熊谷信太郎の「入会承認」

昨年8月、長年男性のみが会員であったマスターズ開催のオーガスタ・ナショナルGCが女性会員を初めて2名受け入れたことでニュースとなりました。

今年7月には男子ゴルフメジャー大会・全英オープン選手権が女人禁制の名門倶楽部・ミュアフィールドで開催されましたが、英国のマリア・ミラー文化・メディア・スポーツ相は「いまだ存在する性差別に背を向けてはいけない」という声明を出して大会への招待を辞退し、ヒュー・ロバートソン・スポーツ担当閣外相やスコットランドのアレックス・サモンド行政府首相もこれに同調する等議論の的となりました。

本来、同好の士の集まりであるゴルフ倶楽部は結社の自由を有し、誰を会員として認めるかについての裁量を有しており、入会申込みの際には倶楽部理事会の承認を要するとしているゴルフ場が一般的です。

歴史あるゴルフ倶楽部の中には、会員資格を男性に限定しているところもあるのは周知のとおりです。外国人であることや一定の職業(風俗営業従事者等)に就いていることを入会拒否事由としているゴルフ場もあるようです。

では、ゴルフ倶楽部の入会承認における裁量に限界はあるのでしょうか。

本年8月、この点に関して実務的に参考になる判決がさいたま地裁で出ました。

本件は、埼玉県の株主会員制のゴルフ場(本件倶楽部)の会員が死亡し、その会員の子であるA氏が株式を相続したとして本件倶楽部への入会の申込みをしたところ、ゴルフ場経営会社がこれを承認しなかったという事案です。

A氏は、入会申込みの不承認は裁量権を濫用したものであるとして、ゴルフ場経営会社に対し、①本倶楽部における名義書換と倶楽部理事会の決議無効確認を求め、②仮に本件倶楽部への入会が認められない場合には、不法行為に当たるとして慰謝料の支払いを求めました。

さいたま地裁は、平成25年8月28日、A氏の名義書換請求、理事会決議の無効確認請求、不法行為に基づく慰謝料請求いずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

 

事案の概要

A氏の父親は、昭和46年にゴルフ場経営会社の株式と本件倶楽部の会員としての地位を取得しましたが、平成22年4月に死亡し、A氏が本件株式を取得する旨の遺産分割協議が成立しました。

そこでA氏は、平成23年3月に本件倶楽部への正会員としての入会を申し込みましたが、倶楽部理事会はこれを承認しませんでした。

本件倶楽部の規則等においては、入会(相続により正会員の権利を承継した者を含む)の際には、選考委員会における審査を経た上、理事会において、理事の過半数が出席し、出席した理事全員の賛成による入会の承認が必要とされています。

なお、本件倶楽部では、理事会で入会を認められた申込者についてのみ取締役会に株式譲渡の承認手続を付託するという手続になっているため、株式の譲渡承認については正式な結論が出ていないようですが、A氏が株式の譲渡承認のみを求めればこれを認める方針だったようです。

裁判においてA氏は、会員としての資格要件を満たした入会の申込みは原則として承認されるべきであるという立論の下、①会社は入会を拒否する理由を合理的に説明しないままにA氏の入会申込みを承認しなかったものであり、裁量権を濫用したものと言うべきであるし、この点に関する倶楽部理事会の決議は憲法14条の精神に照らしても公序良俗に反し無効なものであるとして、本倶楽部における名義書換と理事会決議の無効確認を求め、②仮にA氏に対する本件倶楽部の名義書換が認められなかった場合には、会社が名義書換に応じなかったこと、及び入会申込みに当たりこれが認められなかったとしても一切異議を述べない旨の念書を書かせるなどした行為は、A氏の期待権を侵害する不法行為に当たるから、慰謝料として100万円の支払を求めました。

これに対しゴルフ場経営会社は、①本件倶楽部の重要な設立目的の一つは、会員の親睦を図ることにあり、②このような趣旨にそぐわないものとして入会申込みを拒否することは、私的自治の尊重されるべきゴルフ倶楽部としての適正な裁量の範囲内のことであるとして、③倶楽部理事会がA氏の入会申込みを承認しなかったとしても、これが裁量権の濫用となり、或いはA氏に対する不法行為に当たるということはできないと反論しました。

 

さいたま地裁判決

さいたま地裁は以下のとおり判断し、A氏の請求をいずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

①本件倶楽部の規則等では、正会員が相続した場合、その相続人が本件倶楽部の会員としての地位を取得するためには理事会の承認を得ることを必要としており、相続により株式を取得したことから直ちに本件倶楽部の会員の地位をも取得したということはできない。

②本件ゴルフ倶楽部はゴルフの普及発達を促進し、広く会員及び家族の保健と親睦を図り、ゴルフを通じて会員の体位の向上と道義の涵養に努め、地元の振興に寄与することを目的とされているのであって、倶楽部への入会希望者の審査は、原則として私的自治に基づく倶楽部理事会の自主的な判断に任されるべきものである。

③以上より、㋐入会申込みがあったときには原則としてこれを承認すべきものということはできない。㋑入会不承認が不当な目的に出たものである等裁量権を逸脱したものと認めるに足りる証拠はない。㋒入会不承認の理由を説明すべき法的な義務を負うものと認めるべき根拠もない。㋓A氏が本件倶楽部への入会申込みをするに当たり、入会が承認されない場合でも異議を述べない旨の念書をゴルフ場経営会社がA氏に差し入れさせていたとしても、そのことのみでA氏に対する不法行為に当たるものと認めることもできない。

 

結社の自由と法の下の平等

上記さいたま地裁判決も指摘している通り、そもそもゴルフ倶楽部は、同好の士の集まりであり、娯楽施設としてのゴルフ場の利用を通じて、会員の余暇活動の充実や会員相互の親睦を目的とする私的団体です。

そのため、ゴルフ倶楽部はその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は、契約自由の原則から、倶楽部にとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます。

本件は株主会員制ゴルフ倶楽部の株券を相続したという事案ですが、市場で会員権を購入した場合でももちろん同様です。

また、預託金会員制、プレー会員制等倶楽部形態の如何に関わらず、この考え方が基本的に妥当すると言ってよいでしょう。

このように、会員権の譲受人は、ゴルフ倶楽部の理事会等による入会承認を受けなければ、会員たる地位を取得することができないとする会則は法的に有効であり、倶楽部側に入会者決定の裁量があるということになります。

一方、憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。

そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。

この点、外国人のゴルフ倶楽部への入会制限が争われた事案において、東京地裁平成13年5月31日判決は、「私人である社団ないし団体は、結社の自由が保障されている」とし、新たな構成員の加入を拒否する行為が…民法709条の不法行為に当たるとすることが許されるのは、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限られるとして、ゴルフ倶楽部への入会に国籍による制限を加えるのは、社会的に許容される範囲であると判断してA氏の請求を棄却し、控訴審・最高裁もこの結論を維持しました。

会員を男性に限定するというゴルフ倶楽部の取扱いも、ロッカーや浴室、トイレの数等施設利用上の制約のため、社会的に許容される範囲であるとして、許容されるものと考えられます。同様に、女性限定のレディス倶楽部も許容されることになります。

 

実務的なゴルフ場の対応

このように、倶楽部会則における国籍条項も有効と判断されているとはいえ、入会資格を制限する条項は社会的に許容される範囲の制限であるかどうかという議論を呼びがちになるので、会則に明示するのは避けたほうが無難です。入会には倶楽部理事会の承認を必要とし、裁量的に各申込者の入会の許否を決する中で不適当な人物を排除するという方法が実際的です。

また、入会不承認の理由についても、明示すべきではありません。

この点、①倶楽部会則等に入会資格の要件が規定されていれば、その資格を充足している者が入会承認申請すれば原則として入会承認されてしかるべきであり、不承認とするならばその理由を明示すべきである、②入会資格要件が明確なものとしてない場合にあっては、他の会員につき承認し、当該会員につき不承認とする具体的理由を説明、明示すべきであるとの見解の論者もおり、その旨を主張する書籍もあります。本件判決のA氏の主張はまさにそのような考え方に立ってなされたものと言えましょう。

しかし、これは本件判決でも示されたように、倶楽部の入会者決定における裁量に関する誤った理解と言わざるを得ず、実務的にも到底受け入れられる見解ではないでしょう。

もともとゴルフ倶楽部への入退会に関しては、例えば労働者から要求があればその開示が要求されている解雇理由(労働基準法22条2項)などと異なり、法律による規制は及んでいません。

入会不承認の理由を伝えること自体が本人を傷つけ、無用な紛争を惹起する恐れがあり、入会不承認の理由を開示する扱いは通常なされていないと思われます。

そこで実務的な取り扱いとしては、入会不承認の理由を明示すべきではなく、倶楽部会則等に「入会不承認の理由を明示しない」ことを明記するとともに、入会申込の際に、入会不承認の理由を開示しないことについて入会希望者から個別に書面での同意を取っておくことが必要であると考えられます。

「ゴルフ場セミナー」2013年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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