熊谷信太郎の「食品偽装」

昨年10月の某有名ホテルの公表・報道をきっかけに、全国各地のホテルや百貨店の飲食店における食品・料理の偽装・誤表示が次々と明らかになりました。ゴルフ場のレストランにおいても同様の問題が波及しており、メニュー表示とは異なる食品・料理を提供していたことを公表するゴルフ場も出てきています。

また、健康志向の高まりの中、食品のカロリーや原産地、無農薬野菜かどうか等を気にするプレーヤーも多いでしょう。さらにジュニアのプレーヤーも年々増えていますが、学校給食において乳製品アレルギーの児童がショック死するという痛ましい事件も記憶に新しいと思います。レストランのメニューにカロリーやアレルギー表示は必要ないのでしょうか。

一方この冬もノロウィルスによる食中毒が猛威を振るい、静岡や愛媛のゴルフ場のレストランにおいても集団食中毒が発生し報道されました。

今回は、ゴルフ場のレストラン運営に関わる法律問題を検討したいと思います。

 

景表法による表示規制

店頭で包装・容器に入った状態で売られている生鮮、加工食品は、①JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、②食品衛生法により、品質やアレルゲン等の表示が厳密な定義のもと義務付けられています。

また、栄養成分を表示する際の表示事項が③健康増進法に規定されています(表示自体は任意です)。

しかしながら、レストラン等外食産業におけるメニュー表示については、対面販売なのでその場で原産地等について店員に尋ねればよいとの考えからか、これらの法律による規制は及んでいません。

現行法の下では、外食におけるメニュー表示は消費者庁が所管する景表法(「不当景品類及び不当表示防止法」)により規制されます。

規制の対象は、商品・サービスを供給する事業者で、ゴルフ場も当然含まれます。規制の対象となる「表示」は、事業者が商品やサービスの提供の際に顧客を誘引するために利用するあらゆる表示であり、紙に記載されたものやインターネットによるものは勿論のこと、口頭によるものも含まれます。

 

優良誤認表示

不当表示には、①商品・サービスの品質、規格その他の内容に関する「優良誤認表示」(景表法4条1項1号)、②商品・サービスの価格その他の取引条件に関する「有利誤認表示」(同条項2号)③特定の商品・サービスについて内閣総理大臣が指定(告示)した「指定告示表示」(同条項3号)があり、メニュー表示において問題となるのは①優良誤認表示です。

景表法4条1項1号は、商品の品質や規格その他の内容が、一般消費者に対し、㋐実際のものよりも著しく優良であると示し、又は㋑事実に相違して他社の商品よりも著しく優良であると示す表示であって、㋒不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を事業者にしてはならない旨を規定しています。

表示の対象となる「品質」とは、原材料、純度、添加物、効果、効能、性能、鮮度、栄養価等を言うものとされています。「規格」とは、国等が定めた規格(JIS等)等、「その他の内容」とは、有効期限や製造方法等を言うものとされています。例えば、クルマエビと表示していたのに実際はブラックタイガーだった、九条ねぎと表示していたのに実際は長ネギだった、というようなケースです。

このような原材料そのものが異なる場合の他、天然もの100%、無添加、無農薬、有機栽培等の表示も含まれます。例えば、健康食品でアントシアニン36%含有と表示していたのに実際は1%程度に過ぎなかったというようなケースです。

なお、この規制は、消費者が誤認するものかどうかが問題とされるものであって、事業者に故意や過失があったかどうかを問いません。つまり、レストランにおいて提供したメニューが実際に用いている食材と異なっていることについて、事業者側に認識があったか否かを問わず問題となるのであって、「偽装」であろうと「誤表示」であろうと関係ない点に注意が必要です。

 

違反行為に対する措置

消費者庁長官は、景表法違反について調査を行い、違反する行為があるときは当該行為を行った事業者に対して、その誤認行為の排除、誤認表示の差止め等を命じる措置命令を発令することができ、その内容を公表することができます(景表法6条)。

措置命令においては、通常①表示が一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であることを示すものであることを自社ウェブサイト等で公示すること、②再発防止策を講じて、これを役員、従業員に周知徹底すること、③今後同様の表示を行わないことが命じられます。

措置命令に違反した者は二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処せられ(景表法15条)、事業主も三億円以下の罰金に処せられます(両罰規定、18条)。

措置命令が出された場合、これに不服があれば取消訴訟等の行政訴訟を提起することによりその効力を争うことができますが、実際に公表されてしまった後に訴訟で争い取消がなされたとしても、措置命令が公開されたことによる事業者の名誉回復を行うことは著しく困難でしょう。

なお、故意に基づく偽装表示の場合には、詐欺罪を構成する可能性もあります。事案の悪辣性の程度や社会的影響等によっては逮捕、起訴等に及ぶ可能性も否定できません。

 

排除命令の具体例

「著しく優良であると示す」表示であるか否かは、個別具体的に消費者庁が判断することであって一般化することは困難ですが、飲食店における偽装・誤表示が社会問題化したことを受けて、消費者庁のウェブサイトに排除命令の対象となった事例を掲載されており、これらが参考になります。

①「ビーフステーキ焼肉ソースランチ」等と称する料理について、牛の生肉の切り身であるかのように表示していたが、実際には牛の成型肉(牛の生肉、脂身等を人工的に結着し、形状を整えたもの)であった。

②ミシュラン2つ星のレストランにおいて、「特選前沢牛サーロインステーキ」等と記載していたが、実際には牛肉の大部分は前沢牛のものではなかった。野菜の大部分はオーガニックでなかった。

③牛の正肉の大部分が神戸ビーフではなかった。

④○○県に所在する契約農家が生産した天日により乾燥させた米を用いていない店舗が大部分であった。

⑤「霜降サーロインステーキ」等と表示された料理に用いられた牛肉は、実際には牛脂注入加工肉であった。

なお、⑤牛脂注入加工肉を焼いた料理について、消費者庁は、「霜降り」の表現を使うことは景表法上問題となるが、商品名を「ビーフステーキ」「やわらかビーフステーキ」等とし、「牛脂注入加工肉使用」「インジェクション加工肉を使用したものです」等というように、この料理の食材が牛脂注入加工肉であることを商品名と同一ポイントで商品名近くに併記する等すれば、直ちに景表法上問題となることはないという見解を示しています。

ゴルフ場のレストランにおいても、食材が不足した際にはフレッシュジュースに濃縮果汁を注ぎ足したものをフレッシュジュース(その場で果実を絞ったもの)として提供(神奈川)、新潟県産舞茸を群馬県産として提供(群馬)、牛脂注入加工肉を「ステーキセット」(岡山)、「牛ヒレステーキ」(石川)等として提供したこと等が自主的に公表されています。

ゴルフ場のレストランに対して排除命令が出された事例はまだないようですが、消費者庁は、不適切な表示が判明した場合にはこれを速やかに訂正するとともに、その期間や内容を利用者に公表する等自主的な措置を講じるよう要請しています。

 

ゴルフ場の対応

上記のとおり、実際にどのような表示が優良誤認表示にあたるかについて明確な基準がなく、ゴルフ場も対策を立てにくいと思われます。景表法の緩い法規制がホテルや百貨店における食品偽装が相次いで発覚している一因と見る向きもあります。

また、ゴルフ場の運営するレストランにおいては、あくまでゴルフが中心の来場のため、一般のレストラン等に比べ、提供される料理の味や品質に関する客の期待もそれほど大きいものではないかもしれません。

しかしながら、法律に違反するか、排除命令を受けるかどうかではなく、ゴルファー一般の意識の変化に対応してレピュテーションリスクを軽減し、またサービス向上の観点から、レストランのメニュー表示を再点検し、品質等の正確な表示を心掛ける必要があるでしょう。

なお、昨年6月、食品の表示に関し包括的一元的な制度を創設するため、食品表示に関する現行3法(JAS法、食品衛生法、健康増進法)の規定を整理・統合・拡大する「食品表示法」が公布されました(2月現在未施行)。食品表示法では、現在は任意制度となっているカロリー等の栄養成分表示も義務化が可能な枠組みとなっています。

消費者庁は、食品表示法では外食産業のメニューについてもアレルギー物質を含む食材を明記する等安全性に関する表示や産地・品質の表示を求める方向で検討しています。さらに、同法の施行は平成27年6月までと間があるので、予め上記3法のいずれかに外食のメニュー表示規制を盛り込むことも検討しています。

ゴルフ場のレストランにおいてもこれらは他人事ではありません。法改正の動向に注意しつつ、規制の有無に関わらず、人命に関わるアレルギー成分表示は勿論のこと、プレーヤーの健康増進を図るためのカロリー表示等も積極的に取り入れるべきでしょう。

 

食中毒の場合

食中毒が発生した場合、この患者を診断した医師は、24時間以内に最寄りの保健所にその旨を届け出なければならず、これに応じて保健所による調査が行われます(食品衛生法58条)。

施設調査では、患者の喫食状況の確認、残品・保存食の調査、同様の訴えの有無、提供食品・調理法の検査、従業者の健康状態、施設のふき取り検査等が行われます。

病原菌の検査には時間がかかるため、被害の状況や施設検査等を勘案し、病原物質が確定していない時点で被害拡大の防止のため、自主的に休業を求められる場合もあります。

その結果、食中毒を発生させたと認められる施設に対しては、食品衛生法6条違反として、そのほとんどに対して営業停止命令が下されます(同法55条)。期間は被害の規模にもよりますが、数日間から数週間に及ぶこともあり、無期限の営業停止処分になることもあります。

再度営業許可を得るためには、原因を特定し再発予防策を策定し、再調査等の様々な条件をクリアしなければなりません。

「ゴルフ場セミナー」2014年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎