熊谷信太郎の「消費者裁判手続特例法①」

アベノミクス効果により、今年の5月には、日経平均株価が5年4ヶ月ぶりに15,000円台を回復し(その後、乱高下を繰り返していますが)、全国の先行指標となる関東地区の主要ゴルフ倶楽部の平均会員権価格も、過去最安値とされる190万円に落ち込んだ政権交替前の2012年11月と比べ、4割以上も上昇しました。

バブル崩壊後の会員権値下がりに2008年のリーマンショックが追い打ちをかけ、多くのゴルフ場が預託金の返還問題に苦しんできました。

平成22年3月末までの法的整理申請件数は643件(既設ゴルフ場数ではおよそ800コース)に及びましたが、ここ数年の倒産件数は減少しており、預託金償還問題のピークは過ぎたという声もあります。

とは言え、会員権の市場価格は預託金額面には及ばず、依然として多くのゴルフ場が、事業を継続し会員のプレー権を保障しながら預託金の償還問題を解決する方法を模索しています。

本誌2012年11月号で連載した「抽選弁済」(毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式)も一つの有効な方法です。

一方、ゴルフ会員権を預託金額面より安い価格で譲り受け、業としてゴルフ場に対して預託金返還請求を行い、差額を利得するという、いわゆる預託金償還ビジネスも横行しています。

このような状況下で、本年4月、悪徳商法の被害者に代わって特定の消費者団体が損害賠償請求を起こすことのできる消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律案(以下「本法案」)が国会に提出されました。

このとき、一部の新聞等で「消費者庁は、ゴルフ会員権の預かり金・・・などの事例を想定している」などと報道され、ゴルフ業界でも話題となりました。

これまで、ゴルフ場経営会社の中には、預託金の額面が低い場合には、訴訟費用とのバランスで裁判を起こされることはないだろうという見通しを持ち、この問題を先送りしていたというところもあるかと思います。

しかしながら、本法案の施行後は、既存のゴルフ場であっても、新たに会員を募集し会員契約を締結する場合には本制度の対象となり、消費者団体による預託金返還請求訴訟が起こり得ますので注意が必要です。

なお、本法案は施行後の消費者契約が対象となりますので、施行前の消費者契約が対象となることはありません。

そのため、上記の一部の新聞報道のように、ゴルフ場経営会社が、現在負担している預託金返還債務について、消費者団体による団体訴訟を受けることはありません。

 

これまでの預託金返還請求訴訟の流れ

預託金の償還問題は、ゴルフ場事業者の側からみれば預託金返還債務の履行(弁済)であり、会員の側からみれば預託金返還請求権の行使(債務の回収)です。

会員とゴルフ場経営会社との間で、預託金の返還についての合意(和解)が成立しない場合には、あくまで返還を求める会員は、ゴルフ場経営会社を被告として、預託金返還請求訴訟を提起する必要がありますが、裁判には相当の費用や労力が必要となります。

訴えを提起する場合には、訴状や証拠書類等を準備する他に、収入印紙と郵券(東京地裁の場合6000円分の切手、現金も可)が必要です。

収入印紙の金額は請求金額により決まっており、例えば、請求金額が300万円の場合には2万円です。

さらに、弁護士に委任する場合には委任状の提出と弁護士費用も必要となります。

弁護士費用については、旧弁護士報酬会規(東京弁護士会)によれば、民事事件の場合、経済的利益が㋐300万円以下の場合には、着手金8%、報酬金16%、㋑300万円超3000万円以下の場合には、着手金5%+9万円、報酬金10%+18万円、㋒3000万円超3億円以下の場合には、着手金3%+69万円、報酬金6%+138万円(但し、着手金の最低額は10万円)等とされています。

例えば、預託金額面が100万円の預託金返還請求訴訟を提起する場合には、収入印紙1万円、予納郵券6000円分、着手金10万円、報酬金16万円の合計27万6000円が最低限必要となるわけですが、鑑定費用などの実費が必要になる場合もあり、控訴すればさらに費用が必要となります。

そうすると、会員が個人で訴訟を起こすのは負担が大きいことになります。

 

消費者裁判手続き特例法案

これに対し、本制度の導入により、消費者はその被害を比較的容易に回復できるようになる見込みです。

本制度は、消費者と事業者との間では情報の質や量、交渉力に差があり、消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることから、消費者契約に関して相当多数な財産的被害を集団的に回復する目的で、国が認定する消費者団体が事業者を提訴して、事業者に賠償請求を行うことを可能とする民事の裁判手続きの特例を定めたものです。

政府は本年4月19日に消費者裁判手続特例法案を閣議決定し、国会に法案を提出しました。

今国会で審議され、3年後の平成28年にも施行される見通しです。

なお、本制度は「日本版クラスアクション」と呼ばれることもありますが、米国等で立法例の見られるクラスアクション(集団訴訟のうち、ある商品の被害者など共通の法的利害関係を有する地位(クラス)に属する者の一部が、他の構成員の事前の同意を得ることなく、そのクラス全体を代表して訴えを起こすことを許す訴訟形態)とは異なります。

米国では、被害者であれば誰でも訴えることができ、ニュースでも取り上げられることが多いように、実際の損害額を大きく超える「懲罰的賠償」が可能です。

これに対し、本制度は裁判の原告や損害賠償の範囲をかなり限定しています。

また、本制度は裁判手続きを2段階に分けている点が大きな特徴です。消費者は、第一段階で団体が勝訴した訴訟のみ参加すればよく、敗訴リスクが低くなるわけです。

 

本制度の手続の流れ

(1)1段階目(共通義務確認訴訟)

まず一段階目として共通義務に関する審理がなされます。

この共通義務確認訴訟の原告となることができるのは、「特定適格消費者団体」だけです。

「特定適格消費者団体」とは、適格消費者団体(消費者契約法に基づき差し止め請求権を行使でき、現在全国に11団体あります)のうち、本訴訟制度の原告として、共通義務確認訴訟を適正に遂行できる体制や能力、経理的基礎等を備えていると内閣総理大臣によって認定された団体です。

第一段階においては、事業者が消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上・法律上の原因に基づき、金銭を支払う義務を負うかどうかの確認が行われます。

(2)2段階目(個別の消費者の債権確定手続)

次に二段階目として、個別の消費者の債権確定手続(誰に、いくら支払うか)が行われます。

この手続を申し立てることができるのは、第一段階目の当事者となっていた特定適格消費者団体です。

そして、当該団体は、対象となる消費者に対して通知・公告(インターネット等も可)を行って、消費者からの個別請求権の届け出と手続遂行についての委任を受け、裁判所に対して、消費者の請求権についての届け出を行います。

このように届け出られた請求権については、請求額について争いのない消費者からの請求については、当該金額で請求権が確定します。

一方、請求額について事業者側が認めなかったものについては、裁判所が双方を審尋した上で請求権の存否・額について決定します。

この裁判所の決定について、双方から異議が述べられなければ決定通り確定することとなりますが、異議が出された場合には、通常の訴訟手続に移行します。

なお、通常の訴訟手続に移行した場合には、第一段階目の手続で認定された争点を除き、通常の民事訴訟と同様の審理が行われ、判決がなされることとなります。

 

救済対象となる権利

本制度は、その対象を少なくとも数十名以上の「消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害」に限定し(本法案1条)、事業者側の利益にも配慮しています。

そして、本制度の対象となる権利は、消費者契約に関する次の①から④に掲げる請求に係る「事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務」です(本法案3条1号~5号)。

①契約上の債務の履行の請求(1号)

本法案によれば、事業を営んでいる者が事業目的ではない個人と結んだ契約は、ほとんど全て「消費者契約」に該当することとなります。

ゴルフ場経営会社と会員との間の会員契約も当然対象となり、会員契約の不履行に基づく訴訟が起こり得ます。

例えば、今年の5月、北海道勇払郡安平町のAゴルフ倶楽部が、700名近くいるとされる会員に案内することなく急遽閉鎖して問題となりました。

本件のようなケースでは、年会費の返還請求やプレー権侵害による損害賠償請求(損害の客観的評価は困難ですが)等が問題となります。

この場合、年会費の金額に比べて訴訟費用がかさむということで、会員個人が単独で裁判を起こすことは一般に困難だと思われますが、本制度により経営者に対する責任追及が比較的容易になります。

具体的には、㋐閉鎖の場合に年会費を返還するような規定があればその履行請求(1号)、㋑そのような規定がない場合には不当利得返還請求(2号)、㋒閉鎖に違法性が認められるような場合には不法行為に基づく損害賠償請求(5号)をしていくことが考えられます。

②不当利得に係る請求(2号)

現行法の下でも、英会話学校の中途解約料等について、不当に高額な解約料を定めたものと認定され、当該解約料の返還義務を認めた裁判例も複数存在します。

このような現状からすると、本制度が導入された場合には、低額なキャンセル料等を規定する約款等も無効となり、当該金額を返金するようにとして、本訴訟制度が活用されることが見込まれます。

そのため、ゴルフ場の会則等においても、無効とされるような規定が含まれていないか、問題点の洗い出しを行っておくことが必要となるでしょう。

③契約上の債務の不履行による損害賠償の請求(3号)・瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(4号)

多数の消費者が購入した製品等について、同一の不具合が存するような場合です。

但し、その製品の不具合により、人の生命や身体、財産に損害が生じた場合(いわゆる拡大損害)は対象外です。

もっとも、ゴルフ場の売店で同一の不具合のある製品を多数の会員に販売するというようなケースは想定しにくいので、問題となることは少ないでしょう。

④不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(5号)

一般的に不法行為に基づく損害賠償請求と聞くと、慰謝料が問題となる事例が思い浮かぶと思いますが、本制度においては、精神的損害に対する賠償はその対象となりません。

「ゴルフ場セミナー」2013年8月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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