熊谷信太郎の「会員負担金」

本年2月1日、福井地裁において、ゴルフ場が会員に負担金の支払いを強制するのは不当であるとの判決が出されました。

これは、福井県のゴルフ場が会員に緑化事業負担金の支払いを義務づけたのは不当であるとして、元会員の男性が、①同負担金債務の不存在確認と②不払いを理由に差別的扱いを受けたことに対する慰謝料を求めたものです。

福井地裁は原告男性の請求を認め、ゴルフ場側に対し慰謝料10万円の支払いを命じました。

報道によりますと、ゴルフ場は2011年5月以降、記念誌発行や植樹推進などの費用に充てようと、緑化事業負担金として会員に1万円を請求したようです。

福井地裁は同負担金を「会員への対価性がなく、会則などの根拠を欠くもので、支払い義務を負わせることはできない」と判断しました。

ゴルフクラブでは、クラブハウスの増改築やコースの改造などの際、会員にこれらの費用の一部負担を求めることが時折ありますが、このような臨時的な負担について会員に支払義務はあるのでしょうか。

ゴルフクラブと会員の権利義務関係については、社団性の有無で妥当する法理が異なりますので、分けて検討したいと思います。

 

社団性のあるゴルフクラブの場合

社団とは一定の目的によって結集した人の集団です。

その代表格は「社団法人」ですが、それ以外にも「権利能力なき社団」というものがあります。

社団法人とは、社団のうち、法律により法人格が認められ権利義務の主体となるもの(法人)をいいます。

社団法人制ゴルフクラブは、日本における正統的ゴルフの普及・発展に尽くしてきた経緯がありますが、平成20年12月1日の新たな公益法人制度の施行により、公益法人としての存続が難しくなり、一般社団法人への移行を迫られています。

一般社団法人として法人格を取得すると、団体法的解決を図ることが可能となり、ゴルフ場と会員の権益を守ることができるという点が最大のメリットであると思われます。

一方、法人格を有しなくても、いわゆる「権利能力なき社団」として、団体自身が経済的・社会的活動を行っており、社団としての実質を備えていると認められるものもあります。

権利能力なき社団として認められるためには、「①団体としての組織をそなえ、②そこには多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」とされています(昭和39年10月15日最高裁判決)。

社団性のあるゴルフクラブの場合には、ゴルフ場と会員との関係は、団体の規範である定款や会則等の規定するところにより、規定がないか不十分な場合には、民法の組合等の規定により判断されます。

 

一般社団法人の機関

一般社団法人の場合には、社員総会のほか、業務執行機関としての理事を少なくとも1人は置かなければなりません。また、それ以外の機関として、定款の定めによって、理事会、監事又は会計監査人を置くことができます。

社員総会は、全ての社員(会員制度を設けている場合には、社員に該当する会員)で構成します。

一般社団法人における最高意思決定機関は社員総会(会員総会)であり、決算の承認、役員の選任・解任等、法人運営に関する重要事項を決定することができる機関です。

理事会を設置しない一般社団法人の社員総会では、法人運営に関する全ての事項について決議することができます。

一方、理事会を設置する場合において、定款で社員総会の権限について何も定めていない場合には、理事会に一定の権限があるため、その社員総会では法律で定められた事項しか決議できません。

理事会を設置する場合、定款において、社員総会で議決できる事項を増やすこともできます。

各社員は、それぞれ1個(1票)の議決権を平等に持っていますが、定款において、社員によって議決権の数が異なるように定めることもできます。

 

団体と構成員の関係

社員総会は、定款で特に定めのない場合には、社員(議決権)の過半数が出席することにより開催することができ、また決議は出席した社員(議決権)の過半数をもって行われることとなっています。

では、社員総会(会員総会)や、社員総会で選ばれた理事で構成される理事会において、会員に負担金を課す決議をした場合、会員はかかる決議に拘束されるのでしょうか。

あるいは、負担金を支払わない場合には、会則等に従い除名等の懲戒処分が認められるのでしょうか。

社団は、その構成員に対して一定の強制力を有しています。

社員総会(会員総会)は、多数決原理に基づいて活動するものであって、少数派はこれに服従すべきであることも、その本質的要請です。

そして、社団への入社(ゴルフクラブへの入会)は、この強制を受けることを認容したものと言わなければなりません。

しかし、社団の強制力には一定の限界が存することは自明であり、多数決原理によれば何でも可能となる訳ではなく、そこに限界のあることは疑いないところです。

社員総会(会員総会)の決議はオールマイティではなく、①決議の内容となる行為が定款に定める社団の目的の範囲内にあること(社団法人について民法43条)、②負担の目的・使途、負担金の額等から考えて、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がないことが必要です。

例えば、ゴルフクラブが政治献金をすることはそもそも目的の範囲外の行為となると思われます。

これに対し、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金については、目的の範囲内にあると考えられ、その金額が相当で会員の協力義務を否定すべき特段の事情がなければ、負担金の支払義務を認めてよいと思われます。

例えば、会員が予約を取りやすいようにビジターの予約枠を制限し会員の時間枠を増やす際、ゲスト収入の減少に伴う臨時の負担金を社団の構成員に求めるような場合や、地主から返還請求を求められた借地問題を解決しゴルフ場として存続を図るために会員に臨時的な負担を求めるような場合には、その支払義務を認めてよいのではないでしょうか。

これに対し、クラブ資産の運用上の投資の失敗やクラブ運営上の失態により損失を生じた場合には、まず担当理事や理事会の責任が求められるべきであり、安易に負担金を課すべきではなく、会員の協力義務を否定する特段の事情があると考えられます。

 

他の団体の裁判例

ゴルフ場の例ではありませんが、司法書士会の会員に阪神・淡路大震災の際の復興支援特別負担金の支払義務を認めた判例があります(最高裁平成14年4月25日判決)。

一審は、災害救援資金の寄付を「各人が自己の良心に基づいて自主的に決定すべき事柄」であるとして総会決議の効力を否定しました。

これに対し、最高裁は概ね以下のとおり判断し、復興支援特別負担金の支払義務を認めました。

①司法書士会は他の司法書士会との間で業務等について援助等をすることもその活動範囲に含まれる。

②本件拠出金の額(3000万円)はやや多額ではないかという見方があり得るとしても、大災害という事情を考慮すると本件拠出金の寄付は司法書士会の目的の範囲内にある。

③本件拠出金の調達方法についても、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができる。

④司法書士会がいわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の思想信条の自由等を害するものではなく、その額(登記申請事件1件につき50円)も社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。

 

社団性のないゴルフクラブの場合

一方、日本のゴルフクラブの中には、会員によって構成される「団体」としての実質を有しない「擬似クラブ」であって、独立の法的主体となり得るような「社団」とは言えないものもあると言われています(最高裁昭和50年7月25日判決等)。

社団性のないゴルフクラブにおいては、会員の権利義務関係については、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約の内容をなす会則により定められると解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。

この点、本件福井地裁判決も、「社団性をもたない本件ゴルフクラブの会員の権利義務の内容について、会員とゴルフ場経営会社との間の会則等の定めによるのであって、会則等によることなくゴルフ場経営会社が会員に義務を負わせることはできないと解される」と判断しました。

そこで、本件の緑化事業協力金のような負担金が「その他諸料金」として、会員に支払義務を負わせる得ためには、まず、クラブ会則にその旨の規定があることが最低限必要となります。

 

双務契約における対価性

ゴルフクラブにおいては、クラブ会則に、「会員は、年会費その他諸料金を負担しなければならない」という規定を置き、会員に諸料金の支払義務を課しているところが多いと思います。

では、各種会員負担金は「その他諸料金」に含まれると考えられるのでしょうか。

双務契約とは、契約当事者双方が対価的性質を有する債務を負っており、給付と反対給付が対価的関係に立つ契約を言います。

そこで、これらの負担金が、「その他諸料金」に含まれるかどうかは、負担金が給付と反対給付との間で対価性を有すると言えるかどうかにより判断されることになります。

この点、結論としては社団性のあるゴルフクラブの場合と同様に、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金は、その金額が相当である限り対価性が認められるので、負担金の支払義務を認めてよいように思われます。

これに対し、投資の失敗等、クラブ運営上の損失を会員に負担させるようなことは、対価性が認められず、会員に支払義務はないものと考えられます。

また、クラブハウスの増改築は、会員に施設を利用させる義務を負担するゴルフ場経営会社がなすべきことであり、会員は施設利用の対価として入会金や年会費を支払っているのですから、さらに負担金を課すことには通常は対価性が認められず、会員に支払義務はないケースが多いものと考えられます。

さらに、冒頭の福井地裁判決でも問題となった記念懇親ゴルフの費用や、協議会の協力金についても、参加者から参加費を取ればよいのであって、非参加者との関係では対価性は認められず、支払義務はないと言えるでしょう。

「ゴルフ場セミナー」2013年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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