熊谷信太郎の「ゴルフ場と太陽光発電」

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、我が国のエネルギー政策は大きな転換点を迎えました。注目されているのは太陽光や風力等の枯渇することのない再生可能エネルギーを用いた発電です。

平成24年7月には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「措置法」)が制定され、個人や事業者が再生可能エネルギーを利用して発電を行うことが容易になる制度が整備されました(固定価格買取制度)。

広大な敷地を有するゴルフ場用地は、巨大ソーラーパネルを多数設置する太陽光発電の場所として適していると考えられるため、ゴルフ場用地を利用して大規模太陽光発電を建設する企業も、外資系を含め続々と現れてきています(報道によると昨年9月時点で37か所)。

 

ゴルフ場の閉鎖と会員の権利

ゴルフ場事業は一般的には収益性がそう高い業種ではないと言われてはいますが、広大な敷地という資産を有しており、この資産を生かせる業種への転換を図りたいという事業者の発想は理解できるところです。

しかしパブリック制のゴルフ場であればともかく、会員制ゴルフ倶楽部の場合には多数の利害関係者を有する業種であることから、クラブを解散しての業種転換が無制限に認められるものでないのは言うまでもありません。

ゴルフ倶楽部の会則等には解散規定の置かれているものがほとんどであろうと思われます。この場合会則等は会員契約の内容となることから、その要件該当性を判断することになりますが、仮に「会社はいつでも本倶楽部を解散することができる」といった規定がある場合であっても、無制限に解散が認められるわけではありません。

裁判例においても、会則に「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」に解散できるという定めのある預託金制ゴルフ倶楽部で、事業者が経営悪化のためゴルフ場を閉鎖したため、会員が優先的施設利用権の侵害である等として事業者に対して損害賠償請求をした事案において、東京高裁平成12年8月30日判決は、

①「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」とは、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散を経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合をいう。

②その判断にあたっては、ゴルフ場経営における会社運営上の事情のみならず、会員が受ける不利益の程度及びその不利益をできるだけ少なくする観点からのゴルフ場経営会側の配慮の程度などの事情をも総合して判断する必要がある。

とし、このまま事業を継続すればゴルフ場が破綻し会員は施設利用権のみならず預託金償還請求権も失ってしまうものとして、解散の有効性を認め、会員からの損害賠償請求を否定しました。

 

解散規定のない場合

一方、会則等に解散規定がなくても事業の継続が客観的にみて不可能で事業者に責のないやむを得ない事情に基づくような場合にまで一切解散は認められないとすることは事業者に酷を強いることになります。

例えば、同じく集団的役務提供型の契約であるスポーツクラブの会員であった者が、閉鎖により施設利用権を奪われる等の損害を受けたとして、事業者らに対し会員契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案があります。

この事案で東京地方裁判所平成10年1月22日判決は、会員契約の解除が、経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少…等により、経営の継続が困難となったために行われた等の事実関係においては、右解除はやむを得ない事情によるものであり会員契約上の債務不履行に当たらないと判断しました。

これらの裁判例を前提に考えると、今回の震災により壊滅的なダメージを受けコースの修復に膨大な費用を要する場合や、放射能等の影響により営業の継続が不可能になったような場合には、事業の継続が客観的にみて不可能であって事業者に責のないやむを得ない事情に基づくものとして、会員契約の会社側からの解除は有効であり、会員契約上の債務不履行にはあたらないと考えられます。

 

預託金の返還

もっとも、ゴルフ倶楽部を解散して事業者が会員との会員契約を解除する場合、事業者は会員に対し利用できない分に応じて年会費を返還するとともに、預託金制であれば預託金も返還する必要があります。

入会金の返還については入会金の性質と絡み争いがありますが、上記平成12年東京高裁判決は入会金不返還条項に基づいて返還しないことを有効と判断しています。

預託金の全額返還が困難であれば破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

第三者がゴルフ場用地を事業者から買い取り太陽光発電事業を行い会員との会員契約を引き継がない場合には、資産の移転が濫用的会社分割にあたり、用地の取得が詐害行為として取消される可能性もありますので注意が必要です。なお、資産の移転を会社分割により行う場合には、債権者保護のため、官報公告及び知れている債権者に対する個別の催告をする必要があります(官報公告の他時事に関する日刊新聞紙又は電子公告がなされた場合には個別の催告は不要です)。

以上に対し、第三者がゴルフ場用地を競売により取得したような場合には、会員契約の解除の問題はクリアすることができます。

 

施設利用権の侵害となる場合

では解散が認められるような事態には至っていないゴルフ場事業者が、例えば36Hから18Hに縮小したり、複数所有する一部のコースを閉鎖してメガソーラー基地を建設し、売電収入を得ようとするとき、どのような場合に会員の施設利用権の侵害になると考えるべきでしょうか。

施設利用権の意味については一般に、一般の利用者に比べて有利な条件で継続的にゴルフプレーを行うために当該ゴルフ場の施設を利用する権利であると考えられています。

施設利用権の侵害については、会員権分割や開場後の募集による会員数の増加が事業者の債務不履行を構成するかという形で裁判上問題となっています。

例えば、東京地裁平成8年2月19日判決は、東京近郊のゴルフ場の事案で、会員数が1000名に限定されており、クラブが高級なものと設定されている場合には、会員数が1000名ないしこれをそれ程大幅に上回らない範囲の数に止めることは、事業者の債務とされる場合があるとして、平成7年当時会員数が4400名に上っていたことについて事業者の債務不履行を認めました。

一方、東京地裁平成10年5月29日判決は、高級感を演出しゆとりと格調をセールスポイントにして会員権を販売した千葉県のHカントリークラブの事案において、正会員募集限度数を1180名から1800名に増加させることが直ちに本件会員権募集当時構想した本件ゴルフクラブの性質の基本的部分を破壊するものということはできないから、会員権の分割は債務不履行にあたらないと判断しています。

コースの縮小や一部コースの閉鎖の場合も、事業者が有する倶楽部経営やコース運営管理上の裁量権と会員の施設利用権の保護のバランスの観点から、パンフレット等に記載された当初の募集計画、目標とするクラブのグレード、会員が利用し得る関連会社のコースの有無、会則規定等の個別具体的事情を総合して事業者の債務の内容を判断し、会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言える場合には、事業者の債務不履行を構成し得ると考えられます。

例えば、現在のゴルフ環境と異なる古い時期の裁判例ではありますが、東京高裁昭和49年12月20日判決は、18Hのゴルフ場であれば1500名、36Hのゴルフ場であれば2500~2600名を適正会員数の1つの基準としています。コース縮小や一部ホールの閉鎖の場合もこの基準を参考にしつつ、コースのグレード等を加味した上で、実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言えるかどうかを判断することになるでしょう。

実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と判断される場合には、会員は①事業者の債務不履行を理由とした会員契約の解除だけでなく、②体力、健康増進の機会を奪われ、倶楽部ライフを通じた人間関係を侵害された等の金銭によって評価できない重大な損害が発生したとして、事業者に対する損害賠償請求をすることが考えられます。

③さらに、ゴルファーとしては、施設利用権侵害を理由とし、ゴルフ場を他に転用することの差止請求も行いたいところです。しかしながら、差止請求が認められるのは所有権が侵害される場合や、生命や健康が侵害される公害や環境汚染の場合等であって、特定の事業者に対する請求権である施設利用権によっては差止請求までは認められないのが一般です。裁判例においても一般に債権の侵害を理由とした差止請求は認められておらず(東京地裁平成12年7月18日判決等)、施設利用権侵害を理由とした差止請求は通常認められにくいと思われます。

 

従業員との関係等

ゴルフ場閉鎖や規模縮小を理由に従業員を解雇するには原則として、過去の労働判例で確立された4要件(㋐人員整理の必要性㋑解雇回避努力義務の履行㋒被解雇者選定の合理性㋓解雇手続の妥当性)を充たさなければならず慎重な対応が必要です。

なお破産手続では未払賃金のうち3か月分は財団債権として一般債権者よりも優先的に支払を受けることができます(破産法149条1項)。

会社の全財産でも未払賃金に足りない場合には、国(労働省健康福祉機構)が労働者個人からの請求によって、未払賃金の一部を事業主に代って支払う制度もあります。請求期間は裁判所の破産等の決定又は労働基準監督署長の倒産の認定があった日の翌日から2年以内、金額は原則として未払賃金総額の8割です。

ゴルフコースの地主との賃貸借契約の内容の確認も必要です。用途をゴルフ場の使用などに限定している場合には、他の用地への転用は解除事由となる可能性があります。

もっとも、賃貸借契約のような継続的契約においては、信頼関係が破壊されたと言えない等の事情のある場合には解除権の行使は制限されるという判例法理が確立されていますが、事前に地主に事情を説明し契約を巻き直すことが必要です。承諾料(相場は更地価格の5~10%)の支払を求められることもあるでしょう。

また、ゴルフ場としての営業のために取得している許認可関係についても、所轄の地方公共団体等に廃止(廃業)の届出が必要になります。取扱いは各地方公共団体によって異なるようです。

「ゴルフ場セミナー」2014年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎