熊谷信太郎の「消費者裁判手続特例法②」

会員権の市場価格が低迷している現在、預託金額面と相場との乖離の増大が固定化し、依然として多くのゴルフ場が、事業を継続し会員のプレー権を保障しながら預託金の償還問題を解決する方法を模索しています。本誌平成27年7月号で特集した「抽選弁済」(毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式)も一つの有効な方法です。

一方、ゴルフ会員権を預託金額面より安い価格で譲り受け、業としてゴルフ場に対して預託金返還請求を行い、差額を利得するという、いわゆる預託金償還ビジネスも横行しています。

このような状況下で、今年10月、悪徳商法の被害者に代わって特定の消費者団体が損害賠償請求を起こすことのできる「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律」(以下「法」)が施行されました。

消費者庁のガイドラインによると、本制度の対象となるものの典型例として、ゴルフ会員権の預り金の返還請求に関する事案が挙げられており、本法案が国会に提出された平成25年4月当時には、一部の新聞等でも報道され、ゴルフ業界でも話題となりました。

これまで、ゴルフ場経営会社の中には、預託金の額面が低い場合には、訴訟費用とのバランスで裁判を起こされることはないだろうという見通しから、この問題を先送りしていたというところもあるかと思います。

しかしながら今後は、既存のゴルフ場であっても、新たに会員を募集し会員契約を締結する場合には本制度の対象となり、本制度を利用した預託金返還請求訴訟が起こり得ますので注意が必要です。

なお、本制度は施行後の消費者契約が対象となりますので、ゴルフ場経営会社が施行前に負担している預託金返還債務について本制度による訴訟提起を受けることはありません。

しかしながら、近年ゴルフ場の新規募集も増えており、その際には注意が必要です。ゴルフ特信の調査によると、本年度の3大都市圏の新規募集は239コース(本年4月30日現在)、前年比で26コース増加となっています。

一方、近年も少数ながらゴルフ場の新規開場もみられます。ゴルフ場を新規に開設する場合、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(いわゆる適正化法)の規定を遵守する必要があるわけですが(本誌平成28年5月号参照)、今後は本制度による集団訴訟の危険性も考えて、会員募集をする必要があります。

本制度については以前本誌でも取り上げていますが(平成25年8月号)、施行を受けて、再度検討します。

 

制度の概要

この制度では、消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約)に関し、事業者に対して一定の金銭の支払請求権が生ずる事案を対象としています。例えば、英語学校の受講契約を解約したので既払いの授業料の返還を請求する場合や購入したマンションが耐震基準を満たしていないので、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求する場合等がこれにあたります。

消費者が利用しやすいものとするため、2段階の制度設計となっています。被害を受けた消費者が自ら主体となって訴訟手続きを申し立てるのではなく、その消費者に代わって、国が認定した特定適格消費者団体(以下「団体」)が事業者に被害回復の訴訟を提起できるようにしました。まずは団体が訴訟を行い、判決或いは和解により一定の金額を受け取れる方向になった段階で、消費者は団体に授権することにより手続に参加するわけです。

さらに団体が消費者からの授権を受けることなく、事業者の財産への仮差押命令の申立てをすることができますので、事業者には無視できない制度です。

 

対象となる事案

この制度は、その対象を「消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害」(法1条)とし、「事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務」であって、消費者契約に関する次の①から④に掲げる一定の請求に限定しており、事業者側の利益にも配慮しています(法3条1号~5号)。

①契約上の債務の履行の請求(1号)

事業を営んでいる者が事業目的ではない個人と結んだ契約は、ほとんど全て「消費者契約」に該当することとなります。ゴルフ場経営会社と会員との間の会員契約も当然対象となり、会員契約の不履行に基づく訴訟が起こり得ます(但し、消費者は個人に限られていますので、法人会員の場合には本制度の対象とはなりません)。

消費者庁のガイドラインにもあるように、ゴルフ会員権の預託金の返還の共通義務を確認するケースがその典型例でしょう。

また、ゴルフ場が閉鎖した場合、年会費の返還請求やプレー権侵害による損害賠償請求(損害の客観的評価は困難ですが)等も問題となります。この場合、年会費の金額に比べて訴訟費用がかさむということで、会員個人が単独で裁判を起こすことは一般に困難だと思われますが、本制度により責任追及が比較的容易になります。具体的には、㋐閉鎖の場合に年会費を返還するような規定があればその履行請求(1号)、㋑そのような規定がない場合には不当利得返還請求(2号)、㋒閉鎖に違法性が認められるような場合には不法行為に基づく損害賠償請求(5号)が考えられます。

②不当利得に係る請求(2号)

これまでにも、英会話学校の中途解約料等について、不当に高額な解約料を定めたものと認定され、当該解約料の返還義務を認めた裁判例も複数存在します。

このような現状からすると、本制度により、低額なキャンセル料等を規定する約款等も無効となり、当該金額を返金するようにとして本制度が活用されることが見込まれます。ゴルフ場の会則等においても、無効とされるような規定が含まれていないか、問題点の洗い出しを行っておくことが必要となるでしょう。

③契約上の債務の不履行による損害賠償の請求(3号)・瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(4号)

多数の消費者が購入した製品等について、同一の不具合が存するような場合です。但し、その製品の不具合により、人の生命や身体、財産に損害が生じた場合(いわゆる拡大損害)は対象外です。

もっとも、ゴルフ場の売店で同一の不具合のある製品を多数の会員に販売するというようなケースは想定しにくいので、問題となることは少ないでしょう。

④不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(5号)

一般的に不法行為に基づく損害賠償請求と聞くと、慰謝料が問題となる事例が思い浮かぶと思いますが、本制度においては、精神的損害に対する賠償はその対象となりません。

 

第1段階(共通義務確認訴訟)

以上のような請求であって、①多数性(一般的な事案では、数十人程度)②共通性(事実関係や法的根拠が共通であること)③支配性(第2段階の簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるとはいえないこと)等、本制度における他の訴訟要件を満たす場合であれば、対象となり得ると考えられます。

第1段階では、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」という団体が消費者を代表して原告となり、訴訟を追行します。

「特定適格消費者団体」とは、被害回復裁判手続を追行するのに必要な資格を有する法人である適格消費者団体(消費者契約法12条)のうち、内閣総理大臣による特定認定を受けた団体です(法2条10号、65条)。本稿執筆現在、「特定非営利活動法人 消費者機構日本(東京都千代田区)」が、「特定適格消費者団体」の認定を消費者庁に申請しています。

第1段階の手続きは、「共通義務確認訴訟」と呼ばれ、対象消費者の全体に共通する争点(共通義務=事業者の消費者に対する金銭支払義務)の確認が求められます 。共通義務確認訴訟で原告である団体が勝訴するなどして被告事業者の共通義務の存在が確認されると、第2段階の手続に進みます。

 

第2段階(簡易確定手続)

第2段階の手続きは、「簡易確定手続」と呼ばれ、第1段階での団体の勝訴を前提として、団体が対象消費者を募り、事業者から損害賠償金を回収し、これを集まってきた消費者に分配するというものです。第1段階で勝訴が確定してから、第2段階で消費者が参加するため、消費者に敗訴リスクがない点が特徴です。

ゴルフ場経営会社への預託金返還請求権を例に手続きの概略をみると以下のとおりです。

第一段階の判断が出た後、原告の申立てを受けて、裁判所が「簡易確定手続開始決定」をします。当該ゴルフ場は、原告である団体に対して会員名簿を提出しなければなりません。団体は、その名簿をもとに、預託金会員に対して、メールや手紙で手続参加を促します。

手続きに参加することを希望する個々の会員は、団体に対して授権(委任)をし、団体が、個々の会員に代わって、債権届出を行います。裁判所は債権届出を受付け、ゴルフ場側で当該預託金を認めるかどうかの認否を行います。

なお、この段階で手続参加を希望しなかった会員にはこの判決の効力は及びませんので、返還を請求する場合は個人として改めて訴訟提起しなければなりません。

ゴルフ場側が債権認否において届出債権を認めない場合には、裁判所が簡易な手続により対象債権の内容を確定し、これに争いがある場合には最終的には個別の訴訟で解決することになります。

 

預託金返還請求訴訟

ご承知のとおり、預託金返還請求訴訟において、裁判所はゴルフ場側の預託金返還を拒む様々な構成の法的主張(例えば延長決議等)について、これを認容する可能性は非常に低いのが現実です。そのため、仮に特定適格消費者団体から訴訟提起をされると、第一段階において会員がゴルフ場に対して預託金返還請求権を有するとの抽象的な判断がなされ、さらに第二段階の債権確定手続においても、個々の返還請求権を認めざるを得ないという事態になりかねません。

そこでゴルフ場としては、本制度の第一段階(共通義務確認訴訟)、第二段階(簡易確定手続)の各段階で、特定適格消費者団体と和解により解決することが現実的であり、その意味で、ゴルフ場にとっては受動的な制度ではあるものの債務整理手続の一方法として機能する面もあることになります。

もっともゴルフ場からすれば、上述のように自ら働きかけてこれを利用することはできず、訴訟の提起を待って対応するしかないという受動的な手続ですし、また、第一段階で和解をした場合に、その和解の効力は、その後、第二段階の対象債権の確定手続に参加しなかった他の債権者には効力は及ばないという限界があります。こういった点でゴルフ場にとって必ずしも使い勝手が良い制度とは言えませんが、今後の預託金問題の解決方法の一つとして注目されるものと思われます。

「ゴルフ場セミナー」2016年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場内での盗難事故」

今年9月、日本女子プロゴルフ選手権に出場していた女子プロゴルファーが車上荒らしの被害に遭ったという報道がありました。空港近くの駐車場に停めた車からクラブやDVD等を盗まれたということです。

ゴルフ場でも、駐車場で来場者の車が車上荒らしに遭い、車ごと、或いは中に入っていた金品が盗まれた場合、ゴルフ場に責任があるのでしょうか。ゴルフ場内でのゴルフクラブの盗難や貴重品ロッカーからの金品の盗難の場合、或いはゴルフ宅配便を利用した際、キャディバッグやクラブが破損していたというような場合はどうでしょうか。

ゴルフ場での盗難については以前本誌でも取り上げていますが(平成24年2月号)、改めてゴルフ場での金品の盗難や破損等のトラブルについて検討します。

 

お客から預かった物

ゴルフ場がお客から物を預かることを、法的には「ゴルフ場が客から寄託を受けた」或いは「ゴルフ場と客との間に寄託契約が成立した」等と表現します。

ゴルフ場等の商人(商法上、自己の名をもって商行為を行うことを業とする者を意味し、ゴルフ場事業者もこれにあたります)は、営業の範囲内において他人から物を預かったときは、無償であっても善良なる管理者の注意義務(いわゆる善管注意義務)をもって管理しなければならないとされています(商法593条)。ここで善管注意義務とは、取引上で抽象的な平均人として一般的に要求される注意義務を言い、自己の財産に対するのと同一の注意義務よりも重いものとされています。

さらに、ホテルや温泉宿、浴場など多数の人が出入りする場所(これを商法では「場屋」(ジョウオク)といいます)となると、盗難や紛失の危険が高まるので、商法は保管する側にさらに重い責任を課しています。

ホテルやレストランなど、お客を集めて営業する場合、お客から預かった金品については、滅失・毀損が不可抗力であったことを証明しない限り、営業者は責任を負うとされているのです(商法594条1項)。

この規定に関連して、名古屋地裁昭和59年6月29日判決は、ゴルフ場も「客の来集を目的とする場屋」に該当するという判断をしています。

この事案は、車上荒らしではなく、プレー終了後にゴルフバッグごとなくなってしまったという事案です。ゴルフ場は、プレー終了後キャディが点検してお客に確認させた時点でゴルフ場は責任を免れると主張しましたが、裁判所は、点検後はキャディがバッグを運んでしまうのだから、これはただの点検にすぎず、寄託が終了するのはもう少し先であると判断し、ゴルフ場の主張を認めず、約60万円の損害賠償を命じました。

 

お客の持ち物

一方、寄託を受けていない物品については、持ち主自身が管理すべきであって、営業者は責任を負わないのが原則です。

しかしながら、商法は、客が寄託しない物品であっても、営業者側に不注意があって客の持ち物が滅失・毀損した場合には、営業者は客に対して損害賠償責任を負うと規定しています(商法594条2項)。

ゴルフ場としては、預かった物でなくとも、ゴルフ場内において客の荷物が滅失毀損しないように、善良なる管理者の注意義務をもって管理する必要があり、これを怠ったがために紛失・毀損したような場合には損害賠償責任が生じるのです。

例えば、ゴルフ場にはゴルフ場内に設置した貴重品ロッカーを安全に使えるようにする義務があり、これを怠ったためにお客の財布等が盗まれたと認められるような場合には、損害賠償責任が生じるわけです(詳細は後述)。

 

張り紙や約款による告知

このように営業者はお客から預かっていない物についてまで滅失毀損の責任を課せられることになるわけですが、約款や張り紙で、預かった物以外は責任を負わない旨を規定しておけば、営業者は免責されるでしょうか。

この点、商法は594条3項で「客の携帯品につき責任を負わざる旨を告示したるときといえども場屋の主人は前2項の責任を免れることを得ず」と規定しています。

そのため、仮にゴルフ場が「ゴルフ場内においては、金品は自己責任で管理してください。ゴルフ場は一切責任を負いません。」などと張り紙をしたとしても、法律的な意味は厳密にはないということになります。

では、約款で預かった物以外は責任を負わない旨を規定しておく場合はどうでしょうか。

商法594条は任意規定なので、当事者間の合意により責任免除や制限をすることは可能です。張り紙は一方的な告示に過ぎず、契約になりませんが、約款であれば当事者の意思により別段の定めをすることになるので、効力が認められ、有効であると考えられます。

したがって、思わぬ高額な賠償責任を負うことを避けるためには、約款で責任の免除や限定(責任限度額)を定めておくことが有効ということになります。ただ、責任の免除というのはあまりに片面的であり、合理性もない(当事者間の合理的意思に合致しない)と考えられるので、免責ではなく責任を制限する内容の方が効力が認められ易いと思われます。

 

高価品の特則

紛失したものが高価品であった場合には、客が予め種類とその価額を明らかにして告げておくのでなければ、営業者は賠償責任を負わないと規定されています(商法593条)

例えば、営業者が、見かけはごく普通の段ボール箱を預かったが、実はその中には何億円もする貴重な宝石が入っていたというような場合、中身や価額を知らされていればともかく、それを知らされていないような場合まで営業者に何億円もの責任を負わせるのは酷ですから、その場合営業者は重い責任を負わなくてよい、という規定です。

この規定に関連し、東京・六本木の駐車場に歯科医が預けたベンツが車ごと盗まれたという事案があります(東京地裁平成元年1月30日判決)。駐車場自体はお客を集める場所ではありませんが、裁判所は同条が準用されるべきだとしつつ、通常自動車に置かれている物品どうかで、駐車場が責任を負うかどうか判断すべきだとしました。

この判断を前提にすると、ゴルフ場でお客から預かった物品についても、ゴルフバッグの中に入っているゴルフクラブやゴルフシューズ等については、ゴルフ場は原則として責任を負うべきですが、現金や時計、貴金属類が入っていたとしても、責任を負う必要はないと考えられます。

 

車上荒らしの場合

ゴルフ場駐車場での車上荒らしの場合も、基本的にはお客がゴルフ場に車(及び車内の金品)を預けたと言えるか否かが問題となります。

この点で参考になる裁判例が2つあります。

1つは営業者側の責任を肯定した事例です。ホテルを利用したお客がホテル側で車を動かすことを了承して従業員にスペアキーを渡したところ、車ごと盗まれてしまったという事案で、大阪高裁平成12年9月28日判決は、「ホテル敷地内での移動を了承し、鍵を預けたから、お客はホテルに車を預けたといえる」「<免責の告示>で免責を主張することはできない」等と判断し、ホテル側の責任を認めました。

一方、営業者側の責任を否定した事例もあります。お客が1階駐車場に駐車し、2階のレストランで飲食している間に、車の窓ガラスが割られ、車内に置いていたスポーツバッグを盗まれたという事案で、東京簡裁平成17年7月19日判決は、「車と積載品についてレストランが保管したと解することは困難」「駐車場を利用しない客も多数おり、駐車車両の管理が飲食物供給契約の付随義務となる余地は全くない」等と判断し、レストランの責任を否定しました。この事案では、「駐車場の出入りは自由であり、空いている場所に自由に駐車できる」「レストランは鍵も預かっていない」といった事実認定が前提とされています。

これらの裁判例を前提に考えると、車を預かるバレパーキング等のサービスを行っている場合は別として、多くのゴルフ場では、お客は自由に駐車場を利用できますし、お客がゴルフ場に鍵を預けることもないので、このようなゴルフ場では、お客の車を預かったということはできず、車上荒らしについて責任を負わないということになると思われます。

 

ゴルフクラブの盗難

キャディバッグやゴルフクラブの盗難の場合も同様に考えられます。

例えば、宅配便等で事前にキャディバッグが送られた場合にはゴルフ場がそれを受け取った以降、客がキャディバッグを持ってきた場合にはポーターが受け取った以降、寄託物に対する責任を負うことになります。

係の者が不在で、客が勝手にクラブハウスの玄関に置いた場合には、原則として寄託を受けたとは言えませんが、その場所が普段からキャディバッグの受渡しの場所となっていて、実際に他の客のものが置いてあるような場合には、担当者がその場を離れてしまったこと自体がゴルフ場側の不注意と判断される場合もあるので、注意が必要です。

プレー終了後も、引換券等と引換えに客にキャディバッグを引き渡すまでは、ゴルフ場に寄託物に対する責任があると考えられます。要所要所に従業員を配置する等して、盗難を防ぐような措置が大切です。

 

貴重品ロッカーからの盗難

貴重品ロッカーからの盗難の場合も、そもそも貴重品ロッカーの中の物について営業者側が寄託を受けたと言えるか否かが問題となります(商法594条1項)。

この点、寄託を受けたとは言えないという判断に落ち着いたと言ってよいでしょう。東京高裁平成16年12月22日判決も、ゴルフ場の貴重品ロッカーについては、プレイヤーがゴルフ場に対して保管を申し込み、ゴルフ場がこれを承諾して物品を受け取ったわけではないから寄託契約は成立しないと判断し、ゴルフ場の責任を否定しています。

もっとも、寄託を受けたとは言えないとしても、ゴルフ場は貴重品ロッカーを設置し管理しているわけですから、貴重品ロッカーの安全を維持確保する義務を負担していると言うべきです(商法594条2項)。この点、注意義務違反を認めた裁判例もあるのでその点の備えが必要です(ゴルフ場の事案で秋田地裁平成17年4月14日判決、スポーツクラブの事案で東京地裁八王子支部判決平成17年5月19日判決等)。

そこで、貴重品ロッカーの日常点検を怠らず、不審者に気を付け、具体的に予想される犯行手口があればそれを防止できるような措置を取ることが必要でしょう。最近では指紋認証機能のあるロッカーも発売されていますし、設備の更新を怠らないことも大切です。

 

ゴルフ用宅配便の利用

宅配便による運送の場合、消費者保護の観点から標準約款が定められており、宅配便業者の殆どはこの約款にならっています。

標準約款によると、「荷物の滅失又はき損についての配送業者の責任は、荷物を荷送人から受け取ったときに始まる」とされ、配送業者は、荷物の受取、引渡し、保管及び運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り、原則として「荷物の滅失、き損又は遅延について損害賠償の責任を負う」とされています。

このように、宅配便を利用した際、到着時にキャディバッグやクラブが破損していたというような場合、原則として配送業者の責任となります。

「ゴルフ場セミナー」2016年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ストレスチェック」

平成27年12月、労働安全衛生法の改正により、「ストレスチェック制度」が開始され、毎年1回、全ての労働者に対して、心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」)を実施することが義務付けられました(法66条の10)。従業員が50人以上の事業所では、今年の11月30日までの間に1回目の検査を実施する必要があります。

ストレスチェックとは、ストレスに関する調査票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査です。

これは、労働者が自分のストレスの状態を知ることでストレスをため過ぎないように対処し、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言を得て、会社側に仕事の軽減などの措置を実施して貰い職場の改善につなげることで、うつなどのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。

厚労省によると、平成27年の自殺者は2万4025人で、このうち原因・動機の特定できた1万7981人のうち2159人が勤務問題を苦に命を絶ったということです。職場におけるメンタルヘルスの改善は喫緊の課題と言えます。

今回はこの新しく開始されたストレスチェック制度について解説します。

 

企業の安全配慮義務

雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払を内容とする双務契約なので、使用者は賃金を支払うことで本来的な義務を果たしたことになりますが、それに加えて、使用者には付随義務として、労働者の生命・健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるとされています。

安全配慮義務は古くから判例法理として確立され、平成18年施行の労働契約法5条で明文化されました。義務の具体的内容は、労働者の職種、業務内容等により個別具体的に決せられ、例えば職場環境配慮義務(セクハラやパワハラの防止)もその一つであるとされています。安全配慮義務を怠った場合、民法の709条(不法行為責任)、715条(使用者責任)、415条(債務不履行)等を根拠に、使用者は損害賠償義務を負うことになります。

健康配慮義務も安全配慮義務の1つであり、健康には心の健康も含まれます。

ゴルフ場の事例ではありませんが、大手広告代理店に勤務していた労働者が長時間に及ぶ時間外労働を恒常的に行っていて、うつ病に罹患し、入社約1年5ヵ月後に自殺した事案で、最高裁は、過酷な勤務条件による過労の蓄積、うつ病の発症、自殺の間のそれぞれの相当因果関係を肯定し、会社側の安全配慮義務違反を認めました(最高裁平成12年3月24日判決)。最終的には会社が約1億6800万円を支払うとの内容で和解が成立しています。

過重労働により労働者がうつ病などの精神疾患を発症して自殺した場合、平成23年の厚労省の基準によると、①発症の1ヶ月前に160時間、3週間前に120時間、②発症前2ヶ月連続で120時間、3ヶ月連続で100時間の時間外労働がある場合、過重労働とうつ発症との間の因果関係が認められやすくなります。過重労働によりうつ病を発症したと認められる者が自殺を図った場合には、過重労働と自殺との因果関係も認められるとされています。

過重労働による健康障害防止のため、時間外・休日労働の削減、年次有給休暇の取得促進等の他、健康管理体制の整備、健康診断の実施等とともに、今後はストレスチェック制度の実施も、使用者の安全配慮義務違反の有無の判断材料の1つとなるわけです。

 

ストレスチェック制度

ストレスチェックの実施が義務とされるのは、従業員数50人以上の事業場です。従業員数50人以上には、正社員だけでなく、派遣やパート、アルバイト等非正規雇用の従業員も含むことに注意が必要です。ゴルフ場では、キャディやレストランのウェイトレス等、派遣やパート、アルバイトの従業員も多いと思いますが、例えば正社員10名、パートアルバイトの合計40名の場合、その事業場にはストレスチェックの義務が課せられることになります。

従業員数50人未満の事業場については、当分の間は努力義務とされています。また、契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の4分の3未満の短時間労働者に対しては、ストレスチェックを行うことは義務ではありませんが、厚労省の指針により、これらの労働者に対しても検査を実施するとともに、職場の集団ごとの集計・分析を実施することが望ましいとされています。

ストレスチェックは1年以内ごとに1回以上実施する必要があり、今年の11月30日までに1回目の検査を実施する必要があります。一般定期健康診断と同時に実施することも可能ですが、定期健康診断とは異なり、ストレスチェック検査には受診義務はなく、結果も本人に直接通知されることに注意が必要です。

制度の概要は以下のとおりです。

①事業者は労働者に対し、医師、保健師その他の一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士によるストレスチェックを行う。

②検査結果は検査を実施した医師等から直接本人に通知され、予め本人の同意を得ないで検査結果を事業者に提供してはならない。

③高ストレスと評価された労働者から申出があったときは、医師による面接指導を行う。

④面接指導の申出を理由として不利益な取扱いをしてはならない。

⑤事業者は面接指導の結果に基づき医師の意見を聴き、その意見を勘案し必要に応じて適切な就業上の措置を講じる。

 

実施前の準備

厚労省の指針では、会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を示すことが求められています。明文化までは求められていませんが、目的や制度内容等を「ストレスチェック導入に関する基本方針」として文書化し、従業員に周知させるとよいでしょう。

また社内の衛生委員会等、従業員の健康の保持増進を担当する部署において、ストレスチェック制度の実施方法等について調査審議を行い、その結果を踏まえ、実施方法等を規程として定めることとされています。社内規定の策定例につては厚労省の実施マニュアルが参考になります。(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf)

さらに指針では、ストレスチェック制度の実施者、実務担当者等を選定する等、実施体制を整備することが望ましいとされています。ストレスチェックの実施者は医師、保健師、厚労大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選ぶ必要があります。また、調査票の回収、データ入力、結果送付等、実施者の補助をする実施事務従事者は、労働者の人事権(解雇権)のない者が担当する必要があります。

 

ストレスチェックの実施

ストレスチェックに使用する調査票は、①ストレスの原因②ストレスによる心身の自覚症状③労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目が含まれていれば特に指定はありませんが、国が推奨する57項目(上記実施マニュアルにも掲載)を用いることが望ましいとされています。

ITシステムを利用してオンラインで実施することもできます。厚労省がストレスチェック実施プログラムを無料で公開しているのでこれを利用してもよいでしょう。
(https://stresscheck.mhlw.go.jp/)

記入が終わった調査票は、医師などの実施者か実施事務従事者が回収します。第三者や人事権を持つ職員が、記入・入力の終わった調査票の内容を閲覧してはいけません。

回収した調査票をもとに、医師などの実施者がストレスの程度を評価し、高ストレス(自覚症状が高い者や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い者)で医師の面接指導が必要な者を選びます。

結果は実施者から直接本人に通知され、企業には返ってきません。結果を入手するには、結果の通知後、本人の同意が必要です。この点一般定期健康診断と異なるので、同時に実施する場合には注意が必要です。

結果は医師などの実施者か実施事務従事者が保存します。企業内の鍵のかかるキャビネットやサーバー内に保管することもできますが、第三者に閲覧されないよう、実施か実施事務従事者が鍵やパスワードの管理をしなければいけません。

 

面接指導の実施

ストレスチェック結果で「医師による面接指導が必要」とされた労働者から申出があった場合は、医師に依頼して面接指導を実施します。申出は、結果が通知されてから概ね1月以内に、面接指導は申出後概ね1月以内に行うこととされています。

ストレスチェック制度は、メンタルヘルス対策の一次予防に位置づけられ、労働者自身にストレスへの気づきを促すことを主目的としているため、結果は労働者に直接通知され、会社は把握できません。そのため高ストレス者がいても申出がなければ会社は面接指導を実施できないことになりますが、後にその労働者が精神疾患に罹患し、会社は何もしてくれなかったと、会社を安全配慮義務違反で訴えてくる可能性もあります。そこで事後のリスクを軽減するために、労働者からの面接指導の申出の有無について記録を保管することが必要です。また、医師などが面接指導が必要と判断した場合には、当該労働者に対し面接勧奨の通知を行うよう会社が医師などに依頼することも必要でしょう。

 

就業上の措置

労安衛法では、面接指導を実施した医師の意見を勘案し必要がある場合には、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければならないとしています。

厚労省の指針では、就業上の措置を決定する場合には、予め当該労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じてその労働者の了解を得られるよう努めるとされており、十分な話し合いのもと了解を得られるよう努めたのであれば、最終的な判断は事業者が決定できると解されます。ストレスチェックは自己記入方式であり故意に高ストレスとすることも可能であり、希望通りの異動のためのツールに使われないような対応が必要です。

例えばゴルフ場で、高ストレスと判断されたキャディがフロント業務への配転を希望したからと言って、これに無条件に従う必要はありません。その従業員の特性や人員配置の適正等の観点から当該配置転換を不適当と判断した場合には、時間外労働の減少等の会社案を提示します。複数回面談を重ね、会社案への理解を求めてもなお当該労働者が会社案を拒否した場合には、債務の本旨に従った労務提供ができないものとして、休職の勧奨等通常のメンタル疾患者と同様の取り扱いをすることになります。

 

罰則規定

現時点では労安衛法に罰則規定はなく、ストレスチェックを実施しなかったことをもって罰則が適用されることはありません。

しかしながら、従業員数50人以上の会社は実施状況を労基署に報告する義務があり、義務違反には50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。また、労働者の同意を得て受領した検査結果及び面接指導の結果の記録を5年間保存しなかった場合も同様です。

「ゴルフ場セミナー」2016年10月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「受動喫煙対策」

今年のリオデジャネイロオリンピックからゴルフはオリンピックの正式種目となり、平成32年には東京での開催が決定しましたが、日本は招致活動当時から受動喫煙防止法が未整備であり、対策の遅れが指摘されています。

平成22年には、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、たばこのないオリンピック等を共同で推進することについて合意しました(「健康なライフスタイルに関する協定」)。後述のとおり、平成20年以降、日本を除く全てのオリンピック開催地及び開催予定地が、罰則を伴う受動喫煙防止対策を講じています。受動喫煙防止対策は、分煙ではなく屋内禁煙とするのが主流であり、屋外であっても運動施設を規制の対象としている国が多くなっています。

政府も今年に入り、受動喫煙の防止に向け、全面禁煙など具体的な対策を取らない国内の公共施設や飲食店に罰金などの罰則を科すよう定める新法の検討を始めました。

ゴルフと喫煙については、以前本誌でも取り上げましたが(平成22年5月号)、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた受動喫煙対策強化の取り組みの観点で、再度検討します。

 

たばこの規制に関する世界的取組み

喫煙のみならず受動喫煙が死亡、疾病及び障害の原因となることが世界的に認識されるようになり、平成17年2月に発行した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(FCTC)では、締約国に対して、受動喫煙防止対策の積極的な推進を求めています。日本も平成16年3月にFCTCに署名しています。

平成19年7月にバンコクでFCTCの第2回締約国会合(COP2)が開かれ、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択され、締約国には、より一層、受動喫煙防止対策を進めることが求められました。日本もFCTC発効後5年以内に、公共の場所における受動喫煙がなくなるよう、例外なき保護を実施する義務が課されました。

このガイドラインの主な内容は、

①100%禁煙以外の措置(換気の実施、喫煙区域の設定)は、不完全であることを認識すべきである。

②全ての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである。

③たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は、責任及び罰則を盛り込むべきである。

というものです。

平成26年時点で、公共の場所(医療施設、大学以外の学校、大学、行政機関、事業所、飲食店、バー、公共交通機関の8施設)の全てを屋内全面禁煙とする法律(国レベルの法規制)を施行している国は、49か国に及んでいます。

 

我が国の受動喫煙防止対策

平成15年5月に施行された健康増進法は、多数の者が利用する施設の管理者に対して、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること)の防止措置を義務付けています(同法25条)。しかし、同条違反に対する罰則はなく、その意味で「努力目標」に過ぎません。

平成22年2月25日、厚生労働省健康局長は「受動喫煙防止対策について」という通知を発し、以下のように、今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性を示しました。

①受動喫煙による健康への悪影響は明確であることから、多数の者が利用する公共的な空間においては原則として全面禁煙を目指す。

②全面禁煙が極めて困難である場合には、施設管理者に対して、当面の間、喫煙可能区域を設定する等の受動喫煙防止対策を求める。

③たばこの健康への悪影響や国民にとって有用な情報など、最新の情報を収集・発信する。

④職場における受動喫煙防止対策と連動して対策を進める。

職場における受動喫煙防止対策としては、平成27年6月、労働安全衛生法が改正され、労働者の受動喫煙防止対策の推進が定められ(法68条の2)、国は受動喫煙防止のための設備の設置の促進に努めるものとされました(法71条)。これを受け、国は喫煙室の設置等、受動喫煙防止対策のための費用を助成や、無料相談窓口を設ける等の支援措置を実施しています。

こうした対策により、職場や飲食店においては、漸減傾向にあるものの、非喫煙者の4割近くが受動喫煙被害にあっており、行政機関(市役所、町村役場、公民館等)や医療機関においても、非喫煙者の1割近くが依然として受動喫煙被害にあっています(平成20、23、25年の国民健康・栄養調査による)。

地方公共団体においては、平成22年に神奈川県で違反に対する罰則付きの受動喫煙防止条例が施行され、平成25年には兵庫県においても同様の条例が施行されています。

 

ゴルフ場の現状と対策

以上のような対策により、日本人の成人喫煙率は近年一貫して減少傾向にあり、日本におけるたばこの販売本数は減少し続けています。

ゴルフ場も多数の者が利用する施設ですから、クラブハウス内等における受動喫煙を防止する義務を負っているわけですが(健康増進法25条)、ゴルフ場における現状や対策はどうなっているのでしょうか。

今年6月、中央大学より、「日本のゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策の現状と課題」と題した研究資料がインターネットで公開されました。これによると、

①『コース内・ラウンド中にタバコを吸える場所』として、「各ティーグラウンド」が殆どのゴルフ場(89.6%)で挙げられ、続いて「カート内」(72.1%)となっており、殆どのゴルフ場でラウンド中に喫煙可能となっています。

②『クラブハウス内の喫煙環境』では、全面禁煙は18.3%に過ぎず、「屋内に喫煙場所を設置」が58.1%、「屋外に喫煙場所を設置」が48.7%、「全面喫煙可」とするゴルフ場も14.5%もあり、「喫煙ルームを設置」は9.9%にとどまっています。

③『レストラン内の喫煙環境』については、「全面禁煙」(40.6%)への回答が最も多く、続いて「禁煙席と喫煙席を分けている」(33.0%)となっていますが、「全面喫煙可」の回答も17.5%に上っています。

④『ゴルフ場としてタバコ対策の基本方針を決めているか』については、「決めている」が27.4%、「検討中」が17.0%であり、回答の半数が「決めていない」(50.0%)となっており、⑤『健康増進法施行後何らかの受動喫煙対策を実施したか』については、約半数が「何もしていない」(44.4%)と回答しています。

その一方で、⑥『ゴルフ場内の喫煙環境規制はビジネスに影響すると思うか』については、「影響しない」とする回答(約40%)が「影響する」(約23%)を上回っています。

⑦『今後の禁煙対策に必要な法規制のレベル』については、「各業界団体による自主規制」への回答率が最も高く(42.9%)、次いで、「諸外国のような全国レベルの禁煙法」(34.5%)、「神奈川県の様な都道府県による条例」(14.7%)の順に多く挙げられています。

以上のように、殆どのゴルフ場でラウンド中に喫煙可能であり、約半数のゴルフ場で喫煙対策の基本方針が決められていない一方で、喫煙規制がビジネスに影響を及ぼすと考えているのは少数に過ぎず、受動喫煙を禁止する業界による自主規制や法的規制が望まれているという結果になっています。

 

オリンピック開催地の喫煙対策

平成20年以降、日本を除く全てのオリンピック開催地が受動喫煙防止対策を講じています。

受動喫煙防止対策は、分煙ではなく屋内全面禁煙とするのが主流であり、中国(北京/平成20年夏)、カナダ(バンクーバー/平成22年冬)、イギリス(ロンドン/平成24年夏)、ロシア(ソチ/平成26年冬)、ブラジル(リオデジャネイロ/平成28年夏)の全てにおいて、学校、医療機関、官公庁等の公共性の高い施設、公共交通機関(鉄道、駅、バス、タクシー)、飲食店、宿泊施設、スポーツ施設、職場において、屋内全面禁煙が原則とされています。スポーツ施設は屋外であっても、規制の対象となっているわけです。

これらの国では、違反した場合、施設管理者及び違反者に罰金が科せられます(但し、ブラジルでは施設管理者のみ)。例えばイギリスの場合、違反者には最大50ポンド(約1万2400円)、企業や施設管理者には最大2500ポンド(約62万円)の罰金が科せられます。

このように、オリンピック開催地における受動喫煙防止対策は年々強化されていますが、日本は前述のとおり、多数の者が利用する施設について、屋内禁煙又は分煙等の「努力」義務が課せられているのみで、違反した場合の罰則もありません。

 

東京オリンピック開催に向けて

冒頭に記載したとおり、WHOとIOCは「健康なライフスタイルに関する協定」を結んでおり、その中で「タバコのないオリンピック」を目指すことが謳われています。これを受け、近年のオリンピック開催都市の全てで罰則付きの強制力をもった受動喫煙防止法が整備されています。オリンピック会場のみならず、国(都市)全体の公共的施設において、禁煙または完全分煙が実現しています。

今までこうした対応がなされていないのは、日本(東京)のみというのが実状です。そこで東京オリンピック・パラリンピックを成功に導くために、政府も罰則付の受動喫煙防止法の検討を始めました。スポーツ施設や学校、病院などの公共施設を全面禁煙に、レストランやホテルなど不特定多数の人が利用する施設は喫煙スペースを設置するなどして分煙とするよう、施設管理者らに義務づけ、違反者への罰則も盛り込む方針だということです。

安倍内閣総理大臣も、平成27年11月の東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部において、「大会は健康増進に取り組む弾みとなるものであり、大会に向け、受動喫煙対策を強化していく」と発言し、「競技会場及び公共の場における受動喫煙防止対策を強化する」という基本方針が閣議決定されています。

ゴルフ場においても同様です。スポーツ施設を全面禁煙とすることは、IOC及び政府の方針であり、ゴルフもオリンピックの正式種目となった以上、この方針に従い、コースも含め全面禁煙とする必要があります。とは言え、一度に全面禁煙の措置を取ることに抵抗のあるクラブもあるかもしれません。そこでまずは、クラブハウス内は、バーのような場所を除き、レストランやコンペルームも含めて全面禁煙、コースについては、茶店を除き、ティーインググラウンド付近も含めて全面禁煙、といった段階的な対応も次善の策として許容されると思います。

なお、喫煙室や閉鎖系の屋外喫煙所を設置する場合、その費用の1/2(上限200万円)について国から助成を受けることができます。受動喫煙防止対策については国が無料相談窓口を設けており、この助成金の申請書類の記載方法等についても相談できます。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049989.html)

「ゴルフ場セミナー」2016年9月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「入会審査」

今年5月、スコットランドにある名門ゴルフコース、ミュアフィールドで、女性会員を受け入れるかどうかの会員投票の結果、これまでと同様に女性会員を認めないという結論を下したことを受け、R&Aはミュアフィールドを全英オープン開催コースから除外したと報道されています。

世界では、男性メンバー限定だったゴルフクラブが次々と女性メンバーを受け入れる方針に変更しています。平成24年にはオーガスタナショナルGC、平成27年にはロイヤル・セント・ジョージズが女性会員を受け入れると発表し、平成26年にはゴルフの総本山R&Aも女性メンバーの受け入れを決めました。

一方、ミュアフィールドに限らず、女性が入会できないゴルフクラブも依然として多く存在しています。

このように、性別を理由に、ゴルフクラブへの入会を制限することは許されるのでしょうか。また、国籍や人種だとどうなのでしょうか。この問題については過去に本誌でも取り上げましたが、再度検討します。

 

会社の採用の場合

憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。

そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。

この点に関する著名な判決として、三菱樹脂事件判決があります(最高裁昭和48年12月12日判決)。

これは、入社試験時に学生運動歴等を隠していたことを理由に本採用を拒否された原告が、憲法が保障する思想信条の自由や法の下の平等が侵害されている等と主張して、雇用契約上の地位確認と賃金支払いを求めたという事件です。

この事案で、最高裁は、企業者は契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるか等について、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができ、企業者が特定の思想、信条を有する者をその故をもって雇い入れを拒んでも、当然に違法とすることはできないと判断しました。

すなわち、解雇の場面とは異なり、どのような人物を採用するかについては、会社の自由が広く認められるというわけです。

特に、「傾向企業」或いは「傾向経営」をしているといわれ、特定の思想信条を有している企業では、結社の自由、私的自治が強く認められます。例えば、ある政党の機関紙を発行する新聞社が、その政党の主義主張と全く相容れない言動をとっている者を排除したとしても、やむを得ない判断といえるでしょう。

 

クラブの自由裁量

クラブはその成り立ちからして閉鎖的・排他的なものです。ゴルフクラブはあくまでも私的な団体にすぎず同好の士の集まりであり、前述の傾向企業に近い性質を有しています。

そこでゴルフクラブには基本的に私的自治の原則が妥当し、個別具体的なケースにおいて、形式的には個人の自由や平等が害されているように見えても、その態様や程度が社会的に許容しうる限度を超えない限り、違法ではないものというべきです。

そして、入会審査というのは、当事者間でこれから継続的な関係を構築するという場面の問題です。メンバーの除名という場面とは異なり、基本的にはゴルフクラブに自由な裁量が認められるというべきでしょう。

裁判所も、ゴルフクラブがある者の入会を認めるか否かは、そのクラブの自由な自主的裁量的判断によって決すべきで、社会的に許容しうる限度を超えない限り公序良俗違反とはならない、と考えています。しかし、具体的事情によっては、入会拒否が違法とされた例も散見されます。

 

入会拒否を合法とした裁判例

  • Cカントリークラブ事件(東京高判平成14年1月23日)

A氏は日本で生まれた韓国人です。株主会員制のCカントリークラブは外国人の入会を制限していました。A氏はそのことを知りながら株式を取得し、名義書換を請求しましたが、クラブはこれを拒否しました。

そこで、A氏は、理事会決議の無効確認と譲渡承認を求めて訴えを提起しました。

原審の東京地裁は、ゴルフクラブはゴルフを楽しむための単なる私的な団体で、ごく閉鎖的なものであり、入会が認められなくても投下資本を回収することは容易であると述べ、理事会決議の無効確認については、争い方が迂遠であるとして訴えを却下し、譲渡承認請求については棄却しました。

A氏はこれを不服として控訴しましたが、東京高裁も、東京地裁の判断を是認した上で、結社の自由の重要性を説き、外国人の入会制限は違法でないとして控訴を棄却しました。

 

入会拒否を違法とした裁判例

  • Hカントリークラブ事件(東京高判平成27年7月1日)

B氏は、性同一性障害により男性から女性へ性別変更しており、これを理由に入会及びゴルフ場経営会社の株式譲渡承認を拒否されました。

そこで、B氏は、Hカントリークラブとゴルフ場経営会社に対して慰謝料等の支払いを求めて訴えを提起しました。

クラブ側は①性同一性障害者(性転換者)の入会は、会員(特に女性会員)がロッカールーム、浴室等を使用する際などに不安感を抱き、クラブ競技の出場資格などに疑義を生じ、親睦、交流のクラブ目的に反する結果となる、②50年以上皆で築いてきたクラブの親睦、交流の一体感を傷つけたくない等と主張しました。

しかしながら、裁判所は、性同一性障害が本人の意思に関わりなく生ずる疾患であることが社会的にも認識されており、被告らが構成員選択の自由を有することを考慮しても、憲法14条などの趣旨に照らし、社会的に許容しうる限界を超え、違法であると判断し、原審の静岡地裁浜松支部、東京高裁ともに、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の損害を認めました。

本件は、医学的疾患である性同一性障害が問題となった特殊な事例であって、①B氏が戸籍のみならず声や外性器を含めた外見も女性であったこと、②B氏が女性用の施設を使用した際特段の混乱等は生じていないことからすれば、被告らが危惧するような事態が生じるとは考え難いこと、といった事情が影響したものであって、一般化することは困難であろうと思われます。

 

性別や国籍、人種による制限

上記のとおり、基本的にクラブの自由な自主的裁量的判断によって入会の拒否を決すべきで、社会的に許容し得る限度を超えない限り違法ではないと考えられます。

では、性別や国籍を理由に入会を制限することは、社会的に許容し得る限度と言えるのでしょうか。

①性別による制限

新たに女性を受け入れるとすれば、着替えをするロッカールームやシャワールームは女性専用とせざるを得ないため、そのための設備を整えなければならず、大きな負担となることが容易に予想されます。

このような観点から、女性を全く受け入れない、或いは一定の人数まで受け入れるに留める、という判断をしたとしても、一定の合理性が認められると考えられます。

また、伝統的に男性中心に形成されてきたゴルフクラブのクラブライフや伝統的価値を守りたいという要望もそれなりに合理性を有すると言えましょう。この反面、女性だけのクラブも許されることになります。

②国籍や人種による制限

親睦を目的として結成されたゴルフクラブに、生活習慣や価値観が異なり、意思疎通が十分に図れない人物が入会したり、クラブ内部に外国人だけのグループができたりすれば、クラブの和が乱されたり、雰囲気が壊れたりすることが懸念されます。そこで、そのような事態を引き起こすおそれがある外国人を受け入れないという判断にも一定の合理性があると考えられます。

国籍による制限は、平等の観点から疑問はあるものの、現在の社会情勢の下では、社会的に許容される限度をただちには超えず、通常は違法ではないと考えてよいと思われます。

これに対し黒人は不可というような人種による制限は、人種差別を許さないという社会通念に照らすと、社会的な許容限度を超え、違法とすべきものと思われます。

③年齢による制限

ジュニアゴルファーの育成はゴルフ界の重要テーマであり、JGAもこれに積極的に取り組んでいます。

しかし、クラブのメンバーとして入会を認めるかは別問題です。例えば30歳以上というような入会資格を設けることも、クラブの落ち着いた雰囲気やクラブライフを維持していく上で許される措置であり、年齢による入会制限は、社会的に許容される限度を超えず、違法ではないと考えられます。

④職業・所属団体による制限

一定の職業の従事者や所属団体に属する者の入会を一律に拒否することは、社会的な許容限度を超え、違法とされる恐れがあると思われます。

とは言え、職業や所属団体は人格や挙措動作に影響を与えるものなので、個々の人物を判断する際にこれらを有利にも不利にも斟酌することは裁量の問題として許容されます。

なお暴力団の構成員や準構成員の一律排除については、合理性があり社会的な許容限度の範囲内であるとすることに異論はないと思われます。

 

公の競技開催コースの場合

以上のとおり、プライベートなゴルフクラブが性別や国籍を理由に入会を制限することは、法的には原則的に許容されるものと考えられます。

しかしながら、JGA主催競技等、公的な競技の開催コースの場合には、以上に述べたクラブの自由裁量を広く認める考え方が妥当するのか疑問なしとしません。日本オープン等のJGA主催競技は、公益財団法人のJGAや公共放送のNHKが共催する公的色彩をもつものであり、その開催コースが国籍や性別の差別を許容しているとすると、そのようなコースを会場に選んだJGAの見識が問われかねません。スポンサーからも批判の声が上がるでしょう。また、当該イベントによる収入やスポンサーからの支援等、会員から以外の資金が投入されます。このような観点からは、国籍や性別による差別を許容するクラブは、JGA主催競技開催コースとしてふさわしくないということになると思います。

冒頭の全英オープンの開催会場の問題もこの文脈で理解されるべきものです。USGAやUSPGAツアーでは、人種や性別による入会制限のあるクラブでの競技は行わない方針です。女性の入会制限があるパインバレーGCはコース評価は世界トップクラスですが、このところ全米オープンの会場にはなっていません。

 

入会審査基準の制定と開示

女性や外国人が入会可能かどうかという問題は、会員権業者にとっても重要な関心事であり、業者からの問合せがあった場合、実務的には、ある程度の回答をしている例が多いものと思われます。

しかし、ゴルフクラブが入会審査基準をどこまで明確に開示するかは本来クラブ側の自由であって、開示することは義務ではありません。入会を拒否する場合であっても、その理由を開示する必要はありません。無用な紛争を防ぐためには、入会審査結果に関しての具体的な判断理由は一切非開示と定めておき、入会希望者から理由非開示についての承諾を取っておくことが妥当でしょう。

「ゴルフ場セミナー」2016年8月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「自然災害」

本年4月14日に熊本県で震度7を観測する地震が発生して以降、熊本県と大分県で相次いで地震が発生しており、本稿執筆時点においても依然として予断を許さない状況が続いています。被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

この地震の影響で、4月15日から開催する予定だった国内女子ツアーも中止、また被災地周辺のゴルフ場では予約のキャンセルが相次ぎ、休業に追い込まれる等の問題が発生しています。

今回は自然災害に伴って生じるいくつかの法律問題を取り上げます。

 

利用者との関係

①プレーの中止と料金

地震が発生し、地割れが起こりプレーできなくなってしまった、というような場合、民法上の危険負担の原則からは、プレーできなくなってしまった分のプレー料金は請求することができません。すでにプレーが終わった分については、既に回り始めたハーフの分のみ料金を請求する場合や、全く請求しないケースも実務上の扱いとしてはあると思います。利用約款でこのような場合の取り扱いを定めているのが一般的なので、それに従うことになります。

②予約のキャンセル

ゴルフ場周辺で余震が続き、顧客が安全にプレーできる状況を確保することが難しい状況であると判断してゴルフ場がクローズを決定した場合には、不可抗力によるものとしてゴルフ場に債務不履行責任は発生しないものと考えられます。

例えば大きなコンペ等が開催できなくなったとしても、原則としてコンペ主催者に対してゴルフ場で補償等をする必要はないことになります。

一方、ゴルフ場は安全性を確認しクローズしていない状況で、利用者の判断で予約をキャンセルする場合もあり得ます。実際に請求することはあまりないかもしれませんが、約款上はキャンセルフィーを請求できる場合があります。この場合、利用者からデポジット(予約金)を預かっていれば、キャンセルフィーとの差額を精算することになります。但し、「平均的な損害の額」(同じ事業者の同種類の契約が解除された場合を想定し、その場合に生ずる平均的な損害額)を超える高額なキャンセルフィーを定めた条項は、消費者契約法9条1項により無効とされますので注意が必要です。

③怪我をした場合

地震のせいでクラブハウス等が倒壊し、利用者が怪我をしたというような場合、クラブハウス等が通常備えるべき安全性を有していたかどうかが問題となります。通常備えるべき安全性を有していれば、ゴルフ場に責任はない、ということになります。従来は、少なくとも震度5程度に耐えられる構造になっているかどうかというのが一つの基準だったと思われます(例として仙台地裁平成4年4月8日判決)。しかし現在、震度6弱以上の地震も決して珍しいことではありませんし、耐震・免震の技術も進歩しています。ゴルフ場側に要求される水準も高くなる可能性があります。

④ゴルフ場のクローズ

地震による経営悪化を理由に、廃業や業種転換(例えば大規模太陽光発電建設)は許されるでしょうか。

会員制ゴルフ倶楽部の場合には会員保護の観点から、クラブを解散しての業種転換が無制限に認められるものではありません。

このことは、仮に会則に「会社はいつでも本倶楽部を解散することができる」といった規定がある場合であっても同様です。裁判例においても、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散を経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合にのみ解散が許されるとしたものがあります(東京高裁平成12年8月30日判決)。

一方、会則等に解散規定がなくても、事業の継続が客観的にみて不可能で事業者に責のないやむを得ない事情に基づくような場合にまで一切解散は認められないとすることは事業者に酷を強いることになります。裁判例でも、会員契約の解除が、経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少…等により、経営の継続が困難となったために行われた等の事実関係においては、解除はやむを得ない事情によるものであり会員契約上の債務不履行に当たらないと判断したものがあります(東京地方裁判所平成10年1月22日判決)。

これらの裁判例を前提に考えると、地震により壊滅的なダメージを受けコースの修復に膨大な費用を要する場合や集客が著しく困難だというような場合は、事業の継続が客観的にみて不可能であって事業者に責のないやむを得ない事情に基づくものとして、会員契約の会社側からの解除は有効であり、会員契約上の債務不履行にはあたらないことになります。

もっとも、ゴルフ倶楽部を解散して事業者が会員との会員契約を解除する場合、事業者は会員に対し利用できない分に応じて年会費を返還するとともに、預託金制であれば預託金も返還する必要があります。

入会金の返還については入会金の性質と絡み争いがありますが、上記平成12年東京高裁判決は入会金不返還条項に基づいて返還しないことを有効と判断しています。

預託金の全額返還が困難であれば破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

 

従業員との関係

①休業補償

労働基準法では、使用者(企業)の責めに帰すべき事由による休業の場合には、企業側は、休業期間中当該従業員に対して、その平均賃金の6割以上を支払わなければならないと定められています(法26条)。これに違反した場合には30万円以下の罰則が科される場合があります。

この「責めに帰すべき事由」については、広く使用者側に起因する経営上の障害を含むものと解されており(ノース・ウェスト航空事件判決)、使用者側に起因するとはいえない天災地変等の不可抗力を除いて、これに該当すると解釈されています。

地震等の天災地変は不可抗力の典型と考えられますので、余震が続き休業に追い込まれたようなケースは、客観的に休業の必要があるものとして、使用者の責めに帰すべき事由によらない休業と認定される場合が多いものと考えられます。

そこで、就労できなかった時間分について、給与から控除することができることになります。

仮に年俸制を採用している場合であっても欠勤控除は可能と考えられます。この場合の計算方法については、特段の定めがあればそれに従うことになりますが、この特段の定めは労務の提供がなかった限度で定める必要があります。

特段の定めがない場合は、欠勤1日につき年俸額を年間所定労働日数で除して得た日額を控除するのが妥当と思われますが、この際、賞与分を含めて算定するかどうかは取決めによりますので、就業規則(賃金規定)を整備することが必要です。

なお、先般の東日本大震災の際には、電力会社による計画停電が実施されましたが、計画停電による休業についても、厚労省の通達により、使用者の責めに帰すべき事由には該当しないものとされており、計画停電の時間帯については、企業は給与支払義務を負わないことになります。

もっとも従業員の就労が不可能となった場合であっても、従業員が有給休暇を消化することは可能であり、この場合には有給休暇を消化してから欠勤控除をすることになります。

なお、災害による休業を余儀なくされた場合、実際には離職していなくとも、当該従業員は、雇用保険上の失業手当を受給できるという特例措置が定められています。

②欠勤

ゴルフ場は通常通りの営業を行っているが、従業員が通勤できない等、従業員には過失がないものと考えられ、その欠勤を理由に解雇することはできません。その反面、当該従業員に対する給与支払義務は、従業員の労務の提供が不可抗力により不可能となった場合にあたり、消滅することになります(民法536条1項)。

したがってこのような場合、原則として、不就労時間に対応する給与部分については、企業に支払義務は生じません。

③減給

地震による経営悪化を理由として、減給をすることが許される場合もあります。例えば就業規則で給与が定められる場合、就業規則を変更することになりますが、労働者にとって不利益な変更となる場合であっても、その変更が合理的なものであれば、個々の労働者もこれに従わなければならないものとされます。

問題は変更が合理的なものと言えるか否かですが、変更の内容(不利益の程度・内容)と変更の必要性との比較衡量を基本とし、不利益の程度・内容の酌量において変更との関連で行われた労働条件改善の有無・内容を十分に考慮に入れるとともに、変更の社会的相当性や、労働組合との交渉経過、他の従業員の態度などをも勘案し判断することになると考えられます。

④解雇

地震による経営悪化を理由として、一部の従業員を解雇することが許される場合もあります。いわゆる整理解雇の一種ですから、人員削減の必要性、人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、被解雇者の選定の妥当性、手続きの妥当性を考慮して解雇の有効性が判断されます(労働契約法16条)。地震によって甚大な被害が出ているような場合には、解雇もやむを得ず有効と判断される場合が多いと考えられますが、労働者に特に大きな影響を与える行為であり、慎重に、誠意をもって行わなければならないことは言うまでもありません

⑤労災保険

労災が認定されるには、業務遂行性(会社、雇い主、事業主や会社の上司等の支配下の状態にあること)と業務起因性(就いていた仕事に伴う危険性が具体化すること)が必要であると解されています。

天災地変は不可抗力的に発生するものであって、事業主の支配、管理下にあるか否かに関係なく等しくその危険があるといえ、個々の事業主に災害発生の責任を帰することは困難であるため、このように考えられています。

そこで、従業員が業務中に地震に遭遇し怪我したような場合、原則として業務上の災害とは認められないと考えられます。

もっとも、業務の性質や内容、作業条件や作業環境等の状況からみて、かかる天災地変に際して災害を被りやすい事情にある場合には、天災地変に際して発生した災害についても業務起因生を認めることができると考えられています。

そのため、従業員から労災給付申請があった場合、企業としては、地震によるものであることを理由に一律に協力しないのではなく、個別の事案ごとに慎重に対応すべきであると考えます。

 

その他の問題

①株主総会の問題

12月決算や3月決算の会社は、定時株主総会の開催に支障を来す可能性があります。別途公告等が必要になりますが、基準日を変更することにより定時株主総会の時期をずらして開催することも会社法上可能と考えられます。

②税金等の問題

被災資産の評価額の損金算入、災害損失金の繰越控除といった法人税の減免措置制度があります。今回の地震で被害を受けた熊本県については申告期限・納付期限の延長等が認められています。労働保険料、社会保険料及び障害者雇用納付金などの納付期限の延長・猶予等も行われています。

「ゴルフ場セミナー」2016年7月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「賭博と社会的相当性」

本年4月、バドミントン男子の日本代表選手9名が、違法カジノ店に出入りしていたことが明らかになり、無期限の協会登録抹消、代表選手の指定解除等の処分を受けました。大相撲界では平成22年に野球賭博が、平成23年には八百長問題が発覚しています。プロ野球界では昨秋以降、3名の選手が野球賭博で日本野球機構により失格処分を受けています。

一方、平成27年4月には、衆議院にIR推進法案(いわゆるカジノ法案)が再提出され、訪日外国人観光客(インバウンド)を集めるプロジェクトの一つとして、日本国内への統合型リゾート(国際会議場やホテル、商業施設、レストラン、スポーツ施設、温浴施設等にカジノを含んで一体となった複合観光集客施設)の設置が注目されています。

ゴルフにおいては、プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベットは、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。

賭博については以前本誌でも取り上げましたが(平成26年1月号)、近年スポーツ界で問題となっているのを受け、許される賭博と禁止される賭博の違いの観点から再度検討します。

 

賭博とは

賭博とは、金銭や品物などの財物を賭けて、偶然性の要素が含まれる勝負を行い、その勝負の結果によって、負けた方は賭けた財物を失い、勝った方は(何らかの取り決めに基づいて)財物を得る、という仕組みの遊戯(ゲーム)の総称です。

賭博は、人の射倖心をくすぐり、時に中毒的な依存状態を招き、違法賭博が暴力団の資金源になるなど、社会問題も多く内包します。

そこで、賭博行為は、刑法上賭博罪(単純賭博罪)として50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役(刑法186条1項)、賭博場開張等図利罪(賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図る罪)は3月以上5年以下の懲役となります(同条2項)。なお、開張とは宣伝の意味であり、特定の場所に人を集める必要はありません(電話による野球賭博等)。

この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。

 

当事者双方が危険を負担すること

「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。

すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。

したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には(仮に参加費を徴収する場合であっても、参加費はパーティやコンペでの飲食等の対価と認められれば)、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。

 

一時の娯楽に供する物

もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。

この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。

判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。

金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。が、現代においてはこの判例の射程距離がどこまでかは疑問が残るところです。

 

違法阻却

一般に、法令に基づいて行われる行為や社会通念上正当な業務による行為は、刑法35条の「法令又は正当な業務による行為」として、違法性が阻却されます。

賭博罪においても、賭博に該当する行為について、他の法律においてこれが行われることを許容したり、これが行われることを前提として規制を行ったりしている場合は、違法性が阻却されます。

例えば、競馬は競馬法、競艇はモーターボート競走法、宝くじは当せん金付証票法、お年玉付郵便はがきはお年玉付郵便葉書等に関する法により合法とされています。

また、パチンコやスロット、カジノバー等は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」)により合法とされています。

 

合法カジノと違法カジノ

カジノバーとは、トランプ台やルーレット台など専ら海外のカジノに設置されている遊技設備を設けて客に遊技させる遊技業で、風営法が定義する風俗第8号営業の業態の一つです。カジノバーを営業するに当たっては、風俗第8号営業の営業許可が必要となります。

カジノバーで行われている遊技の殆どは、海外のカジノで行われているゲームですが、日本においては、カジノのようにゲームに使用するチップ等を換金することは、上記の賭博罪にあたり許されません。

風俗営業としてのパチンコ営業では、客が遊技の結果で得た玉などを賞品と交換しますが、カジノバーでは遊技に使用するチップなどを賞品と交換する行為も禁止されています(風営法23条2項)。

つまり、冒頭の違法カジノとは、風俗第8号営業の営業許可を取得していない業者、或いは営業許可を取得した合法営業であることを隠れ蓑として、密かにチップの換金や賞品との交換等の違法営業を行う業者のことを言うわけです。

なお、パチンコの「賞品」が「一時の娯楽に供する物」から外れてしまうと違法な賭博営業に近づいてしまうため、営業者に、現金や有価証券を賞品として提供することや客に提供した賞品を買い取ることを禁じ(風営法23条1項)、賞品の価格の最高限度に関する基準(平成28年4月現在、最大賞品価格は9,600円で消費税込み10,368円)に従った営業を義務づけ、パチンコの射幸性を抑制しています。

 

コンペの賞品やベット

では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。

まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。

この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。

しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。

例えば、参加費を支払うパー3のワンオンチャレンジには、ワンオンすれば賞品が貰える代わりに、失敗すると何も貰えないかグレードの落ちる賞品になるケース等様々ありますが、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものですので、「偶然性の事情に関し」の要件を欠き、ワンオンチャレンジは賭博罪に該当しないと考えるべきでしょう。これに対し、ホールインワンに高額賞品をかけて参加費を取って集客するようなケースにおいて賭博罪が成立するとした韓国の裁判例があるようですが、ホールインワンの偶然性からワンオンチャレンジとは別に考えるのもやむを得ないと思われます。

 

社会的相当性

結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。

先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。

クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。

これに対し、元参議院議員で有名女子プロゴルファーの父であるY氏が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、裁判において真実と認められており(東京高裁平成23年(ネ)第300号)、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当する事例と言わざるを得ません。

また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。

 

ゴルフ場の注意点

ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。

したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。

なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。

例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。

「ゴルフ場セミナー」2016年6月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員契約適正化法」

バブル崩壊後ゴルフ場の新規開場は減少し、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年にはついにゼロとなりました。しかしその後も少数とはいえゴルフ場の新規開場がみられます。

ゴルフ場を新規に開設する場合、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(以下「適正化法」)の規定を遵守する必要があります。

適正化法は、平成3年に施設開場前に募集予定会員数を大幅に上回る会員募集を行った茨城カントリークラブ事件が大きな社会問題となり、会員制事業に対する法的規制の必要性を求める声が高まり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたというものです。

また、平成24年9月には、神戸市北区で建設中だった神戸CC神戸コースが、適正化法で義務付けられた届け出等をせずに会員権を販売していたとして、ゴルフ会員権の販売等を手掛ける会社に対し、是正を求める行政処分が出されています。

同ゴルフ場は森林法に基づく林地開発の手続きも取っていませんでしたが、平成26年6月に「開発行為に関する工事完了確認証」を県から受け、漸く同年7月に正式開場になりました。

 

対象となる会員契約

適正化法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭を支払い、ゴルフ場等の施設を継続的に利用する役務の提供契約です(2条)。

「その他のスポーツ施設又は保養のための施設」については、現在のところ、政令で定められていませんので、ゴルフ場のみが本法の対象となっています。

なお、ゴルフ場とそれ以外の施設の利用についての契約が一体となっている場合(いわゆる複合型施設)、例えば、ゴルフ場と乗馬クラブやテニスクラブとが一体となっている場合もゴルフ会員契約適正化法の対象となります。

ここに、50万円以上というのは、預託金の額だけではなく、入会金、預託金、保証金、消費税等、会員(となろうとする者)が会員契約に基づき会員制事業者に支払うこととなる一切の金銭の総額で判断されます。分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます。

 

適正化法の対象となる募集

適正化法における「募集」とは、①広告その他これに類似する方法により会員契約の締結について勧誘すること及び勧誘させること、及び②会員契約を締結すること及び会員契約の締結の代理・媒介を行わせることをいいます(2条4項)。

このような行為をする場合は、予め会員募集の届出が必要になります。

①「勧誘」とは、会員契約の締結を勧めることを意味します。したがって、「広告その他これに類似する方法」によって会員契約の締結を勧めていれば、会員制事業者が自ら行う場合だけでなく、他の事業者に依頼して勧誘させる場合も、募集に該当します。なお、ダイレクトメール等による勧誘も「これに類似する方法」と考えられます。

②会員契約を締結することとは、自ら会員契約を締結する場合を指しますが、契約締結しさえすれば、その数に関わらず募集にあたります。そのため、一度募集を終了した後、改めて欠員を補充する場合にも、会員募集の届出が必要になる点に注意が必要です。

また、会員契約の締結の代理・媒介を行わせることとは、会員制事業者が会員契約代行者に会員契約を締結させる場合や、会員契約が成立するよう尽力させる場合です。一個の契約締結の代理・媒介を行わせることであっても募集になるという点は、自ら契約を締結する場合と同じです。

なお、既存の会員に対する契約変更の場合には適正化法の適用はありません。

例えば、17Hを27Hに増やす等ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、適正化法の対象とはなりません。

これに対し、開場後であっても、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、対象となります。またゴルフ会員権を分割する場合も、ゴルフ場事業者と会員との間の既存の契約関係の変更に加え、分割によって増加した分の新たな契約関係が生じることから、分割により増加する分の会員権が、適正化法の対象となり、後述の届出が必要となります。

 

株主会員制のゴルフクラブ

適正化法の対象となる会員契約は、事業者がゴルフ場等の施設を継続的に利用させる役務を提供することを約し、会員がその対価として金銭を支払うことを約するものをいいます。したがって、いわゆる株主会員制のゴルフ場においてみられるような、株式の取得の対価として金銭が支払われる契約は、会員契約の定義に該当しません(もっとも、株主制と預託金制を併用している場合、預託金契約に該当する部分については適正化法の適用対象となります)。

株主会員は株主総会での議決権や計算書類の閲覧請求権等を有し、会社の経営に一定の統制を働かせ得るため、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、会員の保護が図られることから、適正化法の適用がないとされています。

このような趣旨からすると、例えば、株式会社が直接ゴルフ場を経営しないで、A株式会社とB倶楽部組織を分離し、「開場後にBゴルフ倶楽部が会員を募集し、A社の株主についてはB倶楽部の株主会員として優遇するという前提で、開場前にA株式会社が株主募集を行う」等という方法は、ゴルフ場について会員から株主としての統制を免れつつ、一方適正化法の適用は受けないことになり、法の趣旨を潜脱するものと言わざるを得ません。

この場合、株券取得契約は単体でみると会員契約に該当せず、適正化法の適用はないようにも思えます。しかしながら、株主の募集とはいっても、その後に行われる会員募集と一体をなすものと評価できるような場合には、株券取得契約の時点で会員契約の締結があったものとして、適正化法の対象とすることで、会員の保護を図る必要が出てきます。その場合、開場前の株主募集は許されないと解する余地もあるので(適正化法4条)、株主募集とその後に予定されている会員募集との関係が、実質的に連続した一体の行為といえるか、実態に即した判断が必要です。

 

一般社団法人制のゴルフクラブ

適正化法は、特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会その他の政令で定める者がその構成員と締結する会員契約については、適用しないこととされています(19条2項)。「その他の政令で定める者」について、政令では「ゴルフ場の設置及び運営をその主な事業とする一般社団法人」を定めています(政令7条)。

社団とは、㋐団体としての組織を備え、㋑多数決の原理が行われ、㋒構成員の変更に関わらず団体が存続し、㋓その組織において代表の方法・総会の運営・団体としての重要な点が確定している場合をいいます(これはいわゆる権利能力なき社団に関する最高裁の判例ですが、社団性についても基本的に妥当すると考えられます)。そのうち一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人です。

このように、一般社団法人とその構成員(社員)との契約については、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、内部関係における規範によって会員の保護が図られ得ると考えられるため、適用除外とされているのです。

そのため、一般社団法人が社員以外の会員種別を設ける等新しい会員制度を取る場合(例えば、平日会員や家族会員)等、ゴルフ場の運営に意思を反映させる仕組みが確保されていない場合は、適正化法の対象となる可能性があります。

 

外国のゴルフ場

適正化法は日本国内において締結される会員契約を対象としており、施設自体が日本に所在することは要件にはなっていないため、外国のゴルフ場についても、日本国内で募集する場合には同法の適用を受けます。なお、外国のゴルフ場の開設前に、会員契約を締結する場合には、都道府県等による開発許認可等(4条)がなされることはありえないため、保証委託契約を締結し、その旨を届け出れば、会員契約を締結することが可能となります。

 

規制の内容

①募集の届出(3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

会員募集の届出をせず、又は虚偽の届出をして募集を行った会員制事業者については、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)の対象となるほか、罰則(50万円以下の罰金、23条)も定められています。

②会員契約締結時期の制限(4条)

さらに、4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

4条に違反する会員契約の締結についても、3条(募集の届出)の違反と同様、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)及び罰則(50万円以下の罰金、23条)が定められています。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

「ゴルフ場セミナー」2016年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場利用税」

日本のゴルフ場では、利用代金にゴルフ場利用税が加算されます。標準税率は800円ですが、都道府県の条例によって、最高1200円まで課税されます。この税金に対して、以前からゴルフ関係者から廃止を求める声があるのは周知のとおりですが、ここ数年、特にその動きが活発になっています。

この税の前身は、昭和15年に国税として導入された入場税です。映画館、劇場、遊園地などとともに、ゴルフ場でプレーする人は担税力があると考えられたわけです。その後、昭和29年にパチンコ店やマージャン店などとともに「娯楽施設利用税」という地方税となり、さらに平成元年の消費税導入に際して、国税の入場税は廃止され、娯楽施設利用税もゴルフ場の利用に限定され、名称もゴルフ場利用税と変更されました。

そのため、現在では特別な税金が課されている唯一の施設ということになります。しかも、ゴルフが次期オリンピックから競技種目に正式に決まったため、スポーツに対する不当な課税という批判が強まっているのです。

そこで今回は、改めてゴルフ場利用税について整理・検討したいと思います。

 

ゴルフ場利用税

ゴルフ場利用税とは、日本の地方税法に基づき、ゴルフ場の利用について、1日当たりの定額で、ゴルフ場の所在する都道府県が課する税金です(地方税法4条2項6号、75条以下、1条2項)。この税は、都道府県税ですが、税収の7割はゴルフ場が所在する市町村(特別区を含む)に交付することとされています(地方税法103条)。ちなみに、ゴルフ練習場の利用は課税対象とはなりません。

税率の基準は各都道府県により異なり、利用料金、ゴルフ場の規模などの等級に応じて課税を行っています。標準税率は1日当たり800円で、1200円が上限とされています(地方税法76条)。

 

非課税措置と軽減措置

ゴルフ場利用税は、ゴルフ場を利用した人からゴルフ場の経営者(特別徴収義務者)が都道府県に代わって徴収し、当該都道府県に納入するものです。

但し、以下の場合には、ゴルフ場利用税は課税されません。

①年齢18歳未満又は70歳以上のゴルフ場の利用

②身体障害者等のゴルフ場の利用

③国民体育大会のゴルフ競技に参加する選手が、国民体育大会のゴルフ競技として行うゴルフ場の利用

④学校教育法第1条に規定する学校の学生、生徒等又はこれらの者を引率する教員がその学校の教育活動として行うゴルフ場の利用

非課税の適用を受けるためには、①運転免許証・身分証明書等年齢が証明できるもの②障害者手帳等③都知事が発行する証明書④学長又は校長の発行する証明書を利用の際に提出・提示して貰う必要があります。

また、以下の場合には、ゴルフ場利用税の税率が2分の1に軽減されます。但し、ゴルフ場の利用料金が通常の2割(②の場合は5割)以上軽減されている場合に限ります。

①年齢65歳以上70歳未満のゴルフ場の利用

②①に掲げる以外の利用で利用時間について特に制限があるもの(早朝利用、薄暮利用、夜間利用等)

①の場合、運転免許証・身分証明書等年齢が証明できるものを利用の際に提示して貰う必要があります。

 

最高裁判決

ゴルフ場利用税に関しては、最高裁昭和50年2月6日判決があり、概ね以下のとおり判断し、この税の合憲性や合理性を肯定しています。

①憲法13条違反の点について(スポーツをする自由の制限)
ゴルフは娯楽としての一面をも有し、ゴルフ場の利用が相当高額な消費行為であることは否定し難い。ゴルフ場の利用に対し娯楽施設利用税を課する趣旨も、娯楽性の面も有する高額な消費行為に担税力を認めたからである。地方税法は、ゴルフ自体を直接禁止制限するものではく、高額な支出をなしうる者に対し、1日500円程度の税金を課したからといって、ゴルフをすることが困難になるとは考えられず、スポーツをする自由を制限するものであるということはできない。

②憲法14条違反の点について(法の下の平等に反する)

立法上ある施設の利用を娯楽施設利用税の課税対象とするか否かは、社会通念等を基礎として、施設の利用の普及度、利用料金に表される担税力の有無等を総合的に判断した上で決定されるべき問題である。

ゴルフは野球等と同じく健全なスポーツとしての一面を有するが、野球場等の利用は普遍的、大衆的であり、利用料金も担税力を顕著に表すものとはいえないのに対し、ゴルフ場の利用は高額な消費行為であることは否定し難い。このような顕著な差異を無視して租税負担の公平を欠き平等原則に違反するとする違憲の主張は、その前提を欠く。

③憲法21条違反の点について(結社の自由の侵害)

娯楽施設利用税は社団の結成、運営それ自体に課せられるものではなく、1日500円程度の娯楽施設利用税を課したからといって直ちに社団の結成、運営を妨げるものとは考えられないし、また、同好者による競技会の開催を困難にするものとも考えられない。

④二重課税となるかどうか

固定資産税は、土地、家屋等の資産価値に着目して課税される一種の財産税であり、土地、家屋及び償却資産の所有に対し課されるものである。一方、娯楽施設利用税は、法定の施設の利用行為に伴う消費支出行為に担税力を認めて課税される一種の消費税であり、特定の施設の利用行為に対し課されるものである。

両者はその性格、課税の対象を異にするだけでなく、納税義務者も異なるから、ゴルフ場の土地、建物に固定資産税を賦課した上、ゴルフ場を利用する会員に対し娯楽施設利用税を賦課しても、二重課税の問題を生じない。

 

課税の理由

平成元年の消費税導入時に、娯楽施設利用税が廃止されたにもかかわらず、ゴルフ場の利用についてのみゴルフ場利用税を設け、現在も存在している理由は、一般に次のように説明されています。

㋐贅沢税-ゴルフ場の利用は、日本においては、他のレジャーに比べて費用が高いことから、利用者にはより高い担税力があるとする考え方

前記最高裁判決もこの点に言及していますが、ある団体がゴルファーを対象に行ったアンケートでは、「平均年収700万円未満」との回答が過半数を占め、「格安になっているゴルフ場利用料金に比べ、この税金は負担である」「ゴルフ場利用税が撤廃されれば、ゴルファーの底辺拡大、ゴルフの普及につながる」との声も多くあります。現在、ゴルフは国民体育大会(国体)の正式種目であり、次期オリンピックの正式種目にも加えられています。このようにゴルフが国民スポーツとして一般に受け入れられている現在にもこの考え方が妥当するかどうか疑問のあるところです。

㋑応益税-ゴルフ場に係る開発許可、道路整備などの行政サービスは専らゴルフ場の利用者に帰属することから、利用者にこれらの費用を負担させようとする考え方

確かにゴルフ場を開設する時の開発許可(都道府県知事の許認可権)等行政サービスを受けていますが、一方で、ゴルフ場は新たな雇用の創出や諸物品販売等、事業が発生して地元経済の活性化に貢献しています。そもそもゴルフ場だけを対象にした行政サービスは見当たらないと思われ、この考え方の妥当性には疑問が残ります。

㋒本税収の内、3割が都道府県の収入となり残り7割は当該ゴルフ場が存在する市町村に交付されており、市町村にとっては貴重な財源となっているとする考え方(平成24年度は507億円の税収があり、うち7割の354億円が市町村に交付)

この考え方については、平成26年11月、参院予算委員会の審議で、麻生太郎財務相が「オリンピックの種目に税金がかかるのはいかがか。仮に消費税が来年10月から上がるのであれば、地方税も収入が増えるから、いいタイミングかなという感じはする」と答弁し、安倍晋三首相も「(プレー料金の)全国平均は食事が付いて8000円位で、ゴルフ場利用税の比率が高くなっているのは事実。総務大臣とも相談しながら検討したい」とし、ゴルフ場利用税廃止に一定の理解を示しました。遠藤利明五輪相も、ゴルフ場利用税の是非について、「一般国民が普通にやるスポーツから税を取るのは、本来のスポーツの趣旨から違うのではないか。五輪種目であることも踏まえて対応すべきだ」と指摘しています。

しかしながら、消費税率10%への引き上げが平成29年4月に延期されるに伴い、廃止は見送られてしまいました。

 

ゴルフ場利用税廃止へ向けて

以上のとおり、贅沢税や応益税といった課税理由が現在も妥当性するかどうかについては疑問が残るところであり、市町村の重要な財源だからという理由だけでゴルフ場利用者に対してのみ税負担を貸すことは、税の公平性の観点からも問題があろうと思われます。

平成23年に制定されたスポーツ基本法では、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民が日常的にスポーツに親しみ、スポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならないと規定されています。ゴルフは子供から高齢者、障害者まで広く親しまれている国民スポーツです。ゴルフ場の利用料金の低額化も進む中、ゴルフ場利用者にとって、ゴルフ場利用税の負担は決して小さいものではなく、ゴルフ場利用税の存続はスポーツ基本法の理念にも悖るものとも言えます。

なお、国家公務員倫理規程が利害関係者との禁止行為にスポーツでゴルフだけを特記している点も、不当な制限と言わざるを得ません。前述の遠藤五輪相も、「もともとはぜいたくな遊びとの感覚だったのだろうが、今では大衆スポーツとなっている。ゴルフを特別と見るのはふさわしくない」とし、利用税と同じく、ゴルフを特別扱いにして不当な扱いをする同規定の削除について理解を示しています。

ゴルフが次期オリンピックの正式種目に加えられ、国際的にも生涯スポーツとして認知されている現在、世界的に例がないゴルフ場利用税を存続させることが妥当かどうか、平成32年東京オリンピック・パラリンピック開催国として、改めて議論すべき問題であろうと思われます。

「ゴルフ場セミナー」2016年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「労働者派遣」

キャディさんやコース管理に派遣会社から労働者の派遣を受けているゴルフ場も多いと思います。派遣社員やパート、アルバイト等の非正規雇用者は平成26年平均で1962万人、役員を除く雇用者全体の37.4%を占めており、このうち派遣社員は292万人、非正規雇用者の14.9%を占めており、無視できない存在となっています。

平成27年9月、改正労働者派遣法が成立・施行され、新しい法律の下での運用が開始しています。

そこで今回は、労働者派遣について検討します。

派遣法の歴史

派遣労働とは、労働者と雇用契約を結んだ会社(派遣元)が、労働者派遣契約を結んでいる依頼主(派遣先)へ労働者を派遣し、労働者は派遣先の指揮命令に従って働くという働き方です。

なお、派遣とよく似た就業形態に出向(在籍出向)があります。どちらも出向先や派遣先の会社の指揮命令に従って就業しますが、両社の違いは、派遣先(出向先)に労働契約と指揮命令関係があるかどうかです。 出向の場合には、労働契約及び指揮命令関係の双方が出向先にあるのに対し、派遣の場合には、労働契約は派遣元にのみあり、指揮命令関係は派遣先にあります。つまり、出向の場合、出向元と出向先の両方で二重の労働契約関係が成立し、出向先では自社の従業員と同様に扱えるのに対して、派遣の場合には労働契約関係と使用関係が分離することになります。派遣社員に派遣先のゴルフ場の就業規則は適用されず、仮に派遣社員がゴルフ場でトラブルを起こしたとしてもゴルフ場側では懲戒処分をすることができず派遣元に懲戒処分を申し入れるのが関の山ということになります。

我が国の人材派遣は、昭和61年にいわゆる労働者派遣法が施行され、一部の特筆すべき技能を有する13業務(同年16業務に変更)について、一時的に外部から労働者の提供を受ける手段として始まりました。

平成8年には、専門性の高い業務を中心に、対象業務を26業務に拡大しました。平成11年には、派遣業種を原則自由化し、一部禁止するものを指定する方式に変更し、26業種は3年、新しく追加されたものは最長1年間の派遣期間制限が設けられました。平成12年には、派遣先企業に直接雇用されることを前提に一定期間派遣として就業し、期間終了後に企業と本人が合意した場合、直接雇用として採用されるシステム(紹介予定派遣)が解禁されました。

平成16年改正

平成16年改正で派遣先企業にとって重要なのは以下の2点です。平成27年の改正後も、施行日(平成27年9月30日)前に契約している派遣契約については、これらの規定が適用されるので依然として注意が必要です(後述)。

①派遣受入期間の延長

26業務については制限が撤廃され、派遣期間がこれまで1年間と制限されてきた業務については、最長で3年間と改正されました。

②直接雇用の申込み義務

派遣期間後(最長で3年)も同じ派遣労働者を使用しようとする派遣先の事業主は、期間前日までに派遣労働者に対して雇用契約の申込みをしなければいけません。つまり、一つの会社で3年を超えて派遣されることはなく、4年目以降も同じように働いて貰うには、派遣社員ではなく直接雇用されることになります。

また最長3年という派遣期間の制限がない業種でも、3年以上派遣されている労働者がいるのにさらに別の新たな労働者を雇入れようとする場合、現在、派遣されている労働者に対して直接雇用を申し込まなければなりません。

これら「直接雇用の申込み義務」に違反した事業主に対しては国が指導し、勧告・企業名公表される場合もありますので注意が必要です。

平成24年改正

平成24年には、法律名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下「派遣法」)に改正され、26業務が28業務に整頓されました。派遣先企業にとって重要な改正は以下点です。

  • 労働契約申込みみなし制度

この制度は、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたとみなすもので、平成27年10月1日に施行されました。

違法派遣とは、㋐派遣労働者を禁止業務に従事させること、㋑無許可又は無届出の派遣会社から派遣を受け入れること、㋒派遣期間制限に違反して派遣を受け入れること、㋓いわゆる偽装請負等の場合です。

平成27年改正

平成27年改正法には、「派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図る」との目的が掲げられました。この目的を実現するため種々の改正が行われましたが、派遣先企業にとって重要なのは、派遣期間制限が見直された点です。期間制限に関する28業務とその他の業務の区別を廃止し、以下の制度が設けられました。

  • 事業所単位の期間制限

派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受入れは3年を上限とする。それを超えて受け入れるためには過半数労働組合等からの意見聴取が必要。意見があった場合には対応方針等の説明義務を課す。

つまり、ゴルフ場で派遣社員を受け入れる場合、意見聴取が行われないと3年を超えて派遣を受け入れることはできません。意見聴取がとても重要になります。

  • 個人単位の期間制限

派遣先の同一の組織単位(課)における同一の派遣労働者の受入れは3年を上限とする。

つまり、ゴルフ場事業会社が意見聴取により長期的に派遣利用を行う場合であっても、属人的に考えると、3年毎に仕事内容(課)を変えなくてはなりません。派遣社員をレストランスタッフとして採用した場合、3年経過後は経理課等仕事内容を変える必要があるわけです。

なお、平成27年改正法施行日前までに契約している派遣契約は、改正前の規定が適用され、施行日以降に締結した派遣契約から新制度が適用されます。

つまり、施行日(平成27年9月30日)前までに締結された派遣契約で、施行日以降に自由化業務の派遣制限期間(3年間)の抵触日を超えて派遣労働者を受け入れていた場合や、28業務で3年以上受け入れている派遣労働者がいる場合で、同じ業務に新たに労働者を雇い入れする場合には、改正後の「労働契約申込みみなし制度」ではなく、改正前の「直接雇用の申込み義務」が適用されることになります。

 派遣契約のトラブル事例

ゴルフ場においてもキャディやレストランスタッフを派遣社員として受け入れている場合も多いと思われます。以下に実務上の注意点を取り上げます。

  • 事前打ち合わせ後の不採用

派遣法は、派遣先が派遣受入れにあたり、派遣労働者を選考し、特定する行為を、紹介予定派遣を受入れる場合を除き禁止しており(派遣法26条6項)、派遣社員の受け入れに当たっての事前面接も禁止されます。そのため、「打ち合わせ」の名目で、派遣スタッフと接触を試みた場合、個々のケースによって程度の差はありますが、「打ち合わせの時点ですでに雇用関係が成立しているとみなされる可能性がある」という厚生労働省の見解が出ていますので注意する必要があります。また今後は「労働契約申込みみなし制度」の適用も考えられます。労働契約が成立したとされる場合、面接に要した日当と交通費の請求もされますし、場合によっては解雇とみなされ不採用に対する損害賠償の可能性も生じてきます。

  • トライアルターム

派遣先で行われるトライアルターム(試用期間)も、派遣先が派遣スタッフを特定するためのものであれば、派遣法違反となります(派遣法26条6項)。

例えば、複数の派遣会社から3人派遣させて、1週間働かせて採用したのは1人のみというケースでは、派遣先がスタッフの働きぶりをみて採用を決めていると見なされる危険があります。今後このようなケースでは派遣先と派遣労働者との間に、当初から雇用関係が生じていたと判断される可能性が生じます(労働契約申込みみなし制度)。

  • 偽装請負

形式上、請負人(受託業者)が注文主との間で請負契約を締結しているものの、請負人が従業員を注文主の事業場等において作業させる際に注文主の指揮命令を受けて労務を提供させることを偽装請負と呼んでいます。

偽装請負と評価される場合、請負事業者は派遣法違反となり罰則の対象となります(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金等) 。派遣先は派遣法による罰則の対象となっていませんが、労働者供給を行っていると判断される場合には職業安定法44条違反として罰則の対象となるので注意が必要です(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 ) 。

偽装請負とされないための基準としては厚労省告示 37 号が挙げる基準が参考になります。以下の要件を満たせば適法な請負となりますが、満たさない場合には請負事業者は労働者派遣事業の許可を取得しなければなりません。

①請負事業主が、請負業務に従事する労働者に対して、直接業務指示をし、その労務管理の全てを行なっていること。②請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理すること。

このうち実務的に主として問題となるのは①の指揮命令の要件です。ゴルフ場が請負業者から労働者を受け入れる場合も、当該労働者の中で業務指示を担当する者を決め、ゴルフ場の要望はその担当者を通じて社外労働者に伝えるようにする必要があります。仮に当該労働者が1名しかいないような場合には、ゴルフ場と請負業者との間で事前にマニュアルを定め、当該労働者にはそのマニュアルに従って作業させ等、注文主が直接指揮命令したことにならないような工夫が必要です。

これまで、偽装請負であると判断された場合、注文主と請負人が雇用する労働者との間に黙示の労働契約関係の成立の余地を認める裁判例もありました(マイスタッフ(一橋出版)事件・東京地平17・7・25判決、伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・松山地平15・5・22判決等)。

もっとも、今後は「労働契約申込みみなし制度」の適用要件に当てはまり、かつ派遣労働者から承諾の意思表示がなされた場合には、明示の労働契約が成立したことになります。

「ゴルフ場セミナー」2016年2月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎