熊谷信太郎の「役員選任決議」

平成20年12月の新たな公益法人制度の施行により、いわゆる関東七倶楽部始め全国29の社団法人制ゴルフ倶楽部は、一般社団法人へと移行しました。平成14年4月にスタートした中間法人制度も廃止され、中間法人も一般社団法人に衣替えしています。また、法人格のない任意団体のゴルフ倶楽部も多く存在しますが、団体名で契約の締結や登記ができない等の制限のあった権利能力なき社団も、本制度施行に伴い一般社団法人として法人格を取得することができることになりました。

一般社団法人への移行認可を受けるためには定款を一般社団法人法等の法令に適合させることが必要です。一般社団法人制の名古屋市内のAゴルフ倶楽部(元は公益法人)も、新定款を新法令に適合させる作業の中で、従来は「会員」の中から理事を選ぶことになっており、法人会員の「登録会員」も「会員」なので理事に選出し得たところ、「社員」の中から理事を選出する規定に変更しました。ところが理事会が法人会員の登録会員(これは「会員」であっても「社員」ではありません)も理事・監事に選任できるように定款変更し、登録会員の中からも新理事を選任したため、社団法人の社員が理事選任決議の取消と定款変更の無効を訴えた事案で、名古屋地裁は、平成26年4月18日、理事選任を取消す判決を下しました。

近年、スポーツ団体の役員選任に関する争いが相次いでおり、平成23年8月には、東京地裁が日本スキー連盟の会長理事選任について無効であるとの判断を下しています(東京地裁平成23年8月31日判決)。日本アイスホッケー連盟においても、平成25年9月に行われた連盟の役員改選手続に違反があったとして、一部評議員が同連盟を相手取り評議員会の決議無効確認を求める訴訟を起こし、東京地裁で係争中です(平成26年5月現在)。

今回は、名古屋地裁の事案を検証した上で、ゴルフ場経営会社の役員の選任手続について検討します。

 

名古屋地裁の事案の概要

被告は昭和28年に民法上の公益社団法人として設立された後、平成25年3月に一般社団法人への移行認可を受け、4月に一般社団法人として設立されました。

平成20年の一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」)施行に伴い、被告は一般社団法人への移行認可を受けることになり、定款を一般社団法人法等に適合させることが必要となりました。

この定款変更の作業の中で、被告は、平成 24年度定期会員総会において、理事等の役員を「会員」から選任するという従来の定款を、「社員」から選任するという規定(定款17条1項)へ変更する旨の決議等をしました(以下「本件定款変更決議」)。

この際、「倶楽部運営に影響を及ぼすことのない範囲内の表現等に関する軽微な修正が必要となった場合には、理事会の決議により修正できることとする」旨の付帯条件(以下「本件付帯条件」)も決議されました。

平成24年11月、被告は理事会を開催し、定款17条1項について、本件付帯条件で許容された修正の範囲内の修正であるとして、理事等の役員は社員総会において優先的施設利用権を有する「会員」より選出すると変更する旨の決議をしました(以下「本件理事会変更決議」)。

なお、被告においては、法人が社員となることを認めており(法人社員)、法人社員が指定した個人を登録会員として、優先的施設利用権を行使することを認める制度を採用しています。つまり「社員」は法人であって、登録会員は「会員」であっても「社員」ではないことになります。

被告は、平成25年5月、平成25年度定期社員総会を開催し、10名の者を理事に選任する旨の決議をしましたが(以下「本件理事選任決議」)、このうち6名は被告の社員ではなく、被告の法人社員の登録会員でした。

平成25年6月、原告らは訴訟を提起しました。

 

定款変更無効確認請求について

名古屋地裁は、定款の変更の無効確認を求める部分については概ね以下のよう述べて原告の訴えを不適法として却下しました。

一般社団法人の定款変更は組織の基礎の変更であって慎重な判断を要する事項であることから、社員総会の特別決議によるものとされている。また社員総会決議の瑕疵については、多数の利害関係人の法律関係に影響を及ぼすものであり画一的に確定されるべきとの要請がある。

よって一般社団法人の定款変更の瑕疵については、定款変更に係る社員総会決議の瑕疵を争う訴訟として、決議取消訴訟、決議不存在確認訴訟及び決議無効確認訴訟によって争うべきものであって、法定の訴訟類型以外の無効の一般原則による訴えによって争うことは許されず、訴えは不適法と解すべきである。

 

理事選任決議の取消について

一方、理事選任決議については、概ね以下のとおり述べて、取消事由があると判断しました。

㋐本件理事会変更決議による定款17条1項の変更が、本件付帯条件で許容された修正の範囲を超えるかどうかが問題となる。

㋑文理上、法人の社員とは法人の構成員を示すものであって、構成員でない施設利用権者である会員を含むとは解されず、社員と施設利用権者である会員とを峻別することが本件定款変更決議の主眼の1つとされたこと等からすると、定款17条1項の「社員」に登録会員を含む趣旨と考えることはできない。

㋒本件理事会変更決議は、社員ではない会員から理事等を選任することを許していない定款 17 条 1 項を、登録会員からも選任することを許す旨の定款へと変更したもので、被告の理事・監事の被選任資格者の範囲を変更したものである。

㋓理事・監事の被選任資格者の範囲の変更は組織・運営に影響を及ぼす変更で、本件付帯条件で許容された修正の範囲を逸脱した変更である。

㋔本件理事会変更決議による定款変更は、本来必要な社員総会決議による定款変更手続を欠いているから、本件理事選任決議は定款 17 条 1 項に拠るべきであった。

㋕したがって、社員でない者を理事に選任した本件理事選任決議には、決議内容が定款17条1項に違反するものとして取消事由がある。

 

定款変更手続

名古屋地裁の事案では、本件付帯条件で許される修正の範囲を超えた変更なので、原則どおり定款変更の手続が必要であるとされました。

定款とは、社団法人(会社・公益法人・協同組合等)及び財団法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行等についての基本規則そのもの(及びその内容を紙や電子媒体に記録したもの)です。

定款は社団法人の根本規則なので、どの社団法人においても、定款変更には普通よりも加重された決議要件が課されています。

株式会社の場合、原則として株主総会の特別決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議)が必要です。

一方、一般社団法人においては、社員総会において、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合)以上の賛成が必要です。

 

役員の選任方法

ゴルフ場を経営する会社には、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、任意団体の場合等がありますが、それぞれの役員の選任方法については法律上どのように規定されているのでしょうか。

株式会社の場合、取締役及び監査役(以下「役員」)は株主総会で選任されます。ただし、株主総会の決議により当然に役員になるのではなく、株主総会で役員が選任された後、会社と役員との委任契約により取締役に就任します。

選任は株主総会の普通決議により行われます。つまり、総株主の議決権の過半数(定款で引下げ可)を有する株主が出席し、その議決権の過半数(定款で引上げ可)で決議されます。しかし、定款において定足数を緩和している場合であっても、役員選任の場合は総株主の議決権の3分の1以上の株式を有する株主の出席が必要です。

また、定款では、必要に応じて、役員の選任方法として通常決議とは異なる議決方法を定めたり、また理事になることのできる条件を定めたりすることができます。その法人と関わりのない人の中からも選任できます。この場合、定款で定めた条件に従わないと名古屋地裁の事案のように取消原因があるとされかねませんので注意が必要です。

旧商法では株式会社はその規模にかかわらず、3人以上の取締役が必要でした。

これに対し会社法では、取締役会を設置する場合は、3人以上の取締役を置く必要がありますが、取締役会を設置しない場合には、1人でかまいません。ただし、会社法の規定に反しない限度で、定款で取締役の員数の最低限度又は最高限度、或いは最低限度及び最高限度を定めることはできます。

会社は役員を選任したときにその氏名を登記しなければなりません。就任の日から2週間以内に本店の所在地で、就任登記をする必要があります。

なお、監査役を置く必要のある会社は、取締役会設置会社及び会計監査人設置会社(いずれも委員会設置会社を除く)です。

 

一般社団・財団法人、任意団体の場合

一般社団法人の理事の選任は、原則として、社員総会の通常決議(一般的な議決方法として定めた方法)で行うこととなっています。

ですから、定款に社員総会の決議について定めている場合にはその方法で、定めていない場合には、過半数出席・過半数賛成で選任することとなります。

また、定款では、必要に応じて、理事の選任方法として通常決議とは異なる議決方法を定めたり、また理事になることのできる条件を定めたりすることができます。その法人と関わりのない人の中からも選任できます。もっとも理事はゴルフ倶楽部のメンバーの代表者という性格があるため、あまり外部から理事を招くという実例は多くないと思われます。

なお、理事は忠実に職務を執行する義務があり、委任状により理事会に出席することは認めらないことに注意が必要です。

なお、一般財団法人の理事・監事の選任は、原則として、評議員会の通常決議(一般的な議決方法として定めた方法)で行います(社員総会を評議員会と読み替える以外は一般社団法人とほぼ同様です)。また、評議員の選任方法は設立者が定款で定めます。

ゴルフ倶楽部が単なる任意団体の場合には、役員をどう決めるかは団体内部の自治によるので、例えば代表者が役員を任命する等代表者の裁量で役員を選任することも認められます。もっとも、㋐団体としての組織を備え、㋑多数決の原理が行われ、㋒構成員の変更に関わらず団体が存続し、㋓その組織において代表の方法・総会の運営・団体としての重要な点が確定している場合に権利能力なき社団といえることになるので、多数決により役員を選任しないと権利能力なき社団とは認められない可能性が高いことになります。

「ゴルフ場セミナー」2014年7月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎