熊谷信太郎の「会員契約適正化法」

バブル崩壊後ゴルフ場の新規開場は減少し、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年にはついにゼロとなりました。しかしその後も少数とはいえゴルフ場の新規開場がみられます。

ゴルフ場を新規に開設する場合、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(以下「適正化法」)の規定を遵守する必要があります。

適正化法は、平成3年に施設開場前に募集予定会員数を大幅に上回る会員募集を行った茨城カントリークラブ事件が大きな社会問題となり、会員制事業に対する法的規制の必要性を求める声が高まり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたというものです。

また、平成24年9月には、神戸市北区で建設中だった神戸CC神戸コースが、適正化法で義務付けられた届け出等をせずに会員権を販売していたとして、ゴルフ会員権の販売等を手掛ける会社に対し、是正を求める行政処分が出されています。

同ゴルフ場は森林法に基づく林地開発の手続きも取っていませんでしたが、平成26年6月に「開発行為に関する工事完了確認証」を県から受け、漸く同年7月に正式開場になりました。

 

対象となる会員契約

適正化法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭を支払い、ゴルフ場等の施設を継続的に利用する役務の提供契約です(2条)。

「その他のスポーツ施設又は保養のための施設」については、現在のところ、政令で定められていませんので、ゴルフ場のみが本法の対象となっています。

なお、ゴルフ場とそれ以外の施設の利用についての契約が一体となっている場合(いわゆる複合型施設)、例えば、ゴルフ場と乗馬クラブやテニスクラブとが一体となっている場合もゴルフ会員契約適正化法の対象となります。

ここに、50万円以上というのは、預託金の額だけではなく、入会金、預託金、保証金、消費税等、会員(となろうとする者)が会員契約に基づき会員制事業者に支払うこととなる一切の金銭の総額で判断されます。分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます。

 

適正化法の対象となる募集

適正化法における「募集」とは、①広告その他これに類似する方法により会員契約の締結について勧誘すること及び勧誘させること、及び②会員契約を締結すること及び会員契約の締結の代理・媒介を行わせることをいいます(2条4項)。

このような行為をする場合は、予め会員募集の届出が必要になります。

①「勧誘」とは、会員契約の締結を勧めることを意味します。したがって、「広告その他これに類似する方法」によって会員契約の締結を勧めていれば、会員制事業者が自ら行う場合だけでなく、他の事業者に依頼して勧誘させる場合も、募集に該当します。なお、ダイレクトメール等による勧誘も「これに類似する方法」と考えられます。

②会員契約を締結することとは、自ら会員契約を締結する場合を指しますが、契約締結しさえすれば、その数に関わらず募集にあたります。そのため、一度募集を終了した後、改めて欠員を補充する場合にも、会員募集の届出が必要になる点に注意が必要です。

また、会員契約の締結の代理・媒介を行わせることとは、会員制事業者が会員契約代行者に会員契約を締結させる場合や、会員契約が成立するよう尽力させる場合です。一個の契約締結の代理・媒介を行わせることであっても募集になるという点は、自ら契約を締結する場合と同じです。

なお、既存の会員に対する契約変更の場合には適正化法の適用はありません。

例えば、17Hを27Hに増やす等ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、適正化法の対象とはなりません。

これに対し、開場後であっても、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、対象となります。またゴルフ会員権を分割する場合も、ゴルフ場事業者と会員との間の既存の契約関係の変更に加え、分割によって増加した分の新たな契約関係が生じることから、分割により増加する分の会員権が、適正化法の対象となり、後述の届出が必要となります。

 

株主会員制のゴルフクラブ

適正化法の対象となる会員契約は、事業者がゴルフ場等の施設を継続的に利用させる役務を提供することを約し、会員がその対価として金銭を支払うことを約するものをいいます。したがって、いわゆる株主会員制のゴルフ場においてみられるような、株式の取得の対価として金銭が支払われる契約は、会員契約の定義に該当しません(もっとも、株主制と預託金制を併用している場合、預託金契約に該当する部分については適正化法の適用対象となります)。

株主会員は株主総会での議決権や計算書類の閲覧請求権等を有し、会社の経営に一定の統制を働かせ得るため、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、会員の保護が図られることから、適正化法の適用がないとされています。

このような趣旨からすると、例えば、株式会社が直接ゴルフ場を経営しないで、A株式会社とB倶楽部組織を分離し、「開場後にBゴルフ倶楽部が会員を募集し、A社の株主についてはB倶楽部の株主会員として優遇するという前提で、開場前にA株式会社が株主募集を行う」等という方法は、ゴルフ場について会員から株主としての統制を免れつつ、一方適正化法の適用は受けないことになり、法の趣旨を潜脱するものと言わざるを得ません。

この場合、株券取得契約は単体でみると会員契約に該当せず、適正化法の適用はないようにも思えます。しかしながら、株主の募集とはいっても、その後に行われる会員募集と一体をなすものと評価できるような場合には、株券取得契約の時点で会員契約の締結があったものとして、適正化法の対象とすることで、会員の保護を図る必要が出てきます。その場合、開場前の株主募集は許されないと解する余地もあるので(適正化法4条)、株主募集とその後に予定されている会員募集との関係が、実質的に連続した一体の行為といえるか、実態に即した判断が必要です。

 

一般社団法人制のゴルフクラブ

適正化法は、特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会その他の政令で定める者がその構成員と締結する会員契約については、適用しないこととされています(19条2項)。「その他の政令で定める者」について、政令では「ゴルフ場の設置及び運営をその主な事業とする一般社団法人」を定めています(政令7条)。

社団とは、㋐団体としての組織を備え、㋑多数決の原理が行われ、㋒構成員の変更に関わらず団体が存続し、㋓その組織において代表の方法・総会の運営・団体としての重要な点が確定している場合をいいます(これはいわゆる権利能力なき社団に関する最高裁の判例ですが、社団性についても基本的に妥当すると考えられます)。そのうち一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人です。

このように、一般社団法人とその構成員(社員)との契約については、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、内部関係における規範によって会員の保護が図られ得ると考えられるため、適用除外とされているのです。

そのため、一般社団法人が社員以外の会員種別を設ける等新しい会員制度を取る場合(例えば、平日会員や家族会員)等、ゴルフ場の運営に意思を反映させる仕組みが確保されていない場合は、適正化法の対象となる可能性があります。

 

外国のゴルフ場

適正化法は日本国内において締結される会員契約を対象としており、施設自体が日本に所在することは要件にはなっていないため、外国のゴルフ場についても、日本国内で募集する場合には同法の適用を受けます。なお、外国のゴルフ場の開設前に、会員契約を締結する場合には、都道府県等による開発許認可等(4条)がなされることはありえないため、保証委託契約を締結し、その旨を届け出れば、会員契約を締結することが可能となります。

 

規制の内容

①募集の届出(3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

会員募集の届出をせず、又は虚偽の届出をして募集を行った会員制事業者については、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)の対象となるほか、罰則(50万円以下の罰金、23条)も定められています。

②会員契約締結時期の制限(4条)

さらに、4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

4条に違反する会員契約の締結についても、3条(募集の届出)の違反と同様、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)及び罰則(50万円以下の罰金、23条)が定められています。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

「ゴルフ場セミナー」2016年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎