熊谷信太郎の「ゴルフ場の会場遅延」

昭和63年に施行された総合保養地域整備法(リゾート法)の後押しもあり、バブル景気時代にはゴルフ場の建設ラッシュが起きました。

平成3年には年間で109コースが開場し、1990年代には日本のゴルフ場の総数は約2400超にまで増加しました。

しかし、バブル崩壊後はゴルフ場の開場は減少の一途を辿り、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年には新規開場はついにゼロとなりました。

一方、平成4年5月のいわゆる会員契約適正化法の施行により(後述)、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

このような状況で、本年5月、神戸市北区で建設中の神戸CC神戸コースが、法律で義務付けられた届け出をせずに会員権を販売していた疑いが強まり、経済産業省が調査していることが報道されました。

神戸CCは、当初の開発事業者が平成7年に開発許認可を取得し(未着工)、マミヤ・オプティカル・セキュリティシステムグループが平成20年3月に事業を継承しましたが、コース変更等により正式オープンが遅れている状態のようです。

本件ゴルフ場は、少なくとも8年前から1口4万円から120万円でゴルフ会員権を販売していたと報道されており、いわゆる会員契約適正化法(後述)による届出が必要となるはずです。

会員契約適正化法の窓口である経済産業省商取引監督課も「50万円以上の募集をしたのであれば募集届け出が必要。現在実態を調査しているところ」と説明し、違法性があれば業務指導をする方針だと報道されています。

また、ゴルフ場を開発する際には、森林法に基づく林地開発の手続き(後述)を取ることも必要ですが、本件ゴルフ場ではその手続きも完了しないまま、一部の会員にプレーさせていたことも判明しました。

兵庫県の行政指導に対し、開発業者は「営業ではなく会員権販売のための内覧会で、試し打ちだ」と説明しているようですが、内覧会であっても森林法に基づく隣地開発の手続きを取ることが必要です。

 

森林法に基づく隣地開発許可制度

無秩序な開発を防止し森林の適正な利用を図るため、森林法に基づく林地開発許可制度が設けられています。

1ヘクタールを超える森林の開発をしようとするときは、この制度の手続きに従って、都道府県知事の許可を受けなければなりません。

無許可で1ヘクタールを超える開発行為をした者、許可に付した条件に違反して開発行為をした者及び偽り、その他不正な方法で許可を受けて開発行為をした者等は、開発行為の中止や復旧命令などの行政処分を受け、罰則(150万円以下の罰金)が適用される場合もありますので注意が必要です。

さらに各都道府県の林地開発行為等の適正化に関する条例等に基づく手続も取る必要があります。

例えば、兵庫県の場合には、「森林における開発行為の許可、保安林の指定等の手続を定める規則」及び「森林法による開発許可事務取扱要綱」に従って、管轄の農林水産振興事務所へ相談しながら申請図書を作成することになります。

また、千葉県など林地開発行為について条例で違反行為に罰則も定めているところもありますので注意が必要です。

 

会員契約適正化法

一方、「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律」(いわゆる会員契約適正化法、以下「法」)は、ゴルフ会員権の乱売で社会的に注目された茨城カントリークラブ事件がきっかけとなり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたという悪名高い事件です。

本法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭(預託金、入会金等の名目如何を問いません)を支払い(分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます)、ゴルフ場等の施設(ゴルフ場とそれ以外の施設の契約が一体となったいわゆる複合型施設も含みます)を継続的に利用する役務の提供契約です(法2条)。

なお、いわゆる株主制のゴルフクラブにおいてみられる株式の取得のために金銭が支払わられる契約は本法の対象となりません(平成5年5月19日付通商産業大臣官房商務流通審議官による通達)。

また、社団法人制のゴルフクラブも対象外ですが、社団法人が社員以外の会員種別を設けるなど新しい会員制度を取る場合には対象となる可能性があります(上記通達)。

さらに、既存の会員に対する契約変更の場合には本法の適用はありません(上記通達)。

例えば、ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、本法の対象とはなりません。

これに対し、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、本法の対象となりますので注意が必要です。

 

規制の内容

①募集の届出(法3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

②会員契約締結時期の制限(法4条)

さらに、法4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(法13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

 

ゴルフ場の開場遅延と債務不履行

上記のとおり、法4条により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

但し、㋐本法施行(平成5年5月19日)の前に会員契約に係る施設について、開発許認可を受けている場合、及び㋑本法の公布の日(平成4年5月20日)の前に会員契約の締結をしている場合には法4条の適用はなく、開場前の会員契約締結が許されることになります(法附則3条)。

さらに、㋒地方公共団体の開発許認可取得後に、会員制事業者が銀行等との間で、会員の拠出金の2分の1の返還債務の保証委託契約を締結し、ゴルフ場開発規制法令の諸許認可を得たときは、開場前であっても募集できます(法4条但し書き)。

これらに該当し、開場前に会員契約を締結したゴルフ場の開場が予定より遅延した場合、ゴルフ場経営会社はどのような責任を負うのでしょうか。

会員は、ゴルフ場経営会社との会員契約に基づいて、ゴルフ場経営会社に対し、優先的施設利用権(いわゆるプレー権)を有しています。

ゴルフ場のオープンの時期は、会員がゴルフ場施設を利用し得る時期であり会員にとって大変重要な事柄です。

そこで、ゴルフ場の開場が遅延したり、開場不能と言うべき状況に陥った場合には、会員は会員契約を解除した上で預託金等の返還を請求することができると考えられます。

ではこの場合、募集時のパンフレット記載の開場時期をどの程度遅延すれば、会員は会員契約を解除できるのでしょうか。

また、地震等による造成地の倒壊のような場合であっても、ゴルフ場は責任を負うのでしょうか。

 

平成91014日判決

この点が問題となったものとして、最高裁平成9年10月14日判決の事案があります。

本事案の概要は以下のとおりです。

会員Xは、昭和62年5月にゴルフ場経営会社Yとの間で預託金等納入して会員契約を締結しました。

その当時、ゴルフ場は建設工事中で、募集パンフレットには「完成昭和63年秋予定」と記載され、平成元年に開場することが予定されていましたが、ゴルフ場の建設工事は遅延し、平成元年中には開場することができませんでした。

その後、Yは、平成3年7月、視察プレーの名目でゴルフ場の営業を開始しました。

Xは、平成4年2月、Yに対して債務不履行を理由とした会員契約解除の意思表示を行いました。

その後、Yは、平成4年7月、ゴルフ場を正式開場しました。

その後、Xは、履行遅滞解除に基づく預託金等返還請求訴訟を東京地裁に提起し、一審ではXが勝訴しましたが、控訴審では原判決取消・請求棄却の判決が下されたため、Ⅹが上告しました。

最高裁は、①ゴルフ場を開場して債務を履行する義務は、いわば不確定期限というべきものだが、全く未確定なものではなく、当初予定されていた時期より合理的な期間の遅延は許されるとし、②Xが解除の意思表示をした時点では、既に視察プレーの名目の下における営業が開始され、近々債務の本旨に従った履行ががほぼ確実に見込まれていたというのであるから、債務の履行期が到来していたものと断ずることはできないとして、Xの履行遅滞による解除の主張は理由がないと判断しました(最高裁平成9年10月14日判決)。

 

ゴルフ場経営会社の帰責性が否定される場合

一方、開場遅延・不能がゴルフ場事業者の責めに帰することができない場合には、履行遅延や遅行不能による解除は認められません。

事業者のコントロールできない外来的・客観的要因に基づく地震や台風等自然災害による造成地の倒壊等がこれにあたります。

この他、造成中の土地から埋蔵文化財が発見されたようなケースも含まれると考えられます。この場合、文化庁は、一定期間工事の停止を命令することができるとされています(文化財保護法第4章参照)。

さらに、用地買収の遅延や景気の変動などの事情も含まれるかどうかは判断が分かれるところです。

「ゴルフ場セミナー」2013年7月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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