熊谷信太郎の「受動喫煙対策」

今年のリオデジャネイロオリンピックからゴルフはオリンピックの正式種目となり、平成32年には東京での開催が決定しましたが、日本は招致活動当時から受動喫煙防止法が未整備であり、対策の遅れが指摘されています。

平成22年には、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、たばこのないオリンピック等を共同で推進することについて合意しました(「健康なライフスタイルに関する協定」)。後述のとおり、平成20年以降、日本を除く全てのオリンピック開催地及び開催予定地が、罰則を伴う受動喫煙防止対策を講じています。受動喫煙防止対策は、分煙ではなく屋内禁煙とするのが主流であり、屋外であっても運動施設を規制の対象としている国が多くなっています。

政府も今年に入り、受動喫煙の防止に向け、全面禁煙など具体的な対策を取らない国内の公共施設や飲食店に罰金などの罰則を科すよう定める新法の検討を始めました。

ゴルフと喫煙については、以前本誌でも取り上げましたが(平成22年5月号)、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた受動喫煙対策強化の取り組みの観点で、再度検討します。

 

たばこの規制に関する世界的取組み

喫煙のみならず受動喫煙が死亡、疾病及び障害の原因となることが世界的に認識されるようになり、平成17年2月に発行した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(FCTC)では、締約国に対して、受動喫煙防止対策の積極的な推進を求めています。日本も平成16年3月にFCTCに署名しています。

平成19年7月にバンコクでFCTCの第2回締約国会合(COP2)が開かれ、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択され、締約国には、より一層、受動喫煙防止対策を進めることが求められました。日本もFCTC発効後5年以内に、公共の場所における受動喫煙がなくなるよう、例外なき保護を実施する義務が課されました。

このガイドラインの主な内容は、

①100%禁煙以外の措置(換気の実施、喫煙区域の設定)は、不完全であることを認識すべきである。

②全ての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである。

③たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は、責任及び罰則を盛り込むべきである。

というものです。

平成26年時点で、公共の場所(医療施設、大学以外の学校、大学、行政機関、事業所、飲食店、バー、公共交通機関の8施設)の全てを屋内全面禁煙とする法律(国レベルの法規制)を施行している国は、49か国に及んでいます。

 

我が国の受動喫煙防止対策

平成15年5月に施行された健康増進法は、多数の者が利用する施設の管理者に対して、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること)の防止措置を義務付けています(同法25条)。しかし、同条違反に対する罰則はなく、その意味で「努力目標」に過ぎません。

平成22年2月25日、厚生労働省健康局長は「受動喫煙防止対策について」という通知を発し、以下のように、今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性を示しました。

①受動喫煙による健康への悪影響は明確であることから、多数の者が利用する公共的な空間においては原則として全面禁煙を目指す。

②全面禁煙が極めて困難である場合には、施設管理者に対して、当面の間、喫煙可能区域を設定する等の受動喫煙防止対策を求める。

③たばこの健康への悪影響や国民にとって有用な情報など、最新の情報を収集・発信する。

④職場における受動喫煙防止対策と連動して対策を進める。

職場における受動喫煙防止対策としては、平成27年6月、労働安全衛生法が改正され、労働者の受動喫煙防止対策の推進が定められ(法68条の2)、国は受動喫煙防止のための設備の設置の促進に努めるものとされました(法71条)。これを受け、国は喫煙室の設置等、受動喫煙防止対策のための費用を助成や、無料相談窓口を設ける等の支援措置を実施しています。

こうした対策により、職場や飲食店においては、漸減傾向にあるものの、非喫煙者の4割近くが受動喫煙被害にあっており、行政機関(市役所、町村役場、公民館等)や医療機関においても、非喫煙者の1割近くが依然として受動喫煙被害にあっています(平成20、23、25年の国民健康・栄養調査による)。

地方公共団体においては、平成22年に神奈川県で違反に対する罰則付きの受動喫煙防止条例が施行され、平成25年には兵庫県においても同様の条例が施行されています。

 

ゴルフ場の現状と対策

以上のような対策により、日本人の成人喫煙率は近年一貫して減少傾向にあり、日本におけるたばこの販売本数は減少し続けています。

ゴルフ場も多数の者が利用する施設ですから、クラブハウス内等における受動喫煙を防止する義務を負っているわけですが(健康増進法25条)、ゴルフ場における現状や対策はどうなっているのでしょうか。

今年6月、中央大学より、「日本のゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策の現状と課題」と題した研究資料がインターネットで公開されました。これによると、

①『コース内・ラウンド中にタバコを吸える場所』として、「各ティーグラウンド」が殆どのゴルフ場(89.6%)で挙げられ、続いて「カート内」(72.1%)となっており、殆どのゴルフ場でラウンド中に喫煙可能となっています。

②『クラブハウス内の喫煙環境』では、全面禁煙は18.3%に過ぎず、「屋内に喫煙場所を設置」が58.1%、「屋外に喫煙場所を設置」が48.7%、「全面喫煙可」とするゴルフ場も14.5%もあり、「喫煙ルームを設置」は9.9%にとどまっています。

③『レストラン内の喫煙環境』については、「全面禁煙」(40.6%)への回答が最も多く、続いて「禁煙席と喫煙席を分けている」(33.0%)となっていますが、「全面喫煙可」の回答も17.5%に上っています。

④『ゴルフ場としてタバコ対策の基本方針を決めているか』については、「決めている」が27.4%、「検討中」が17.0%であり、回答の半数が「決めていない」(50.0%)となっており、⑤『健康増進法施行後何らかの受動喫煙対策を実施したか』については、約半数が「何もしていない」(44.4%)と回答しています。

その一方で、⑥『ゴルフ場内の喫煙環境規制はビジネスに影響すると思うか』については、「影響しない」とする回答(約40%)が「影響する」(約23%)を上回っています。

⑦『今後の禁煙対策に必要な法規制のレベル』については、「各業界団体による自主規制」への回答率が最も高く(42.9%)、次いで、「諸外国のような全国レベルの禁煙法」(34.5%)、「神奈川県の様な都道府県による条例」(14.7%)の順に多く挙げられています。

以上のように、殆どのゴルフ場でラウンド中に喫煙可能であり、約半数のゴルフ場で喫煙対策の基本方針が決められていない一方で、喫煙規制がビジネスに影響を及ぼすと考えているのは少数に過ぎず、受動喫煙を禁止する業界による自主規制や法的規制が望まれているという結果になっています。

 

オリンピック開催地の喫煙対策

平成20年以降、日本を除く全てのオリンピック開催地が受動喫煙防止対策を講じています。

受動喫煙防止対策は、分煙ではなく屋内全面禁煙とするのが主流であり、中国(北京/平成20年夏)、カナダ(バンクーバー/平成22年冬)、イギリス(ロンドン/平成24年夏)、ロシア(ソチ/平成26年冬)、ブラジル(リオデジャネイロ/平成28年夏)の全てにおいて、学校、医療機関、官公庁等の公共性の高い施設、公共交通機関(鉄道、駅、バス、タクシー)、飲食店、宿泊施設、スポーツ施設、職場において、屋内全面禁煙が原則とされています。スポーツ施設は屋外であっても、規制の対象となっているわけです。

これらの国では、違反した場合、施設管理者及び違反者に罰金が科せられます(但し、ブラジルでは施設管理者のみ)。例えばイギリスの場合、違反者には最大50ポンド(約1万2400円)、企業や施設管理者には最大2500ポンド(約62万円)の罰金が科せられます。

このように、オリンピック開催地における受動喫煙防止対策は年々強化されていますが、日本は前述のとおり、多数の者が利用する施設について、屋内禁煙又は分煙等の「努力」義務が課せられているのみで、違反した場合の罰則もありません。

 

東京オリンピック開催に向けて

冒頭に記載したとおり、WHOとIOCは「健康なライフスタイルに関する協定」を結んでおり、その中で「タバコのないオリンピック」を目指すことが謳われています。これを受け、近年のオリンピック開催都市の全てで罰則付きの強制力をもった受動喫煙防止法が整備されています。オリンピック会場のみならず、国(都市)全体の公共的施設において、禁煙または完全分煙が実現しています。

今までこうした対応がなされていないのは、日本(東京)のみというのが実状です。そこで東京オリンピック・パラリンピックを成功に導くために、政府も罰則付の受動喫煙防止法の検討を始めました。スポーツ施設や学校、病院などの公共施設を全面禁煙に、レストランやホテルなど不特定多数の人が利用する施設は喫煙スペースを設置するなどして分煙とするよう、施設管理者らに義務づけ、違反者への罰則も盛り込む方針だということです。

安倍内閣総理大臣も、平成27年11月の東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部において、「大会は健康増進に取り組む弾みとなるものであり、大会に向け、受動喫煙対策を強化していく」と発言し、「競技会場及び公共の場における受動喫煙防止対策を強化する」という基本方針が閣議決定されています。

ゴルフ場においても同様です。スポーツ施設を全面禁煙とすることは、IOC及び政府の方針であり、ゴルフもオリンピックの正式種目となった以上、この方針に従い、コースも含め全面禁煙とする必要があります。とは言え、一度に全面禁煙の措置を取ることに抵抗のあるクラブもあるかもしれません。そこでまずは、クラブハウス内は、バーのような場所を除き、レストランやコンペルームも含めて全面禁煙、コースについては、茶店を除き、ティーインググラウンド付近も含めて全面禁煙、といった段階的な対応も次善の策として許容されると思います。

なお、喫煙室や閉鎖系の屋外喫煙所を設置する場合、その費用の1/2(上限200万円)について国から助成を受けることができます。受動喫煙防止対策については国が無料相談窓口を設けており、この助成金の申請書類の記載方法等についても相談できます。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049989.html)

「ゴルフ場セミナー」2016年9月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「賭博と社会的相当性」

本年4月、バドミントン男子の日本代表選手9名が、違法カジノ店に出入りしていたことが明らかになり、無期限の協会登録抹消、代表選手の指定解除等の処分を受けました。大相撲界では平成22年に野球賭博が、平成23年には八百長問題が発覚しています。プロ野球界では昨秋以降、3名の選手が野球賭博で日本野球機構により失格処分を受けています。

一方、平成27年4月には、衆議院にIR推進法案(いわゆるカジノ法案)が再提出され、訪日外国人観光客(インバウンド)を集めるプロジェクトの一つとして、日本国内への統合型リゾート(国際会議場やホテル、商業施設、レストラン、スポーツ施設、温浴施設等にカジノを含んで一体となった複合観光集客施設)の設置が注目されています。

ゴルフにおいては、プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベットは、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。

賭博については以前本誌でも取り上げましたが(平成26年1月号)、近年スポーツ界で問題となっているのを受け、許される賭博と禁止される賭博の違いの観点から再度検討します。

 

賭博とは

賭博とは、金銭や品物などの財物を賭けて、偶然性の要素が含まれる勝負を行い、その勝負の結果によって、負けた方は賭けた財物を失い、勝った方は(何らかの取り決めに基づいて)財物を得る、という仕組みの遊戯(ゲーム)の総称です。

賭博は、人の射倖心をくすぐり、時に中毒的な依存状態を招き、違法賭博が暴力団の資金源になるなど、社会問題も多く内包します。

そこで、賭博行為は、刑法上賭博罪(単純賭博罪)として50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役(刑法186条1項)、賭博場開張等図利罪(賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図る罪)は3月以上5年以下の懲役となります(同条2項)。なお、開張とは宣伝の意味であり、特定の場所に人を集める必要はありません(電話による野球賭博等)。

この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。

 

当事者双方が危険を負担すること

「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。

すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。

したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には(仮に参加費を徴収する場合であっても、参加費はパーティやコンペでの飲食等の対価と認められれば)、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。

 

一時の娯楽に供する物

もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。

この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。

判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。

金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。が、現代においてはこの判例の射程距離がどこまでかは疑問が残るところです。

 

違法阻却

一般に、法令に基づいて行われる行為や社会通念上正当な業務による行為は、刑法35条の「法令又は正当な業務による行為」として、違法性が阻却されます。

賭博罪においても、賭博に該当する行為について、他の法律においてこれが行われることを許容したり、これが行われることを前提として規制を行ったりしている場合は、違法性が阻却されます。

例えば、競馬は競馬法、競艇はモーターボート競走法、宝くじは当せん金付証票法、お年玉付郵便はがきはお年玉付郵便葉書等に関する法により合法とされています。

また、パチンコやスロット、カジノバー等は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」)により合法とされています。

 

合法カジノと違法カジノ

カジノバーとは、トランプ台やルーレット台など専ら海外のカジノに設置されている遊技設備を設けて客に遊技させる遊技業で、風営法が定義する風俗第8号営業の業態の一つです。カジノバーを営業するに当たっては、風俗第8号営業の営業許可が必要となります。

カジノバーで行われている遊技の殆どは、海外のカジノで行われているゲームですが、日本においては、カジノのようにゲームに使用するチップ等を換金することは、上記の賭博罪にあたり許されません。

風俗営業としてのパチンコ営業では、客が遊技の結果で得た玉などを賞品と交換しますが、カジノバーでは遊技に使用するチップなどを賞品と交換する行為も禁止されています(風営法23条2項)。

つまり、冒頭の違法カジノとは、風俗第8号営業の営業許可を取得していない業者、或いは営業許可を取得した合法営業であることを隠れ蓑として、密かにチップの換金や賞品との交換等の違法営業を行う業者のことを言うわけです。

なお、パチンコの「賞品」が「一時の娯楽に供する物」から外れてしまうと違法な賭博営業に近づいてしまうため、営業者に、現金や有価証券を賞品として提供することや客に提供した賞品を買い取ることを禁じ(風営法23条1項)、賞品の価格の最高限度に関する基準(平成28年4月現在、最大賞品価格は9,600円で消費税込み10,368円)に従った営業を義務づけ、パチンコの射幸性を抑制しています。

 

コンペの賞品やベット

では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。

まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。

この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。

しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。

例えば、参加費を支払うパー3のワンオンチャレンジには、ワンオンすれば賞品が貰える代わりに、失敗すると何も貰えないかグレードの落ちる賞品になるケース等様々ありますが、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものですので、「偶然性の事情に関し」の要件を欠き、ワンオンチャレンジは賭博罪に該当しないと考えるべきでしょう。これに対し、ホールインワンに高額賞品をかけて参加費を取って集客するようなケースにおいて賭博罪が成立するとした韓国の裁判例があるようですが、ホールインワンの偶然性からワンオンチャレンジとは別に考えるのもやむを得ないと思われます。

 

社会的相当性

結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。

先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。

クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。

これに対し、元参議院議員で有名女子プロゴルファーの父であるY氏が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、裁判において真実と認められており(東京高裁平成23年(ネ)第300号)、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当する事例と言わざるを得ません。

また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。

 

ゴルフ場の注意点

ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。

したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。

なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。

例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。

「ゴルフ場セミナー」2016年6月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員契約適正化法」

バブル崩壊後ゴルフ場の新規開場は減少し、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年にはついにゼロとなりました。しかしその後も少数とはいえゴルフ場の新規開場がみられます。

ゴルフ場を新規に開設する場合、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(以下「適正化法」)の規定を遵守する必要があります。

適正化法は、平成3年に施設開場前に募集予定会員数を大幅に上回る会員募集を行った茨城カントリークラブ事件が大きな社会問題となり、会員制事業に対する法的規制の必要性を求める声が高まり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたというものです。

また、平成24年9月には、神戸市北区で建設中だった神戸CC神戸コースが、適正化法で義務付けられた届け出等をせずに会員権を販売していたとして、ゴルフ会員権の販売等を手掛ける会社に対し、是正を求める行政処分が出されています。

同ゴルフ場は森林法に基づく林地開発の手続きも取っていませんでしたが、平成26年6月に「開発行為に関する工事完了確認証」を県から受け、漸く同年7月に正式開場になりました。

 

対象となる会員契約

適正化法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭を支払い、ゴルフ場等の施設を継続的に利用する役務の提供契約です(2条)。

「その他のスポーツ施設又は保養のための施設」については、現在のところ、政令で定められていませんので、ゴルフ場のみが本法の対象となっています。

なお、ゴルフ場とそれ以外の施設の利用についての契約が一体となっている場合(いわゆる複合型施設)、例えば、ゴルフ場と乗馬クラブやテニスクラブとが一体となっている場合もゴルフ会員契約適正化法の対象となります。

ここに、50万円以上というのは、預託金の額だけではなく、入会金、預託金、保証金、消費税等、会員(となろうとする者)が会員契約に基づき会員制事業者に支払うこととなる一切の金銭の総額で判断されます。分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます。

 

適正化法の対象となる募集

適正化法における「募集」とは、①広告その他これに類似する方法により会員契約の締結について勧誘すること及び勧誘させること、及び②会員契約を締結すること及び会員契約の締結の代理・媒介を行わせることをいいます(2条4項)。

このような行為をする場合は、予め会員募集の届出が必要になります。

①「勧誘」とは、会員契約の締結を勧めることを意味します。したがって、「広告その他これに類似する方法」によって会員契約の締結を勧めていれば、会員制事業者が自ら行う場合だけでなく、他の事業者に依頼して勧誘させる場合も、募集に該当します。なお、ダイレクトメール等による勧誘も「これに類似する方法」と考えられます。

②会員契約を締結することとは、自ら会員契約を締結する場合を指しますが、契約締結しさえすれば、その数に関わらず募集にあたります。そのため、一度募集を終了した後、改めて欠員を補充する場合にも、会員募集の届出が必要になる点に注意が必要です。

また、会員契約の締結の代理・媒介を行わせることとは、会員制事業者が会員契約代行者に会員契約を締結させる場合や、会員契約が成立するよう尽力させる場合です。一個の契約締結の代理・媒介を行わせることであっても募集になるという点は、自ら契約を締結する場合と同じです。

なお、既存の会員に対する契約変更の場合には適正化法の適用はありません。

例えば、17Hを27Hに増やす等ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、適正化法の対象とはなりません。

これに対し、開場後であっても、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、対象となります。またゴルフ会員権を分割する場合も、ゴルフ場事業者と会員との間の既存の契約関係の変更に加え、分割によって増加した分の新たな契約関係が生じることから、分割により増加する分の会員権が、適正化法の対象となり、後述の届出が必要となります。

 

株主会員制のゴルフクラブ

適正化法の対象となる会員契約は、事業者がゴルフ場等の施設を継続的に利用させる役務を提供することを約し、会員がその対価として金銭を支払うことを約するものをいいます。したがって、いわゆる株主会員制のゴルフ場においてみられるような、株式の取得の対価として金銭が支払われる契約は、会員契約の定義に該当しません(もっとも、株主制と預託金制を併用している場合、預託金契約に該当する部分については適正化法の適用対象となります)。

株主会員は株主総会での議決権や計算書類の閲覧請求権等を有し、会社の経営に一定の統制を働かせ得るため、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、会員の保護が図られることから、適正化法の適用がないとされています。

このような趣旨からすると、例えば、株式会社が直接ゴルフ場を経営しないで、A株式会社とB倶楽部組織を分離し、「開場後にBゴルフ倶楽部が会員を募集し、A社の株主についてはB倶楽部の株主会員として優遇するという前提で、開場前にA株式会社が株主募集を行う」等という方法は、ゴルフ場について会員から株主としての統制を免れつつ、一方適正化法の適用は受けないことになり、法の趣旨を潜脱するものと言わざるを得ません。

この場合、株券取得契約は単体でみると会員契約に該当せず、適正化法の適用はないようにも思えます。しかしながら、株主の募集とはいっても、その後に行われる会員募集と一体をなすものと評価できるような場合には、株券取得契約の時点で会員契約の締結があったものとして、適正化法の対象とすることで、会員の保護を図る必要が出てきます。その場合、開場前の株主募集は許されないと解する余地もあるので(適正化法4条)、株主募集とその後に予定されている会員募集との関係が、実質的に連続した一体の行為といえるか、実態に即した判断が必要です。

 

一般社団法人制のゴルフクラブ

適正化法は、特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会その他の政令で定める者がその構成員と締結する会員契約については、適用しないこととされています(19条2項)。「その他の政令で定める者」について、政令では「ゴルフ場の設置及び運営をその主な事業とする一般社団法人」を定めています(政令7条)。

社団とは、㋐団体としての組織を備え、㋑多数決の原理が行われ、㋒構成員の変更に関わらず団体が存続し、㋓その組織において代表の方法・総会の運営・団体としての重要な点が確定している場合をいいます(これはいわゆる権利能力なき社団に関する最高裁の判例ですが、社団性についても基本的に妥当すると考えられます)。そのうち一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人です。

このように、一般社団法人とその構成員(社員)との契約については、適正化法により情報開示等を義務付けなくとも、内部関係における規範によって会員の保護が図られ得ると考えられるため、適用除外とされているのです。

そのため、一般社団法人が社員以外の会員種別を設ける等新しい会員制度を取る場合(例えば、平日会員や家族会員)等、ゴルフ場の運営に意思を反映させる仕組みが確保されていない場合は、適正化法の対象となる可能性があります。

 

外国のゴルフ場

適正化法は日本国内において締結される会員契約を対象としており、施設自体が日本に所在することは要件にはなっていないため、外国のゴルフ場についても、日本国内で募集する場合には同法の適用を受けます。なお、外国のゴルフ場の開設前に、会員契約を締結する場合には、都道府県等による開発許認可等(4条)がなされることはありえないため、保証委託契約を締結し、その旨を届け出れば、会員契約を締結することが可能となります。

 

規制の内容

①募集の届出(3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

会員募集の届出をせず、又は虚偽の届出をして募集を行った会員制事業者については、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)の対象となるほか、罰則(50万円以下の罰金、23条)も定められています。

②会員契約締結時期の制限(4条)

さらに、4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

4条に違反する会員契約の締結についても、3条(募集の届出)の違反と同様、経済産業大臣による指示(10条)や業務の停止命令(11条)及び罰則(50万円以下の罰金、23条)が定められています。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

「ゴルフ場セミナー」2016年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「労働安全衛生法①」

本年9月11日、伊賀労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで伊賀市のゴルフ場経営会社と会社社長の男性を津地方検察庁伊賀支部に書類送検したと発表しました。

この事件は今年7月、従業員の男性が貨物自動車でコンペティションマークの設置作業中、カート道路脇の路肩から車両とともに法面の下3.3mに転落し、車の車体と地面に胸部を挟まれ死亡したというものです。伊賀労基署によると、違反内容は労働安全規則の定める「作業場所の広さや地形、車輌等の種類や能力、荷の種類や形状等に適応する作業計画」を事前に定めていなかったというもので(詳しくは後述)、社長は事実を認めており、死亡という結果の重大性に鑑み送検に踏み切ったということです。

平成22年の休業4日以上の労働災害による死傷者数は、全事業で11万6733人、ゴルフ場においては1187人が被災しています(プレーヤーの事故は除く)。事故は「転倒」が最も多く4割程度を占め、冒頭のような「墜落・転落」による事故も1割程度を占め(以上、厚生労働省「労働者私傷病者報告」)、キャディの災害が6割強、次いでコース管理員が2割強を占めています(日本ゴルフ場支配人連合会による調査)。

こういった労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として、企業の安全管理体制について定めているのが労働安全衛生法(以下「労安衛法」)です。今回はこの法律について検討します。

 

企業の安全配慮義務

労安衛法は、労働災害を防止するため、事業者は労安衛法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境を作り労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならないと規定しています。

使用者の労働者に対する安全配慮義務については、平成20年3月に施行された労働契約法第5条で、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と明文化されています。安全配慮義務を怠った場合、民法の709条(不法行為責任)、715条(使用者責任)、415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例も存在しますが、労働契約法には罰則がありません。

これに対し、事業者が労安衛法の規定に違反すると、多くの場合、懲役や罰金などの罰則が科されます。また、監督行政庁が事業者に対して、労働災害の発生防止のために、作業の停止や建物の使用の停止などを命じることもあります。

 

安全衛生管理体制

労安衛法1条は、「職場における労働者の安全と健康を確保」するという目的を果たすための手段の一つとして、「責任体制の明確化及び自主的活動の促進への措置を講ずる」ことを掲げ、これを受けて、労働災害を防止するため、必要な安全衛生管理体制について定めています。

ゴルフ場でも、経営トップから各作業別責任者まで、それぞれの役割、責任、権限を明らかにすることが大切です。

まず、労働者数が10人~49人の事業場では、支配人等を「安全衛生推進者」として選任し、その氏名を関係労働者に周知させる必要があります。50人以上の事業場では、「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」を配置し、労働基準監督署に選任報告を行うことが必要です。

以上の義務違反には、罰則が定められています(50万円以下の罰金)。

安全衛生管理体制の中でもその役割の重要性が近年注目されているものとして産業医の制度があります。

産業医とは、事業者に雇用され、又は事業者の嘱託として事業場の労働者の健康管理等を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。しかし実際には、労働者数が50人以上100人未満の中小事業場では産業医の選任率が低いことが問題として指摘されています。平成8年の法改正により、常時50人未満の労働者を使用する事業場についても、医師等に労働者の健康管理等を行わせる努力義務が課され、国が必要な援助を行うことが定められています。

 

健康の保持増進のための措置

労安衛法は、事業者に、労働者に対して医師による健康診断を実施する義務を課しています。健康診断は、雇入れ時及びその後は1年ごと(深夜業等の特定の業務については、配置替時及び6か月ごと)に1回、定期に実施することが必要です。実施義務違反には50万以下の罰金が規定されています。

健康診断を実施したら、その結果に基づき従業員の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴取し、必要があるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければなりません。

特に近年では熱中症対策が重要です。直射日光や地面からの照り返しを遮ることができる屋根等を工夫する等して作業環境を整え、冷房完備又は日陰等の涼しい休憩場所を確保する、コース内に飲料水の備付を行う等の対応も必要となります。

また、平成17年の法改正によって、長時間労働者への医師による面接指導の実施も義務付けられました。具体的には、週40時間を越える労働が1月あたり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる労働者が申し出たときは、事業者は、医師による面接指導を行わなければなりません。それ以外の労働者についても、長時間の労働により疲労の蓄積が見られる者や、健康上の不安を有している労働者などについて、事業者は医師による面接指導又はこれに準ずる措置を取らなければなりません。

 

メンタルヘルスケア

健康には心の健康も含まれます。厳しい経済情勢の中、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は近年増加しています。業務に密接な関係があると判断されたメンタルヘルス不調者は労災の補償対象となり、その件数も増えてきています(平成19年厚生労働省による労働者健康状況調査)。事業者が民事上の損害賠償責任を問われる例も出ています。

ゴルフ場においても、メンタルヘルスケアを継続的かつ計画的に実行する体制づくりを行う必要があります。ここで参考になるのが、平成12年に厚生労働省が作成した「労働者の心の健康の保持増進のための指標」の示す、4つのケア(①セルフケア、②ラインケア、③事業場内産業保健スタッフによるケア、④社外の専門機関によるケア)です。

①セルフケアとは、自分の体調や心の状態を把握することです。心の健康を保つためには、労働者が自己のストレスに対する反応の現れ方や、心の状態を正しく把握することが不可欠です。そこで事業主は従業員に対し、セルフケアに必要な教育や情報(メンタルヘルスケアに関する事業場の方針、事業場内の相談先や事業場外資源の情報等)を提供することが必要となります。

②ラインケアとは、管理監督者が社員へ個別の指導・相談や職場環境改善を行う取り組みのことです。管理監督者は、部下にあたる労働者の状況を日常的に把握でき、具体的なストレス要因やその改善を図ることが可能であるため、労働者からの相談に対応し、職場環境を改善すべき立場にあります。事業者は管理監督者がこれを実行できるよう、ラインによるケアに関する教育・研修、情報提供を行う必要があります。

③産業医等の事業場内産業保健スタッフは、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口となること等、具体的なメンタルヘルスケアの実施にあたり中心的な役割を果たすことが期待されます。

④さらに、メンタルヘルスケアを行う上では、事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、専門的な知識を有する各種の事業場外資源の支援を活用することが有効です。また、労働者が相談内容等を事業場に知られることを望まないような場合にも、事業場外資源を活用することが効果的です。

職場でのメンタルヘルス対策の大切さは誰もが理解するところだと思いますが、何から始めたらいいのかわからないといった場合は、この4つのケアを基本に考えて職場で取り入れてみるとよいでしょう。

 

労働者の危険又は健康障害を防止するための措置

労安衛法は、事業者に対し、労働者の危険又は健康障害を防止するため、必要な措置を講ずるよう義務付けています。

事業者が講じるべき措置の具体的内容は技術的細部にわたることも多いため、具体的な措置の内容については、労安衛法規則(以下「規則」)等で詳細に定められています。

例えば冒頭の事例ように、貨物自動車等を用いて作業を行うときは、①予め場所の広さや地形、車輌等の種類や能力、荷の種類や形状等に適応する作業計画を定め、かつ②当該作業計画により作業を行わなければならず、③これを関係労働者に周知させなければならない(以上規則151条の3)、④車両等の転倒又は転落による労働者の危険を防止するため、当該車両系荷役運搬機械等の運行経路について必要な幅員を保持し路肩の崩壊を防止すること等必要な措置を講じなければならない(規則151条の6)等と規定されています。

冒頭の事例の事故の詳細は明らかにされていませんが、この事例を前提にすると、貨物自動車等を用いて作業をする際には、使用車両や作業方法・内容について定めた「作業計画書」(書式については中央労働災害防止協会「ゴルフ場の事業における労働災害防止のためのガイドライン」https://www.jaish.gr.jp/user/anzen/cho/joho/h23/cho_0476.html参照)を作成するとともに、路肩の崩壊を防止するに十分なカート道の幅員を保持する等の対策が必要となります。

事業者の義務については規則の第2編「安全基準」に詳細に規定されており(101条~575条の16)、 これらの義務に違反した場合には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

 

落雷による災害防止

ゴルフ場では落雷による災害の危険性が高く、落雷事故を防止するため支配人等を責任者として組織的に対応を取る必要があります。

日頃から避難判断するための雷や天気の情報(ウエブサイト、情報会社、襲雷警報器)を入手し、災害発生時には、責任者は情報を総合的に判断し、避難が必要と判断した場合には速やかに避難指示を発令します。伝達は、サイレンやスピーカー、無線やカートナビ機能、巡回等で適切・確実に行うことが必要です。

避難指示が出された場合は、①作業を中断し、予め決められた避雷設備のついた建物へ非難する、②屋外で比較的安全な場所(電線の下、5m以上の高い物体の4m離れた場所等)を見つけ、その場で適切な姿勢を保つ(頭を低くしゃがみ、両足を揃え、膝を地面に付けず、耳をふさぐ。腹這いは電流の流れが心臓に通電する可能性が高く危険)、③安全な場所に避難が困難な場合は、高い場所から移動し、電流を通しにくい木の付近は避け、適切な姿勢を保つ等の避雷の基本的事項を事前に確認・周知しておくが必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「廃棄物の処理」

本年6月、ポテトチップス約1000袋(約30万円相当)を雑木林や畑に捨てたとして兵庫県の会社員が廃棄物処理法違反(不法投棄)の容疑で逮捕されて話題となりました。袋には人気声優のライブチケットの応募券が印刷されており、応募券欲しさに食べるつもりなく大量購入したようです。

ゴルフ場の例でも、日本女子オープンを開催した新潟県のゴルフ倶楽部が、平成20年3月にゴルフ場所有のコース隣接地内の穴に紙くずやタイヤ等のごみ約1・25トンを埋めたとして廃棄物処理法違反で逮捕され、翌年9月、ゴルフ場を経営する会社と不法投棄に関わった建設会社及びその関係者に対して有罪判決(ゴルフ場経営会社には罰金300万円、元支配人には懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円)が下されたことは記憶に新しいと思います。

また、平成17年には北海道のゴルフ場で敷地内に農薬の空き容器などを捨てていたことが判明し、廃棄物処理法違反でゴルフ場経営会社に罰金120万円、元総支配人に懲役1年、執行猶予3年等の判決が下されています。

ゴルフ場の運営に伴って、伐木・抜根、刈った芝生、枯葉、レストランの生ゴミ等様々な廃棄物が生じると思います。これらの廃棄物を、ゴルフ場の用地内で焼却したり埋め立てたりしてよいのでしょうか。

今回は廃棄物の適切な処理と産廃物等の不適切な処理に伴う土壌汚染について検討します。

 

廃棄物とは

廃棄物とは、いわゆる「ごみ」だけでなく、自分で利用したり他人に有償で売却できないために不要となった固形状又は液状のもの全てを言います。

廃棄物は「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類されます。一般廃棄物はさらに家庭から排出される家庭廃棄物と会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物に大別されます。

産業廃棄物は不燃ごみ、事業系一般廃棄物は可燃ごみをイメージして貰えばよいと思います。

詳しくは後述しますが、産業廃棄物は産業廃棄物処理業者が産業廃棄物処理施設に運んで処理し、残渣は産業廃棄物最終処分場で処理されます。事業系一般廃棄物は一般廃棄物処理業者又は排出業者が市区町村のごみ処理施設に運んで処理し、焼却灰は各市区町村の廃棄物広域処分場で処理されます。

 

産業廃棄物の処理

「産業廃棄物」とは、事業活動で発生するビニール類・ペットボトル等のプラスチック製品や缶・アルミホイル等の金属くず等で法律で定めるものです。使用済みのプラスチック製のボールペンや空缶も、事業活動で発生した物である限り産業廃棄物になります。

産業廃棄物の処理については、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任で適正に処理する」という基本原則があります(廃棄物の処理及び清掃に関する法律11条。以下「廃棄物処理法」)。

とは言え、事業者自ら法律に定める処理基準に従って「保管、収集運搬、処分」することは場所や人手の関係から通常困難です。

そこで、法律で決められた委託基準に従って、都道府県等の許可を受けた産業廃棄物処理業者と処理委託契約書を事前に締結し、産業廃棄物管理票(マニフェスト)を準備する等、適正な方法で処理する必要があります。

 

一般廃棄物の処理

「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物全てを指し、主に家庭から出てきた「ごみ」やオフィスから出る紙くず等です。例えば古くなったゴルフ場のパンフレットやレストランの生ゴミは一般廃棄物です。伐木・伐根、芝生、枯葉等もゴルフ場の場合には一般廃棄物になります。

会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物は家庭廃棄物と異なり市区町村では収集しません。自ら各市区町村のごみ処理施設に持ち込むか、市区町村から許可を受けた一般廃棄物処理業者等に収集運搬を委託して処理して貰います(具体的な方法は廃棄物が発生した区域を管轄している各市区町村により異なるため、各市区町村の清掃担当部署のホームページや電話等で確認して下さい)。

従来、ゴルフ場から出た刈った芝草や枯葉等を燃やしたり土中に埋めたりしたことがあったかもしれませんが、これらは一般廃棄物にあたるので、今の法律上は適法な処理設備を用いずに燃やしたり埋め立てたりすることは、生活環境保全の観点から、たとえ自社所有地内であっても違法となるので注意が必要です。

これに対し、芝草や枯葉、枯枝を堆肥化・チップ化して再利用する場合には廃棄物(=不要になった物)には該当せず、廃棄物処理法違反にはならないと考えられます。このような再利用は焼却ごみの削減、資源の有効活用の観点からも望ましいことだと思われます。

ちなみに事業者ではない一般家庭でも、適法な焼却設備を用いずに野外で廃棄物を燃やすことは原則として禁止されます(廃棄物処理法16条の2)。煙や悪臭等が近所迷惑となり、火災の原因、ダイオキシン類や有害物質の発生原因となる可能性があるからです。庭先での小規模な落ち葉たき程度であれば、周辺環境に影響のない範囲で例外的に許されますが(廃棄物処理法16条の2第3号、政令14条)、生活環境上支障を与え、苦情等のある場合は、改善命令や各種行政指導の対象となりますので充分注意が必要です。

このような廃棄物の不法焼却や不法投棄をすると5年以下の懲役かつ/又は1000万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。法人の代表者や従業員等が不法投棄等をした場合、行為をした者はもちろん、法人にも3億円以下の罰金が科されます。未遂であっても同様です。

 

放射能汚染物質の場合

平成23年3月の原子力発電所事故により放出された放射性物質で汚染された廃棄物の処理については、基本的に国や地方公共団体、東京電力等の役割になります。

福島県内の汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物及び事故由来放射性物質の放射能濃度が8,000 ベクレル/kgを超えた廃棄物(特定廃棄物)の処理は国が行います。

特定廃棄物以外の廃棄物については廃棄物処理法の規定が適用されますが、東日本の一定のエリア(青森、秋田を除く東北4県、関東1都6県、新潟県)の特定の施設(水道施設や廃棄物処理施設等)の廃棄物等で、放射能濃度が8,000 ベクレル/kg以下の廃棄物は、「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」とされ、通常よりも厳しい基準で処理されます。

このように廃棄物処理施設等で放射能濃度により適切な処理を施す枠組みとなっており、ゴルフ場等の一般事業者に廃棄物の汚染状態の調査・報告の義務までは課せられていません。

もっとも、自治体の担当者によると、自主的に放射線量を測定する等して芝草や枯葉等の廃棄物が放射能に汚染されたことが判明した場合には、廃棄物を処理業者や処理施設に引き渡す際にその点を申告して貰いたいということです。

 

農薬による土壌汚染

廃棄物の不適切な処理は土壌汚染にもつながります。

さらにゴルフ場においては、芝生や木など多くの植物に対してさまざまな農薬が使用されています。不適切な農薬を過剰に使用すれば、大気や土壌、地下水が汚染されてしまい、プレイヤー、従業員、周辺住民に対して深刻な影響を及ぼします。そこで、ゴルフ場の運営にあたっては農薬の適切な使用が求められます。

特に平成の初めのバブル時代は、ゴルフ場が多く造成され、農薬問題にも関心が集まっていました。

平成2年5月には、当時の環境庁が「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針について」という水質保全局長通達を出し、「人の健康の保護に関する視点を考慮」して、ゴルフ場からの排出水中の農薬濃度の上限(指針値)を定めました。その後、対象農薬と数値の改定が必要に応じて行われ、日本ゴルフ場経営者協会(NGK)のホームページでも告知がなされています。

また、ゴルフ場において農薬を使用しようとする者は、毎年度、使用しようとする最初の日までに、農薬使用計画書を農林水産大臣に提出すべきこととされています(「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年農林水産省・環境省令第5号)。

このような取組みの成果もあり、平成25年10月の環境省発表によれば、平成24年度に全国555か所のゴルフ場で環境省の指針に基づく水質調査を行ったところ、指針値を超過する検体は一つもありませんでした。

 

土壌汚染対策法

土壌汚染対策法は、主として、すでに使用が廃止された工場敷地等を調査し、汚染があった場合には土地所有者や汚染者に除去させるという法律です。

しかし、現に使用されているゴルフ場用地であっても、有害物質による汚染で人の健康に係る被害が生ずるおそれがある場合には、汚染調査の対象となります。調査の結果、汚染の程度が一定の基準を超えていることが判明すると、都道府県知事によって汚染区域として指定されます。

都道府県知事は、汚染された土地の所有者や管理者、汚染者等に汚染の除去を命じることになりますが、汚染除去の措置命令に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

そして、指定された土地の汚染が除去されて区域指定が解除されるまで、指定区域台帳に記載されます。指定区域台帳は一般に公開されますので、ゴルフ場用地が汚染区域として指定されるようなことがあると、風評被害で来場者が激減し、ゴルフ場の運営上極めて深刻な悪影響が生じるでしょう。

ゴルフ場における土壌汚染は、上記のような廃棄物の不適切な処理や農薬の使用によって生じる可能性があります。土壌汚染に対する認識不足から重大な問題を生じさせないよう、ゴルフ場においては、従業員の一人一人が廃棄物の問題や農薬の問題など、環境法令の基本部分について理解しておくことが大切です。

 

不法投棄をされたら

ゴルフ場は広大な敷地を有しています。特に山間部のゴルフ場は、夜間や早朝であれば不法投棄をしても人目に付きにくいため、不法投棄の格好の場所となり、被害に遭うことが多いようです。

不法投棄をした者がわからなかったり、その者が倒産している等、不法投棄者に対する責任追及が困難な場合であっても、ゴルフ場は土地所有者として、自らの負担で廃棄物を処理せざるを得ません。土壌汚染対策法では原因者が他にあっても、土地所有者は土壌の汚染除去をすることが法律上義務付けられています。廃棄物処理や土壌汚染除去には多額の費用がかかるため、ゴルフ場にとっては非常に重い負担になります。

このような被害が生じた場合に備え、立法的な手当てもある程度はなされています。不法投棄については、産業廃棄物適正処理推進センターが産業廃棄物の不法投棄に対する原状回復支援事業等を行っており、原状回復に要する事業費の4分の3を助成する等の支援を行っています。土壌汚染についても財団法人日本環境協会が同様の支援を行っています。

「ゴルフ場セミナー」2014年9月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「暴力団排除~2つの最高裁決定~」

本年3月、同一の裁判官で構成される最高裁小法廷が、同一の日に、似たような事件で、一方は無罪、他方は有罪という判断を下しました(最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=無罪、最高裁第2小法廷平成26年3月28日決定=有罪)。

これは、身分を隠した暴力団関係者が、ゴルフ場で正規の料金を支払い普通にプレーすることが詐欺罪になるかどうかが争われた事案です。

暴力団員のゴルフ場利用については、詐欺罪として全国の警察が摘発を行っており、3月も山形県警が強制捜査に踏み切りました。しかし暴力団員によるゴルフ場利用の申し込みは詐欺罪の実行行為としての「欺罔行為」には該当せず、詐欺罪は成立しないとの最高裁の判断が下されたわけです。他方、類似の別の事案では最高裁は詐欺罪が成立すると判断しました 。

利用客の中に暴力団関係者がいると安全快適なプレー環境が確保できず、暴力団員が利用しているという評判はゴルフ場の社会的信用や格付け等を損ない、利用客の減少等業績にも多大な影響が及ぶ恐れがあります。「利益供与」に該当してコンプライアンス違反という事態にもなりかねません(本誌平成25年11月号参照)。

今回は2つの最高裁決定を題材にゴルフ場の暴力団対策を検討します。

 

無罪決定の事案

結論の違いを導いたそれぞれの事案を少し詳しくみてみましょう。無罪決定の事案は以下のようなものでした(決定とは裁判所の裁判のうち判決以外のものをいいます)。

被告人Xは、暴力団員でしたが、同じ組の副会長らと共に、平成23年8月、予約した宮崎県内のA倶楽部に行き、フロントにおいて、ビジター利用客として、備付けの「ビジター受付表」に氏名、住所、電話番号等を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込みました。

受付表には暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられておらず、暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人らが自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもありませんでした。

被告人らは、ゴルフをするなどして同倶楽部の施設を利用した後、それぞれ自己の利用料金等を支払いました。

なお、A倶楽部は、会員制のゴルフ場ですが、会員又はその同伴者、紹介者に限定することなく、ビジター利用客のみによる施設利用を認めていました。

 

無罪の最高裁決定

このような事実に対して、最高裁は、概ね次のように判断しました。

確かにA倶楽部は、ゴルフ場利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたし、九州ゴルフ場連盟、宮崎県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上、クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。

しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。また、A倶楽部と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人らも同様の経験をしていた。つまり、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。

このような事実関係を前提とすると、Xが暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は、申込者がゴルフ場の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると、本件におけるXらによるA倶楽部の施設利用申込行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。

 

有罪決定の事案

これに対して有罪決定の事案は、次のようなものでした。

被告人Yは、平成22年10、ゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止している長野県内のB倶楽部において、B倶楽部の会員Zと共謀して、真実は被告人が暴力団員であるのにそれを隠して施設利用を申し込みました。

B倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係があるか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨の誓約書に署名押印させ提出させていました。利用約款でも暴力団員の入場及び施設利用を禁止していました。

Yは、暴力団員であり、長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており、利用を拒絶される可能性があることを認識していましたが、Zから誘われ、同伴者としてB倶楽部を訪れました。

B倶楽部のゴルフ場利用約款では、他のゴルフ場と同様、利用客は全てフロントにおいて、「ご署名簿」に自署して施設利用を申し込むこととされていました。しかしZは、施設利用の申込みに際し、Yが暴力団員であることが発覚するのを恐れ、その事実を申告せず、受付従業人に代署を依頼してYがフロントに赴き署名をしないで済むようにしました。

なお、Zは、申込みの際、同倶楽部従業員から同伴者に暴力団関係者がいないか改めて確認されたことはなく、自ら同伴者に暴力団関係者はいない旨虚偽の申出をしたこともありませんでした。他方、被告人は、Zに施設利用の申込みを任せており、結局フロントに立ち寄ることなくプレーを開始しました。

また、被告人の施設利用料金等は翌日Zがクレジットカードで精算しています。

 

有罪の最高裁決定

このような事実に対して最高裁は概ね次のように判断しました。

B倶楽部は、①ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し、②入会審査に当たり暴力団関係者を同伴、紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていた他、③長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいた。

本件においても、Yが暴力団員であることが分かれば、その施設利用に応じることはなかった。

このような事実関係からすれば、入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるZが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している。

加えて、利用客が暴力団関係者かどうかは、B倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、施設利用をした行為は詐欺罪を構成することは明らかである。

 

ゴルフ場の対応

このように、両事例の結論が分かれたのは、ゴルフ場が暴力団関係者の施設利用を拒絶していることを申込者自身が認識していたかどうかという点にあろうと思われます。地域の暴力団排除活動や誓約書の有無等から、B倶楽部の申込者(B倶楽部の会員で紹介者、共犯Z)にはこの認識があったと評価されたわけですが、利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置が徹底されていなかったA倶楽部では、申込者(被告人X)にはこの認識がないと判断されたわけです。

そこで、入会時に「私は、暴力団等とは一切関係ありません」と自分自身が暴力団関係者ではないという点だけでなく、「暴団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」という点まで記載した誓約書を提出させることが必須でしょう。

会則や約款等に同様の暴力団排除条項を設けたりクラブ内の掲示や看板、HP等で暴力団関係者排除の広告をしたり、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。

過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。

また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいても、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。

また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取ることも必須です。

 

警察との連携

さらに警察との連携も重要です。

警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」警察庁HPwww.npa.go.jp)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。

来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。

この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広く詳細に規定することも重要です。

受付段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。

この場合、約款等に暴力団関係者の施設利用を制限する旨及びプレーヤー側の事情によるプレー中断の際はプレーフィやキャディフィを返還しない旨の規定があれば、暴力団関係者のプレーを途中でやめてもらう場合でもプレーヤー側の事情によるものとして、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度(ハーフかラウンド)に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を払えといった要求に応じる必要はありません。

「ゴルフ場セミナー」2014年6月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「食品偽装」

昨年10月の某有名ホテルの公表・報道をきっかけに、全国各地のホテルや百貨店の飲食店における食品・料理の偽装・誤表示が次々と明らかになりました。ゴルフ場のレストランにおいても同様の問題が波及しており、メニュー表示とは異なる食品・料理を提供していたことを公表するゴルフ場も出てきています。

また、健康志向の高まりの中、食品のカロリーや原産地、無農薬野菜かどうか等を気にするプレーヤーも多いでしょう。さらにジュニアのプレーヤーも年々増えていますが、学校給食において乳製品アレルギーの児童がショック死するという痛ましい事件も記憶に新しいと思います。レストランのメニューにカロリーやアレルギー表示は必要ないのでしょうか。

一方この冬もノロウィルスによる食中毒が猛威を振るい、静岡や愛媛のゴルフ場のレストランにおいても集団食中毒が発生し報道されました。

今回は、ゴルフ場のレストラン運営に関わる法律問題を検討したいと思います。

 

景表法による表示規制

店頭で包装・容器に入った状態で売られている生鮮、加工食品は、①JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、②食品衛生法により、品質やアレルゲン等の表示が厳密な定義のもと義務付けられています。

また、栄養成分を表示する際の表示事項が③健康増進法に規定されています(表示自体は任意です)。

しかしながら、レストラン等外食産業におけるメニュー表示については、対面販売なのでその場で原産地等について店員に尋ねればよいとの考えからか、これらの法律による規制は及んでいません。

現行法の下では、外食におけるメニュー表示は消費者庁が所管する景表法(「不当景品類及び不当表示防止法」)により規制されます。

規制の対象は、商品・サービスを供給する事業者で、ゴルフ場も当然含まれます。規制の対象となる「表示」は、事業者が商品やサービスの提供の際に顧客を誘引するために利用するあらゆる表示であり、紙に記載されたものやインターネットによるものは勿論のこと、口頭によるものも含まれます。

 

優良誤認表示

不当表示には、①商品・サービスの品質、規格その他の内容に関する「優良誤認表示」(景表法4条1項1号)、②商品・サービスの価格その他の取引条件に関する「有利誤認表示」(同条項2号)③特定の商品・サービスについて内閣総理大臣が指定(告示)した「指定告示表示」(同条項3号)があり、メニュー表示において問題となるのは①優良誤認表示です。

景表法4条1項1号は、商品の品質や規格その他の内容が、一般消費者に対し、㋐実際のものよりも著しく優良であると示し、又は㋑事実に相違して他社の商品よりも著しく優良であると示す表示であって、㋒不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を事業者にしてはならない旨を規定しています。

表示の対象となる「品質」とは、原材料、純度、添加物、効果、効能、性能、鮮度、栄養価等を言うものとされています。「規格」とは、国等が定めた規格(JIS等)等、「その他の内容」とは、有効期限や製造方法等を言うものとされています。例えば、クルマエビと表示していたのに実際はブラックタイガーだった、九条ねぎと表示していたのに実際は長ネギだった、というようなケースです。

このような原材料そのものが異なる場合の他、天然もの100%、無添加、無農薬、有機栽培等の表示も含まれます。例えば、健康食品でアントシアニン36%含有と表示していたのに実際は1%程度に過ぎなかったというようなケースです。

なお、この規制は、消費者が誤認するものかどうかが問題とされるものであって、事業者に故意や過失があったかどうかを問いません。つまり、レストランにおいて提供したメニューが実際に用いている食材と異なっていることについて、事業者側に認識があったか否かを問わず問題となるのであって、「偽装」であろうと「誤表示」であろうと関係ない点に注意が必要です。

 

違反行為に対する措置

消費者庁長官は、景表法違反について調査を行い、違反する行為があるときは当該行為を行った事業者に対して、その誤認行為の排除、誤認表示の差止め等を命じる措置命令を発令することができ、その内容を公表することができます(景表法6条)。

措置命令においては、通常①表示が一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であることを示すものであることを自社ウェブサイト等で公示すること、②再発防止策を講じて、これを役員、従業員に周知徹底すること、③今後同様の表示を行わないことが命じられます。

措置命令に違反した者は二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処せられ(景表法15条)、事業主も三億円以下の罰金に処せられます(両罰規定、18条)。

措置命令が出された場合、これに不服があれば取消訴訟等の行政訴訟を提起することによりその効力を争うことができますが、実際に公表されてしまった後に訴訟で争い取消がなされたとしても、措置命令が公開されたことによる事業者の名誉回復を行うことは著しく困難でしょう。

なお、故意に基づく偽装表示の場合には、詐欺罪を構成する可能性もあります。事案の悪辣性の程度や社会的影響等によっては逮捕、起訴等に及ぶ可能性も否定できません。

 

排除命令の具体例

「著しく優良であると示す」表示であるか否かは、個別具体的に消費者庁が判断することであって一般化することは困難ですが、飲食店における偽装・誤表示が社会問題化したことを受けて、消費者庁のウェブサイトに排除命令の対象となった事例を掲載されており、これらが参考になります。

①「ビーフステーキ焼肉ソースランチ」等と称する料理について、牛の生肉の切り身であるかのように表示していたが、実際には牛の成型肉(牛の生肉、脂身等を人工的に結着し、形状を整えたもの)であった。

②ミシュラン2つ星のレストランにおいて、「特選前沢牛サーロインステーキ」等と記載していたが、実際には牛肉の大部分は前沢牛のものではなかった。野菜の大部分はオーガニックでなかった。

③牛の正肉の大部分が神戸ビーフではなかった。

④○○県に所在する契約農家が生産した天日により乾燥させた米を用いていない店舗が大部分であった。

⑤「霜降サーロインステーキ」等と表示された料理に用いられた牛肉は、実際には牛脂注入加工肉であった。

なお、⑤牛脂注入加工肉を焼いた料理について、消費者庁は、「霜降り」の表現を使うことは景表法上問題となるが、商品名を「ビーフステーキ」「やわらかビーフステーキ」等とし、「牛脂注入加工肉使用」「インジェクション加工肉を使用したものです」等というように、この料理の食材が牛脂注入加工肉であることを商品名と同一ポイントで商品名近くに併記する等すれば、直ちに景表法上問題となることはないという見解を示しています。

ゴルフ場のレストランにおいても、食材が不足した際にはフレッシュジュースに濃縮果汁を注ぎ足したものをフレッシュジュース(その場で果実を絞ったもの)として提供(神奈川)、新潟県産舞茸を群馬県産として提供(群馬)、牛脂注入加工肉を「ステーキセット」(岡山)、「牛ヒレステーキ」(石川)等として提供したこと等が自主的に公表されています。

ゴルフ場のレストランに対して排除命令が出された事例はまだないようですが、消費者庁は、不適切な表示が判明した場合にはこれを速やかに訂正するとともに、その期間や内容を利用者に公表する等自主的な措置を講じるよう要請しています。

 

ゴルフ場の対応

上記のとおり、実際にどのような表示が優良誤認表示にあたるかについて明確な基準がなく、ゴルフ場も対策を立てにくいと思われます。景表法の緩い法規制がホテルや百貨店における食品偽装が相次いで発覚している一因と見る向きもあります。

また、ゴルフ場の運営するレストランにおいては、あくまでゴルフが中心の来場のため、一般のレストラン等に比べ、提供される料理の味や品質に関する客の期待もそれほど大きいものではないかもしれません。

しかしながら、法律に違反するか、排除命令を受けるかどうかではなく、ゴルファー一般の意識の変化に対応してレピュテーションリスクを軽減し、またサービス向上の観点から、レストランのメニュー表示を再点検し、品質等の正確な表示を心掛ける必要があるでしょう。

なお、昨年6月、食品の表示に関し包括的一元的な制度を創設するため、食品表示に関する現行3法(JAS法、食品衛生法、健康増進法)の規定を整理・統合・拡大する「食品表示法」が公布されました(2月現在未施行)。食品表示法では、現在は任意制度となっているカロリー等の栄養成分表示も義務化が可能な枠組みとなっています。

消費者庁は、食品表示法では外食産業のメニューについてもアレルギー物質を含む食材を明記する等安全性に関する表示や産地・品質の表示を求める方向で検討しています。さらに、同法の施行は平成27年6月までと間があるので、予め上記3法のいずれかに外食のメニュー表示規制を盛り込むことも検討しています。

ゴルフ場のレストランにおいてもこれらは他人事ではありません。法改正の動向に注意しつつ、規制の有無に関わらず、人命に関わるアレルギー成分表示は勿論のこと、プレーヤーの健康増進を図るためのカロリー表示等も積極的に取り入れるべきでしょう。

 

食中毒の場合

食中毒が発生した場合、この患者を診断した医師は、24時間以内に最寄りの保健所にその旨を届け出なければならず、これに応じて保健所による調査が行われます(食品衛生法58条)。

施設調査では、患者の喫食状況の確認、残品・保存食の調査、同様の訴えの有無、提供食品・調理法の検査、従業者の健康状態、施設のふき取り検査等が行われます。

病原菌の検査には時間がかかるため、被害の状況や施設検査等を勘案し、病原物質が確定していない時点で被害拡大の防止のため、自主的に休業を求められる場合もあります。

その結果、食中毒を発生させたと認められる施設に対しては、食品衛生法6条違反として、そのほとんどに対して営業停止命令が下されます(同法55条)。期間は被害の規模にもよりますが、数日間から数週間に及ぶこともあり、無期限の営業停止処分になることもあります。

再度営業許可を得るためには、原因を特定し再発予防策を策定し、再調査等の様々な条件をクリアしなければなりません。

「ゴルフ場セミナー」2014年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「暴力団排除のための実務的方策」

平成23年10月以降全都道府県において暴力団排除条例が施行されたにも関わらず、指定暴力団のトップを含む暴力団員が詐欺の疑いで逮捕されたり、PGAの幹部が暴力団員とプレーしたことが社会問題し辞任する等、暴力団絡みの問題が後を絶ちません(本誌平成24年6月号、平成25年11月号参照)。

このため警察は暴力団排除についてゴルフ場に対し一層の協力を求めており、昨年9月には社団法人日本ゴルフ場事業協会(NGK)も加盟ゴルフ場に対しゴルフ場の利用約款等の整備を求めました。

暴力団排除条例は、暴力団が都道府県民の生活や事業活動に介入し、これを背景とした資金獲得活動によって、都道府県民等に多大な脅威を与えている現状に鑑み、都道府県民の安全かつ平穏な生活を確保し、事業活動の健全な発展に寄与することを目的として制定されています。

この条例により、ゴルフ場においても、①ゴルフコンペ・ゴルフプレーや各種取引において、相手方その他関係者が暴力団関係者でないことの確認、②暴力団関係者とのゴルフコンペやゴルフプレー、各種取引等の禁止、③暴力団排除条項の設置、④暴力団関係者への利益供与の禁止等が求められます。

これらに違反した事実が確認された場合、ゴルフ場名が公表されたり、1年以下の懲役又は50 万円以下の罰金等の制裁処置を受けることがありますので注意が必要です。

今回は暴力団排除のための実務的方策について検討します。

 

クラブへの入会の阻止

多くのゴルフクラブで、入会資格を定めて厳重な入会審査を行い、暴力団等の入会を排除していると思います。ゴルフクラブは原則としてその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は契約自由の原則からクラブにとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます(本誌平成25年12月号参照)

もっとも、無用なトラブルの発生を防ぐためには、暴力団員等の入会拒絶根拠を基準化し、入会資格制限に関する暴力団排除規定を置き、法的に暴力団を排除できる仕組みにしておくことが必須です。

この場合、暴力団の正式な構成員でなくても暴力団と密接に関係する者や企業等を広く排除するため、以下の条項例のように広くかつ詳細に規定することが必要でしょう。

【条項例】

(入会資格)

第○条 入会希望者(譲受人予定者。名義変更予定者・相続人を含む)はが次の各号の一に該当するときは、入会審査を受け付けない。

1 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)

 

会員資格の停止・除名

暴力団員等であることを知らずに入会を承認したり、暴排条項を規定する以前に入会を認めた暴力団員等について、後に暴力団員等であることが判明した場合には、会員資格の停止や除名で対応することが必要となります。

除名は会員の会員契約の解除であり、会員資格の停止は会員契約に基づく会員の施設利用権の制限なので、法的な有効性を確かめながら慎重に進める必要があります。

この点、東京高裁平成2年10月17日判決は、傍論ではありますが、「継続的契約である…ゴルフ場施設利用契約において債務不履行を理由として契約を解除するためには、契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とする」としつつ、いわゆる暴力団組員のような者は、ゴルフ場施設内においても粗暴な振る舞いに及んだり他の会員に迷惑を掛ける等、他の会員のゴルフ場施設の快適な利用を妨げる行為に出ることが十分に予測されるから、信頼関係を維持することは困難であろうとしています。

この裁判例からしても、仮に会則で暴力団員であることが資格停止や除名事由として明記されていない場合でも、信頼関係を破壊することを理由に暴力団員であることをもって資格停止や除名ができると考えられます。

とは言え、暴排条項を規定し、積極的に暴力団員等の会員資格を停止・除名する場合の契約上の根拠を提供することが望ましいことは言うまでもありません。

なお、ゴルフクラブと会員の権利義務関係は個々の会員契約において決まるのに加え、集団的処理が必要な部分については会則により規定されています。

もっとも、預託金据置期間の延長等会員契約上の基本的な権利に対する重大な変更を伴う会則の改定は、理事会の決議により一方的に会員に不利益を及ぼすのは妥当ではないことから、既に入会した会員に対しては効力が及ばないものと解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。

しかしながら、暴力団員等の会員資格を停止・除名する内容に会則を改定することは、会員に元々課されているクラブ秩序維持義務を明文化するものであって、一方的に会員に不利益を及ぼすものであるとは言えません。

そもそも前記東京高裁判決の言うように暴力団員等は本来資格停止・除名できるものですから、既に入会した暴力団員等を改定後の規定を根拠に資格停止・除名することも許されると考えられるでしょう。

【条項例】

(会員資格の停止・除名)

第○条 会員が次の各号の一に該当したときは、理事会の決議により会員の資格を一時停止し、又は除名することができる。

1 会則、施設利用約款、規則に違反したとき

2 クラブの名誉及び信用を傷つけ、又は秩序を乱したとき

3 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であることが判明したとき

4 暴力団員等を同伴又は紹介によって入場させたとき

5 自ら又は第三者を利用して①暴力的な要求行為、②法的な責任を超えた不当な要求行為、③脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為、④風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いてクラブの信用を毀損し、又はクラブの業務を妨害する行為、⑤その他前各号に準ずる行為を行った場合

 

利用約款における暴排条項

暴力団員等がビジターとしてプレーの申込みをしてきた場合に備え、暴力団員等の施設利用に対する法的な拒絶根拠を明確にしておくことも必要です。

暴力団員等であることまでは分からないが、粗野な振舞いから暴力団員等であることが強く疑われる場合等も利用拒絶をする必要性は高いので、その場合に備えて利用者の行為態様からも利用拒絶ができる規定にしておくべきです。

この場合、支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しないという規定を置くことも必要でしょう。

【条項例】

(利用及び利用継続の拒絶)

第○条 当ゴルフクラブは、次の場合には利用をお断りすることがあります。また、プレーの途中であっても利用の継続をお断りすることがあります。この場合、お支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しません。

1 利用者が暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であるとき

2 利用者が暴力団員等を同伴した場合における利用者及びその同伴者

3 他のお客様に対し不快な思いをさせる行為・服装(身体に刺青をしている場合を含む)・言動があったと当ゴルフクラブが判断した場合

4 粗野な振舞等、当ゴルフクラブの従業員に対して業務の遂行に支障をきたす行為があったと当ゴルフクラブが判断した場合

 

その他の注意点

これら会則や利用約款等の整備の他、クラブ内やHPで暴力団関係者排除の広告をし、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。

過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。

また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいては、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。

また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取るような方法も有効であろうと思われます。

 

警察との協力関係作り

警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。

来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。

この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広くかつ詳細に規定することも重要です。

受付の段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。

前記のとおり利用約款等に暴力団等の施設利用を制限する旨及びプレー中断の際はプレーフィ等を返還しない旨の規定があれば、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。

約款等にこれらの規定がなければプレーの程度に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を支払えといった要求には応じる必要はありません。

「ゴルフ場御セミナー」2014年3月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「セクハラ」

近年、いわゆるセクハラやパワハラが職場での大きな問題となっています。いずれのハラスメントも、企業活動に重大な支障を与えることから、職場の労務管理上無視できない重要な課題です。

日本のゴルフ場においては女性のキャディが多数を占めています。また、フロントやレストラン、経理には女性従業員が多く、メンテナンス部門やキャディマスター、支配人には男性が多いという特徴もあります。キャディやウエィトレス等の従業員に対しいわゆるセクハラ的行為があった場合、ゴルフ場経営会社は使用者としてどのような責任を負うのでしょうか。

今回は、セクハラを中心に企業の安全配慮義務について検討します。

 

企業の安全配慮義務

使用者には、労働者の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるとされています。古くから判例により確立されてきたもので、労働契約上の付随義務とされています。

その後、平成18年施行の労働契約法において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と安全配慮義務が明示されました(労働契約法5条)。

安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、業務内容等により個別具体的に決せられ、職場環境配慮義務(セクハラ、パワハラ)も、この安全配慮義務の一つであるとされています。

セクシュアルハラスメントとは、「相手方の意に反する性的な言動で、それによって、①相手方に仕事をする上での一定の不利益を与えたり、②職場の環境を悪化させたりすること」であり、男女雇用機会均等法11条に規定されています。

一方、パワーハラスメントとは、職場における職権等の力(パワー)を利用した人権侵害であり、法律上の定義はありません。

 

パワハラとは

労働者は、労働契約に基づき、その労働力の処分を使用者に委ねることを約しており、使用者はその雇用する労働者に対し、業務遂行のために必要な指示・命令をできる権限(業務命令権)を有しています。

そのため、業務上必要な指導や注意など適正な業務命令権の行使が、権限の濫用や逸脱と認められない限り、たとえそれで部下が嫌な思いをしたとしてもパワハラとは評価されません。

この点の著名な裁判例として、いわゆる東芝工場事件判決があります。

これは上司の常軌を逸した言動により人格権を侵害されたとして、部下が上司と会社に対し民事上の損害賠償請求をした事案です。

東京地裁八王子支部平成2年2月1日判決は、上司にはその所属の従業員を指導し監督する権限があるから、その指導監督のため、必要に応じて従業員を叱責したりすること自体は違法性を有するものではないとしました。

しかしながら、上司の行為が権限の範囲を逸脱したり合理性がないなど、裁量権の濫用にわたる場合は、そのような行為が違法性を有するものと解すべきと判示しました。

そして、休暇を取る際の電話のかけ方のような申告手続上の軽微な過誤について、執拗に反省書等を作成するよう求めたりする行為はその裁量の範囲を逸脱するものとして、会社及び上司が部下に対し連帯して15万円の損害賠償額を支払うよう結論付けました。

 

セクハラとは

一般に、セクハラには①対価型と②環境型の二類型があるとされています。

①は「上司Aが従業員Bに対し交際を求めたが拒否されたため、Bを配置転換した」など、性的関係を拒絶されて腹いせに解雇したり、人事の査定を低くするようなケースです。

②は、「社員Cが、職場で業務上不要な性的冗談を繰り返したことにより、従業員Dが不快感を持ち就業意欲が低下した」など、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就労環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるようなケースです。

セクハラの場合はパワハラと異なり、労働契約の内容となっていない職場では全く不要であるはずの「性的な言動」を要件とすることから、それにより相手方に不快感や精神的被害を与えた場合には違法と評価されやすい性質を有しています。

そして「相手方に不快感や精神的損害を与えた」といえるかどうかは、外形上同一の行為であっても、相手方の受け止め方により異なるので、セクハラの成否も異なってくる点に注意が必要です。

例えば、女性従業員の容姿を話題にするような行為や、飲み会の席においてカラオケのデュエットやチークダンスを誘うなどの行為も、相手方の受け止め方によりセクハラになる場合もならない場合もあります。

行為主体と相手方の受け止め方によって、同じ言動でも、「素敵な同僚に褒められて(誘われて)嬉しい」と思われる場合もあれば、「残念な感じの上司にあんなことを言われて(誘われて)気持ち悪い。セクハラだ」と思われる場合もある訳です。

もっとも、セクハラと認定されるためには、「相手方の意に反する性的な言動」であることを認識して行うことが必要ですので、服装を褒める等客観的に明らかに「相手方の意に反する性的な言動」であると言えないような行為の場合は、1回でセクハラと評価されるわけではなく、相手方が嫌がる態度を取ったにも関わらず同様の行為を繰り返し行ったような場合にセクハラと評価されると考えられます。

一方、お客がキャディの身体に触る等のわいせつな行為は、客観的に明らかにセクハラと評価できます。このような場合には、ゴルフ場は毅然とした態度で直ちにそのお客に対して厳重注意し、従業員を保護する必要があるものと思われます。

 

企業の使用者責任

セクハラが認定された場合、被害者から加害者に対して慰謝料請求がなされることもあり、加害者の上司や会社も監督責任、使用者責任を問われる場合があります。

例えば、ゴルフ場の例ではありませんが、ビル管理会社に勤務する知的障害者の女性職員に対し、上司が背後から身体を密着させる等したという事案で、大阪地裁平成21年10月16日判決は、上司の不法行為責任を認めると共に、代表取締役が女性職員から苦情を受けたにもかかわらず必要な措置を講じなかったことについて、会社に代表者の行為についての損害賠償責任を認めました。

なお、加害者の上司や会社が監督責任、使用者責任を問われた場合には、上司や会社は、直接の加害者である被用者に対し、支払った賠償金の返還を請求(求償)できます。

もっとも、被用者の行為が使用者の業務としてなされた以上、必ずしも全額の返還が認められるわけではありません。

判例も、「諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」において求償できるとしています(最高裁昭和51年7月8日判決)。

実務的には、支払った損害の50%程度までの求償しかできないと考えておくのがよいと思います。

 

ゴルフ場に求められる対策

では、ゴルフ場はどのような対策を施していれば法的責任を免れることができるのでしょうか。

この点、男女雇用機会均等法11条に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」が参考になります。

この指針が示している必要な措置は以下のようなものです。

①就業規則や社内報、社内HP等にセクハラの内容及びセクハラ禁止の方針、行為者への厳正な対処方針等を記載して配布し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。

②相談への対応のための窓口を予め定め、相談窓口の担当者が相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにしなければなりません。

③セクハラ問題が発生した場合には、相談窓口や人事部門の担当者が、相談者及び行為者とされる者の双方から事実関係を確認しなければなりません。それぞれの主張に不一致がある場合には、第三者からも事実関係を聴取しなければならないでしょう。

セクハラの事実が確認できれば場合には、加害者に対する懲戒処分等を実施し、加害者の配置転換や被害者・加害者間の関係改善に向けての援助、加害者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の措置が必要となります。

場合によっては、調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を講じることになります。

④以上と併せ、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を実施し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め労働者に周知・啓発することも必要となります。

ゴルフ場においてこれらの措置を完全に行うことはなかなか困難な面もあろうかと思いますが、できる限り対応し、健全な企業としての義務を尽くすことが必要でしょう。

 

加害者に対する懲戒処分

セクハラ行為が認定された場合、加害者に対ししかるべき懲戒処分を行うことも必要です。

使用者が懲戒処分を行うためには、予め就業規則にその種類・程度を記載し、当該就業規則に定める手続きを経て行わなければなりません(労働基準法89条)。また就業規則は労働者に周知させておかなければなりません(同106条)。これらの手続きに瑕疵があると、処分自体が無効とされることもあり得ます。

懲戒処分の内容については、加害者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。

セクハラによる懲戒処分の内容については、国家公務員に関する指針がある程度の参考になります(平成12年3月31日人事院事務総長発)。

この指針では、①暴行や脅迫、職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いてわいせつな行為等をした職員については、免職又は停職(免職、停職は、民間企業における「解雇、出勤停止」に相当)。②わいせつな発言や身体的接触等の性的な言動を繰り返した職員については、停職又は減給。③わいせつな発言等性的な言動を行った職員については、減給又は戒告等と定められています。

国家公務員の場合には減給については人事院規則により「1年以下の期間、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減ずる」ものとされています(人事院規則3条)。

これに対し、民間企業においては、労働基準法により、①1回の減給の額がその社員の1日分の平均賃金の50%を超えてはならない、②1ヶ月の減額の総額がその月の月次給与の総額の10%を超えてはならないという制限があるので注意が必要です(労働基準法91条)。賞与から減額する場合も同様です。

例えば月次給与240,000円、平均賃金8,000円(過去3ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割った金額)の場合、1回の処分の限度額は4,000円で1ヶ月の限度額は24,000円となります。

「ゴルフ場セミナー」2014年2月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフと賭博」

韓国のゴルフ場オーナーが、平成21年8月から12月にかけ、利用客から参加費を取り、パー3ホールでホールインワンを出せば6000万ウォン(約550万円)相当の高級自動車を景品としてプレゼントするというイベントを実施しました。

利用客の反応もよかったようですが、何度挑戦してもホールインワンを出せなかった利用客が、オーナーを賭博場開帳の容疑で検察に告発し、昨年10月、「賭博の開帳」にあたるとする憲法裁判所の判断が示されました。

このような高額賞品を景品とするホールインワン・イベントは我が国では許されるのでしょうか。

 

韓国におけるゴルフ賭博

ソウル南部地裁は平成17年2月、1ホールに最高1000万ウォン(約100万円)を賭けるようなゴルフを常習的に行ったとされる事件について、「スポーツ競技は花札などのように偶然によって勝負が決まるものではなく、プレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右する」として、刑法が「偶然により財物の得失を決定する行為」と規定する賭博にあたらないと判断し、賭けゴルフは無罪との判決を下しました。

もっとも、この事件の二審裁判所は、「偶然により勝敗が分かれるからといって、すべて賭博とみなせるわけではなく、どれほどの金をかけて、どれくらい頻繁に行ったかを考慮し、社会が受け入れられるレベルを超える場合、賭博と判断する」とし、「被告人の場合、頻繁に行った上、その金額も大きい」として、有罪判決(懲役刑)を言い渡しています。

一方、ソウル中央地裁は平成17年5月23日、類似の事件において、「ゴルフは実力がある程度勝負を左右するが、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用する」として、被告に罰金2000万ウォンの有罪判決を言い渡しました。

 

我が国における賭博罪

我が国において、賭博罪(単純賭博罪)は50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役、賭博場開張等図利罪は3月以上5年以下の懲役となります(刑法186条)。

この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。

そして「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。

すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。

したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。

 

一時の娯楽に供する物

もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。

この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。

判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。

金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。

 

コンペの賞品やベット

ホールインワンは偶然性の要素が非常に高いので(米国のSports Illustrated 誌によればホールインワンが出る確率は1/45,000)、冒頭の韓国の事例のような場合、景品が相当高額であること等も併せ考えると、賭博罪にあたるという結論にもうなずけるものがあります。

では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。

まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。

では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。

この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。

しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。

前述のようなホールインワンに高額賞金をかけて参加費を取って集客するようなケースと異なり、ラウンド中に参加費を支払ってワンオンにチャレンジし成功した場合に賞品を貰えるというワンオンチャレンジのように、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものまで賭博罪に該当するという考え方は多くのゴルファーにとって受け容れがたいものだと思われます。

 

ゴルファーの常識と法の接点

プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベット(またの名をニギリ)は、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。

日本プロゴルフ選手権大会の第1回優勝者である宮本留吉プロが、球聖と呼ばれたボビー・ジョーンズとマッチプレーで対戦して2UPで勝利し、ボビー・ジョーンズのサイン入りの5ドル紙幣をもらったというのも有名な話です。

これなどはゴルフの良きカルチャー、伝統を伝えるエピソードではあっても、賭博と評価するのは、いかにもゴルファーの感覚とかけ離れていると言わざるを得ません。

結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。

先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。

クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。

これに対し、元民主党の国会議員が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当するとされてもあまり違和感がありません。

また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。

もっとも、大手企業の部署内コンペで1口200円の掛け金を集めトトカルチョをやっていたことが内部告発され、社員ら61人が書類送検されて話題となった平成18年の事例などは、1口200円の企業部署内コンペで、警察が動いたことはやや行き過ぎではないかと思われます。

 

ゴルフ場の注意点

ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額によっては、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。

したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。

なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。

例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。

過大な景品類の提供が行われている疑いがある場合、公正取引委員会は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められた場合は、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる排除命令を行います。

さらにアマチュアゴルファーの場合には、1つの競技で受け取る賞品の小売価格の合計は、75,000円以下でなければならないとされており(JGAアマチュアゴルフ規則)、これに違反するとアマチュアを失う可能性があるのでこの点にも注意が必要です。

「ゴルフ場セミナー」2014年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎