熊谷信太郎の「ゴルフ場の池での事故」

今年2月、岐阜県のゴルフ場で、小学 2 年生の男児 2 人が池に転落し水死するという大変痛ましい事故が発生し、メディアでも大きく取り上げられました。詳細については現在調査中と思われますが、2 人は友人の男児と 3 人でゴルフ場に遊びに来ており、コース内の池に石を投げて遊んでいたところ、誤って転落した1人を助けようともう1人が池に入った結果、2人とも溺れたとみられています。

ゴルフ場には様々な危険がありますが、池はゴルフ場の中でも特に危険な場所の一つであり、ゴルファーや従業員が池に転落して亡くなるという事故も少なくありません。池に飛び込んだボールを捜そう、取ろうとして、或いは先に池に転落した同伴者を助けようとして、足を滑らせ池に転落した事例が多いものと思われます。池の底がゴムでコーティングされていることが多い上に、藻などが生えており、また、池の中がすり鉢状の斜面になっている場合には非常に滑りやすく、場合によっては藻が足に絡みつくなどして岸に上がることができず、あわててどんどん深みにはまって溺れてしまう、ということが指摘されています。

ゴルフ場での事故については、これまでにも取り上げましたが、今回は、池での事故について検討します。

ゴルフ場の池での事故

平成23年5月には、群馬県のゴルフ場で、ツーサムでセルフプレー中の男性が、2名とも池に転落して死亡するという事故が発生しています。この池には、他のゴルフ場での事故(後述する栃木県の事故)を教訓に、池への転落事故に備え、ロープ付きの浮輪をかけた支柱が2本あり、また、支柱のそばには約3メートルの竹竿も設置されていたということですが、事故当時、浮輪や竹竿は未使用のまま残されており、備えが役立たなかったようです。

平成19年9月には北海道のゴルフ場で男性ゴルファーが亡くなっています。この男性は、池に入った同伴者のボールを拾おうとし滑って池に転落したものとみられています。

平成18年8月には栃木県のゴルフ場で女性ゴルファーが亡くなっていますが、この女性は、ボールを拾おうとして池に転落した同伴者を助けようとしたものの、自らも滑って池に転落したと報道されています。

ゴルファー以外では、平成19年4月には噴水工事中のパート従業員が、平成14年8月には群馬県で除草作業中の従業員が、平成23年3月には、ロストボール回収中の作業員(ゴルフ場の従業員ではない)が亡くなる等の事故が発生しています。

ゴルフ場の法的責任

池での事故の場合、ゴルフ場の責任として一般に①安全配慮義務違反と②土地工作物責任が考えられます。

①安全配慮義務違反とは、民法第415条が定める債務不履行責任(契約責任)の一種です。

ゴルファーがゴルフ場と締結する利用契約の中には、「ゴルフ場は、ゴルファーに対し、安全にプレーさせる」という内容も含まれます。しかしゴルフ場側の配慮が足りず、ゴルファーに事故が起こったような場合には、ゴルフ場が「安全にプレーさせる」という契約内容に違反しており、ゴルフ場はゴルファーに対して損害を賠償しなければならない、というわけです。

②土地工作物責任とは、民法第717条第1項が定める不法行為責任の一種です。安全配慮義務違反の場合と異なり、ゴルフ場と契約関係にある相手方に限られず、岐阜県の事故における男児等第三者との関係でも問題となります。

同条項は「土地の工作物」の「設置又は保存に瑕疵」があって損害が生じた場合、占有者や所有者が賠償責任を負わなければならないと定めています。

「土地の工作物」とは、「土地に接着し、人工的作業をしたことで成立したもの」と説明されています。ゴルフ場内にある池も、もともと自然に存在したものをそのまま何ら手を加えずに利用しているのであれば別ですが、人工池であれば、ここにいう「土地の工作物」に含まれます。

「設置又は保存に瑕疵」というのは、「通常備えるべき安全性を欠いている」ことであると解されています。ゴルフ場内の池が、通常備えるべき安全性を欠いていたために、ゴルファーに損害が生じた場合、占有・所有をしているゴルフ場が損害賠償をしなければならないというわけです。

自己責任の原則

では、池の事故を防止するという観点から、ゴルフ場としてどの程度の対応が要求されるのでしょうか。

ゴルフ場がどこまで安全に配慮する義務を負うか、ゴルフ場の池が通常備えるべき安全性はどの程度か、ということを考える際に重要な基本的視点は、ゴルファーとの関係では、ゴルフはプレイヤーであるゴルファー自身が審判も兼ねる紳士のスポーツだということです。ラウンド中の行動については、基本的に自己の責任において全て決定すべきです。

ゴルフ場との比較のために紹介したいのが、小学校の遊具で発生した事故に関し土地工作物責任が問題となったいわゆる徳島遊動円棒[遊動円木]事件です(大正5年6月1日大審院判決)。

この事件で、大審院は、小学校の遊動円棒(前後に動く丸太に乗る遊具)が腐朽していたというケースで、「三人以上同時に乗るべからず」という立札をするくらいでは足りず、現実的な措置(ロープを張って立入禁止にする、遊動円棒を動かないよう固定してしまう等の対応を念頭に置いているものと思われます)をしなければならないと示しています。

この判例の結論だけ参考にすると、ゴルフ場の池の周りに「危険」という立札をするくらいでは足りず、柵を立て、ネットを張ってでも、ゴルファーが池に近づくのを防止すべきだという考えも出てきそうです。

冒頭の岐阜県のゴルフ場では、今回の事故を受け、ゴルファーを含めた全ての人に、改めて池への注意喚起を行うため、敷地内にある全ての池の周りにローピング措置を実施し、立ち入り禁止・注意喚起を促す警告看板を設置したということです。

しかし、これはゴルフ場の池と小学校の遊具の差異を考慮しない誤った考え方であり、ゴルフの精神にも反すると思われます。小学校の遊具は判断力に乏しい児童が利用するものであるのに対し、ゴルフは自己責任・自己決定が要求される紳士のスポーツであって、事情が異なります。

柵を立てたことで、本来池に入るべきミスショットしたボールが救われる、というのは競技のあり方として不適切と思われます。また、柵や網はゴルフ場に求められる美観を損ねるという問題もあります。

もちろん、池の周囲がすり鉢状で滑りやすく、近づくだけで非常に危険というような池であれば、ゴルフ場としても何らかの措置を講じなければならないでしょう。

しかし、そのような特段の事情のない限り、ゴルファーには自己責任・自己決定が要求されるという基本的視点に立てば、現在のゴルフ場における池の管理のあり方を大きく変える必要はないと思われます。

ゴルフ場の対応

ゴルフ場の池への転落死亡事故が発生すると、ゴルフ場の池は浅くても障害物として十分なのだから、浅く作れば死亡事故を防げるのではないか、という意見もあるようです。しかし池には雨水を吸収し溜める機能もあり、浅い池にするというのは現実的ではありません。

また、藻やアオコを除去すればよいのではないかという意見もあります。実際、定期的に除去しているゴルフ場もありますし、それを請け負う専門業者もあります。ただ、農薬を使わないという制約のもとで完全に除去するのはほぼ不可能でしょうし、手間も費用も大変な割に、効果は限定的と思われます。仮に除去できても、ゴムのコーティングで滑ってしまうことまでは防止できません。そもそも池に近づくのはゴルファーの自己責任ですから、ゴルフ場が安全確保のため池の藻やアオコを除去しなければならない義務まで負うと考えるべきではありません。

とはいえ、全てゴルファーの自己責任だから、池に落ちてもゴルフ場は一切関知しない、というのも極端すぎます。事故に備え、浮輪や竹竿を設置しておくというのは、コスト・果両面からも、現実的な選択肢でしょう。そして美観との兼ね合いもありますが、浮輪や竹竿は目立つように設置することが大切です。また、セルフプレーの組の場合は、他の注意点とあわせてカートに掲示して案内をするくらいの配慮があっても良いと思います。

第三者の立ち入りのケース

一方、ゴルファー以外の第三者がゴルフ場に立ち入った場合には、「池に近づくのは自己責任」とは言い切れないケースもあるかもしれませんが、ゴルフ場ではゴルファー以外の第三者の立ち入りを禁止しているのが通常であり、不法侵入者が池に転落したからといって、特段の事情のない限りこれまで述べたようなゴルフ場の安全性の判断基準が変わることはないでしょう。

つまり、土地工作物責任における「設置又は保存に瑕疵」というのは、前述のとおり「通常備えるべき安全性を欠いている」ことであって、ゴルフ場があらゆる可能性を想定してこれに対応すべき義務があるわけではないと考えられます。

但し、安全策を実施すべき黙示の義務が発生したとみる余地のある場合には、不作為による安全配慮義務違反が問題となる可能性があるので注意が必要です。

例えば、子供がゴルフ場に立ち入り池に転落して死傷したケースで、過去に子供の立ち入りが度々目撃され、ゴルフ場が子供の遊び場化しているにも関わらずゴルフ場がこれを容認していたとみられるような場合には、上記徳島遊動円棒事件が指摘するように、池の周りにロープを張って立入禁止にする等の現実的措置が必要であると判断される可能性もあるので、遊び場化しないよう注意が必要でしょう。また、近隣住民にゴルフ場を開放して催し物を実施するような場合も、池の危険性について注意喚起する等の措置が必要となるでしょう。

岐阜県のゴルフ場では、今回の事故を踏まえ、敷地外との境界に設けてあるフェンスには、地元行政との協議の上立ち入り禁止看板の増設等、再発防止のための安全策を実施していくということですが、こういった対策が必要な場合もあるでしょう。

従業員の事故の場合

ゴルフ場は、労働安全衛生法第3条第1項により、また、労働契約法第5条により、従業員の業務上の安全にも配慮すべき義務を負っています。これに違反し、事故が発生すると、民事・刑事上の責任を問われることがあります。

死亡事故や重大な後遺症が残ったような場合の民事上の損害賠償責任は相当高額になります。安全な労働環境を提供していなかったとなれば、労働安全衛生法第23条ないし第25条等の違反となり、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金となることもあります(労働安全衛生法第119条第1号)。場合によっては、刑法上業務上過失致死罪に問われ、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となる可能性もあります。

ゴルファーや第三者とは異なり、従業員の場合には業務上の必要性から池に近づかなければならないこともあろうかと思います。物的な防護措置を講じることはもちろん必要ですが、従業員に対する安全教育を行い、池の周囲での作業手順を定めることも必要でしょう。状況が許せば、池の周りの作業は複数名で行うようにすることも重大な結果の発生を防止する上で有効と思われます。

「ゴルフ場セミナー」4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎