熊谷信太郎の「会社法の改正」

平成26年6月、会社法の一部を改正する法律が公布され、本年5月から施行されます(本年3月現在)。

今回の改正では、実務に少なからぬ影響を与える様々な規定の見直しが行われています。特に昨今のゴルフ業界でも珍しくないと思われる組織再編やM&Aに関しては、多岐にわたる改正がありました。

中でも注目を引くのが、会社分割における債権者保護規定の新設です。以下では、この点を中心に検討した上で、ゴルフ場経営会社に関係すると思われるその他の改正点を紹介します。

 

会社分割とは

近年、ゴルフ場の法的整理や売却の際にも、会社分割の制度が利用されることが増えています。

会社分割とは、既存の会社(分割会社)がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割によって設立する会社(承継会社)等に承継させることを目的として行う会社の行為です(法2条30号)。

企業の事業再編の手段としては、会社分割の他に、株式譲渡や事業譲渡といったものもありますが、会社分割には、簿外債務のリスクを抑えられる、債権者の個別の承諾を得る必要がないなどのメリットがあり、広く利用されるようになりました。

 

改正前の債権者保護手続

会社法は、会社分割による債権者保護手続として、「分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者」(承継会社に移る債権者)に対する保護手続を設けています。

まず、①承継会社に移る債権者には会社分割について異議を述べる機会が与えられています(法789条1項2号、810条1項2号)。

②異議を述べた債権者に対しては、会社分割により当該債権者を害するおそれがない場合を除き、弁済ないし担保の提供等がなされることとなり、当該債権者は債権の満足を得られることとなります(法789条5項、810条5項)。

③また、会社分割の手続に瑕疵がある場合には、会社分割無効の訴えを提起することもできます(法828条2項9号、10号)。

これに対し、「分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者」(分割会社に取り残される債権者)は、こうした保護手続の対象から除外されており、異議を述べる機会を与えられず、会社分割無効の訴えを提起することもできません。

このように、改正前の会社法では、承継会社に移る債権者(以下「承継債権者」)と、分割会社に残された債権者(以下「残存債権者」)との取り扱いは、大きく異なっていました。

 

濫用的会社分割

このように残存債権者に対する保護手続が会社法上要求されていないことに加え、簿外債務のリスクを抑えられる、債権者の個別の承諾を得る必要がないなどのメリットがあるため、近年債務超過に陥り実質的に倒産状態にある会社が、会社を再建する場合に、会社更生や民事再生といった法的倒産処理手続を利用しないで、会社分割の制度を利用するといったケースが増えていました。

会社更生や民事再生といった倒産手続を利用する場合には、経営者は、経営権を失うなど一定の責任を取ることになります。

これに対し、会社分割制度を利用する場合には、経営者はその責任を取ることなしに、財産を新会社に移転して資産を確保しつつ、債務を整理できるという、大変都合のよいことができてしまうわけです。

これは、緊急時における制度運用を想定し、資産の保全や債権者の平等を基本的理念とした倒産処理法と異なり、会社分割は会社法上の制度であり、平常時における制度運用を想定して制度設計されているためと解されています。

これによって、一部の債権者と協議し、会社分割によって新設した会社(承継会社)に、採算部門や優良資産等を承継させた上で、不採算部門や不良資産を残した既存の会社(分割会社)を清算し、会社再建を図ることができるわけです。

しかし、債権者を害する意思をもってこのような資産移転が行われると、残された債権者は債権の引き当てとなる財産が空虚化した状態になる一方で、経営者は経営責任を取ることなく優良資産を隔離して保全することができることになってしまいます。このような都合の良すぎることがそのまままかり通るのでは、ゴルフ場に対する債権者(会員)は、たまったものではありません。

 

濫用的会社分割に関する判例

このような濫用的会社分割が詐害行為に該当するとして、残存債権者が債権者取消権を行使した事案で、最高裁平成24年10月12日判決は、債権者取消権の行使を認め、当該債権者の債権保全に必要な限度で新設分割設立会社への権利の承継の効力を否定すべきものと判断しました(本誌平成24年12月号参照)。

債権者取消権とは、債務者の資力が十分でない状況で、債権者を害する行為がなされた場合に、債権者が当該行為を取り消し、その債権の保全を図る制度です(民法424条)。

こうして、濫用的会社分割については、債権者取消権を行使することで自己の権利保全を図るという判例法理が確立されました。

 

改正会社法による債権者保護手続

しかし、債権者取消権という民法上の原則ではなく会社法において何らかの規定を設ける必要があるという指摘がなされ、残存債権者による直接請求制度が新設されました。

例えば、㋐ゴルフ場経営会社が、「既存の会員を害することを知って」預託金返還債務を分割会社A(多額の債務のみ残り、資産もない)に残し、新設分割によりゴルフ場事業を承継会社B(採算部門を承継し、資産もある)に承継させたような場合、A社に残される債権者(会員)は、知ったときから2年以内に、㋑B社に対して、「承継した財産の価額を限度として」預託金の返還請求ができることとされました(法759 条4項本文、764条4項)。

もっとも、吸収分割の場合には、 吸収分割承継会社が、「残存債権者を害すべき事実」について知らなかったことを証明した場合には、かかる請求を免れるものとされています(法759条4項但し書き)。

㋐「残存債権者を害することを知って」とは、当該行為により分割会社が債務超過となる場合が典型と考えられていますが、特に債権者を害することを意図することまでは必要ないと解されます。

㋑「承継した財産の価額を限度として」とは、承継資産の価額から承継債務の価額を控除した金額ではなく、当該財産自体の価額を意味し、その範囲内で、承継会社に対して 債務の履行を求めうるということになります。

なお、残存債権者による承継会社への直接請求制度の新設後も、濫用的会社分割に対する債権者取消権の行使は可能と考えられており、債権者としては、債権者取消権を行使するか、会社法上の直接請求権を行使するかを選択的に判断できます。

 

M&Aの際の注意点

残存債権者による直接請求の対象となるのは、改正会社法施行日以降に、吸収合併契約が締結、又は新設分割計画が作成された会社分割です(改正附則 20 条)。したがって、施行日より前に行われた会社分割は、従前どおり、債権者取消権の対象となり得るにとどまります。

残存債権者による直接請求によって、会社分割の効力が左右されることはありませんが、承継会社は残存債権者に対して承継資産の限度で当該債権者に係る債務を履行しなければならない可能性があります。 そして、承継会社がその責任を負うのは、承継資産と承継負債との差額ではなく、承継資産自体の価額を言うと解されているため、この請求権が行使された結果、承継債権者としては会社分割がなされる前よりも不利な状況となることも想定されます。

このような場合、承継債権者としては、当該会社分割が残存債権者を害するものとなる可能性があることが判明した場合には、上記のとおり、分割会社に対して異議を述べた上で、債権の保全を図る等の措置が必要となるでしょう。

また、吸収分割承継会社は、上記のとおり、残存債権者を害する認識がなければ、残存債権者からの直接請求を受けることはありません。

しかし、残存債権者を害する認識の有無について、例えば、会社分割契約書で、分割会社が承継会社に対して「本件会社分割は分割会社 の残存債権者を害さないこと」を表明保証する条項を定めておくだけで、承継会社にこの認識がなかったと言えるかどうかは判断の分かれるところです。デューデリジェンスの過程で詐害性について疑義がある場合には、慎重な検討が必要でしょう。

 

監査役の監査範囲を会計監査に限定している場合の登記義務

定款で株式の譲渡制限を定めている株式会社は、定款で監査役の監査の範囲を会計監査に限定する旨を定めることができます。

ゴルフ場経営会社で多くを占めると思われる中小企業の多くは非公開会社であり、監査役の監査の範囲を制限しているところが多いと思われます。

今回の改正では、監査役の監査の範囲を会計監査に限定する場合はその旨を登記することが義務づけられました(法911条3項17号)。当該登記は、改正会社法の施行後最初に監査役が就退任する際に行う必要があります。

監査役の就退任の際には、上記登記を行うことを忘れないように注意する必要があります。

 

社外役員の要件の厳格化

社外役員(社外取締役、社外監査役)は、社内の指揮命令関係の影響を受けない立場で発言することで、経営を健全に維持する役割が期待されています。そのため資格要件として会社関係者でないことが要求されています。

今回の改正では、社外役員になれない人的範囲が拡げられ、これまでより一層社外性が求められることになります(法2条15号ハニホ)。

具体的には、①当該会社の経営を支配している個人(以下「支配個人」)、又は親会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと、②親会社の子会社(以下「兄弟会社」)の業務執行取締役等でないこと、③当該会社の取締役、支配人、その他の重要な使用人又は支配個人の配偶者、二親等内の親族(親子、兄弟姉妹等)ではないこと、が追加されました。

一方、過去に会社関係者となったらその後いつまでも社外役員となれないとするのも不合理なので、資格要件が緩められ、「社外役員に就任する前10年以内に、当該会社又はその子会社の取締役、会計参与、執行役、支配人その他の使用人であったことがないこと」とされました(法2条15号イロ)。

社外監査役についても、社外取締役と同様の改正がなされました(法2条16号)。

子会社の社外監査役に親会社の従業員が就任している例は少なくないと思われますが、改正法下では、子会社は親会社や兄弟会社以外から社外監査役を迎える必要があります。

社外取締役の範囲の変更は、改正法施行時に社外取締役がいる場合には、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時から適用されます(改正附則4条)。

3月決算の会社であれば、遅くとも平成28年6月の定時株主総会において、改正後の要件を満たす社外役員を選任する必要がありますので注意して下さい。

「ゴルフ場セミナー」5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎