熊谷信太郎の「労働安全衛生法①」

本年9月11日、伊賀労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで伊賀市のゴルフ場経営会社と会社社長の男性を津地方検察庁伊賀支部に書類送検したと発表しました。

この事件は今年7月、従業員の男性が貨物自動車でコンペティションマークの設置作業中、カート道路脇の路肩から車両とともに法面の下3.3mに転落し、車の車体と地面に胸部を挟まれ死亡したというものです。伊賀労基署によると、違反内容は労働安全規則の定める「作業場所の広さや地形、車輌等の種類や能力、荷の種類や形状等に適応する作業計画」を事前に定めていなかったというもので(詳しくは後述)、社長は事実を認めており、死亡という結果の重大性に鑑み送検に踏み切ったということです。

平成22年の休業4日以上の労働災害による死傷者数は、全事業で11万6733人、ゴルフ場においては1187人が被災しています(プレーヤーの事故は除く)。事故は「転倒」が最も多く4割程度を占め、冒頭のような「墜落・転落」による事故も1割程度を占め(以上、厚生労働省「労働者私傷病者報告」)、キャディの災害が6割強、次いでコース管理員が2割強を占めています(日本ゴルフ場支配人連合会による調査)。

こういった労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として、企業の安全管理体制について定めているのが労働安全衛生法(以下「労安衛法」)です。今回はこの法律について検討します。

 

企業の安全配慮義務

労安衛法は、労働災害を防止するため、事業者は労安衛法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境を作り労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならないと規定しています。

使用者の労働者に対する安全配慮義務については、平成20年3月に施行された労働契約法第5条で、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と明文化されています。安全配慮義務を怠った場合、民法の709条(不法行為責任)、715条(使用者責任)、415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例も存在しますが、労働契約法には罰則がありません。

これに対し、事業者が労安衛法の規定に違反すると、多くの場合、懲役や罰金などの罰則が科されます。また、監督行政庁が事業者に対して、労働災害の発生防止のために、作業の停止や建物の使用の停止などを命じることもあります。

 

安全衛生管理体制

労安衛法1条は、「職場における労働者の安全と健康を確保」するという目的を果たすための手段の一つとして、「責任体制の明確化及び自主的活動の促進への措置を講ずる」ことを掲げ、これを受けて、労働災害を防止するため、必要な安全衛生管理体制について定めています。

ゴルフ場でも、経営トップから各作業別責任者まで、それぞれの役割、責任、権限を明らかにすることが大切です。

まず、労働者数が10人~49人の事業場では、支配人等を「安全衛生推進者」として選任し、その氏名を関係労働者に周知させる必要があります。50人以上の事業場では、「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」を配置し、労働基準監督署に選任報告を行うことが必要です。

以上の義務違反には、罰則が定められています(50万円以下の罰金)。

安全衛生管理体制の中でもその役割の重要性が近年注目されているものとして産業医の制度があります。

産業医とは、事業者に雇用され、又は事業者の嘱託として事業場の労働者の健康管理等を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。しかし実際には、労働者数が50人以上100人未満の中小事業場では産業医の選任率が低いことが問題として指摘されています。平成8年の法改正により、常時50人未満の労働者を使用する事業場についても、医師等に労働者の健康管理等を行わせる努力義務が課され、国が必要な援助を行うことが定められています。

 

健康の保持増進のための措置

労安衛法は、事業者に、労働者に対して医師による健康診断を実施する義務を課しています。健康診断は、雇入れ時及びその後は1年ごと(深夜業等の特定の業務については、配置替時及び6か月ごと)に1回、定期に実施することが必要です。実施義務違反には50万以下の罰金が規定されています。

健康診断を実施したら、その結果に基づき従業員の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴取し、必要があるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければなりません。

特に近年では熱中症対策が重要です。直射日光や地面からの照り返しを遮ることができる屋根等を工夫する等して作業環境を整え、冷房完備又は日陰等の涼しい休憩場所を確保する、コース内に飲料水の備付を行う等の対応も必要となります。

また、平成17年の法改正によって、長時間労働者への医師による面接指導の実施も義務付けられました。具体的には、週40時間を越える労働が1月あたり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる労働者が申し出たときは、事業者は、医師による面接指導を行わなければなりません。それ以外の労働者についても、長時間の労働により疲労の蓄積が見られる者や、健康上の不安を有している労働者などについて、事業者は医師による面接指導又はこれに準ずる措置を取らなければなりません。

 

メンタルヘルスケア

健康には心の健康も含まれます。厳しい経済情勢の中、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は近年増加しています。業務に密接な関係があると判断されたメンタルヘルス不調者は労災の補償対象となり、その件数も増えてきています(平成19年厚生労働省による労働者健康状況調査)。事業者が民事上の損害賠償責任を問われる例も出ています。

ゴルフ場においても、メンタルヘルスケアを継続的かつ計画的に実行する体制づくりを行う必要があります。ここで参考になるのが、平成12年に厚生労働省が作成した「労働者の心の健康の保持増進のための指標」の示す、4つのケア(①セルフケア、②ラインケア、③事業場内産業保健スタッフによるケア、④社外の専門機関によるケア)です。

①セルフケアとは、自分の体調や心の状態を把握することです。心の健康を保つためには、労働者が自己のストレスに対する反応の現れ方や、心の状態を正しく把握することが不可欠です。そこで事業主は従業員に対し、セルフケアに必要な教育や情報(メンタルヘルスケアに関する事業場の方針、事業場内の相談先や事業場外資源の情報等)を提供することが必要となります。

②ラインケアとは、管理監督者が社員へ個別の指導・相談や職場環境改善を行う取り組みのことです。管理監督者は、部下にあたる労働者の状況を日常的に把握でき、具体的なストレス要因やその改善を図ることが可能であるため、労働者からの相談に対応し、職場環境を改善すべき立場にあります。事業者は管理監督者がこれを実行できるよう、ラインによるケアに関する教育・研修、情報提供を行う必要があります。

③産業医等の事業場内産業保健スタッフは、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口となること等、具体的なメンタルヘルスケアの実施にあたり中心的な役割を果たすことが期待されます。

④さらに、メンタルヘルスケアを行う上では、事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、専門的な知識を有する各種の事業場外資源の支援を活用することが有効です。また、労働者が相談内容等を事業場に知られることを望まないような場合にも、事業場外資源を活用することが効果的です。

職場でのメンタルヘルス対策の大切さは誰もが理解するところだと思いますが、何から始めたらいいのかわからないといった場合は、この4つのケアを基本に考えて職場で取り入れてみるとよいでしょう。

 

労働者の危険又は健康障害を防止するための措置

労安衛法は、事業者に対し、労働者の危険又は健康障害を防止するため、必要な措置を講ずるよう義務付けています。

事業者が講じるべき措置の具体的内容は技術的細部にわたることも多いため、具体的な措置の内容については、労安衛法規則(以下「規則」)等で詳細に定められています。

例えば冒頭の事例ように、貨物自動車等を用いて作業を行うときは、①予め場所の広さや地形、車輌等の種類や能力、荷の種類や形状等に適応する作業計画を定め、かつ②当該作業計画により作業を行わなければならず、③これを関係労働者に周知させなければならない(以上規則151条の3)、④車両等の転倒又は転落による労働者の危険を防止するため、当該車両系荷役運搬機械等の運行経路について必要な幅員を保持し路肩の崩壊を防止すること等必要な措置を講じなければならない(規則151条の6)等と規定されています。

冒頭の事例の事故の詳細は明らかにされていませんが、この事例を前提にすると、貨物自動車等を用いて作業をする際には、使用車両や作業方法・内容について定めた「作業計画書」(書式については中央労働災害防止協会「ゴルフ場の事業における労働災害防止のためのガイドライン」https://www.jaish.gr.jp/user/anzen/cho/joho/h23/cho_0476.html参照)を作成するとともに、路肩の崩壊を防止するに十分なカート道の幅員を保持する等の対策が必要となります。

事業者の義務については規則の第2編「安全基準」に詳細に規定されており(101条~575条の16)、 これらの義務に違反した場合には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

 

落雷による災害防止

ゴルフ場では落雷による災害の危険性が高く、落雷事故を防止するため支配人等を責任者として組織的に対応を取る必要があります。

日頃から避難判断するための雷や天気の情報(ウエブサイト、情報会社、襲雷警報器)を入手し、災害発生時には、責任者は情報を総合的に判断し、避難が必要と判断した場合には速やかに避難指示を発令します。伝達は、サイレンやスピーカー、無線やカートナビ機能、巡回等で適切・確実に行うことが必要です。

避難指示が出された場合は、①作業を中断し、予め決められた避雷設備のついた建物へ非難する、②屋外で比較的安全な場所(電線の下、5m以上の高い物体の4m離れた場所等)を見つけ、その場で適切な姿勢を保つ(頭を低くしゃがみ、両足を揃え、膝を地面に付けず、耳をふさぐ。腹這いは電流の流れが心臓に通電する可能性が高く危険)、③安全な場所に避難が困難な場合は、高い場所から移動し、電流を通しにくい木の付近は避け、適切な姿勢を保つ等の避雷の基本的事項を事前に確認・周知しておくが必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「原発事故」

2011年3月11日に発生した東日本大震災から3年半が過ぎました。この震災では地震自体により被害を受けたゴルフ場のほか、震災後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染やそれによる風評被害を受けたゴルフ場も多数にのぼりました。特に、原発事故により飛散した放射性物質による被曝の恐れからプレーヤーがゴルフ場の利用を控えたために、売上の減少という風評被害を被ったゴルフ場は福島近県のみならず首都圏のゴルフ場の中にも相当数出たのではないかと思います。

原発事故による被害に対しては、東京電力が賠償金の支払を行っていますが、賠償の基準や範囲には問題点も多く、実際に生じた被害に対して十分な賠償が行われているかについては疑問があります。

ゴルフ場の風評被害に関し、東京電力の賠償基準では、福島県内のゴルフ場と東北5県および茨城・栃木・群馬・千葉の4県に所在し、宿泊施設などを併設して「観光業」と認められるゴルフ場を賠償の対象とするという運用が行われてきたようです。これは、原子力損害賠償紛争審査会の定めた中間指針が、風評被害に対する賠償対象について、事業所の所在する地域により区別するとともに、「観光業」か、その他の「サービス業等」にあたるかによっても区別していることによると思われますが、こういった区別に基づく運用が画一的に行われてきたために、これらの地域外に所在するゴルフ場や「観光業」にあたらない専業のゴルフ場などについては十分な賠償が行われてこなかったのが実情でした。

もっとも、最近では千葉県や茨城県に所在する専業のゴルフ場の中にも、文部科学省の設置した原子力損害賠償紛争解決センター(以下、「ADRセンター」と表記します。)の和解仲介手続を利用して東京電力から賠償金の支払を受けるケースが出てきました。このような動向をふまえ、今回は原発事故により被害を受けたゴルフ場が東京電力に対して損害賠償を求める手続とその注意点を解説したいと思います。

風評被害

原発事故によりゴルフ場に生じうる損害としては、放射性物質により汚染された土壌や芝などの除染費用といったものも考えられますが、大きなウェイトを占めるのは、いわゆる「風評被害」と呼ばれる損害です。これは、原発事故後に行われた報道などの結果、ゴルフ場の所在する地域に放射能汚染が及んでいるのではないかとの風評が生じ、これによりゴルフ場の来場者数や売上が減少したために生じた損害です。なお、東京電力に対して賠償を求めることができるのは原発事故を原因とする風評被害から生じた損害に限られますから、たとえば地震自体を原因とする交通機関の障害、ガソリンの値上がり、余震のおそれなどを理由とした来場者数・売上の減少は自然災害や経済事情によるものであって、原発事故による風評被害に該当せず、賠償請求の対象にはならないことに注意が必要です。

原子力損害賠償紛争審査会の定めた中間指針では、原発事故と相当因果関係の認められる風評被害であれば賠償の対象とすると明記されています。この相当因果関係の有無については「消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる」かどうかによって判断されます(同中間指針)。ゴルフ場の場合も「ゴルフ場の利用者である平均的・一般的なプレーヤーにとって、放射性物質による汚染の危険性を懸念し、当該ゴルフ場の利用を敬遠することが合理性を有しているかどうか」を基準に賠償の対象となる風評被害の有無を検討すべきということになります。

ここで留意すべきなのは、放射能汚染の広がりは、単純に原発からの距離だけで決まるものではなく、風向きや地形といった個別の地理的状況によって大きく左右されるということです。原発から相当離れた場所であっても高い放射線量が観測される地域、いわゆる「ホットスポット」と呼ばれる地域があることはご承知のとおりです。

ゴルフ場が原発から離れた場所にあったとしても、ゴルフ場の近隣地域にホットスポットがあるとの報道がなされており、原発事故後の来場者数が例年を相当程度下回っていれば原発事故による風評被害が原因である可能性は高いと考えられます。

風評被害が生じていた場合の損害額の具体的な算定方法については技術的に難しい部分を含むため本稿では詳述を控えますが、損益計算書などの計算書類や帳簿類をもとに、基準となる年度と風評被害を受けた年度の利益額の差額(減少額)をもとに、原発事故以外の要因による利益の減少を加味して算出することになります。ゴルフ場ごとの個別の事情に大きく左右されますが、算定される損害額は数百万円から数千万円程度に及ぶ場合もあります。

東京電力に対する請求の方法

それでは、賠償の対象となる損害がゴルフ場に生じている場合、どのような方法で賠償請求を行うことになるのでしょうか。

第1に考えられるのは、東京電力に対して直接損害賠償を求める方法です。原発事故により生じた損害について東京電力は賠償請求を受け付ける専用の窓口を設けていますので、これを利用することになります。この方法によるメリットは、東京電力が定めた賠償基準に沿った請求であれば早期に賠償金の支払を受けられるという点にあります。他方、賠償金を支払うかどうかは東京電力の判断次第ですから、賠償基準に当てはまらないゴルフ場が請求を行う場合には支払がなされる見込みは低いと考えられます。

第2の方法としては、ADRセンターの和解仲介手続を利用することが考えられます。これは、文部科学省の設置したADRセンターの指定する仲介委員が、中立的な第三者の立場で被害者と東京電力双方の言い分を聞き、妥当な和解案を提示するなどして和解の成立を仲介するという手続です。後述の訴訟提起と比較すると、解決までに要する期間が短期間であり(センターでは4~5か月以内の解決を目標としています)、申立自体に費用がかからないなどのメリットがあります。

また、原発ADRセンターは、東京電力の定めた賠償基準にとらわれずに和解案の提示を行うことができますので、東京電力の基準では賠償の対象外とされてしまうゴルフ場であっても賠償金の支払を認める内容の和解案が提示される可能性があります。センターの提示した和解案に法的な拘束力はありませんが、原子力損害賠償支援機構と東京電力が作成した「総合特別事業計画」において、東京電力はセンターの提示した和解案を尊重することとされています。

もっとも、ADRセンターの提示した和解案の受諾を東京電力が拒否するという事例もあるようですので、解決手続としての実効性という点では劣る面があるといえます。

第3の方法は、東京電力に対して賠償金の支払を求めて訴訟を提起するという方法です。原発ADRセンターの手続を利用したが、和解が成立せずに手続を打ち切られた場合にも、訴訟提起を検討することになります。これは通常の裁判を行うということですので、賠償を認める判決が出されて確定すれば東京電力の意思にかかわらず賠償金の支払を受けることができます。実効性という点では最も優れた方法ですが、手続が非常に厳格であり、控訴や上告も含めると解決までに長い期間がかかってしまうというデメリットがあります。また、手続が原則として公開の法廷で行われるため、風評被害について損害賠償を求めていることを第三者に知られたくないという場合には望ましい方法ではありません。

原発ADRの利用と注意点

以上の3つの方法のうち、どれを選択するかはケースごとに個別の判断が必要となります。

東京電力の賠償基準に沿った請求であれば東京電力に対する直接請求が最も迅速な解決が見込めますし、労力も少なくて済みますが、首都圏の専業のゴルフ場が風評被害に基づいて損害賠償を請求するケースでは支払を拒否されてしまうケースが多いと考えられます。

こういったケースでは、ADRセンターの和解仲介手続の利用、または訴訟提起のいずれかを選択するのが現実的だと思いますが、訴訟提起には前述のとおりリスクが大きいことから、まずはADR手続の利用を検討することをお勧めします。ADR手続で和解案の提示がなされた場合、万一、東京電力が受諾を拒否したとしても、センターから賠償金の支払を認める内容の和解案の提示がなされたという事実は、その後の訴訟でゴルフ場側にとって有利な事情となると考えられます。

原発ADRの手続を利用するためには、原発事故と損害との因果関係や損害額についての主張を記載した申立書を作成してADRセンターに提出する必要があります。作成方法や申立書の書式はセンターのホームページに掲載されていますが、因果関係についてゴルフ場ごとの個別の事情をふまえて効果的な主張を行うことは難しい面がありますし、損害額の計算も前述のとおり計算書類や帳簿などの精査・検討が必要となります。ADRの手続自体は弁護士に委任せずに行うことも可能ですが、有利な和解案の提示を受けるためには専門的な知識のある弁護士への委任も検討してみる必要があります。

申立書の提出後は、センターが仲介委員を指名することになっています。この仲介委員は経験のある弁護士などから選ばれるようです。仲介委員は、申立書とこれに対する東京電力の反論を記載した答弁書を検討した上で口頭審理期日を指定します。この口頭審理期日では、申立てを行った被害者側と東京電力側がセンターに出向き、仲介委員に対して補足説明を行ったり、和解についての協議を行います。東京電力側からは弁護士が代理人として出席しますが、必要に応じて東京電力社内の担当者も同席します。この口頭審理期日では、仲介委員や東京電力から質問された点についてその場で回答するとともに、自らの主張を説得的に説明することが必要となります。東京電力側の代理人弁護士は同様のADR手続を何件も処理していて慣れていますから、これに対応するためにはやはりゴルフ場側も弁護士に手続を委任するのが得策だと思います。

このような口頭審理期日を経て双方の主張・立証が出揃った段階で、仲介委員から和解案の提示がなされることになります。双方が和解案を受諾すれば和解書を締結して、東京電力から賠償金の支払がなされます。和解案について当事者が合意に至らず、話し合いによる解決の見込みがない場合には和解仲介手続は打ち切られ、その後、訴訟提起を行うかどうかを検討することになります。

原発被害について東京電力に対して損害賠償請求を行うのは、手続等の面で難しい部分もありますが、問題の本質は「原発事故により生じた損害は、原発事故について責任を負う者(東京電力)が償うべきである」ということです。原発事故後の風評被害で来場者数・売上が減少したゴルフ場は、コースの臨時クローズや人件費削減、設備・施設の簡素化などにより対応することを余儀なくされたと思いますが、それは結局ゴルフ場利用者の利便性やプレーの快適性に影響を与えるものです。種々の理由から損害賠償請求をためらわれているゴルフ場も多いと思いますが、原発事故による被害を受けたゴルフ場が正当な賠償を受け、被害回復を図ることが、ひいてはゴルフ場利用者の利益の増進にもつながるのではないでしょうか。

「ゴルフ場セミナー」2014年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「打球事故」

ゴルフ場でプレー中、後続の組や隣のホールから打ち込まれた打球に危険を感じた経験のある方も多いと思います。

昨年4月には、プレーヤーの打球が同伴プレーヤーの左目に当たり失明させた事案で、加害プレーヤーの他、同伴キャディ及びゴルフ場運営会社の共同不法行為責任を認め、かつ過失相殺がされるという判決が岡山地裁で出されました。

ゴルフ場における打球事故は、被害者に重大な損害を発生させる危険があり、被害者やその遺族に対して、直接の加害者であるプレーヤーだけでなく、事故の発生原因によっては、同伴キャディやゴルフ場自体が法的責任を問われる場合もあります。

今回はゴルフ場における打球事故の民事責任について検討します。

 

岡山地裁平成25年4月5日判決

この事案は、岡山県のゴルフ場で、原告(相当年数のゴルフ歴がありスコアは90程度。以下X)と被告(約20年のゴルフ歴がありスコアは100程度。以下Y)を含む4名でのラウンド中、13番ホールにおいて、XとYの打ったティーショットが近い場所に落ちて最初にXが第二打を放ち、すぐ後にYが第二打を打ったところ、ミスショットして右前方30度の方向にボールが飛び、ボールがグリーンに乗ったかどうか確認しようと右斜め前方8~9m付近にいたXの左目を直撃し、失明させてしまったというものです。

裁判所は、Yはグリーン方向とボールにのみ気を取られ、右斜め前方にいたXや他のプレーヤーを確認することなく、グリーン方向にまっすぐに飛ぶものと過信して第二打を打った点に過失があると判断しました。

ただ、Xも、打撃行為をするYの前方に出ていた点に過失があるものと考えられ、3割の過失相殺がなされました。

また、同伴キャディ(本件ゴルフ場のキャディとして約20年間勤務していたベテラン)についても、本件事故が起こった13番ホールまでのXYの観察の結果、基本的ルールやマナーについては注意する必要はないと過信し、必要な注意喚起を怠った過失があるとしました。

また、被告キャディの雇用主である被告ゴルフ場には独自の不法行為を認定することはできないが、被告キャディの雇用者として使用者責任を負うと判断しました。

本件は控訴され、控訴審で和解が成立したということです。

 

キャディの責任

キャディは本来プレーヤーの援助者(ゴルフ規則第2章11「プレーヤーを助ける人」)であることからすると、競技においてはキャディの過失(注意義務違反)は即ちプレーヤー自身の過失となるはずで、この判決がキャディの過失によりプレーヤーではなくゴルフ場経営会社の責任を導いていることに違和感を抱く人がいるかもしれません。

しかし、欧米のようにキャディを雇う場合はプレーヤーが直接キャディと契約する形になるものと異なり、日本ではゴルフ場がキャディを雇用してプレーヤーに提供するのが通常であることから、キャディの過失はゴルフ場の使用者責任を導くことになります。

つまり、ゴルフ場の安全配慮義務違反が問題となる場面では、キャディは「競技者の援助者」にとどまらず、ゴルフ場経営会社の従業員として、競技に伴う危険を未然に防止し、競技者の安全を保持すべき注意義務があると考えられています(名古屋高裁昭和59年7月17日判決、大阪地裁平成12年10月26日判決等)。

上記岡山地裁も同様の考えに基づき、①他のプレーヤーがショットする前にはその前方に出てはならず、打球が飛ぶ範囲に同伴プレーヤーがいる場合にはショットしてはならない、②キャディはこれに反する行為をプレーヤーがしようとしている場合は注意して阻止しなければならないとしてキャディの過失を認定していますが、プレーヤーはスロープレー防止のために自分のボール地点に早く行きたがる傾向がある上、接客業であるキャディがゲストに対してあまり強く注意を繰り返すことはしにくいといった現実のプレー環境の中では、この認定はやや酷な判断だという印象もあります。

なお、キャディの注意義務は同組プレーヤー同士の事故に限らず、別組のプレーヤー同士の事故の場合でも同様に考えられています(後続プレーヤーの打球が先行プレーヤーに当たって負傷させた事故に関する東京地裁平成5年8月27日判決等)。

 

ゴルフ場の使用者責任

前述のように、従業員であるキャディに過失が認められる場合には、使用者であるゴルフ場経営会社も使用者責任を負うことになります(民法715条1項。上記岡山地裁平成25年判決、東京地裁平成5年判決等)。

なお、民法715条1項但し書きは会社の責任を免除する規定ですが、これにより会社の責任が免除されること(従業員の選任や監督に注意を充分払ったとされる場合等)は殆どなく、従業員に過失があればほぼ会社は責任を免れることができません。

ゴルフ場経営会社は、打球事故に備えて保険に入ることは勿論必要ですが、単なる競技者の援助者としてだけではなく、ゴルフ場を安全に利用させる義務を負担する会社の補助者として、日頃からキャディ教育を徹底することが大切です。

 

プレーヤーの不法行為責任

よくある打球事故としては、㋐ゴルフ場隣接ホールからの打球を受けるケース、㋑後続プレーヤーの打球が先行プレーヤーへ直撃するケース、㋒同伴プレーヤーの打球が同伴者やキャディに直撃するケースが考えられます。

こういったケースにおいて、加害プレーヤーの過失の有無の判断基準になるのが、「安全の確認」(ゴルフ規則第1章)です。

㋐のケースでは、「フォー!」という掛け声で危険を知らせていれば、原則として加害プレーヤーの過失は否定されることが多いと思われます。

裁判例でも、Xがゴルフ場の東10番ホールのバックティグラウンドに向かって歩いていたところ、隣接する東18番ホールでYが打った打球がXの目を直撃した事案で、Yはクラブや打撃方向の選択に特段の誤りなく、打球後に「フォー」と大声で警告している等の事情及び全てのスポーツ競技に共通して認められるところの「許された危険」の概念に照らして考察すると、Yの過失を認めることは相当でないと判断されています(東京地裁平成6年11月15日判決)。これは妥当な判断であると言えるでしょう。

㋑のケースでは、視認範囲内の先行プレーヤーの動向を確認せずショットを打った場合、加害プレーヤーの過失は認められやすくなります。

裁判例でも、18番ホールで第1打を打ち、その落下地点まで前進して第2打を打つ準備をしていたXが、後続組のYの第1打の打球を受け負傷した事案で、Yは、ティーショットを打つ際に通常の注意を払っていたならば前方でXがプレーをしているのを現認することができたはずなのにこれに気付かず、或いは気付いていながら無視し、その方向に向けてティーショットを打ったものであるから、Yに過失があることは明らかであると判断されました(東京地裁平成5年8月27日判決)。

 

同伴プレーヤーのケース

㋒のケースでは、加害プレーヤーが同伴プレーヤーやキャディの動静に注意せず漫然とショットを打ったような場合には注意義務違反が認められます。但し、被害者が加害プレーヤーの前に出てしまったような場合には加害プレーヤーの過失は否定ないし過失相殺されます

裁判例でも、Yがミドルホールの第2打(5番ウッド)を打つ際に、左前方20mのところに同組プレーヤーXが立っていたところ、当該打球が直撃してXに眼球破裂の傷害を負わせたと言う事案があります(東京高裁平成11年11月2日判決)。

この事案で、東京高裁は、経験を積んだプレーヤーであっても打球が予測外の方向に飛ぶことが起こりうるから、ミスショットの可能性も考慮に入れなければならないとして、5番ウッドでフルスイングしてミスショットが生じた場合に20mの距離では打球を見ていても回避することは不可能であるから、Yは第2打を打ってはならなかったのであり、過失ありと判断しました。但し、Yの左前方20mの至近距離に立っていた過失があるとして、Xにも4割の過失を認めました。

この裁判例は、Yが単に「打ちますよ」と声を掛けただけでは注意義務を尽くしたことにはならないとしています。プレーの進行上の都合から、前方や斜め前に人がいることはあり得ますが、その場合その種の声掛けをして打つことが一般的で、声を掛けられた側が退避する等の注意をすべきと考えるべきでしょう。そのような実情からすると、事例判断としてこれが妥当であったかにはやや疑問の残るところではあります。

 

ゴルフ場の工作物責任

キャディを付けないでプレーし、純粋に当該プレーヤー自身の不注意から発生した事故の場合、ゴルフ場は単にゴルフ場という場所を提供しているだけであり、打球の行方について責任を負うのはボールを打つプレーヤー自身であって、ゴルフ場は責任を負わないのが原則です。

もっとも、ゴルフ場の施設自体に問題があったといえるような場合には責任を負う可能性があります。

民法では、土地の工作物の設置・保存に瑕疵(欠陥)があり、これにより他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うとされています(民法717条1項)。

但し、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならなりません(同条項但し書)。

ゴルフ場の所有会社と運営会社とが別になっている場合、第一次的には運営会社の責任が問われますが、第二次的には所有会社の責任が問われることになるわけです。

裁判例では、アプローチ練習場とコースの中間に安全網又は障壁を設けるべきであった(京都地裁平成昭和58年12月23日判決)、また、隣接ホールからの打球事故について、東10番ホールのバックティグラウンドの後方に東18番からの打球の飛来を防止するための防護ネットを設置すべき管理義務があった(東京地裁平成6年11月15日判決)として、工作物責任に基づく会社の責任を認めた例もあります。

これらの裁判例を前提にすると、ゴルフ場はコースに併設される練習場や駐車場、隣接道路、田畑、民家等との関係にも配慮して必要な措置を施す必要があることになるでしょう。しかし場外飛球防止は必要な措置だとしても、そもそもゴルフは危険の内在する自己責任に基づくスポーツです。ゴルフ場内の飛球に対して安全配慮義務を過度に強調することは、自然環境になじまない人工物を必要以上に配しコースとしての本来あるべき姿を歪めることになりはしないかとの危惧を感じます。打球が飛んでくる可能性があることが、直ちに土地工作物の瑕疵にあたるとは到底言えません。セントアンドリュースはじめ、世界の名門コースも伝統あるコースほどティーとグリーンが近かったり、グリーンが隣接していたり、更にはグリーンを共用しているところもあります。安全配慮義務を強調する視点からは、これらの伝統的コースも瑕疵があることになりかねず、それはゴルフやゴルフコースへの無理解に基づくものと言わざるを得ません。今一度自己責任の考え方に立ち返ってゴルフ場における安全配慮義務を考え直してみる必要があるのではないでしょうか。

「ゴルフ場セミナー」2014年10月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「廃棄物の処理」

本年6月、ポテトチップス約1000袋(約30万円相当)を雑木林や畑に捨てたとして兵庫県の会社員が廃棄物処理法違反(不法投棄)の容疑で逮捕されて話題となりました。袋には人気声優のライブチケットの応募券が印刷されており、応募券欲しさに食べるつもりなく大量購入したようです。

ゴルフ場の例でも、日本女子オープンを開催した新潟県のゴルフ倶楽部が、平成20年3月にゴルフ場所有のコース隣接地内の穴に紙くずやタイヤ等のごみ約1・25トンを埋めたとして廃棄物処理法違反で逮捕され、翌年9月、ゴルフ場を経営する会社と不法投棄に関わった建設会社及びその関係者に対して有罪判決(ゴルフ場経営会社には罰金300万円、元支配人には懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円)が下されたことは記憶に新しいと思います。

また、平成17年には北海道のゴルフ場で敷地内に農薬の空き容器などを捨てていたことが判明し、廃棄物処理法違反でゴルフ場経営会社に罰金120万円、元総支配人に懲役1年、執行猶予3年等の判決が下されています。

ゴルフ場の運営に伴って、伐木・抜根、刈った芝生、枯葉、レストランの生ゴミ等様々な廃棄物が生じると思います。これらの廃棄物を、ゴルフ場の用地内で焼却したり埋め立てたりしてよいのでしょうか。

今回は廃棄物の適切な処理と産廃物等の不適切な処理に伴う土壌汚染について検討します。

 

廃棄物とは

廃棄物とは、いわゆる「ごみ」だけでなく、自分で利用したり他人に有償で売却できないために不要となった固形状又は液状のもの全てを言います。

廃棄物は「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類されます。一般廃棄物はさらに家庭から排出される家庭廃棄物と会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物に大別されます。

産業廃棄物は不燃ごみ、事業系一般廃棄物は可燃ごみをイメージして貰えばよいと思います。

詳しくは後述しますが、産業廃棄物は産業廃棄物処理業者が産業廃棄物処理施設に運んで処理し、残渣は産業廃棄物最終処分場で処理されます。事業系一般廃棄物は一般廃棄物処理業者又は排出業者が市区町村のごみ処理施設に運んで処理し、焼却灰は各市区町村の廃棄物広域処分場で処理されます。

 

産業廃棄物の処理

「産業廃棄物」とは、事業活動で発生するビニール類・ペットボトル等のプラスチック製品や缶・アルミホイル等の金属くず等で法律で定めるものです。使用済みのプラスチック製のボールペンや空缶も、事業活動で発生した物である限り産業廃棄物になります。

産業廃棄物の処理については、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任で適正に処理する」という基本原則があります(廃棄物の処理及び清掃に関する法律11条。以下「廃棄物処理法」)。

とは言え、事業者自ら法律に定める処理基準に従って「保管、収集運搬、処分」することは場所や人手の関係から通常困難です。

そこで、法律で決められた委託基準に従って、都道府県等の許可を受けた産業廃棄物処理業者と処理委託契約書を事前に締結し、産業廃棄物管理票(マニフェスト)を準備する等、適正な方法で処理する必要があります。

 

一般廃棄物の処理

「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物全てを指し、主に家庭から出てきた「ごみ」やオフィスから出る紙くず等です。例えば古くなったゴルフ場のパンフレットやレストランの生ゴミは一般廃棄物です。伐木・伐根、芝生、枯葉等もゴルフ場の場合には一般廃棄物になります。

会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物は家庭廃棄物と異なり市区町村では収集しません。自ら各市区町村のごみ処理施設に持ち込むか、市区町村から許可を受けた一般廃棄物処理業者等に収集運搬を委託して処理して貰います(具体的な方法は廃棄物が発生した区域を管轄している各市区町村により異なるため、各市区町村の清掃担当部署のホームページや電話等で確認して下さい)。

従来、ゴルフ場から出た刈った芝草や枯葉等を燃やしたり土中に埋めたりしたことがあったかもしれませんが、これらは一般廃棄物にあたるので、今の法律上は適法な処理設備を用いずに燃やしたり埋め立てたりすることは、生活環境保全の観点から、たとえ自社所有地内であっても違法となるので注意が必要です。

これに対し、芝草や枯葉、枯枝を堆肥化・チップ化して再利用する場合には廃棄物(=不要になった物)には該当せず、廃棄物処理法違反にはならないと考えられます。このような再利用は焼却ごみの削減、資源の有効活用の観点からも望ましいことだと思われます。

ちなみに事業者ではない一般家庭でも、適法な焼却設備を用いずに野外で廃棄物を燃やすことは原則として禁止されます(廃棄物処理法16条の2)。煙や悪臭等が近所迷惑となり、火災の原因、ダイオキシン類や有害物質の発生原因となる可能性があるからです。庭先での小規模な落ち葉たき程度であれば、周辺環境に影響のない範囲で例外的に許されますが(廃棄物処理法16条の2第3号、政令14条)、生活環境上支障を与え、苦情等のある場合は、改善命令や各種行政指導の対象となりますので充分注意が必要です。

このような廃棄物の不法焼却や不法投棄をすると5年以下の懲役かつ/又は1000万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。法人の代表者や従業員等が不法投棄等をした場合、行為をした者はもちろん、法人にも3億円以下の罰金が科されます。未遂であっても同様です。

 

放射能汚染物質の場合

平成23年3月の原子力発電所事故により放出された放射性物質で汚染された廃棄物の処理については、基本的に国や地方公共団体、東京電力等の役割になります。

福島県内の汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物及び事故由来放射性物質の放射能濃度が8,000 ベクレル/kgを超えた廃棄物(特定廃棄物)の処理は国が行います。

特定廃棄物以外の廃棄物については廃棄物処理法の規定が適用されますが、東日本の一定のエリア(青森、秋田を除く東北4県、関東1都6県、新潟県)の特定の施設(水道施設や廃棄物処理施設等)の廃棄物等で、放射能濃度が8,000 ベクレル/kg以下の廃棄物は、「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」とされ、通常よりも厳しい基準で処理されます。

このように廃棄物処理施設等で放射能濃度により適切な処理を施す枠組みとなっており、ゴルフ場等の一般事業者に廃棄物の汚染状態の調査・報告の義務までは課せられていません。

もっとも、自治体の担当者によると、自主的に放射線量を測定する等して芝草や枯葉等の廃棄物が放射能に汚染されたことが判明した場合には、廃棄物を処理業者や処理施設に引き渡す際にその点を申告して貰いたいということです。

 

農薬による土壌汚染

廃棄物の不適切な処理は土壌汚染にもつながります。

さらにゴルフ場においては、芝生や木など多くの植物に対してさまざまな農薬が使用されています。不適切な農薬を過剰に使用すれば、大気や土壌、地下水が汚染されてしまい、プレイヤー、従業員、周辺住民に対して深刻な影響を及ぼします。そこで、ゴルフ場の運営にあたっては農薬の適切な使用が求められます。

特に平成の初めのバブル時代は、ゴルフ場が多く造成され、農薬問題にも関心が集まっていました。

平成2年5月には、当時の環境庁が「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針について」という水質保全局長通達を出し、「人の健康の保護に関する視点を考慮」して、ゴルフ場からの排出水中の農薬濃度の上限(指針値)を定めました。その後、対象農薬と数値の改定が必要に応じて行われ、日本ゴルフ場経営者協会(NGK)のホームページでも告知がなされています。

また、ゴルフ場において農薬を使用しようとする者は、毎年度、使用しようとする最初の日までに、農薬使用計画書を農林水産大臣に提出すべきこととされています(「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年農林水産省・環境省令第5号)。

このような取組みの成果もあり、平成25年10月の環境省発表によれば、平成24年度に全国555か所のゴルフ場で環境省の指針に基づく水質調査を行ったところ、指針値を超過する検体は一つもありませんでした。

 

土壌汚染対策法

土壌汚染対策法は、主として、すでに使用が廃止された工場敷地等を調査し、汚染があった場合には土地所有者や汚染者に除去させるという法律です。

しかし、現に使用されているゴルフ場用地であっても、有害物質による汚染で人の健康に係る被害が生ずるおそれがある場合には、汚染調査の対象となります。調査の結果、汚染の程度が一定の基準を超えていることが判明すると、都道府県知事によって汚染区域として指定されます。

都道府県知事は、汚染された土地の所有者や管理者、汚染者等に汚染の除去を命じることになりますが、汚染除去の措置命令に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

そして、指定された土地の汚染が除去されて区域指定が解除されるまで、指定区域台帳に記載されます。指定区域台帳は一般に公開されますので、ゴルフ場用地が汚染区域として指定されるようなことがあると、風評被害で来場者が激減し、ゴルフ場の運営上極めて深刻な悪影響が生じるでしょう。

ゴルフ場における土壌汚染は、上記のような廃棄物の不適切な処理や農薬の使用によって生じる可能性があります。土壌汚染に対する認識不足から重大な問題を生じさせないよう、ゴルフ場においては、従業員の一人一人が廃棄物の問題や農薬の問題など、環境法令の基本部分について理解しておくことが大切です。

 

不法投棄をされたら

ゴルフ場は広大な敷地を有しています。特に山間部のゴルフ場は、夜間や早朝であれば不法投棄をしても人目に付きにくいため、不法投棄の格好の場所となり、被害に遭うことが多いようです。

不法投棄をした者がわからなかったり、その者が倒産している等、不法投棄者に対する責任追及が困難な場合であっても、ゴルフ場は土地所有者として、自らの負担で廃棄物を処理せざるを得ません。土壌汚染対策法では原因者が他にあっても、土地所有者は土壌の汚染除去をすることが法律上義務付けられています。廃棄物処理や土壌汚染除去には多額の費用がかかるため、ゴルフ場にとっては非常に重い負担になります。

このような被害が生じた場合に備え、立法的な手当てもある程度はなされています。不法投棄については、産業廃棄物適正処理推進センターが産業廃棄物の不法投棄に対する原状回復支援事業等を行っており、原状回復に要する事業費の4分の3を助成する等の支援を行っています。土壌汚染についても財団法人日本環境協会が同様の支援を行っています。

「ゴルフ場セミナー」2014年9月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「時間外労働」

本年3月、神戸市のパブリックゴルフ場の経営を受託している会社とゴルフ場の元総支配人及び支配人が、男性事務職員に労使協定を超える違法な時間外労働をさせたとして、西宮労働基準監督署から神戸地検に書類送検されました。男性(当時45歳)は平成24年11月、業務中に急性心停止で死亡しました。

会社は従業員と1日4時間、1か月40時間までの時間外労働が可能な協定を結んでいましたが、この男性は同年5〜9月、1か月に62時間から77時間の時間外労働をしていました。他にも数人の従業員に協定を超えた時間外労働をさせていたようです。

労働時間と健康管理は大きな社会問題となっており、平成23年12月に厚生労働省が新たに策定した「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」によると、うつ病などの精神障害を発病する直前の1か月に概ね160時間を超えるような時間外労働があると、これだけで労災認定される可能性が高いとされています。

労働基準法は労働条件の最低基準を定めた行政取締法規であり違反すると罰則が科せられます。

罰則の対象となるのは、違反行為を行った「使用者」ですが、これには「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」が含まれ、経営者や取締役といった個人だけが罰せられるのではなく、事業主である法人そのものも罰せられます(いわゆる「両罰規程」)。

冒頭の例で違反が確定すると、会社には30万円以下の罰金、総支配人等には6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という厳しい罰則が科せられます。

今回は労働時間に関する法規制について検討します。

 

法定労働時間

労働基準法では、1日8時間、週40時間という法定労働時間や、週1日(又は4週で4日)の法定休日が定められています。使用者は原則として法定の労働時間を超えて労働者を働かせたり休日労働を命じることはできません。

なお、一部の業種で、常時10人未満の労働者を使用する事業場(特例措置対象事業場)では、週の法定労働時間が44時間とする特例を認めています。ゴルフ場も接客娯楽業としてこれに含まれます。

但し、業務の必要上、法定労働時間を超えた労働等を命じる必要が生じる場合も少なくありません。

この場合、使用者は、①予め事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその組合、それがない場合には労働者の過半数を代表する者との間で、時間外(休日)労働についての書面による協定を締結し、②協定内容を就業規則等に明記するとともに、③労働基準監督署長に届け出た場合、労働者に業務命令として法定労働時間を超える労働や休日労働を命じることができます。

この労使の協定は、労働基準法第36条に基づくことから三六協定(さぶろく協定)と呼ばれます。

こうした手続きを経て行われる時間外労働や休日労働の業務命令の場合、労働者は正当な理由がない限り、業務命令を拒否することはできません。

 

時間外労働と割増賃金

就業規則や労働契約に基づく所定労働時間や労働基準法に基づく法定労働時間を超えて労働させた場合、時間外労働に対する次のような賃金の支払いが必要です。

① 時間外割増賃金

法定労働時間(特例措置対象事業場を除き、1日8時間、1周40時間)を超えて労働させた場合は、その超えた労働時間に応じて、通常の賃金(基礎単価)に割り増しをした賃金を支払う必要があります(割増率は基礎単価の25%以上)。

但し、月60時間を超えた時間外労働に対しては、その超えた労働時間に対して50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

なお、所定労働時間(就業規則や労働契約などで定めた労働時間)を超えるが法定労働時間を超えない労働(法定内残業)の場合は、その所定労働時間を超え法定労働時間の範囲内の労働時間に対しては、就業規則や労働契約などで割増賃金を支払う旨の定めがある場合を除き、割増賃金ではなく、その超えた労働時間に応じて通常(割増しない)賃金を支払えばよいとされています。

② 休日割増賃金

1週間に1日又は4週間に4日の休日(法定休日)に労働させた場合、その労働時間に対して割増賃金を支払う必要があります(割増率は基礎単価の35%以上)。

③ 深夜割増賃金

深夜(午後10時から翌日午前5時まで)に労働させた場合、この深夜の時間帯の労働時間に応じて割増賃金の支払いが必要です(割増率は基礎単価の25%以上)。

実際には、時間外労働や休日労働をさせた場合、深夜労働と重複することも多く、その場合には割増率は加算されます。例えば、時間外労働で深夜労働の場合は、時間外+深夜で25%以上 + 25%以上 = 50%以上、休日労働で深夜労働の場合は、休日+深夜で35%以上 + 25%以上 = 60%以上の割増が必要となります。

 

手待時間、仮眠時間

では、労働時間に含まれる時間とはどのようなものでしょうか。休憩時間や着替えの時間等は含まれるのでしょうか。

労働時間については、一般に「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と解されています。

例えば、ゴルフ場のコース管理課では、日の出から作業し午後プレー終了後再び作業をし、拘束時間が14、5時間に及ぶようなケースもあると思います。この場合、社内に仮眠室や休憩室等の設備がある等、実際の作業時間の合間に使用者の指揮命令から解放される時間が確保されている状況が認められれば、この時間は休憩時間であって労働時間ではないと言えると思われます。なお、労働基準法では坑内労働以外に拘束時間の規定はないので、拘束時間が長時間に及んでも法定の休憩時間が与えられていれば(6時間超8時間以下→45分以上の休憩。8時間超→1時間以上の休憩)、労働基準法違反にはなりません。

一方、ゴルフ場の例ではありませんが、ビル管理会社の従業員が管理・警備業務の途中に与えられる夜間の仮眠時間も、仮眠場所が制約されることや、仮眠中も突発事態への対応を義務づけられていることを理由に、労働時間に当たるとする判例があります(大星ビル管理事件・最高裁第一小法廷平成14年2月28日判決等)。

また、実作業に入る前や作業終了後の更衣時間については、最高裁は、使用者が造船所の労働者に事業所内での作業服等の着脱を義務づけていた事案において、就業規則等の定めにかかわらず、そうした更衣時間は労働時間に当たると判断しました(三菱重工業長崎造船所事件・最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決)。

但し、最高裁は、そうした更衣に要する時間も「社会通念上必要と認められるものである限り」労働時間に当たるとして一定の限定を付しており、例えばゴルフ場の受付事務職の制服についての更衣時間に関して、この判決の射程距離がどこまで及ぶかは必ずしも明らかではありません。

 

変形労働時間制

変形労働時間制とは、一定の単位期間について(1週間、1か月、1年)、週あたりの平均労働時間が週法定労働時間の枠内に収まっていれば、1週または1日の法定労働時間の規制を解除することを認める制度です。

この制度は、季節により繁閑が分かれているゴルフ場などでも利用できる制度です。例えば、積雪のため冬期はクローズするゴルフ場では、1年単位の変形労働時間制を採用し、繁忙期には長い労働時間を設定する等、年間を通して週平均40時間を達成する範囲で休日や労働時間を弾力的に設定することができます。

単位期間の長短により弾力化の程度や労働者に与える影響が異なるために、単位期間によりそれぞれ異なる要件が設けられていますが、いずれの場合でも労使協定又は就業規則等により制度の採用を明らかにするとともに、労働基準監督署長への届出が必要です。

 

年次有給休暇

年次有給休暇の日数は最低10日で、その後、継続勤務1年ごとに、当初の6か月以降の継続勤務2年目までは1労働日ずつ、3年目以降は2労働日ずつ加算され、20日が法律上要求される上限となります。パートタイム労働者については、その年の所定労働日数に比例した日数の年休が付与されます。

年次有給休暇権の発生要件は、①労働者が6か月継続勤務したことと、②初年度は6か月、2年目以降は1年の勤務期間について全労働日の8割以上出勤したことです。

年休の取得に際して使用者の承認を得ることは法律上は必要ではありません(林野庁白石営林署事件・最高裁第二小法廷昭和48年3月2日判決)。

もっとも、使用者は、それにより事業の正常な運営が妨げられる場合には時季変更権を行使できます。時季変更権の行使の適否は、事業の内容、規模、労働者の担当業務、事業活動の繁閑、予定された年休日数、他の労働者の休暇との調整等様々な要因を考慮して判断しますが、使用者は労働者の希望が実現できるように配慮を行うことが求められます。

 

労働基準法に違反した場合

法定労働時間や法定休憩を守らなかった、法定休日を与えなかった、割増賃金を支払わなかった、年次有給休暇を付与しなかった場合等には、個人については6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、法人については30万円以下の罰金に科せられる可能性があります。

労働者から労働基準監督署(労基署)に対して法違反の申告(被害届)がなされた場合、労基署の監督官により事業場(会社、建設現場等)の立入検査が実施され、タイムカードやパソコン、入退館記録等を調査してタイムカードの打刻の修正や打刻後の残業がないか等を調べたり、賃金台帳その他の労務関係書類や安全衛生管理の状況が調査されます。

その結果労働基準法などの法律違反や要改善点が見つかった場合は、是正勧告や指導が行われ、法令違反ではないが改善が必要と判断された項目については指導票が交付され、法令違反の項目についてはその違反項目と是正期日が書かれた是正勧告書が交付されます。

指導や是正勧告は行政指導であり法的強制力はなく改善するかどうかは会社の任意です。

しかし、是正勧告に対して不誠実な対応、無視、或いは虚偽の報告などをすれば、冒頭の例のように書類送検の手続を取られる場合もあります。指導や勧告がなされた場合には、その指導を真摯に受け止め、改善を行い、改善状況を報告する等真摯な対応が必要です。

なお、事業主には業種や規模を問わず健康診断を実施する義務があり、違反が認定された場合には50万円以内の罰金となる可能性もあります。冒頭の例のような深刻な事態とならないよう、労働時間の遵守と共に従業員の健康への配慮が必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年8月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「役員選任決議」

平成20年12月の新たな公益法人制度の施行により、いわゆる関東七倶楽部始め全国29の社団法人制ゴルフ倶楽部は、一般社団法人へと移行しました。平成14年4月にスタートした中間法人制度も廃止され、中間法人も一般社団法人に衣替えしています。また、法人格のない任意団体のゴルフ倶楽部も多く存在しますが、団体名で契約の締結や登記ができない等の制限のあった権利能力なき社団も、本制度施行に伴い一般社団法人として法人格を取得することができることになりました。

一般社団法人への移行認可を受けるためには定款を一般社団法人法等の法令に適合させることが必要です。一般社団法人制の名古屋市内のAゴルフ倶楽部(元は公益法人)も、新定款を新法令に適合させる作業の中で、従来は「会員」の中から理事を選ぶことになっており、法人会員の「登録会員」も「会員」なので理事に選出し得たところ、「社員」の中から理事を選出する規定に変更しました。ところが理事会が法人会員の登録会員(これは「会員」であっても「社員」ではありません)も理事・監事に選任できるように定款変更し、登録会員の中からも新理事を選任したため、社団法人の社員が理事選任決議の取消と定款変更の無効を訴えた事案で、名古屋地裁は、平成26年4月18日、理事選任を取消す判決を下しました。

近年、スポーツ団体の役員選任に関する争いが相次いでおり、平成23年8月には、東京地裁が日本スキー連盟の会長理事選任について無効であるとの判断を下しています(東京地裁平成23年8月31日判決)。日本アイスホッケー連盟においても、平成25年9月に行われた連盟の役員改選手続に違反があったとして、一部評議員が同連盟を相手取り評議員会の決議無効確認を求める訴訟を起こし、東京地裁で係争中です(平成26年5月現在)。

今回は、名古屋地裁の事案を検証した上で、ゴルフ場経営会社の役員の選任手続について検討します。

 

名古屋地裁の事案の概要

被告は昭和28年に民法上の公益社団法人として設立された後、平成25年3月に一般社団法人への移行認可を受け、4月に一般社団法人として設立されました。

平成20年の一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」)施行に伴い、被告は一般社団法人への移行認可を受けることになり、定款を一般社団法人法等に適合させることが必要となりました。

この定款変更の作業の中で、被告は、平成 24年度定期会員総会において、理事等の役員を「会員」から選任するという従来の定款を、「社員」から選任するという規定(定款17条1項)へ変更する旨の決議等をしました(以下「本件定款変更決議」)。

この際、「倶楽部運営に影響を及ぼすことのない範囲内の表現等に関する軽微な修正が必要となった場合には、理事会の決議により修正できることとする」旨の付帯条件(以下「本件付帯条件」)も決議されました。

平成24年11月、被告は理事会を開催し、定款17条1項について、本件付帯条件で許容された修正の範囲内の修正であるとして、理事等の役員は社員総会において優先的施設利用権を有する「会員」より選出すると変更する旨の決議をしました(以下「本件理事会変更決議」)。

なお、被告においては、法人が社員となることを認めており(法人社員)、法人社員が指定した個人を登録会員として、優先的施設利用権を行使することを認める制度を採用しています。つまり「社員」は法人であって、登録会員は「会員」であっても「社員」ではないことになります。

被告は、平成25年5月、平成25年度定期社員総会を開催し、10名の者を理事に選任する旨の決議をしましたが(以下「本件理事選任決議」)、このうち6名は被告の社員ではなく、被告の法人社員の登録会員でした。

平成25年6月、原告らは訴訟を提起しました。

 

定款変更無効確認請求について

名古屋地裁は、定款の変更の無効確認を求める部分については概ね以下のよう述べて原告の訴えを不適法として却下しました。

一般社団法人の定款変更は組織の基礎の変更であって慎重な判断を要する事項であることから、社員総会の特別決議によるものとされている。また社員総会決議の瑕疵については、多数の利害関係人の法律関係に影響を及ぼすものであり画一的に確定されるべきとの要請がある。

よって一般社団法人の定款変更の瑕疵については、定款変更に係る社員総会決議の瑕疵を争う訴訟として、決議取消訴訟、決議不存在確認訴訟及び決議無効確認訴訟によって争うべきものであって、法定の訴訟類型以外の無効の一般原則による訴えによって争うことは許されず、訴えは不適法と解すべきである。

 

理事選任決議の取消について

一方、理事選任決議については、概ね以下のとおり述べて、取消事由があると判断しました。

㋐本件理事会変更決議による定款17条1項の変更が、本件付帯条件で許容された修正の範囲を超えるかどうかが問題となる。

㋑文理上、法人の社員とは法人の構成員を示すものであって、構成員でない施設利用権者である会員を含むとは解されず、社員と施設利用権者である会員とを峻別することが本件定款変更決議の主眼の1つとされたこと等からすると、定款17条1項の「社員」に登録会員を含む趣旨と考えることはできない。

㋒本件理事会変更決議は、社員ではない会員から理事等を選任することを許していない定款 17 条 1 項を、登録会員からも選任することを許す旨の定款へと変更したもので、被告の理事・監事の被選任資格者の範囲を変更したものである。

㋓理事・監事の被選任資格者の範囲の変更は組織・運営に影響を及ぼす変更で、本件付帯条件で許容された修正の範囲を逸脱した変更である。

㋔本件理事会変更決議による定款変更は、本来必要な社員総会決議による定款変更手続を欠いているから、本件理事選任決議は定款 17 条 1 項に拠るべきであった。

㋕したがって、社員でない者を理事に選任した本件理事選任決議には、決議内容が定款17条1項に違反するものとして取消事由がある。

 

定款変更手続

名古屋地裁の事案では、本件付帯条件で許される修正の範囲を超えた変更なので、原則どおり定款変更の手続が必要であるとされました。

定款とは、社団法人(会社・公益法人・協同組合等)及び財団法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行等についての基本規則そのもの(及びその内容を紙や電子媒体に記録したもの)です。

定款は社団法人の根本規則なので、どの社団法人においても、定款変更には普通よりも加重された決議要件が課されています。

株式会社の場合、原則として株主総会の特別決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議)が必要です。

一方、一般社団法人においては、社員総会において、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合)以上の賛成が必要です。

 

役員の選任方法

ゴルフ場を経営する会社には、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、任意団体の場合等がありますが、それぞれの役員の選任方法については法律上どのように規定されているのでしょうか。

株式会社の場合、取締役及び監査役(以下「役員」)は株主総会で選任されます。ただし、株主総会の決議により当然に役員になるのではなく、株主総会で役員が選任された後、会社と役員との委任契約により取締役に就任します。

選任は株主総会の普通決議により行われます。つまり、総株主の議決権の過半数(定款で引下げ可)を有する株主が出席し、その議決権の過半数(定款で引上げ可)で決議されます。しかし、定款において定足数を緩和している場合であっても、役員選任の場合は総株主の議決権の3分の1以上の株式を有する株主の出席が必要です。

また、定款では、必要に応じて、役員の選任方法として通常決議とは異なる議決方法を定めたり、また理事になることのできる条件を定めたりすることができます。その法人と関わりのない人の中からも選任できます。この場合、定款で定めた条件に従わないと名古屋地裁の事案のように取消原因があるとされかねませんので注意が必要です。

旧商法では株式会社はその規模にかかわらず、3人以上の取締役が必要でした。

これに対し会社法では、取締役会を設置する場合は、3人以上の取締役を置く必要がありますが、取締役会を設置しない場合には、1人でかまいません。ただし、会社法の規定に反しない限度で、定款で取締役の員数の最低限度又は最高限度、或いは最低限度及び最高限度を定めることはできます。

会社は役員を選任したときにその氏名を登記しなければなりません。就任の日から2週間以内に本店の所在地で、就任登記をする必要があります。

なお、監査役を置く必要のある会社は、取締役会設置会社及び会計監査人設置会社(いずれも委員会設置会社を除く)です。

 

一般社団・財団法人、任意団体の場合

一般社団法人の理事の選任は、原則として、社員総会の通常決議(一般的な議決方法として定めた方法)で行うこととなっています。

ですから、定款に社員総会の決議について定めている場合にはその方法で、定めていない場合には、過半数出席・過半数賛成で選任することとなります。

また、定款では、必要に応じて、理事の選任方法として通常決議とは異なる議決方法を定めたり、また理事になることのできる条件を定めたりすることができます。その法人と関わりのない人の中からも選任できます。もっとも理事はゴルフ倶楽部のメンバーの代表者という性格があるため、あまり外部から理事を招くという実例は多くないと思われます。

なお、理事は忠実に職務を執行する義務があり、委任状により理事会に出席することは認めらないことに注意が必要です。

なお、一般財団法人の理事・監事の選任は、原則として、評議員会の通常決議(一般的な議決方法として定めた方法)で行います(社員総会を評議員会と読み替える以外は一般社団法人とほぼ同様です)。また、評議員の選任方法は設立者が定款で定めます。

ゴルフ倶楽部が単なる任意団体の場合には、役員をどう決めるかは団体内部の自治によるので、例えば代表者が役員を任命する等代表者の裁量で役員を選任することも認められます。もっとも、㋐団体としての組織を備え、㋑多数決の原理が行われ、㋒構成員の変更に関わらず団体が存続し、㋓その組織において代表の方法・総会の運営・団体としての重要な点が確定している場合に権利能力なき社団といえることになるので、多数決により役員を選任しないと権利能力なき社団とは認められない可能性が高いことになります。

「ゴルフ場セミナー」2014年7月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「暴力団排除~2つの最高裁決定~」

本年3月、同一の裁判官で構成される最高裁小法廷が、同一の日に、似たような事件で、一方は無罪、他方は有罪という判断を下しました(最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=無罪、最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=有罪)。

これは、身分を隠した暴力団関係者が、ゴルフ場で正規の料金を支払い普通にプレーすることが詐欺罪になるかどうかが争われた事案です。

暴力団員のゴルフ場利用については、詐欺罪として全国の警察が摘発を行っており、3月も山形県警が強制捜査に踏み切りました。しかし暴力団員によるゴルフ場利用の申し込みは詐欺罪の実行行為としての「欺罔行為」には該当せず、詐欺罪は成立しないとの最高裁の判断が下されたわけです。他方、類似の別の事案では最高裁は詐欺罪が成立すると判断しました 。

利用客の中に暴力団関係者がいると安全快適なプレー環境が確保できず、暴力団員が利用しているという評判はゴルフ場の社会的信用や格付け等を損ない、利用客の減少等業績にも多大な影響が及ぶ恐れがあります。「利益供与」に該当してコンプライアンス違反という事態にもなりかねません(本誌平成25年11月号参照)。

今回は2つの最高裁決定を題材にゴルフ場の暴力団対策を検討します。

 

無罪決定の事案

結論の違いを導いたそれぞれの事案を少し詳しくみてみましょう。無罪決定の事案は以下のようなものでした(決定とは裁判所の裁判のうち判決以外のものをいいます)。

被告人Xは、暴力団員でしたが、同じ組の副会長らと共に、平成23年8月、予約した宮崎県内のA倶楽部に行き、フロントにおいて、ビジター利用客として、備付けの「ビジター受付表」に氏名、住所、電話番号等を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込みました。

受付表には暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられておらず、暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人らが自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもありませんでした。

被告人らは、ゴルフをするなどして同倶楽部の施設を利用した後、それぞれ自己の利用料金等を支払いました。

なお、A倶楽部は、会員制のゴルフ場ですが、会員又はその同伴者、紹介者に限定することなく、ビジター利用客のみによる施設利用を認めていました。

 

無罪の最高裁決定

このような事実に対して、最高裁は、概ね次のように判断しました。

確かにA倶楽部は、ゴルフ場利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたし、九州ゴルフ場連盟、宮崎県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上、クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。

しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。また、A倶楽部と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人らも同様の経験をしていた。つまり、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。

このような事実関係を前提とすると、Xが暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は、申込者がゴルフ場の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると、本件におけるXらによるA倶楽部の施設利用申込行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。

 

有罪決定の事案

これに対して有罪決定の事案は、次のようなものでした。

被告人Yは、平成22年10、ゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止している長野県内のB倶楽部において、B倶楽部の会員Zと共謀して、真実は被告人が暴力団員であるのにそれを隠して施設利用を申し込みました。

B倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係があるか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨の誓約書に署名押印させ提出させていました。利用約款でも暴力団員の入場及び施設利用を禁止していました。

Yは、暴力団員であり、長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており、利用を拒絶される可能性があることを認識していましたが、Zから誘われ、同伴者としてB倶楽部を訪れました。

B倶楽部のゴルフ場利用約款では、他のゴルフ場と同様、利用客は全てフロントにおいて、「ご署名簿」に自署して施設利用を申し込むこととされていました。しかしZは、施設利用の申込みに際し、Yが暴力団員であることが発覚するのを恐れ、その事実を申告せず、受付従業人に代署を依頼してYがフロントに赴き署名をしないで済むようにしました。

なお、Zは、申込みの際、同倶楽部従業員から同伴者に暴力団関係者がいないか改めて確認されたことはなく、自ら同伴者に暴力団関係者はいない旨虚偽の申出をしたこともありませんでした。他方、被告人は、Zに施設利用の申込みを任せており、結局フロントに立ち寄ることなくプレーを開始しました。

また、被告人の施設利用料金等は翌日Zがクレジットカードで精算しています。

 

有罪の最高裁決定

このような事実に対して最高裁は概ね次のように判断しました。

B倶楽部は、①ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し、②入会審査に当たり暴力団関係者を同伴、紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていた他、③長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいた。

本件においても、Yが暴力団員であることが分かれば、その施設利用に応じることはなかった。

このような事実関係からすれば、入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるZが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している。

加えて、利用客が暴力団関係者かどうかは、B倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、施設利用をした行為は詐欺罪を構成することは明らかである。

 

ゴルフ場の対応

このように、両事例の結論が分かれたのは、ゴルフ場が暴力団関係者の施設利用を拒絶していることを申込者自身が認識していたかどうかという点にあろうと思われます。地域の暴力団排除活動や誓約書の有無等から、B倶楽部の申込者(B倶楽部の会員で紹介者、共犯Z)にはこの認識があったと評価されたわけですが、利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置が徹底されていなかったA倶楽部では、申込者(被告人X)にはこの認識がないと判断されたわけです。

そこで、入会時に「私は、暴力団等とは一切関係ありません」と自分自身が暴力団関係者ではないという点だけでなく、「暴団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」という点まで記載した誓約書を提出させることが必須でしょう。

会則や約款等に同様の暴力団排除条項を設けたりクラブ内の掲示や看板、HP等で暴力団関係者排除の広告をしたり、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。

過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。

また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいても、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。

また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取ることも必須です。

 

警察との連携

さらに警察との連携も重要です。

警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」警察庁HPwww.npa.go.jp)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。

来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。

この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広く詳細に規定することも重要です。

受付段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。

この場合、約款等に暴力団関係者の施設利用を制限する旨及びプレーヤー側の事情によるプレー中断の際はプレーフィやキャディフィを返還しない旨の規定があれば、暴力団関係者のプレーを途中でやめてもらう場合でもプレーヤー側の事情によるものとして、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度(ハーフかラウンド)に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を払えといった要求に応じる必要はありません。

「ゴルフ場セミナー」2014年6月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場と太陽光発電」

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、我が国のエネルギー政策は大きな転換点を迎えました。注目されているのは太陽光や風力等の枯渇することのない再生可能エネルギーを用いた発電です。

平成24年7月には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「措置法」)が制定され、個人や事業者が再生可能エネルギーを利用して発電を行うことが容易になる制度が整備されました(固定価格買取制度)。

広大な敷地を有するゴルフ場用地は、巨大ソーラーパネルを多数設置する太陽光発電の場所として適していると考えられるため、ゴルフ場用地を利用して大規模太陽光発電を建設する企業も、外資系を含め続々と現れてきています(報道によると昨年9月時点で37か所)。

 

ゴルフ場の閉鎖と会員の権利

ゴルフ場事業は一般的には収益性がそう高い業種ではないと言われてはいますが、広大な敷地という資産を有しており、この資産を生かせる業種への転換を図りたいという事業者の発想は理解できるところです。

しかしパブリック制のゴルフ場であればともかく、会員制ゴルフ倶楽部の場合には多数の利害関係者を有する業種であることから、クラブを解散しての業種転換が無制限に認められるものでないのは言うまでもありません。

ゴルフ倶楽部の会則等には解散規定の置かれているものがほとんどであろうと思われます。この場合会則等は会員契約の内容となることから、その要件該当性を判断することになりますが、仮に「会社はいつでも本倶楽部を解散することができる」といった規定がある場合であっても、無制限に解散が認められるわけではありません。

裁判例においても、会則に「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」に解散できるという定めのある預託金制ゴルフ倶楽部で、事業者が経営悪化のためゴルフ場を閉鎖したため、会員が優先的施設利用権の侵害である等として事業者に対して損害賠償請求をした事案において、東京高裁平成12年8月30日判決は、

①「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」とは、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散を経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合をいう。

②その判断にあたっては、ゴルフ場経営における会社運営上の事情のみならず、会員が受ける不利益の程度及びその不利益をできるだけ少なくする観点からのゴルフ場経営会側の配慮の程度などの事情をも総合して判断する必要がある。

とし、このまま事業を継続すればゴルフ場が破綻し会員は施設利用権のみならず預託金償還請求権も失ってしまうものとして、解散の有効性を認め、会員からの損害賠償請求を否定しました。

 

解散規定のない場合

一方、会則等に解散規定がなくても事業の継続が客観的にみて不可能で事業者に責のないやむを得ない事情に基づくような場合にまで一切解散は認められないとすることは事業者に酷を強いることになります。

例えば、同じく集団的役務提供型の契約であるスポーツクラブの会員であった者が、閉鎖により施設利用権を奪われる等の損害を受けたとして、事業者らに対し会員契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案があります。

この事案で東京地方裁判所平成10年1月22日判決は、会員契約の解除が、経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少…等により、経営の継続が困難となったために行われた等の事実関係においては、右解除はやむを得ない事情によるものであり会員契約上の債務不履行に当たらないと判断しました。

これらの裁判例を前提に考えると、今回の震災により壊滅的なダメージを受けコースの修復に膨大な費用を要する場合や、放射能等の影響により営業の継続が不可能になったような場合には、事業の継続が客観的にみて不可能であって事業者に責のないやむを得ない事情に基づくものとして、会員契約の会社側からの解除は有効であり、会員契約上の債務不履行にはあたらないと考えられます。

 

預託金の返還

もっとも、ゴルフ倶楽部を解散して事業者が会員との会員契約を解除する場合、事業者は会員に対し利用できない分に応じて年会費を返還するとともに、預託金制であれば預託金も返還する必要があります。

入会金の返還については入会金の性質と絡み争いがありますが、上記平成12年東京高裁判決は入会金不返還条項に基づいて返還しないことを有効と判断しています。

預託金の全額返還が困難であれば破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

第三者がゴルフ場用地を事業者から買い取り太陽光発電事業を行い会員との会員契約を引き継がない場合には、資産の移転が濫用的会社分割にあたり、用地の取得が詐害行為として取消される可能性もありますので注意が必要です。なお、資産の移転を会社分割により行う場合には、債権者保護のため、官報公告及び知れている債権者に対する個別の催告をする必要があります(官報公告の他時事に関する日刊新聞紙又は電子公告がなされた場合には個別の催告は不要です)。

以上に対し、第三者がゴルフ場用地を競売により取得したような場合には、会員契約の解除の問題はクリアすることができます。

 

施設利用権の侵害となる場合

では解散が認められるような事態には至っていないゴルフ場事業者が、例えば36Hから18Hに縮小したり、複数所有する一部のコースを閉鎖してメガソーラー基地を建設し、売電収入を得ようとするとき、どのような場合に会員の施設利用権の侵害になると考えるべきでしょうか。

施設利用権の意味については一般に、一般の利用者に比べて有利な条件で継続的にゴルフプレーを行うために当該ゴルフ場の施設を利用する権利であると考えられています。

施設利用権の侵害については、会員権分割や開場後の募集による会員数の増加が事業者の債務不履行を構成するかという形で裁判上問題となっています。

例えば、東京地裁平成8年2月19日判決は、東京近郊のゴルフ場の事案で、会員数が1000名に限定されており、クラブが高級なものと設定されている場合には、会員数が1000名ないしこれをそれ程大幅に上回らない範囲の数に止めることは、事業者の債務とされる場合があるとして、平成7年当時会員数が4400名に上っていたことについて事業者の債務不履行を認めました。

一方、東京地裁平成10年5月29日判決は、高級感を演出しゆとりと格調をセールスポイントにして会員権を販売した千葉県のHカントリークラブの事案において、正会員募集限度数を1180名から1800名に増加させることが直ちに本件会員権募集当時構想した本件ゴルフクラブの性質の基本的部分を破壊するものということはできないから、会員権の分割は債務不履行にあたらないと判断しています。

コースの縮小や一部コースの閉鎖の場合も、事業者が有する倶楽部経営やコース運営管理上の裁量権と会員の施設利用権の保護のバランスの観点から、パンフレット等に記載された当初の募集計画、目標とするクラブのグレード、会員が利用し得る関連会社のコースの有無、会則規定等の個別具体的事情を総合して事業者の債務の内容を判断し、会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言える場合には、事業者の債務不履行を構成し得ると考えられます。

例えば、現在のゴルフ環境と異なる古い時期の裁判例ではありますが、東京高裁昭和49年12月20日判決は、18Hのゴルフ場であれば1500名、36Hのゴルフ場であれば2500~2600名を適正会員数の1つの基準としています。コース縮小や一部ホールの閉鎖の場合もこの基準を参考にしつつ、コースのグレード等を加味した上で、実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言えるかどうかを判断することになるでしょう。

実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と判断される場合には、会員は①事業者の債務不履行を理由とした会員契約の解除だけでなく、②体力、健康増進の機会を奪われ、倶楽部ライフを通じた人間関係を侵害された等の金銭によって評価できない重大な損害が発生したとして、事業者に対する損害賠償請求をすることが考えられます。

③さらに、ゴルファーとしては、施設利用権侵害を理由とし、ゴルフ場を他に転用することの差止請求も行いたいところです。しかしながら、差止請求が認められるのは所有権が侵害される場合や、生命や健康が侵害される公害や環境汚染の場合等であって、特定の事業者に対する請求権である施設利用権によっては差止請求までは認められないのが一般です。裁判例においても一般に債権の侵害を理由とした差止請求は認められておらず(東京地裁平成12年7月18日判決等)、施設利用権侵害を理由とした差止請求は通常認められにくいと思われます。

 

従業員との関係等

ゴルフ場閉鎖や規模縮小を理由に従業員を解雇するには原則として、過去の労働判例で確立された4要件(㋐人員整理の必要性㋑解雇回避努力義務の履行㋒被解雇者選定の合理性㋓解雇手続の妥当性)を充たさなければならず慎重な対応が必要です。

なお破産手続では未払賃金のうち3か月分は財団債権として一般債権者よりも優先的に支払を受けることができます(破産法149条1項)。

会社の全財産でも未払賃金に足りない場合には、国(労働省健康福祉機構)が労働者個人からの請求によって、未払賃金の一部を事業主に代って支払う制度もあります。請求期間は裁判所の破産等の決定又は労働基準監督署長の倒産の認定があった日の翌日から2年以内、金額は原則として未払賃金総額の8割です。

ゴルフコースの地主との賃貸借契約の内容の確認も必要です。用途をゴルフ場の使用などに限定している場合には、他の用地への転用は解除事由となる可能性があります。

もっとも、賃貸借契約のような継続的契約においては、信頼関係が破壊されたと言えない等の事情のある場合には解除権の行使は制限されるという判例法理が確立されていますが、事前に地主に事情を説明し契約を巻き直すことが必要です。承諾料(相場は更地価格の5~10%)の支払を求められることもあるでしょう。

また、ゴルフ場としての営業のために取得している許認可関係についても、所轄の地方公共団体等に廃止(廃業)の届出が必要になります。取扱いは各地方公共団体によって異なるようです。

「ゴルフ場セミナー」2014年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

 

熊谷信太郎の「食品偽装」

昨年10月の某有名ホテルの公表・報道をきっかけに、全国各地のホテルや百貨店の飲食店における食品・料理の偽装・誤表示が次々と明らかになりました。ゴルフ場のレストランにおいても同様の問題が波及しており、メニュー表示とは異なる食品・料理を提供していたことを公表するゴルフ場も出てきています。

また、健康志向の高まりの中、食品のカロリーや原産地、無農薬野菜かどうか等を気にするプレーヤーも多いでしょう。さらにジュニアのプレーヤーも年々増えていますが、学校給食において乳製品アレルギーの児童がショック死するという痛ましい事件も記憶に新しいと思います。レストランのメニューにカロリーやアレルギー表示は必要ないのでしょうか。

一方この冬もノロウィルスによる食中毒が猛威を振るい、静岡や愛媛のゴルフ場のレストランにおいても集団食中毒が発生し報道されました。

今回は、ゴルフ場のレストラン運営に関わる法律問題を検討したいと思います。

 

景表法による表示規制

店頭で包装・容器に入った状態で売られている生鮮、加工食品は、①JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、②食品衛生法により、品質やアレルゲン等の表示が厳密な定義のもと義務付けられています。

また、栄養成分を表示する際の表示事項が③健康増進法に規定されています(表示自体は任意です)。

しかしながら、レストラン等外食産業におけるメニュー表示については、対面販売なのでその場で原産地等について店員に尋ねればよいとの考えからか、これらの法律による規制は及んでいません。

現行法の下では、外食におけるメニュー表示は消費者庁が所管する景表法(「不当景品類及び不当表示防止法」)により規制されます。

規制の対象は、商品・サービスを供給する事業者で、ゴルフ場も当然含まれます。規制の対象となる「表示」は、事業者が商品やサービスの提供の際に顧客を誘引するために利用するあらゆる表示であり、紙に記載されたものやインターネットによるものは勿論のこと、口頭によるものも含まれます。

 

優良誤認表示

不当表示には、①商品・サービスの品質、規格その他の内容に関する「優良誤認表示」(景表法4条1項1号)、②商品・サービスの価格その他の取引条件に関する「有利誤認表示」(同条項2号)③特定の商品・サービスについて内閣総理大臣が指定(告示)した「指定告示表示」(同条項3号)があり、メニュー表示において問題となるのは①優良誤認表示です。

景表法4条1項1号は、商品の品質や規格その他の内容が、一般消費者に対し、㋐実際のものよりも著しく優良であると示し、又は㋑事実に相違して他社の商品よりも著しく優良であると示す表示であって、㋒不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を事業者にしてはならない旨を規定しています。

表示の対象となる「品質」とは、原材料、純度、添加物、効果、効能、性能、鮮度、栄養価等を言うものとされています。「規格」とは、国等が定めた規格(JIS等)等、「その他の内容」とは、有効期限や製造方法等を言うものとされています。例えば、クルマエビと表示していたのに実際はブラックタイガーだった、九条ねぎと表示していたのに実際は長ネギだった、というようなケースです。

このような原材料そのものが異なる場合の他、天然もの100%、無添加、無農薬、有機栽培等の表示も含まれます。例えば、健康食品でアントシアニン36%含有と表示していたのに実際は1%程度に過ぎなかったというようなケースです。

なお、この規制は、消費者が誤認するものかどうかが問題とされるものであって、事業者に故意や過失があったかどうかを問いません。つまり、レストランにおいて提供したメニューが実際に用いている食材と異なっていることについて、事業者側に認識があったか否かを問わず問題となるのであって、「偽装」であろうと「誤表示」であろうと関係ない点に注意が必要です。

 

違反行為に対する措置

消費者庁長官は、景表法違反について調査を行い、違反する行為があるときは当該行為を行った事業者に対して、その誤認行為の排除、誤認表示の差止め等を命じる措置命令を発令することができ、その内容を公表することができます(景表法6条)。

措置命令においては、通常①表示が一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であることを示すものであることを自社ウェブサイト等で公示すること、②再発防止策を講じて、これを役員、従業員に周知徹底すること、③今後同様の表示を行わないことが命じられます。

措置命令に違反した者は二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処せられ(景表法15条)、事業主も三億円以下の罰金に処せられます(両罰規定、18条)。

措置命令が出された場合、これに不服があれば取消訴訟等の行政訴訟を提起することによりその効力を争うことができますが、実際に公表されてしまった後に訴訟で争い取消がなされたとしても、措置命令が公開されたことによる事業者の名誉回復を行うことは著しく困難でしょう。

なお、故意に基づく偽装表示の場合には、詐欺罪を構成する可能性もあります。事案の悪辣性の程度や社会的影響等によっては逮捕、起訴等に及ぶ可能性も否定できません。

 

排除命令の具体例

「著しく優良であると示す」表示であるか否かは、個別具体的に消費者庁が判断することであって一般化することは困難ですが、飲食店における偽装・誤表示が社会問題化したことを受けて、消費者庁のウェブサイトに排除命令の対象となった事例を掲載されており、これらが参考になります。

①「ビーフステーキ焼肉ソースランチ」等と称する料理について、牛の生肉の切り身であるかのように表示していたが、実際には牛の成型肉(牛の生肉、脂身等を人工的に結着し、形状を整えたもの)であった。

②ミシュラン2つ星のレストランにおいて、「特選前沢牛サーロインステーキ」等と記載していたが、実際には牛肉の大部分は前沢牛のものではなかった。野菜の大部分はオーガニックでなかった。

③牛の正肉の大部分が神戸ビーフではなかった。

④○○県に所在する契約農家が生産した天日により乾燥させた米を用いていない店舗が大部分であった。

⑤「霜降サーロインステーキ」等と表示された料理に用いられた牛肉は、実際には牛脂注入加工肉であった。

なお、⑤牛脂注入加工肉を焼いた料理について、消費者庁は、「霜降り」の表現を使うことは景表法上問題となるが、商品名を「ビーフステーキ」「やわらかビーフステーキ」等とし、「牛脂注入加工肉使用」「インジェクション加工肉を使用したものです」等というように、この料理の食材が牛脂注入加工肉であることを商品名と同一ポイントで商品名近くに併記する等すれば、直ちに景表法上問題となることはないという見解を示しています。

ゴルフ場のレストランにおいても、食材が不足した際にはフレッシュジュースに濃縮果汁を注ぎ足したものをフレッシュジュース(その場で果実を絞ったもの)として提供(神奈川)、新潟県産舞茸を群馬県産として提供(群馬)、牛脂注入加工肉を「ステーキセット」(岡山)、「牛ヒレステーキ」(石川)等として提供したこと等が自主的に公表されています。

ゴルフ場のレストランに対して排除命令が出された事例はまだないようですが、消費者庁は、不適切な表示が判明した場合にはこれを速やかに訂正するとともに、その期間や内容を利用者に公表する等自主的な措置を講じるよう要請しています。

 

ゴルフ場の対応

上記のとおり、実際にどのような表示が優良誤認表示にあたるかについて明確な基準がなく、ゴルフ場も対策を立てにくいと思われます。景表法の緩い法規制がホテルや百貨店における食品偽装が相次いで発覚している一因と見る向きもあります。

また、ゴルフ場の運営するレストランにおいては、あくまでゴルフが中心の来場のため、一般のレストラン等に比べ、提供される料理の味や品質に関する客の期待もそれほど大きいものではないかもしれません。

しかしながら、法律に違反するか、排除命令を受けるかどうかではなく、ゴルファー一般の意識の変化に対応してレピュテーションリスクを軽減し、またサービス向上の観点から、レストランのメニュー表示を再点検し、品質等の正確な表示を心掛ける必要があるでしょう。

なお、昨年6月、食品の表示に関し包括的一元的な制度を創設するため、食品表示に関する現行3法(JAS法、食品衛生法、健康増進法)の規定を整理・統合・拡大する「食品表示法」が公布されました(2月現在未施行)。食品表示法では、現在は任意制度となっているカロリー等の栄養成分表示も義務化が可能な枠組みとなっています。

消費者庁は、食品表示法では外食産業のメニューについてもアレルギー物質を含む食材を明記する等安全性に関する表示や産地・品質の表示を求める方向で検討しています。さらに、同法の施行は平成27年6月までと間があるので、予め上記3法のいずれかに外食のメニュー表示規制を盛り込むことも検討しています。

ゴルフ場のレストランにおいてもこれらは他人事ではありません。法改正の動向に注意しつつ、規制の有無に関わらず、人命に関わるアレルギー成分表示は勿論のこと、プレーヤーの健康増進を図るためのカロリー表示等も積極的に取り入れるべきでしょう。

 

食中毒の場合

食中毒が発生した場合、この患者を診断した医師は、24時間以内に最寄りの保健所にその旨を届け出なければならず、これに応じて保健所による調査が行われます(食品衛生法58条)。

施設調査では、患者の喫食状況の確認、残品・保存食の調査、同様の訴えの有無、提供食品・調理法の検査、従業者の健康状態、施設のふき取り検査等が行われます。

病原菌の検査には時間がかかるため、被害の状況や施設検査等を勘案し、病原物質が確定していない時点で被害拡大の防止のため、自主的に休業を求められる場合もあります。

その結果、食中毒を発生させたと認められる施設に対しては、食品衛生法6条違反として、そのほとんどに対して営業停止命令が下されます(同法55条)。期間は被害の規模にもよりますが、数日間から数週間に及ぶこともあり、無期限の営業停止処分になることもあります。

再度営業許可を得るためには、原因を特定し再発予防策を策定し、再調査等の様々な条件をクリアしなければなりません。

「ゴルフ場セミナー」2014年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「暴力団排除のための実務的方策」

平成23年10月以降全都道府県において暴力団排除条例が施行されたにも関わらず、指定暴力団のトップを含む暴力団員が詐欺の疑いで逮捕されたり、PGAの幹部が暴力団員とプレーしたことが社会問題し辞任する等、暴力団絡みの問題が後を絶ちません(本誌平成24年6月号、平成25年11月号参照)。

このため警察は暴力団排除についてゴルフ場に対し一層の協力を求めており、昨年9月には社団法人日本ゴルフ場事業協会(NGK)も加盟ゴルフ場に対しゴルフ場の利用約款等の整備を求めました。

暴力団排除条例は、暴力団が都道府県民の生活や事業活動に介入し、これを背景とした資金獲得活動によって、都道府県民等に多大な脅威を与えている現状に鑑み、都道府県民の安全かつ平穏な生活を確保し、事業活動の健全な発展に寄与することを目的として制定されています。

この条例により、ゴルフ場においても、①ゴルフコンペ・ゴルフプレーや各種取引において、相手方その他関係者が暴力団関係者でないことの確認、②暴力団関係者とのゴルフコンペやゴルフプレー、各種取引等の禁止、③暴力団排除条項の設置、④暴力団関係者への利益供与の禁止等が求められます。

これらに違反した事実が確認された場合、ゴルフ場名が公表されたり、1年以下の懲役又は50 万円以下の罰金等の制裁処置を受けることがありますので注意が必要です。

今回は暴力団排除のための実務的方策について検討します。

 

クラブへの入会の阻止

多くのゴルフクラブで、入会資格を定めて厳重な入会審査を行い、暴力団等の入会を排除していると思います。ゴルフクラブは原則としてその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は契約自由の原則からクラブにとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます(本誌平成25年12月号参照)

もっとも、無用なトラブルの発生を防ぐためには、暴力団員等の入会拒絶根拠を基準化し、入会資格制限に関する暴力団排除規定を置き、法的に暴力団を排除できる仕組みにしておくことが必須です。

この場合、暴力団の正式な構成員でなくても暴力団と密接に関係する者や企業等を広く排除するため、以下の条項例のように広くかつ詳細に規定することが必要でしょう。

【条項例】

(入会資格)

第○条 入会希望者(譲受人予定者。名義変更予定者・相続人を含む)はが次の各号の一に該当するときは、入会審査を受け付けない。

1 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)

 

会員資格の停止・除名

暴力団員等であることを知らずに入会を承認したり、暴排条項を規定する以前に入会を認めた暴力団員等について、後に暴力団員等であることが判明した場合には、会員資格の停止や除名で対応することが必要となります。

除名は会員の会員契約の解除であり、会員資格の停止は会員契約に基づく会員の施設利用権の制限なので、法的な有効性を確かめながら慎重に進める必要があります。

この点、東京高裁平成2年10月17日判決は、傍論ではありますが、「継続的契約である…ゴルフ場施設利用契約において債務不履行を理由として契約を解除するためには、契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とする」としつつ、いわゆる暴力団組員のような者は、ゴルフ場施設内においても粗暴な振る舞いに及んだり他の会員に迷惑を掛ける等、他の会員のゴルフ場施設の快適な利用を妨げる行為に出ることが十分に予測されるから、信頼関係を維持することは困難であろうとしています。

この裁判例からしても、仮に会則で暴力団員であることが資格停止や除名事由として明記されていない場合でも、信頼関係を破壊することを理由に暴力団員であることをもって資格停止や除名ができると考えられます。

とは言え、暴排条項を規定し、積極的に暴力団員等の会員資格を停止・除名する場合の契約上の根拠を提供することが望ましいことは言うまでもありません。

なお、ゴルフクラブと会員の権利義務関係は個々の会員契約において決まるのに加え、集団的処理が必要な部分については会則により規定されています。

もっとも、預託金据置期間の延長等会員契約上の基本的な権利に対する重大な変更を伴う会則の改定は、理事会の決議により一方的に会員に不利益を及ぼすのは妥当ではないことから、既に入会した会員に対しては効力が及ばないものと解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。

しかしながら、暴力団員等の会員資格を停止・除名する内容に会則を改定することは、会員に元々課されているクラブ秩序維持義務を明文化するものであって、一方的に会員に不利益を及ぼすものであるとは言えません。

そもそも前記東京高裁判決の言うように暴力団員等は本来資格停止・除名できるものですから、既に入会した暴力団員等を改定後の規定を根拠に資格停止・除名することも許されると考えられるでしょう。

【条項例】

(会員資格の停止・除名)

第○条 会員が次の各号の一に該当したときは、理事会の決議により会員の資格を一時停止し、又は除名することができる。

1 会則、施設利用約款、規則に違反したとき

2 クラブの名誉及び信用を傷つけ、又は秩序を乱したとき

3 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であることが判明したとき

4 暴力団員等を同伴又は紹介によって入場させたとき

5 自ら又は第三者を利用して①暴力的な要求行為、②法的な責任を超えた不当な要求行為、③脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為、④風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いてクラブの信用を毀損し、又はクラブの業務を妨害する行為、⑤その他前各号に準ずる行為を行った場合

 

利用約款における暴排条項

暴力団員等がビジターとしてプレーの申込みをしてきた場合に備え、暴力団員等の施設利用に対する法的な拒絶根拠を明確にしておくことも必要です。

暴力団員等であることまでは分からないが、粗野な振舞いから暴力団員等であることが強く疑われる場合等も利用拒絶をする必要性は高いので、その場合に備えて利用者の行為態様からも利用拒絶ができる規定にしておくべきです。

この場合、支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しないという規定を置くことも必要でしょう。

【条項例】

(利用及び利用継続の拒絶)

第○条 当ゴルフクラブは、次の場合には利用をお断りすることがあります。また、プレーの途中であっても利用の継続をお断りすることがあります。この場合、お支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しません。

1 利用者が暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であるとき

2 利用者が暴力団員等を同伴した場合における利用者及びその同伴者

3 他のお客様に対し不快な思いをさせる行為・服装(身体に刺青をしている場合を含む)・言動があったと当ゴルフクラブが判断した場合

4 粗野な振舞等、当ゴルフクラブの従業員に対して業務の遂行に支障をきたす行為があったと当ゴルフクラブが判断した場合

 

その他の注意点

これら会則や利用約款等の整備の他、クラブ内やHPで暴力団関係者排除の広告をし、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。

過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。

また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいては、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。

また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取るような方法も有効であろうと思われます。

 

警察との協力関係作り

警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。

来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。

この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広くかつ詳細に規定することも重要です。

受付の段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。

前記のとおり利用約款等に暴力団等の施設利用を制限する旨及びプレー中断の際はプレーフィ等を返還しない旨の規定があれば、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を支払えといった要求には応じる必要はありません。

「ゴルフ場御セミナー」2014年3月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎