熊谷信太郎の「暴力団排除~2つの最高裁決定~」

本年3月、同一の裁判官で構成される最高裁小法廷が、同一の日に、似たような事件で、一方は無罪、他方は有罪という判断を下しました(最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=無罪、最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=有罪)。

これは、身分を隠した暴力団関係者が、ゴルフ場で正規の料金を支払い普通にプレーすることが詐欺罪になるかどうかが争われた事案です。

暴力団員のゴルフ場利用については、詐欺罪として全国の警察が摘発を行っており、3月も山形県警が強制捜査に踏み切りました。しかし暴力団員によるゴルフ場利用の申し込みは詐欺罪の実行行為としての「欺罔行為」には該当せず、詐欺罪は成立しないとの最高裁の判断が下されたわけです。他方、類似の別の事案では最高裁は詐欺罪が成立すると判断しました 。

利用客の中に暴力団関係者がいると安全快適なプレー環境が確保できず、暴力団員が利用しているという評判はゴルフ場の社会的信用や格付け等を損ない、利用客の減少等業績にも多大な影響が及ぶ恐れがあります。「利益供与」に該当してコンプライアンス違反という事態にもなりかねません(本誌平成25年11月号参照)。

今回は2つの最高裁決定を題材にゴルフ場の暴力団対策を検討します。

 

無罪決定の事案

結論の違いを導いたそれぞれの事案を少し詳しくみてみましょう。無罪決定の事案は以下のようなものでした(決定とは裁判所の裁判のうち判決以外のものをいいます)。

被告人Xは、暴力団員でしたが、同じ組の副会長らと共に、平成23年8月、予約した宮崎県内のA倶楽部に行き、フロントにおいて、ビジター利用客として、備付けの「ビジター受付表」に氏名、住所、電話番号等を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込みました。

受付表には暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられておらず、暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人らが自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもありませんでした。

被告人らは、ゴルフをするなどして同倶楽部の施設を利用した後、それぞれ自己の利用料金等を支払いました。

なお、A倶楽部は、会員制のゴルフ場ですが、会員又はその同伴者、紹介者に限定することなく、ビジター利用客のみによる施設利用を認めていました。

 

無罪の最高裁決定

このような事実に対して、最高裁は、概ね次のように判断しました。

確かにA倶楽部は、ゴルフ場利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたし、九州ゴルフ場連盟、宮崎県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上、クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。

しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。また、A倶楽部と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人らも同様の経験をしていた。つまり、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。

このような事実関係を前提とすると、Xが暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は、申込者がゴルフ場の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると、本件におけるXらによるA倶楽部の施設利用申込行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。

 

有罪決定の事案

これに対して有罪決定の事案は、次のようなものでした。

被告人Yは、平成22年10、ゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止している長野県内のB倶楽部において、B倶楽部の会員Zと共謀して、真実は被告人が暴力団員であるのにそれを隠して施設利用を申し込みました。

B倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係があるか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨の誓約書に署名押印させ提出させていました。利用約款でも暴力団員の入場及び施設利用を禁止していました。

Yは、暴力団員であり、長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており、利用を拒絶される可能性があることを認識していましたが、Zから誘われ、同伴者としてB倶楽部を訪れました。

B倶楽部のゴルフ場利用約款では、他のゴルフ場と同様、利用客は全てフロントにおいて、「ご署名簿」に自署して施設利用を申し込むこととされていました。しかしZは、施設利用の申込みに際し、Yが暴力団員であることが発覚するのを恐れ、その事実を申告せず、受付従業人に代署を依頼してYがフロントに赴き署名をしないで済むようにしました。

なお、Zは、申込みの際、同倶楽部従業員から同伴者に暴力団関係者がいないか改めて確認されたことはなく、自ら同伴者に暴力団関係者はいない旨虚偽の申出をしたこともありませんでした。他方、被告人は、Zに施設利用の申込みを任せており、結局フロントに立ち寄ることなくプレーを開始しました。

また、被告人の施設利用料金等は翌日Zがクレジットカードで精算しています。

 

有罪の最高裁決定

このような事実に対して最高裁は概ね次のように判断しました。

B倶楽部は、①ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し、②入会審査に当たり暴力団関係者を同伴、紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていた他、③長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいた。

本件においても、Yが暴力団員であることが分かれば、その施設利用に応じることはなかった。

このような事実関係からすれば、入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるZが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している。

加えて、利用客が暴力団関係者かどうかは、B倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、施設利用をした行為は詐欺罪を構成することは明らかである。

 

ゴルフ場の対応

このように、両事例の結論が分かれたのは、ゴルフ場が暴力団関係者の施設利用を拒絶していることを申込者自身が認識していたかどうかという点にあろうと思われます。地域の暴力団排除活動や誓約書の有無等から、B倶楽部の申込者(B倶楽部の会員で紹介者、共犯Z)にはこの認識があったと評価されたわけですが、利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置が徹底されていなかったA倶楽部では、申込者(被告人X)にはこの認識がないと判断されたわけです。

そこで、入会時に「私は、暴力団等とは一切関係ありません」と自分自身が暴力団関係者ではないという点だけでなく、「暴団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」という点まで記載した誓約書を提出させることが必須でしょう。

会則や約款等に同様の暴力団排除条項を設けたりクラブ内の掲示や看板、HP等で暴力団関係者排除の広告をしたり、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。

過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。

また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいても、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。

また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取ることも必須です。

 

警察との連携

さらに警察との連携も重要です。

警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」警察庁HPwww.npa.go.jp)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。

来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。

この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広く詳細に規定することも重要です。

受付段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。

この場合、約款等に暴力団関係者の施設利用を制限する旨及びプレーヤー側の事情によるプレー中断の際はプレーフィやキャディフィを返還しない旨の規定があれば、暴力団関係者のプレーを途中でやめてもらう場合でもプレーヤー側の事情によるものとして、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度(ハーフかラウンド)に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を払えといった要求に応じる必要はありません。

「ゴルフ場セミナー」2014年6月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎