対運動

また、ゴルフ場経営会社の経営方針に反対する会員が、他の会員を組織、扇動して不相当な方法手段で反対運動を行うというような場合にも、団体としての秩序維持や信頼関係の破壊の観点から、除名が認められやすいと考えられます。

例えば、東京高裁昭和63年8月22日判決は、会員の反対運動が、その程度及び態様において、親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を超えたものであったとして、ゴルフ場経営会社側の解除を有効と判断しました。

本事案において、問題となった会員は、増設コースについての追加入金の納入要請が違法不当であるとして、他の会員に働きかけて、組織的・集団的に宣伝した他、会社のゴルフ場の維持管理が不適切であり、会社内部で不正事件が続発している等と一般会員に宣伝したことが認定されました。

また、ゴルフ場経営会社から当該会員に対して警告がなされた上で、解除通告を行った事案でした。

このような場合には、ゴルフクラブの名誉と信用を傷つける等、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約を律する基本的信頼関係が破壊されたとして、東京高裁は契約解除を有効と判断しました。

 

クラブ外での不行跡の発覚

では、ゴルフ場外において犯罪行為をなす等、反社会的で社会から非難を受けるような非違行為があった場合はどうでしょうか。

この点、株主会員制の名門コースにおいて、脱税事件で実刑判決を受けた会員を、クラブ除名事由(「本クラブの名誉を棄損する等会員として好ましからざる行為があったとき」)にあたるとしてなした除名処分の効力が争われた事案があります。

本事案において、第一審は、直接クラブに関係ない行為ではあるが、クラブの名誉・威信を棄損した会員として好ましからざる行為であるとして、除名を有効と判断しました(横浜地裁昭和62年1月30日判決)。

一方、控訴審は、本件非違行為はゴルフ場外のものであり、ゴルフ場施設の他の会員の快適な利用を著しく困難ならしめるほどのものとは言い難く、それによってクラブの社会的評価が低下したとは認められず、会員契約上の信頼関係を破壊するものとは認め難いとして、除名を無効とし(東京高裁平成2年10月17日判決)、判断が分かれました。

最高裁は、原審の判断を維持し、除名を無効と判断しました(最高裁平成7年1月24日判決)。

なお、原審は、暴力事犯や窃盗事犯を反復累行する者やいわゆる暴力団組員のような者については、施設内においても粗暴なふるまいに及んだり他の会員の快適な利用を妨げる行為に出ることが充分に予測されるとして、契約上の信頼関係の維持が困難な例として挙げています。

一方、ゴルフ場の事案ではありませんが、乗馬倶楽部の会員が技術指導官に私的感情から暴行したという事案で、この会員の除名処分を社会通念上相当でないとして無効と判断した裁判例もあります(横浜地裁昭和63年2月24日判決)。

この事案では、私的な感情に基づく口論・けんかの末の暴力であり、被告倶楽部における乗馬スポーツの普及発展等の目的や被告倶楽部の事業との関連性も希薄であるから、被告の体面を毀損し、会員の義務を尽くさなかったとは言えないと判断されました。

 

懲戒処分と手続的保証

懲戒処分を行うためには、会則等で懲戒について定め、会則等で定められた懲戒手続きを経ることが必須です。

そして、争いはあるものの、クラブ内の懲戒処分においても、労働関係の場合と同様に、同一の非違行為に対する一事不再理、二重処罰の禁止の原則が適用されるとする見解が一般的です(反対説も有力ですが)。

但し、非違行為に対する懲戒処分後さらに暴言を吐いたりクラブの名誉を毀損する行為を繰り返すため再度処分するような場合には、新たな事情が付加されたことになるので、同一の非違行為に対して複数回の処分を課すことにはならず一事不再理に反しないと考えらます。

また、懲戒処分も不利益な処分であるため、遡及的処分はできないとされており、懲戒に関する規定が会則に定められる(追加される)以前の行為については、その処分対象とすることはできません。

 

除名の手続

除名処分をする場合、ゴルフ場経営会社は、問題となる会員の行為を具体的に把握する必要があります。

会員からの苦情申し出を受け付けた場合には、日時及び苦情の内容を詳細に記録し、問題となる言動について、写真や録音、動画などがあれば、これらを証拠として保管する必要があるでしょう。

一般に除名処分は、ゴルフクラブ理事会の決議により行う旨規定されているのが通常ですから、除名をなす旨の議題を理事会に上程する上での参考資料として、これらの記録を使用することになります。

そして、弁明の機会を設ける等の手続的保障が必要です。弁明手続及びその準備を行っておくことは、事実関係を精査するきっかけになり、処分対象者の弁解内容を確認するためにも必要です。

さらに、継続される非違行為に対しては警告を発することも必要です。

なお、通常は、理事会の除名決議を経て会員契約を解除するのが通常だと思われますが、ゴルフ経営会社が、除名決議を経ることなく、契約解除の一般法理に基づいて解除することが可能である場合もあると考えられます。

この点、前記東京高裁昭和63年8月22日判決は、契約解除の一般法理を適用して入会契約を解除することは、慎重を期すべきであるのは言うまでもないとして、理事会による除名決議を経るのが原則であるとしつつ、本件においては、①親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を越えた行為であったこと、②警告がなされた上での解除通告であること、③理事会も除名相当の意向を有していたこと等の事実に照らすと、契約解除は有効であると判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2013年10月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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