熊谷信太郎の「ゴルフと賭博」

韓国のゴルフ場オーナーが、平成21年8月から12月にかけ、利用客から参加費を取り、パー3ホールでホールインワンを出せば6000万ウォン(約550万円)相当の高級自動車を景品としてプレゼントするというイベントを実施しました。

利用客の反応もよかったようですが、何度挑戦してもホールインワンを出せなかった利用客が、オーナーを賭博場開帳の容疑で検察に告発し、昨年10月、「賭博の開帳」にあたるとする憲法裁判所の判断が示されました。

このような高額賞品を景品とするホールインワン・イベントは我が国では許されるのでしょうか。

 

韓国におけるゴルフ賭博

ソウル南部地裁は平成17年2月、1ホールに最高1000万ウォン(約100万円)を賭けるようなゴルフを常習的に行ったとされる事件について、「スポーツ競技は花札などのように偶然によって勝負が決まるものではなく、プレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右する」として、刑法が「偶然により財物の得失を決定する行為」と規定する賭博にあたらないと判断し、賭けゴルフは無罪との判決を下しました。

もっとも、この事件の二審裁判所は、「偶然により勝敗が分かれるからといって、すべて賭博とみなせるわけではなく、どれほどの金をかけて、どれくらい頻繁に行ったかを考慮し、社会が受け入れられるレベルを超える場合、賭博と判断する」とし、「被告人の場合、頻繁に行った上、その金額も大きい」として、有罪判決(懲役刑)を言い渡しています。

一方、ソウル中央地裁は平成17年5月23日、類似の事件において、「ゴルフは実力がある程度勝負を左右するが、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用する」として、被告に罰金2000万ウォンの有罪判決を言い渡しました。

 

我が国における賭博罪

我が国において、賭博罪(単純賭博罪)は50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役、賭博場開張等図利罪は3月以上5年以下の懲役となります(刑法186条)。

この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。

そして「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。

すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。

したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。

 

一時の娯楽に供する物

もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。

この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。

判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。

金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。

 

コンペの賞品やベット

ホールインワンは偶然性の要素が非常に高いので(米国のSports Illustrated 誌によればホールインワンが出る確率は1/45,000)、冒頭の韓国の事例のような場合、景品が相当高額であること等も併せ考えると、賭博罪にあたるという結論にもうなずけるものがあります。

では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。

まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。

この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。

しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。

前述のようなホールインワンに高額賞金をかけて参加費を取って集客するようなケースと異なり、ラウンド中に参加費を支払ってワンオンにチャレンジし成功した場合に賞品を貰えるというワンオンチャレンジのように、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものまで賭博罪に該当するという考え方は多くのゴルファーにとって受け容れがたいものだと思われます。

 

ゴルファーの常識と法の接点

プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベット(またの名をニギリ)は、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。

日本プロゴルフ選手権大会の第1回優勝者である宮本留吉プロが、球聖と呼ばれたボビー・ジョーンズとマッチプレーで対戦して2UPで勝利し、ボビー・ジョーンズのサイン入りの5ドル紙幣をもらったというのも有名な話です。

これなどはゴルフの良きカルチャー、伝統を伝えるエピソードではあっても、賭博と評価するのは、いかにもゴルファーの感覚とかけ離れていると言わざるを得ません。

結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。

先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。

クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。

これに対し、元民主党の国会議員が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当するとされてもあまり違和感がありません。

また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。

もっとも、大手企業の部署内コンペで1口200円の掛け金を集めトトカルチョをやっていたことが内部告発され、社員ら61人が書類送検されて話題となった平成18年の事例などは、1口200円の企業部署内コンペで、警察が動いたことはやや行き過ぎではないかと思われます。

 

ゴルフ場の注意点

ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額によっては、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。

したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。

なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。

例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。

過大な景品類の提供が行われている疑いがある場合、公正取引委員会は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められた場合は、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる排除命令を行います。

さらにアマチュアゴルファーの場合には、1つの競技で受け取る賞品の小売価格の合計は、75,000円以下でなければならないとされており(JGAアマチュアゴルフ規則)、これに違反するとアマチュアを失う可能性があるのでこの点にも注意が必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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