熊谷信太郎の「ゴルフ場とメガソーラー」

昨年7月1日に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、「本買取制度」)が開始され、1kwを42円で買い取ることが決まり、ゴルフ場の跡地や計画用地、余剰地にメガソーラー基地を建設する動きが相次いでいます。

昨年7月1日から、平成17年以降クローズしていた榛名CC(群馬県)の跡地に建設された発電所が、ゴルフ場の跡地や計画用地を利用した初のメガソーラー発電所として、運転を開始しました。

年間予想発電量は約268万kwh/年(一般家庭約740世帯分の年間電力消費量)で、買取予想価格は1億1256万円/年です。

また、昨年12月26日付で、「マイクロダイエット」などオリジナル健康食品で有名な化粧品販売会社のサニーヘルス株式会社が、福岡空港GC(福岡県)の固定資産(ゴルフ場用地とクラブハウス)を取得する契約を株式会社A・Cホールディングスと締結したと発表されました。

報道によると、サニーヘルス株式会社は、今後ゴルフ場として営業はしない方向で、太陽光発電事業を行っていくと説明しているようです。

一時閉鎖し営業再開を目指していた既設ゴルフ場が、メガソーラーの基地になる動きもあります。

東日本大震災でコース等に被害を受けた会員制のラフォーレ白河ゴルフコース(福島県)は、復旧工事を行い営業を再開する予定でしたが、再開せず、昨年6月、メガソーラーの発電所の建設を計画していると発表しました。

 

再生可能エネルギーの固定価格買取制度

バブル経済崩壊後、預託金償還問題が顕在化し、加えてリーマンショック以後の経済の低迷や会員の高齢化、価格競争の激化等により各ゴルフ場は厳しい経営を強いられており、倒産件数も増加しています。

ゴルフ場は他の事業への転換が困難なため、徹底した経営合理化などの経営努力によってなんとかゴルフ場として継続している所が多く、仮に倒産してもスポンサー企業がゴルフ場事業を継続しており、廃業閉鎖に至っているゴルフ場は全国で15コース(平成22年現在)にとどまっています。

そんな中、廃業後のゴルフ場跡地だけでなく、経営が困難な状況に陥ったゴルフ場の用地の利用法として、メガソーラー(1000kw以上の発電)の発電所としての利用が注目されてきた訳です。

本買取制度は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、一定価格で電気事業者が買い取ることを義務付けた制度です

本買取制度で売電するためには、事前に設備認定を受ける必要があります。設備認定とは、法令で定める要件に適合しているかを国が確認するものです。

具体的には、設置場所エリアを管轄する経済産業局に対し設備認定の申請手続を行い(申請書等は経済産業省資源エネルギー庁のHPからダウンロードできます)、国から発行される認定通知書の写し等を添えて、売電を希望する電気事業者との間で契約を締結することになります。

 

本買取制度の注意点

本買取制度においては、「物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、特に必要と認められる場合」(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法3条8項。以下、「法」)には変更される可能性があるものの、とりあえず10年以上にわたって買取が保証されており、設置・運用コストと売電収入を計算すると、通常は10年かければ利益が出ると言われています。

買取価格と買取期間は、毎年度、年度開始前までに、経済産業大臣により告示されます(法3条1項)。

なお、「『物価その他の経済事情に著しい変動』とは、急激なインフレやデフレのような例外的な事態を想定しており、このような場合以外には変更されない」と説明されています(経済産業省資源エネルギー庁HP)。

 

ゴルフ場の廃業

ゴルフ場を廃業し用地をメガソーラーの基地に転用しようとする場合に問題となるのが、会員制ゴルフ倶楽部における会員との関係です。

会員制ゴルフ倶楽部の大半は預託金制を取っていると思われますので、以下では預託金制ゴルフ倶楽部を念頭に説明します。

会員は、ゴルフ場経営会社との会員契約に基づき、ゴルフ場経営会社に対し、預託金償還請求権とプレー権(優先的施設利用権)を有しています。

そこで、ゴルフ場経営会社がゴルフ場を廃業する場合には、会員との会員契約を解除するとともに、会員に対して預託金を返還し、倶楽部利用の対価である年会費についても本来月割りで返還する必要があります。

会員契約のような集団的な役務提供契約においては、集団的処理の必要性から、契約(会則等)に倶楽部の解散に関する規程があれば解散による契約の終了が認められますが、もし会則に解散の規定がなければ民法等の一般法によって決することになり、無制限に解散が認められるわけではありません。

例えば、同じく集団的役務提供型の契約であるスポーツクラブが閉鎖された事案において、東京地方裁判所平成10年1月22日判決は、会員契約の解除が債務不履行に当たることを前提とした上で、「経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少、施設の老朽化、競合スポーツクラブの開設等により、経営の継続が困難となったために行われたなど判示の事実関係の下においては、右解除は、やむを得ない事情によるものであり、会員契約上の債務不履行に当たらないというべきである」と判断しました。

また、会則に「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」に解散できるという定めのある預託金制ゴルフ倶楽部において、ゴルフ場経営会社が経営悪化のためゴルフ場を閉鎖したことに対し、会員が優先的施設利用権の侵害である等として、ゴルフ場経営会社に対し、損害賠償請求をした事案において、東京高裁平成12年8月30日判決は、

①「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」とは、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散をゴルフ場経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合をいう。

②その要件該当性の判断にあたっては、ゴルフ場経営会社側の会社運営上の事情のみならず、会員が受ける不利益の程度及びその不利益をできるだけ少なくする観点からのゴルフ場経営会側の配慮の程度などの事情をも総合して判断する必要がある。

とし、このまま事業を継続すればゴルフ場が破綻し会員は施設利用権のみならず預託金償還請求権も失ってしまうものとして、解散の有効性を認め、会員からの損害賠償請求を否定しました。

 

預託金の返還

なお、預託金の全額返還が困難である場合には、破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

これらの法的倒産手続においても、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定制度を導入しており、法的倒産手続を経たからと言って、業種の変更が無制限に認められるわけではありません。

 

第三者が取得するケース

以上に対し、第三者がゴルフ場用地を競売により取得したような場合や、ゴルフ場経営会社から買い取り、会員との会員契約を引き継がないような場合には、会員契約の解除の問題はクリアすることができることになります。

もっとも、無制限に認められるわけではなく、例えば資産の移転が濫用的会社分割にあたるような場合には(本誌2012年12月号)、用地の取得が詐害行為として取消される可能性もありますので注意が必要です。

 

地主との関係

次に、ゴルフコースの地主との賃貸借契約の内容の確認も必要です。

土地賃貸借契約では、用途をゴルフ場の使用などに限定している場合が多く、「ゴルフ場用地として賃貸する」ことが契約内容となっている場合には、他の用地への転用は解除事由となる可能性があります。

もっとも、賃貸借契約のような当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約においては、形式的に解除事由があったとしても、信頼関係が破壊されたと言えないような場合や、解除の行使が権利の濫用と認められるような場合には、解除権の行使は制限されるという判例法理が確立されています。

このように、地主からの解除が無制限に認められるわけではありませんが、事前に地主に対して丁寧に事情を説明し、契約を巻き直すことが必要です。承諾料の支払いや原状回復義務の具体化などを求められることもありうるでしょう。

ちなみに、承諾料については、法律上の定めはないので、当事者間の交渉によることになりますが、建物所有目的の賃貸借契約の更新料は、一般に更地価格の5~10%が相場であると言われているので、この金額を目安に地主と契約交渉することになるでしょう。

 

未払い賃金の立替払制度

倒産してゴルフ場としての営業を廃止し従業員を解雇する場合には、未払いの賃金のうち3か月分は財団債権として一般的な債権者よりも優先的に支払を受けることができます(破産法149条1項)。

しかし、会社の全財産をもってしても未払い賃金に足りない場合もあり、このような場合に、国(労働省健康福祉機構)が、労働者個人からの請求によって、その未払賃金の一部を事業主に代って支払う制度があります。

この立替払いを受けるための要件は、①使用者が1年以上事業活動を行っていたが倒産したこと(中小企業においては、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がないことを労働基準監督署長が認定した場合も含まれます) 、②労働者が、裁判所への破産申立等が行われた日の6か月前から1年6ヵ月が経過するまでの間にその事業を退職し、定期的な賃金や退職金(退職手当)の未払分が総額2万円以上あることが必要です。

なお、請求期間は裁判所の破産等の決定又は労働基準監督署長の倒産の認定があった日の翌日から起算して2年以内です。

また、立替払される金額は、未払賃金総額の8割(但し、退職日の年齢に応じた限度額を超える場合はその限度額の8割)です。

 

廃業の届出等

ゴルフ場としての営業のために取得している許認可関係についても、所轄の地方公共団体等に廃止(廃業)の届出が必要になります。

取扱いは各地方公共団体によって多少異なるようですが、例えば、危険物や重油等の取扱については所轄の消防署等に廃業届を提出し、飲食店営業許可については所轄の保健所に廃業届を提出する必要があります。

なお、開発時の開発行為や建築確認関係については、廃業時の届出は必要ないようです。

また、ゴルフ場利用税についても、廃止(廃業)の届出書を都道府県の税務署に提出する必要があります。

「ゴルフ場セミナー」2013年3月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「性同一性障害」

最近、「性同一性障害」という言葉を耳にすることも少なくないと思います。

昨年11月、この性同一性障害のため、2年前に戸籍上の性別を男性から女性に変更した会社経営者が、静岡県の会員制ゴルフ倶楽部から入会を拒否されたとして、ゴルフ場経営会社等に対し、約786万円の損害賠償を求め、静岡地方裁判所浜松支部に裁判を起こしたという報道がなされました。

報道によると、会社経営者の女性(元男性)は、平成24年6月、運営会社の株を購入するなどして、ゴルフ場経営会社に対し、入会に必要な書類を提出しました。その際、提出した戸籍謄本から、その女性がもとは男性だったことが判明し、ゴルフ場は性別変更を理由に、この会社経営者の入会を拒否したようです。

ゴルフ場経営会社は、新聞の取材に対し、「更衣室の利用で女性会員から苦情が出るのを懸念した。前例がなく難しい問題で、解決策が見つからない。代理人と相談する」と説明しているということです。

 

性同一性障害者の性別の取扱の特例に関する法律

性同一性障害とは、一般に、「性の自己意識(心の性)と生物学的性別(解剖学的性別、身体の性)が一致しない状態」と説明されます。

性同一性障害者は、世界保健機構(WHO)が定めた国際疾病分類にも掲載されている医学的疾患であり、我国においても、日本精神神経学会が診断と治療のガイドラインをまとめ、性同一性障害を医療の対象として位置付けています。

そして、医療の分野における進展と性同一性障害に対する社会の認知に合わせ、法制度の整備も進み、平成15年7月16日、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、「法」と言います)」が成立し、翌年の7月16日に施行されました。

これまで、人の法的な性別は、生物学的な性別によって決められていましたが、この法律によって、例外的に性的同一性障害者であって一定の要件を満たす人については、家庭裁判所の審判により、心理的な性別である他の性別に変わったものとみなされることとなりました。

この法律では、性同一性障害者と認められるための要件として、次の3要件を定めています(法2条)。

(1)生物学的には性別が明らかであること

(2)心理的には他の性別であるとの持続的な確信を持ち、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であること

これは、「生物学的には男性である人が自分は女性であるという意識(あるいはその逆の意識)を、単に一時的にではなく、永続的に続く状態で、強くゆるぎなく有し、自己の身体を心理的な性別に合わせようとし、社会生活を心理的な性別に合わせて送ろうとする意思を有している者であること」を意味します。

なお、こうした意思や確信は、本人の正常な判断力の存在を前提とするので、精神障害のため他の性別に属していると考えている人は、性同一性障害者には該当しません。

(3)その診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般的に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致していること

二人以上の医師の診断の一致を要件としたのは、医師の適切、客観的かつ確実な診断が行われることを確保するとともに、それを審判の前提とすることによって、根拠に乏しい濫訴を防ぎ、家庭裁判所の認定が適切かつ迅速に行われるようにするためです。

 

性別の取扱の変更の審判

そして、性同一性障害者が以下の要件を満たす場合には、性同一性障害者は、家庭裁判所に対し、性別の取扱の変更を求める審判を請求することができます(法3条1項)。

なお、この場合、医師の診断書を提出しなければなりません(法3条2項)。

①二十歳以上であること。

②現に婚姻をしていないこと。

③現に未成年の子がいないこと。

④生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。

⑤その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

なお、要件⑤は、公衆の場(公衆浴場や更衣室など)で社会的な混乱を生じないために考慮されたものです。

性別の取扱いの審判を受けた人は、民法その他法令の適用については、他の性別に変わったものとみなされることになり(法4条1項)、例えば、変更後の性別で婚姻や養子縁組をすることが可能となります。

 

戸籍の記載は?

本事案では、戸籍謄本から性別を変更したことが判明したわけですが、性別の取扱いの変更の審判があった場合、戸籍の記載はどうなるのでしょうか。

性別の取扱いの変更の審判があった場合には、原則として新戸籍が編成されます。

新戸籍には「平成○年○月○日平成15年法律第111号3条による裁判発効」と記載され、性同一性障害という言葉が記載されることはありません。そして、新戸籍には変更後の性別に基づく続柄が記載されることになります。

しかし、「従前の記録」として、変更前の性別の記載が残ってしまいます。これにより、本事案でも、性別を変更したことが判明したものと思われます。

もっとも、従前の記録は、本籍地を一度他の市区町村に移すと消すことができ、一見して性別変更したことは分からないようにすることは可能のようです。

ただ、「平成○年○月○日平成15年法律第111号3条による裁判発効」との記載は残りますので、性別を変更したことを戸籍上全く分からなくすることはできません。

 

入会制限と法の下の平等

今年の8月には、アメリカ合衆国のオーガスタ・ナショナルGCが、女性会員を初めて2名受け入れたことでニュースになりましたが、歴史あるゴルフ倶楽部の中には、会員資格を男性に限定しているところもあるのは周知のとおりです。

そもそもゴルフ倶楽部は、同好の士の集まりであり、娯楽施設としてのゴルフ場の利用を通じて、会員の余暇活動の充実や会員相互の親睦を目的とする私的団体です。

そのため、ゴルフ倶楽部はその会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は、契約自由の原則から、入会資格を満たさない者との契約の締結を拒否できるとされています。会員権の譲受人は、ゴルフ倶楽部の理事会等による入会承認を受けなければ、会員たる地位を取得することはできません。

一方、憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。

そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。

この点、外国人のゴルフ倶楽部への入会制限が争われた事案において、東京地裁平成13年5月31日判決は、「私人である社団ないし団体は、結社の自由が保障されている」とし、新たな構成員の加入を拒否する行為が…民法709条の不法行為に当たるとすることが許されるのは、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限られるとして、ゴルフ倶楽部への入会に国籍による制限を加えるのは、社会的に許容される範囲であると判断して原告の請求を棄却し、控訴審・最高裁もこの結論を維持しました。

会員を男性に限定するというゴルフ倶楽部の取扱いも、ロッカーやトイレの数等施設利用上の制約のため、社会的に許容される範囲であるとして、許容されるものと考えられます。同様に、女性限定のレディス倶楽部も許容されることになります。

 

性別変更を理由とする入会拒否

では、性別変更の場合(ゴルフ倶楽部で現実的に問題となるのは、男性→女性の性別変更の場合)はどうでしょうか。

例えば、倶楽部会則に、性別変更した者からの入会を制限する規定がある場合、この規定は、公序良俗に反し無効となるのでしょうか(民法90条)。あるいは、性別変更を理由に入会を拒否することは、不法行為による損害賠償の対象となるのでしょうか(民法709条)。

まず、元男性である女性の当該ゴルフ場でのプレーを一律に禁止するのは、いかに結社の自由があるとはいえ、「相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超える」ものであって、社会的に許容される範囲を超えると言えるでしょう。このような広範な制限が許容されるのは、反社会的勢力(ないしこれと同視し得る者)のケースに限られると思われます。

これに対し、性別を変更した者に対し、当該ゴルフ倶楽部への入会を制限する(ビジターとしてのプレーは許容する)という取り扱いはどうでしょうか。

前記のとおり、性同一性障害は医学的な疾患であり、性別変更の要件として変更後の性別の特徴と似た身体的外観を有していることが要求されており、性別変更の審判の申立ての際には医師の診断書を提出することが要求されています。

一方で、更衣室での着替えやプレー後の入浴の際、「元男性」に着替えの様子や裸を見られたくないという女性メンバーの気持ちは、十分に理解できるところです。

入会(メンバーとしてのプレー)の制限にとどまり、プレーそのものは許容されるのであれば、ただちに社会的に許容し得る限界を超えて違法となるとまでは言えないかもしれませんが、社会通念上評価が限界的な事例であり、今後の裁判の行方が注目されるところです。

 

ゴルフ場の対応

むしろ、本件では、なぜ元男性の原告が入会拒否の理由を知り得たかが問われるべきかと思われます。

ゴルフ倶楽部への入退会に関しては、例えば労働者から要求があればその開示が要求されている解雇理由(労働基準法22条2項)などと異なり、法律による規制は及んでいません。

実務的にも、入会拒否の理由を開示する扱いは通常なされていないと思われます。

また、入会拒否の理由を伝えること自体が本人を傷つけ、無用な紛争を惹起する恐れがあります。

その意味で、本件ゴルフ倶楽部が元男性の女性に入会拒否の理由を伝えていたとすれば、そのことの妥当性が問われるところであり、また、本件ゴルフ倶楽部が新聞の取材に対して入会拒否の理由を答えていることも、妥当だったのか疑問が残るところです。

実務的な取り扱いとしては、入会拒否の理由を明示すべきではなく、倶楽部会則等に「入会拒否の理由を明示しない」ことを明記するとともに、入会申込の際に、入会拒否の理由を開示しないことについて入会希望者から個別に書面での同意を取っておくことが必要であると考えられます。

「ゴルフ場セミナー」2013年2月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「一般社団法人」

社団法人制ゴルフ倶楽部といえば、いわゆる関東七倶楽部など、名門ゴルフ倶楽部を思い浮かべる方も多いと思います。

これらの社団法人制ゴルフ倶楽部は、日本における正統的なゴルフプレーやマナー、倶楽部ライフの普及・向上に貢献してきたわけですが、平成20年12月1日の新たな公益法人制度の施行により、公益法人としての存続が難しくなりました。

これらの社団法人は、一般社団法人への移行を迫られており、その場合には、「公益目的支出計画」を定め、現在有している純資産をすべて支出しなければならないなど、大きな影響を受けています。

 

中間法人制ゴルフ倶楽部

一方、預託金制ゴルフ倶楽部の中には、中間法人となって預託金償還問題を解決しようとしたゴルフ倶楽部もありました。

中間法人とは、公益法人と営利法人の中間的な存在であり、中間法人制度は、そのような存在に対しても法人格を与えるための制度です。

従来は、同窓会やサークルなどの中間的な団体に法人格を認める法律がなく、団体自らが権利を有し義務を負うことができなかったため、さまざまな問題がありました。

そこで、平成14年4月、中間法人法に基づく中間法人制度がスタートし、ゴルフ場事業者の間においても、いわゆる預託金償還問題への対処方法として、中間法人スキームが脚光を浴びたのです。

中間法人スキームの典型的な例は、①従来の会員は、預託金債権等を基金として拠出し、中間法人の社員となる、②中間法人はゴルフ場事業会社の株式の一部を保有する、③会員は、中間法人を通して間接的に事業会社をコントロールする、というものでした。

ゴルフ場事業者にとって、この中間法人スキームを導入する最大のメリットは、中間法人の社員となった会員から個別の預託金返還請求をされないということでした。

しかしながら、このやり方には、中間法人制への移行に同意しない会員からの預託金返還請求を拒むことができないという問題があり、倶楽部は中間法人制に移行したものの、事業会社の経営を維持することができず、民事再生手続きなどの法的整理を余儀なくされた例もありました。

逆に、事業会社の民事再生手続きを行い、預託金返還請求権の大部分をカットした上で、ゴルフ倶楽部が新たに中間法人になるという例もありました。

ところが、平成20年12月1日のいわゆる一般法人法施行に伴い、中間法人制度は廃止され、中間法人は一般社団法人に衣替えすることになりました。

 

一般社団法人制ゴルフ倶楽部

上記のとおり、中間法人制ゴルフ倶楽部が生まれる契機となったのも、いわゆる預託金償還問題でしたが、中間法人制ゴルフ倶楽部に代わる預託金償還問題対策として、一般社団法人制ゴルフ倶楽部へ移行することが議論されています。

一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人で、事業目的に公益性がなくてもかまいません。

原則として、株式会社等と同様に、全ての事業が課税対象となりますが、設立許可を必要とした従来の社団法人とは違い、一定の手続き及び登記さえ経れば、主務官庁の許可を得るのではなく準則主義によって誰でも設立することができます。

ところで、法人格がないと、代表者個人の名義で登記、銀行口座の開設をするため、団体と個人の資産の区分が困難になり、代表者が代わると団体の運営、存続に支障をきたすこともあります。また、団体名(任意団体)では契約を締結できないこともあります。そのため契約締結を個人名ですると当該個人が責任を負う恐れもあります。

一般社団法人として法人格を取得することにより、こういった懸念を払拭することができることになります。

また、団体法的解決を図ることが可能となり、的確な整理、処理に繋がり、ゴルフ場と会員の権益を守ることができるというメリットもあります。

さらに、中間法人スキームに代わる預託金償還問題対策として、以下のような一般社団法人スキームの採用が考えられます。

(1)一般社団法人制ゴルフ倶楽部を設立する。

一般社団法人制ゴルフ倶楽部設立の具体的な手続きの流れは以下のとおりです。

①定款を作成し、公証人の認証を受ける。

②設立者が財産(価額300万円以上)の拠出を行う。

③定款の定めに従い、設立時評議員、設立時理事、設立時監事等の選任を行う。

④設立時理事及び設立時監事が、設立手続の調査を行う。

⑤法人を代表すべき者(設立時代表理事)が、法定の期限内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局に設立の登記の申請を行う。

(2)従来のゴルフ倶楽部(任意団体)の会員は一般社団法人の社員となる。

その際、預託金対策という意味では、会員から、預託金債権等を基金(一般社団法人に拠出された金銭その他の財産)として拠出(債権譲渡等)することについての同意を取り付けることが重要です。

但し、基金の拠出者の地位は、一般社団法人の社員たる地位とは結び付いていないので、基金の拠出をしない会員も、一般社団法人の社員となることはできます。

(3)一般社団法人は、ゴルフ場事業会社の株式の一部を保有する。

この場合、会員は、一般社団法人を通して間接的に事業会社をコントロールすることが可能となります。

あるいは、議決権を与えずに、経済的利益を与える優先株式(利益もしくは利息配当または残余財産の分配およびそれらの両方を、他の種類の株式よりも優先的に受け取ることができる地位が与えられた株式)とすることも考えられるでしょう。

 

一般社団法人制のゴルフ倶楽部としては、平成21年1月、田辺カントリー倶楽部を運営する任意団体の田辺カントリー倶楽部が、一般社団法人田辺カントリー倶楽部を設立したのが最初です。

田辺カントリー倶楽部は、資産保有会社である山城土地開発株式会社から資産を借りてゴルフ場を運営していましたが、任意団体では、不動産の取得などにおいて不都合があったため、ゴルフ場用地を除くクラブハウスなどの不動産を山城土地開発株式会社から買い上げて、一般社団法人になりました。

 

一般社団法人制ゴルフ倶楽部の具体例

平成21年2月には、長崎国際ゴルフ倶楽部が、2年後に預託金(500万円)の返還期限が到来することや、現在の経営会社である長崎国際ゴルフ倶楽部は法人格のない任意団体で金融機関から借入ができないことなどから、一般社団法人の設立を決めました。

計画内容は、概ね以下のとおりです。

①会員は一般社団法人の社員となり、従業員も一般社団法人へ移行し、任意団体の長崎国際ゴルフ倶楽部は一般社団法人設立後に解散する。

②施設保有会社である長崎土地開発株式会社が負担する預託金については、負担軽減のため、全部または一部の60万円を基金(返還不要)に拠出し、残りは預託金として倶楽部退会時に返還する。

③長崎土地開発株式会社の株主会員は、株式を一般社団法人に売却して60万円(1株10万円で6株)を基金(返還不要)に拠出する。

④一般社団法人が経営を一体化するため、長崎土地開発株式会社は解散する。

 

また、函南ゴルフ倶楽部(静岡県)も、平成22年10月19日に、会員で組織した任意団体の函南ゴルフ倶楽部を一般社団法人化して、一般社団法人函南ゴルフ倶楽部を設立し、経営や運営面の強化に取り組んでいます。

函南ゴルフ倶楽部は、株主会員制のゴルフ倶楽部ですが、株主会員になるに当たって株式代金の他に預託金(再建拠出金として60~120万円)を徴収しており、将来的に起こりうる預託金返還問題を考慮して、一般社団法人に移行しています。

 

一般社団法人移行の際の注意点

預託金対策として一般社団法人制ゴルフ倶楽部にする場合の最大の問題点は、中間法人制ゴルフ倶楽部の場合と同様、一般社団法人への移行に同意しない会員からの預託金返還請求まで止められるものではないという点です。

そこで、会員からの同意を丁寧に取り付け、一般社団法人への誘導を上手に進めることが重要でしょう。

なお、中間法人制ゴルフ倶楽部が一般社団法人に移行する場合には、権利義務関係はそのまま一般社団法人に引き継がれ、ほとんど影響を受けませんが、以下の2点については注意が必要です。

①名称の変更

平成20年12月1日が属する事業年度終了後最初の定時社員総会終結時までに、従来の中間法人は、「一般社団法人」という文字を使用した名称に変更しなければならず(違反に対しては「20万円以下の過料」の制裁が定められています)、それにあわせて定款を変更しなければなりません。

定款の変更は、社員総会の特別決議によって行う必要があります。

特別決議を行うためには、①賛成した人数が、全ての社員の人数の半数以上であり、②かつ、賛成した議決権の数が、全ての社員の議決権の数の3分の2以上であることが必要です。

これらの賛成票を得られないと、名称変更できないことになります。

そこで、定款変更への同意を取り付けておくなどの段取りが必要となる点にも意が必要です。

なお、社団法人の場合、あらかじめ、書面又は電磁的方法(電子メール等)による承諾を得れば、電子メールによって社員総会を招集、開催し、社員に電子メールで議決権行使をしてもらうことで承認決議を経ることも法律上可能であり、社員総会を開催する煩雑さを軽減することができます。

②登記

既存の中間法人の登記は、特段の登記申請を要せず、当然に、一般社団法人としての登記になりますが、①の名称の変更を行った後2週間以内に、改めて名称変更の登記をしなければなりません。

また、その時に、役員変更の有無にかかわらず、役員の登記事項を改める必要があります。

「ゴルフ場セミナー」2013年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「濫用的会社分割」

最近は、ゴルフ場の法的整理や売却の際にも、会社分割の制度が利用されることが増えています。

会社分割の制度は、企業の事業再編の手段として用いられます。

M&Aの手法としては、会社分割の他に、株式譲渡や事業譲渡といったものもありますが、会社分割には、簿外債務のリスクを抑えられる、債権者の個別の承諾を得る必要がないなどのメリットがあり、広く利用されるようになりました。

ところが最近、債務超過に陥り実質的に倒産状態にある会社が、会社を再建する場合に、会社更生や民事再生といった法的倒産処理手続を利用しないで、会社分割の制度を利用するといったケースが増えています。

会社更生や民事再生といった倒産手続を利用する場合には、経営者は、経営権を失うなど一定の責任を取ることになります。

これに対し、会社分割制度を利用する場合には、経営者はその責任を取ることなしに、財産を新会社に移転して資産を確保しつつ、債務を整理できるという、大変都合のよいことができてしまうわけです。

これは、緊急時における制度運用を想定し、資産の保全や債権者の平等を基本的理念とした倒産処理法と異なり、会社分割は会社法上の制度であり、平常時における制度運用を想定して制度設計されているからだと解されています。

これによって、一部の債権者と協議し、会社分割によって新設した会社(以下、「設立会社」といいます)に、採算部門や優良資産等を承継させた上で、不採算部門や不良資産を残した既存の会社(以下、「分割会社」といいます)を清算し、会社再建を図ることができるわけです。

しかし、債権者を害する意思をもってこのような資産移転が行われると、残された債権者は債権の引き当てとなる財産が空虚化した状態になる一方で、経営者は経営責任を取ることなく優良資産を隔離して保全することができることになってしまいます。

このような都合の良すぎることがそのまままかり通るのでは、ゴルフ場に対する債権者(会員)は、たまったものではないでしょう。

 

平成24年10月12日最高裁判決

最近、このようなケースの是非が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は、平成24年10月12日、「会社分割に伴う資産移転が債権者に損害を与える場合、もとの会社の債権者は資産移転を取り消す権利がある」という判断を初めて示しました。

本件は、債権回収会社が、大阪市の不動産会社が会社分割で設立した会社に土地・建物の所有権を移転した行為の取り消しを求めたという事案です。

不動産会社は、平成19年に会社分割を実施し、設立会社に不動産など収益性のある資産の大半を引き継ぎ、対価として設立会社の全株式を取得しました。

これに対し、債権回収会社は、強制執行を逃れるための移転で無効だと主張しました。

最高裁は、設立会社側の上告を棄却し、資産移転の取り消しを認めた一、二審判決が確定しました。

これは、会社分割制度の濫用に対する一定の歯止めになり得るものとして、大変注目を集めています。

 

会社分割とは

会社分割については、以前本誌でも詳しく取り上げましたが、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割によって設立する会社(設立会社)等に承継させることを目的として行う会社の行為です(会社法2条30号)。

事業に関して有する権利義務のどの部分を設立会社等に承継させるかは、新設分割計画等の定めによって自由に定めることができます(会社法762条以下)。

そして、設立会社は、会社分割が効力を生ずる日に、新設分割計画等によって定める権利義務承継の対価を、分割会社に交付することとなります。

 

設立会社に移る債権者

会社分割は、債権者の個別の承諾がなくても債務の移転ができてしまいます。

そこで、会社法は、会社分割にかかる債権者保護手続として、設立会社に移る債権者に対する保護手続を設けています。

まず、「分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者」(設立会社に移る債権者)には、異議を述べる機会が与えられています(会社法810条1項2号)。

異議を述べた債権者に対しては、会社分割により当該債権者を害するおそれがない場合を除き、弁済ないし担保の提供等がなされることとなり、当該債権者は債権の満足を得られることとなります(会社法810条5項)。

また、会社分割の手続に瑕疵がある場合には、会社分割無効の訴えを提起することもできます(会社法828条2項10号)。

 

分割会社に取り残される債権者

これに対し、「分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者」(分割会社に取り残される債権者)は、こうした保護手続の対象から除外されており、異議を述べる機会を与えられず、また、会社分割無効の訴えを提起することもできません。

このように、会社法上、設立会社に移る債権者と、分割会社に残された債権者との取り扱いは、大きく異なっています。

会社法は、平常時を想定し、分割会社は、設立会社に切り出した純資産に見合う対価を取得し、分割会社に残された債権者が害されることはないはずであるという考え方に基づいて、分割会社に取り残された債権者に対しては、特段の保護手続を設けなかったのです。

しかし、実際には、会社が、一部の優遇したい債権者と協議し、採算部門と不採算部門、優良資産と不良資産、優遇する債権者とそれ以外の債権者とを自由に振り分け、設立会社に採算部門や優良資産を切り分けるにあたって、当該資産に見合った債務(一部の優遇する債権者に対する債務)を承継させることで、設立会社が不採算部門や不良資産だけを残した既存の会社(分割会社)に交付する対価を安く設定するということが多く行われているわけです。

その結果、設立会社に対して弁済を求めることができない分割会社に取り残された債権者の債権回収が、著しく阻害されるという事態が生じてしまっているのです。

 

分割会社に残された債権者が取り得る手段-詐害行為取消権

以上のような結論が不当であることは明らかであり、近時、会社分割に対して詐害行為取消を認める裁判例が出てきていました(東京地裁平成22年5月27日判決やその控訴審である東京高裁平成22年10月27日判決)。

詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知って法律行為をした場合、債権者がその法律行為の取消しを裁判所に請求できるという権利をいいます(民法424条1項)。

会社分割に対して詐害行為取消が認められるかどうかについては、まず、①そもそも会社分割が詐害行為取権の対象となりうるか否かが問題となります。

会社分割は私法上の取引行為ではなく、会社法に基づく組織法上の行為だからです。

この点については、実務も学説も判断が分かれていましたが、今回、前記最高裁判決は、概ね以下のように判断し、詐害行為取消権の対象となると結論付けました。

㋐会社法その他の法令に、会社分割が詐害行為取消権の対象となることを否定する明文の規定は存しない。

㋑会社法上、分割会社の債権者を保護するための規定が設けられているが(会社法810条)、一定の場合を除き、分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず、設立会社に債務が承継されず、上記規定による保護の対象ともされていない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある。

㋒会社法上、新設分割の無効を主張する方法として、法律関係の画一的確定等の観点から新設分割無効の訴えが規定されているが(会社法828条1項10号)、詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても、その取消しの効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきであるから、債権者保護の必要性がある場合に、会社法上新設分割無効の訴えが規定されているからといって、新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。

 

なお、設立会社が分割会社に対価を交付するため、計算上は、会社分割の前後で一般財産を減少させたといえないことから、②詐害行為取消の要件である詐害性(総債権者の共同担保となるべき債務者の一般財産が減少して債権者が満足を得られなくなること)という要件を満たすかどうかか問題となります。

さらに、詐害行為取消が認められるとして、③取消の範囲及び原状回復の方法も問題となります。

②について、東京地裁平成22年5月27日は、「一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損し、弁済を受けることがより困難になったといえる」として、詐害性を肯定しました。

また、③について、同裁判例は、詐害行為となる会社分割の目的物である金銭債権および固定資産が可分であることは明らかであるとして、取消の範囲を、債権者である原告が有する債権の額を限度とすると判断しました。

原状回復の方法としては、会社分割により承継させた資産を現物返還させることが可能であれば、できるだけこれを認めるべきであるとしながらも、裁判例の事案では、個別の権利が特定されておらず、事業が継続されていることから、承継された資産を特定してこれを返還させることは著しく困難であるとして、現物返還に代え、価格賠償を認めました。

なお、詐害行為取消権は裁判上でしか行使できず、債権者が取消の原因を知った時から2年間で時効消滅し、行為の時から20年を経過したときも消滅します(民法426条)。

 

M&Aの際の注意点

上記の最高裁判決を前提にすると、会社法上の異議申立ての対象とならないとしても、濫用的会社分割がなされた場合、裁判所によって詐害行為として取消されることになるわけです。

会社分割における資産移転が詐害行為として取消されたとしても、株式会社設立の効力そのものに影響はないとはいえ、移転した資産が設立会社から分割会社に戻されることになるわけですから、関係者に与える影響は計り知れません。

今後、ゴルフ場のM&Aにおいて会社分割制度を利用する場合にも、詐害行為として裁判所により取消されることのないよう、対価の額や交付される株券の価値が、実質的に相当で分割会社に取り残される債権者を害しないものといえるかどうか、慎重な配慮が必要です。

「ゴルフ場セミナー」2012年12月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員権譲受人からの預託金返還請求」

ゴルフ倶楽部の会員になっていないのに、預託金の返還請求ができるなどといううまいハナシがあるのでしょうか。普通はそんなことはあり得ないと一笑に付されるのがオチでしょう。

預託金償還ビジネスでよくみられるような、会員契約を解除して単なる金銭債権になった預託金債権を譲り受けるような特殊な場合は別として、預託金返還請求権は、あくまで会員が倶楽部を退会する際に、ゴルフ場経営会社に対して返還を求める権利であることは常識です。

したがって、会員権の譲受人が会員になっていない場合には、会員でないのですから当たり前ですが、会員契約を解除できず、ゴルフ場経営会社に対し預託金の返還を請求できないのは当然のことです。

ところが、平成24年5月16日、会員になっていない会員権譲受人からの預託金返還請求を認める実に不思議な判決が、東京高裁から出されました。

この結論の主な理由は、ゴルフ場経営会社が、会員権譲受人からの入会手続に必要な書類送付の要請などを黙殺しておきながら、入会手続がとられていないことを理由に会員権譲受人の権利行使を認めないのは権利の濫用にあたるというものです。

この判決は、言ってみれば、ある会社への就職希望者が、入社手続に必要な書類の送付を会社に求めたところ、会社がこれを放置した場合に、その希望者の入社を認めたことにせよと言っているのと同様の結論を導いてしまっており、いかにも不可思議な判決という印象を与えます。

今回は、この判決を題材に、ゴルフ場への預託金返還請求について考えたいと思います。

 

事案の概要

この裁判は、熊本のKゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」)を経営する会社(以下「本件会社」)に対し、本件ゴルフ倶楽部の会員権(以下「本件会員権」)をB建設から譲り受けたと主張するA氏(本件会社の元従業員)が、本件会社に預託金の支払いを求めた事案です。

B建設は、平成6年10月12日に本件ゴルフ倶楽部の会員となり、平成22年11月8日、A氏に本件会員権を譲渡しました。

A氏は、平成22年11月23日付書面により、入会手続をしたいとして手続書類送付を求めましたが、本件会社は、なぜかA氏に手続書類を送付しませんでした。なお、B建設は、同年10月5日付で本件会社に退会届を提出しています。

その後、入会を認められないA氏は、同年12月28日、さいたま地裁に本件訴訟を提起しました。

B建設は、この訴訟提起後の平成23年2月10日付で、預託金債権をA氏に譲渡した旨の債権譲渡通知書を本件会社に送付しています。

 

さいたま地方裁判所の判断

原審において、A氏は、平成16年10月12日の経過をもって、本件会員権記載の発行日(平成6年10月12日)から10年間の据置期間は満了したと主張しました。

これに対し、本件会社側は、①会員権を譲り受けようとする者は、本件ゴルフ倶楽部理事会の承認を得て名義書換料の支払いを完了するまでは、本件会社に会員権の譲受けを対抗できない、②預託金返還請求権の始期は、会則(平成7年9月施行、以下、「新会則」)によれば、「会員権を譲り受けた日から10年を経過した日」であるから、A氏が所定の手続きを経て本件会員権を取得したとしても、預託金返還請求権を行使することはできない、と主張しました。

さいたま地裁は、平成23年4月18日、会員権の譲渡手続を行っていないこと、及び据置期間が経過していないことを理由に、A氏の請求を棄却しました。

 

東京高等裁判所の判断

A氏は、上記新会則以外に、平成6年1月施行の会則(以下、「旧会則」)があることが判明したとして控訴しました。

旧会則には、名義変更時の据置期間延長の規定はなく、「預託金は、預託金証書の発行日より10年間据え置く」と規定されていました。

そこでA氏は、①本件会員権は平成6年10月12日発行なので旧会則が適用され、据置期間は満了している、②本件会社は、入会手続に係る書類送付の要請を黙殺しておきながら、入会手続がとられていないことを理由に権利行使を認めないのは権利の濫用であるなどと主張しました。

東京高裁は、①本件会社側が据置期間の満了の点について争わなかったため、この点は争いのない事実として、据置期間は平成16年10月12日をもって経過していることは明らかであるとした上で、②本件会社において、A氏が本件会員権の取得を本件会社に対抗することはできないと主張することは、権利の濫用として許されないとし、A氏側逆転勝訴の判決を下しました。

 

問題点①退会届の法的性質

控訴審で、「退会届」の法的性質がほとんど議論されなかったと思われる点は問題です。

退会届には、大別して、①会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約を終了させる(会員契約の解除)、②会員権譲渡に伴い譲渡人が譲受人に会員たる地位を譲渡する、という2種類の性質が考えられます。

そして、退会届の法的性質については、退会届が作成交付された状況などの事情から当事者の合理的意思を考慮して判断されるべきです。

この点、会員権譲渡の際に提出される退会届の法的性質が問題とされた東京高裁平成15年7月15日判決は、「本件会員契約上の地位をそのまま譲受人に譲渡する旨通知しながら、本件会員契約の解約の意思表示をすることは矛盾するし、本件退会届に予備的に解約の意思表示が含まれていると解することも、当事者の意思に沿うものとは考えられない」と判示した上で、会員から提出された退会届に会員契約解除の効力を認めず、預託金返還請求を棄却しています。

本事案においては、B建設がA氏に会員権を譲渡した後、A氏が入会申請を行っていることからすると、B建設が提出した退会届は、A氏に会員たる地位を譲渡するためのものであって、会員契約を解除するためのものではないと考えられます。なぜなら契約解除のためだとするとA氏は入会できないからです。

その後、会社から入会申請を放置されたA氏は、本件訴訟を提起し、訴訟提起後に、B建設は、本件会社に預託金返還請求権をA氏に譲渡した旨の通知をしています。

B建設が預託金返還請求権を譲渡するには、会員契約を解除し預託金返還請求権を独立の金銭債権とした上でこれを行うことが必要です。

本事案において、A氏への債権譲渡の際、B建設が改めて契約解除のための退会届を提出するなどして、会員契約を解除したということは記録上現れていませんし、当初の退会届の際に予備的に解除していたというような事情も伺えません。

にもかかわらず、東京高裁がA氏の預託金返還請求を認めたのは、どのような理由によるのでしょうか。

 

問題点②据置期間の満了の有無

また、控訴審においては、本件会社側が争わなかったため、据置期間の経過があっさり認定されてしまっています。

確かに、既に入会している会員との関係では、据置期間の延長は不利益な変更ですから、個々の会員の同意がなければ、その効力を有しないと考えられます(最高裁判所昭和61年10月12日判決)。

しかしながら、A氏は、本件会員権を、旧会則から新会則への変更後に取得しているのですから、A氏に新会則を適用したとしても特段の不利益はないといえます。東京高裁自身も、「規約の変更は、既に入会している会員に対しては効力を有しないというべきである」と述べているに過ぎず、A氏との関係では判断していないとも読めます。

本件会社側としては、この点をもっと問題すべきだったでしょう。

 

問題点③権利濫用の濫用

そして最も問題なのは、「ゴルフ場経営会社は、本件ゴルフ倶楽部の会員が会員権を譲渡しようとするに当たり、一定の要件があれば、原則としてこれを承諾する義務がある」という考えを前提に、本件会社の主張を権利の濫用としている点です。

この点は、ゴルフ場の会員契約の無理解と言わざるを得ない重大な問題を孕んでいます。

つまり、契約自由の原則から、ゴルフ場経営会社は、入会資格を満たさない者との契約の締結を拒否できるのであって、ゴルフ倶楽部の会員権の譲受人が、会員たる地位を取得するためには、理事会等による入会承認を得なければならないのは当然のことであると考えられます。

そして、仮にゴルフ場経営会社等が入会を承認しなかったことが不当だとしても、それは不法行為(民法709条)等として損害賠償の対象となり得るに過ぎず、入会が承認されたことになるわけではないこともまた言うまでもありません。

ちなみに、外国人のゴルフ倶楽部への入会制限が争われた事案において、東京地裁平成13年5月31日判決は、「私人である社団ないし団体は、結社の自由が保障されている」とし、新たな構成員の加入を拒否する行為を…民法709条の不法行為に当たるとすることが許されるのは、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限られるとして、ゴルフ倶楽部への入会に国籍による制限を加えるのは、社会的に許容される範囲であると判断して原告の請求を棄却し、控訴審・最高裁も、この結論を維持しています。

このように、入会希望者を倶楽部に入会させるか否かは、憲法で保障された結社の自由にも由来するものであって、その判断は最大限保障されなければならず、入会手続書類を送らなかったからといって、入会させたのと同様の取り扱いを認めよとするのは、法律的根拠を欠くと言わざるを得ません。

なお、本事案において、ゴルフ場経営会社は、「会員権の取得を会社に対抗できない」と争い、控訴審判決でも同様の表現が使われていますが、これはあたかも株式取得を会社に対抗し得るか、という別個の問題意識を、会員として倶楽部に入会させるかという問題に混同させた誤った理解であり、当事者の争い方、裁判所の判断双方に問題が残ると言わざるを得ません。

 

ゴルフ場側の注意点

本事案において、本件会社が、A氏の書類送付要請を黙殺したのは、元従業員のA氏が本件会社からの解雇を争い、訴訟で抗争したなどの対立経緯があったからのようですが、東京高裁がA氏の請求を認めたのは、本件会社側に、書類送付要請を無視したという落ち度があったことが大きな理由であったと推測されます。

したがって、本事案のように入会拒否が予想される場合であっても、会員権譲受人に対し、名義書換に必要な手続関係書類を送付しないなどという対応があってはなりません。

また、会則変更後の会員権譲受人に対しては、会則の変更を主張できると解されますが(既述)、名義書換手続の際には、会員権譲受人から、「現行の会則を承認した上で入会する」という同意書をもらうようにすべきです。

「ゴルフ場セミナー」2012年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「抽選弁済」

バブル経済崩壊以降、ゴルフ場は預託金の償還問題に直面し、平成22年3月末までの法的整理申請件数は600件を超え、既設ゴルフ場数ではおよそ800コースに及んでいます。

ここ数年の倒産件数は減少していますが、経済の低迷や会員の高齢化、価格競争の激化等により、ゴルフ場への来場者数は依然として減少しており、売り上げも伸びていません。

このような状況下で、多くのゴルフ場が、事業を継続し会員のプレー権を保障しながら、預託金の償還問題を解決する方法を模索しています。

その1つとして、「永久債」という方法もあります。

永久債とは、預託金制ゴルフ場においては、「倶楽部解散時まで預託金を償還しない」というものです。

永久債というのは、結局のところ倶楽部解散まで預託金を返還しないというものなので、ゴルフ場にとっては都合のよいものといえますが、会員の側には様々な事情があり、預託金を返金してもらいたいという現実的要請もあるため、この制度に同意してもらうのはなかなか難しいと言われています。

そこで、双方のニーズを満たす折衷案として考えられるのが抽選弁済という方法です。

抽選弁済は、毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式です。

抽選弁済は、希望者が多くても償還額は経営継続が可能な一定額に抑えることができるので、ゴルフ場は、会員のプレー権を保障したまま預託金の償還を継続することができ、一方、会員も当選すれば預託金全額の返還を受けることができるというメリットがあるため、会員側としては比較的受け入れやすく、ゴルフ場と会員のニーズを折衷し得る解決案として注目されます。

 

抽選弁済の実施手続

抽選弁済を実施する場合の手続きは概ね以下のとおりです。

 

1 各年度の原資の決定

まず、各年度の預託金償還額の上限(償還原資額)を決定します。

この金額は経営の継続が可能な限度に抑えることができます。

2 規則の制定・変更

次に、抽選弁済の採用に必要な範囲でゴルフ場の会則を変更し、細則に抽選弁済の内容を規定する必要があります。

ここで最も重要なのは、細則には、当選しなかった会員が後にゴルフ場に対し預託金償還請求をする場合に備えて、「本規則に定める抽選弁済による償還申込をした場合、本規則に定める以外の方法により償還請求をしない」ことを規定することです。

この点が抽選弁済制度を採用することの妙味ですから、必ず規定することが必要です。

 

では、各年度の預託金償還額の上限(償還原資額)については、どのように定めたらよいでしょうか。

この点、償還原資額を具体的に記載せず、「各年度の決算における税引き後の利益に減価償却費を加算した金額の〇パーセントを限度として償還する」などと規定することも考えられます。このように定めれば、会社は各期の利益状況に応じて柔軟に償還原資額を定めることができます。

もっとも、会員の利益を考慮するという観点から、「毎年金○円を限度として償還する」などと、具体的に確定した金額を記載する例も多いようです。

なお、後者のように確定した金額を記載する場合には、「ゴルフ場が償還金額の上限を増減できる」旨の規定も置いておくことが必要です。このような規定を置いておけば、その年の経営状況からその金額をどうしても確保できないという場合、その規定に従って、ゴルフ場は償還原資額を引き下げることができます。

償還原資額の増減について明確な規定を置いていない場合には、償還原資額を引き下げることができるかどうかが問題となります。

この点、償還原資額について「毎年2億円を限度として償還する」ということ以外特に規則に定めはない場合で、ゴルフ場が8000万円しか償還していないというケースにおいて、東京地方裁判所平成18年9月15日判決は、抽選弁済に関する規則は償還金額の上限を定めていることを認めた上で、「償還金の原資は現に存在するものではなく、あくまで被告(ゴルフ場経営会社)において将来の営業努力によることを前提としていたものであるから、2億円については確保の目標値であって、これを下回る償還ができないというものではないことは明らかである」とし、ゴルフ場の毎年2億円の抽選償還義務を否定しました。

この立場に立ては、償還金額の増減について明確な定めがない場合であっても、償還原資額を引き下げることができます。

3 償還請求総額の確定

抽選弁済の内容が決まりましたら、その年の抽選会の実施内容を確定し、会報や通知等で各会員に知らせることになります。

預託金の償還は退会を前提とするものですから、抽選弁済への参加を希望する会員からは退会届(抽選弁済への申込書)を提出してもらい、これらを集計し、償還請求の総額を確定します。

なお、細則には、「本規則に定める抽選弁済による償還申込をした場合、本規則に定める以外の方法により償還請求をしない」ことを規定することが必要だと前述しましたが、さらに、退会届(抽選弁済への申込書)にも、「抽選弁済に関する規則の内容を承認した上で、償還の申込みをする」旨を記載しておき、この点を申し込みをした各会員との間で合意しておくことが絶対に必要となります。

4 抽選会の実施

償還請求の総額を確定し、この金額が償還原資額より小さい場合には、償還請求した会員に、一括で償還することができます。

これに対し、償還請求総額が償還原資額より大きい場合には、抽選会を実施し、当選者を決定し、当選者に全額一括で償還することになります。

まず、会員の抽選弁済への出席の機会をできる限り保障するため、代理人の出席も認めたほうがよいと思われます。

さらに、自らも出席できず代理人も見つけられない会員については、ゴルフ場の理事等が代理することも考えられます。

なお、当選しなかった会員については、①翌年度に持ち越しとする方法、②翌年度も申し込む場合には改めて申し込みが必要とする方法、いずれも考えられると思います。

抽選の方法としては、誰でもすぐに思い浮かべることのできる「ガラポン福引抽選器」を使用する方法、抽選箱に当選札とはずれ札を入れて各人に引いてもらう方法など、いろいろ考えられるでしょう。

出席者の緊張をできるだけ和らげるため、抽選会の会場はできるだけ広めの場所を用意したほうがよいと思われます。

また、出席者が当選状況を確認しやすいように、会場の前方には大型スクリーンや大きな当選表を準備します。

なお、抽選会当日は、手続きの公正性を確保するため、立会人として、理事若干名や顧問弁護士などに出席してもらうことも考えられます。この場合、会社側の出席者とは別の場所に席を設けるなどの配慮も必要です。

翌年度以降も同様の方法にて償還を実施し、前年度において原資から償還額を控除した端数が出る場合には、翌年度の償還原資として繰り越します。

なお、預託金の償還の請求は、退会を前提とするものですから、抽選弁済に申し込んだ会員について、競技会への参加まで認めるのは困難かと思われますが、当選しなかった会員が不満をもって預託金償還請求訴訟を提起するなど、無用の混乱を避けるため、実際に当選して償還がなされるまでは、会員料金でのプレーを認めることは、ゴルフ場の裁量として、制度設計上考えらえるのではないかと思います。

もちろん、この場合、プレーフィや年会費等、会員として通常必要な費用も負担してもらうことになるでしょう。

 

抽選弁済により退会した会員の再入会

抽選弁済に当選して償還を受け退会した会員が、再度会員権を取得して入会し、またすぐに抽選弁済に申し込むという事態も考えられます。

会員の入会を認めるかどうかは倶楽部の裁量に属する事柄ですので、預託金の償還を受けるために会員権を取得したことが事前に分かれば、そのような会員の入会自体を拒否できるのは当然です。

さらに、このような預託金償還ビジネス行為に対する対策として、新規入会の場合の預託金の償還については、会則に「入会時から〇年後に償還する」或いは「クラブ解散時に償還する」などと規定しておく必要があるでしょう。

 

抽選弁済を定める再生計画

なお、抽選弁済には、①預託金債務を一定限度で残すことにより債務免除益の問題を回避し得る、②破産配当率を超える弁済率を確保しつつゴルフ場事業を継続させることができる、などのメリットもあるので、民事再生手続における再生計画においても、会員に対する弁済の手法として利用されることもあります。

鹿島の杜カントリークラブの再生計画においても抽選弁済方式が採用されましたが、この事例においては、抽選弁済が債権者平等の原則に反するかどうかが問題となりました。

この点、東京高等裁判所平成16年7月23日決定は、抽選償還は、早く弁済を受けられる会員と、遅く弁済を受ける会員との間に不平等がある等とし、債権者平等原則を定めた民事再生法155条1項に違反するとして、民事再生計画認可決定を取り消す決定を下しました。

この決定は最高裁によっても支持され、抽選弁方式済の採用を検討するゴルフ場に対し、緊張を与えることになりましたが、もちろん抽選弁済制度そのものが否定されたわけではありません。

なお、その後、平成18年4月26日大阪高裁決定が、同様に抽選弁済方式を採用した信和ゴルフグループの中核企業の再生計画に関し、抽選弁済方式に対する直接的な判断は示していないものの、「抽選は退会者に平等に適用されるし、抽選に外れて償還を受けられない者は、翌年も償還対象者となるから、」「長期にわたり償還が受けられないことは予想できない」として、結論として、債権者平等の原則に違反しないとの判断を下しています。

「ゴルフ場セミナー」2012年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場と差押え」

リーマンショック後の大不況で、ゴルフ場のメンバーが経済的に破綻し、所有する会員権を差し押さえられてしまうという事態が多発しています。

ゴルフ会員権の価値も不況とともに下がってはいますが、会員権市場では依然として相場が立っていて換価性の高い資産と考えられているためです。

そこで、ゴルフ場としては、裁判所から、突然ゴルフ会員権を差し押さえたという差押命令が届いた場合の対処法を確認しておく必要があるでしょう。

また、同様に不況下において、ゴルフ会員権の価値が下がっているため、会員権を市場で売却するのではなく、ゴルフ場に対して預託金の返還請求をするというケースも増加し、ゴルフ場自身が債務者として差押えを受けてしまうという事態も多くなっています。

このように、預託金の返還を求める会員からの強制執行の申立てがあった場合、ゴルフ場としてはどのような対応をしたらよいでしょうか。

さらに、ゴルフ場の会員が破産し、破産管財人が会員のもつゴルフ会員権を差押えるというケースも考えられます(もっとも、この場合は、差押えに至る前に破産管財人からゴルフ場へ連絡がきて、和解に至ることが実際には多いように思われます。)。

今回は、これらの場合の対処法、ゴルフ場と差押えについて説明します。

ゴルフ場と差押えが問題となるケースには、ゴルフ場が債務者である場合と、ゴルフ場が第三債務者である場合とがあります。

(なお、第三債務者というのは耳慣れない言葉かもしれませんが、ゴルフ場の会員に対して債権を有する債権者が勝訴判決等を得て、会員が有するゴルフ会員権を差し押さえたというようなケースにおいて、差押えをなした者が債権者、差押えを受けた会員が債務者、ゴルフ場は第三債務者となります。)

また、ゴルフ場には、預託金制、株主会員制、社団法人制などいくつかの種類がありますが、最も多いものが預託金制ゴルフ場です。

以下では、この預託金制のゴルフ場を念頭において、ゴルフ場が第三債務者である場合、ゴルフ場が債務者である場合の順に、説明していきたいと思います。

 

ゴルフ場が第三債務者となる場合

では、裁判所から突然、ゴルフ会員権を差し押さえたという差押命令が届いたら、どうしたらよいでしょうか。

まず、ゴルフ会員権は財産的価値を有するので、差し押さえて強制執行の対象となることについては、裁判所も認めています。

昭和60年8月15日東京高裁決定は、「本件会員権は、いわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権と称せられるもので、抗告人所有のゴルフ場施設の優先的利用権、会費納入等の義務、預託金返還請求権という債権債務から成り立つ包括的な債権契約上の地位であるが、かかる地位は、財産的価値を有し、執行債権の引当てとなる適格をもつものというべきであるから、民事執行法167条1項にいう『その他の財産権』に当たり、同法145条の差押命令の対象となり得ることはいうまでもない。」として、強制執行の対象となるとしています。

 

執行手続の流れ

債権者が適法に強制執行の申立てを行うと、執行裁判所が差押命令を出し、ゴルフ場へ届きます。

そうすると、ゴルフ場は、預託金の払渡しや名義書換等の譲渡を承諾する手続きをすることが禁じられることになります。

差押えがなされた場合、債権者は、債務者が本当に会員権を持っているのかどうかなどを確認することが認められています。これを第三債務者の陳述催告といい、通常、差押命令と一緒に「陳述書」が郵送されてきます。

「陳述書」は、㋐会員資格の有無、㋑入会金、預り金等の払込み完了の有無及びその金額、㋒会員権について、他の債権者からの請求の有無やその内容、㋓会員権について、他の債権者からの差押え等の有無とその内容などを記入するものとなっています。

なお、差押えがなされたという裁判所からの通知が来ただけでは、会則に特に定めのない限り、従来の名義人を会員として取扱わなければなりません。その後の裁判手続により会員権を取得した人に対する名義書換が完了するまでは、従来の名義人のプレーを拒否したりできませんので、ご注意下さい。

 

差押が競合する場合

債権者からの差押えを受けるような場合には、会員の債務弁済の資力が十分でない場合も多く、当該会員が他の債権者からも差押えや仮差押えを受け、差押えが競合するケースも多く見受けられます。

このような場合、ゴルフ場としては、勝手に判断して片方の債権者に対して支払いをすると、二重弁済のリスクを負うことになりますので、注意が必要です。

両方の(仮)差押えの額の合計が債務額を超えるときなどは、必ず供託をしなければなりません。供託は、最寄りの法務局に対してすることになります。

 

譲渡通知が差押に先行している場合

また、差押えを受ける前に会員権を既に譲渡して換価している場合もままあり、譲渡通知と差押命令が競合して到達することも起こり得ます。

この場合、譲渡通知と差押命令のどちらを優先して扱うべきでしょうか。

この点、譲渡通知と差押命令の優先関係は、譲渡通知の到達と差押命令の送達の先後で決定されます。

そのため、差押えより先に譲渡通知がゴルフ場に到達している場合には、会員権の譲受人が差押債権者に優先することになりますので、先程の「陳述書」には、「㋐ない」と記入し、譲受人からの名義書換申請に応じなければなりません。

なお、譲渡通知は通常内容証明郵便で発送されますが、複数の譲渡通知が競合する場合、優先関係は通知がゴルフ場に「到達」した日の先後で決定されます。

この点、内容証明郵便は相手方が通知を「発送」した日を証明するものでしかなく、内容証明郵便に記載された日(発送日)の先後で優先関係を判断するのは間違いです。

そのため、ゴルフ場に通知が到達した日を常日頃から管理して対応する必要がありますので注意が必要です。

 

差押命令後の手続

現在のゴルフ会員権は、預託金額で評価することが妥当でなく、また預託金全額を取り立てることも実際上困難であることから、差押債権者は、原則として、売却命令や譲渡命令により、差し押さえた会員権を換価して債権回収を行うことになります。

 

売却命令と譲渡命令

売却命令とは、執行裁判所が、例えば、動産執行の手続きにより競り売りの方法で売却するなど、その定める方法により差し押さえた会員権の売却を執行官に命ずる命令です。

執行官が売却命令により会員権を売却すると、執行官からゴルフ場へ確定日付のある証書により譲渡通知がなされます。これにより、ゴルフ場は、売却命令により誰が会員権を取得したかを知ることができます。

一方、譲渡命令とは、差し押さえた会員権を執行裁判所が定めた金額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令です。

これらの場合、会員権を取得した者から名義書換を求められた場合には、これに応じなければなりません。もっとも、譲渡命令は確定しなければ効力は生じませんので、ゴルフ場としては、名義書換手続きの際に、裁判所の発行する確定証明書を添付させたほうがよいでしょう。

なお、これらの場合であっても、ゴルフ場の会則に定める入会資格を満たさない場合には、入会を拒否することができます。

また、前記昭和60年8月15日東京高裁決定は、名義書換停止中の会員権であっても譲渡命令を発する妨げとはならないと判断しており、売却命令についても同様に考えることができます。

 

取立権の行使

さらに、差押え債権者は、取立権の行使により、債権回収できるかが問題となります。

取立権の行使とは、預託金の据置期間が満了している場合、債権者がゴルフ場に対し、会員に代わって退会し預託金の返還請求をすることです。

この点については争いがあり、平成10年5月28日東京地裁判決は、会則上、預託金返還請求は退会を前提としておらず、据置期間が経過すれば、会員自身が退会しなくても具体的な金銭債権として預託金返還請求権が発生することを理由に、これを認めています。

しかしながら、預託金制ゴルフ倶楽部の会員権の性質は、優先的施設利用権や預託金返還請求権などが複合したものと考えられますが、預託金返還請求権については、会員が退会しない限り抽象的なものにとどまり、具体的な金銭債権とはならず、会則上も会員自身が退会して初めて預託金返還請求できると規定されていることが一般であるように思われます。

このような理解に立てば、会員が退会する前に具体的な金銭債権として預託金返還請求権が発生するという上記判決の考え方は、やや実態と乖離しているように思われます。

そこで、会員自身が退会すなわち会員契約の解除の意思表示を行うべきで、会員自身の退会なしに、差押債権者の預託金返還請求は認められないものと考える見解も有力ですので、容易に妥協せず、裁判で争うことも考えられてしかるべきでしょう。

 

ゴルフ場が債務者である場合

次に、ゴルフ場が債務者である場合について説明します。

ゴルフ場が会員から預託金返還請求訴訟を提起されて敗訴した場合、裁判所は、会員の申立てに基づいて、会員のゴルフ場に対する請求権を強制的に実現することになります。

この方法にはいくつかありますが、ゴルフ場が債務者の場合に問題となるのは、主に動産執行手続と不動産執行手続です。

動産執行手続とは、債権回収のために、債権者の申立てに基づいて、裁判所の執行官がゴルフ場の現金を差押さえたり、ゴルフ場の家具や商品類、機械などを売却して換価し、その代金を金銭債権の弁済に充てる手続です。

一方、不動産執行手続とは、債権回収のために、債権者の申立てに基づいて、その不動産を裁判所が売却する手続です。

ゴルフ場によっては、所有不動産に抵当権を設定している場合もあります。

この点、一般債権者による差押えと抵当権との優先関係については、差押命令の送達と抵当権設定登記の先後で決まります。

なお、抵当権者が本登記ではなく仮登記したに過ぎない場合でも、仮登記には順位保全効がありますので、後に抵当権者が本登記をした場合には、その本登記は仮登記をした日に遡って本登記をしたのと同じ効力が認められることになります。

 

強制執行妨害罪

ゴルフ場の銀行預金を差し押さえられると困るからといって、支配人個人名義の口座を作ってそこでゴルフ場の売上を管理したり、あるいはゴルフ場のクラブハウスやコースが売却されると困るからといって、関連会社に名義を変更したりすることは許されません。
これらの行為は、「財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担」したものとして、強制執行妨害罪(刑法第96条の2)となり、法定刑は2年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。
さらに、強制執行を免れるために不動産の名義を変更しても、このような行為は民事上も無効であり、仮装名義人に対して強制執行していくことになります。

「ゴルフ場セミナー」2012年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場の道路の凍結」

ゴルフ場は山間部に造られることも多く、冬場は道路が凍り、事故につながることもあります。

一口にゴルフ場の道路といっても、①ゴルフ場に至るまでの道路(通常は公道)、②ゴルフ場敷地内において、乗用車が通行する道路、③コース内のカート道、④その他歩道など、さまざまな道路があります。

道路は、土地の工作物であり、その所有者は、土地工作物の設置責任を負います。また、来場者を迎えるゴルフ場としては、来場者が安全にプレーを楽しむことができるよう配慮すべき安全配慮義務を負っています。万が一ゴルフ場が管理する道路で事故が起こった場合には、土地工作物の設置責任に基づく損害賠償責任(民法717条)や、安全配慮義務違反による損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があります。

今回は、ゴルフ場の道路の凍結に関して説明したいと思います。

 

ゴルフ場内の事故ではなく、凍結した公道での事故ですが、①岡山地裁平成22年10月19日判決、②大阪地裁平成20年12月8日判決という対照的な近時の裁判例がありますので、まずはこれらの事案の概要を紹介します。

岡山地裁判決

この事故(第1事件)は、岡山県と鳥取県の県境にある国道179号線人形峠のトンネル付近の鳥取県側で発生しました。平成19年1月30日午前8時ころ、Aがビール樽を積んだ大型貨物車で峠のトンネルを通過し、下りの橋に差し掛かったところで、路面凍結のためA車がスリップを始めました。A車の走行速度は時速64kmでした。緩やかな右カーブで、Bの2t車が自損事故を起こして路肩に停車中だったのですが、A車はB車に接触し、さらに法面の段差に乗り上げてしまい、反対車線からやってきた大型バスのC車に積荷のビール樽を衝突させてしまいました。

A車を所有する会社及び保険会社が、A車や道路の修理費、B車やC車に関する示談金など563万円余りの損害賠償を求め、道路を管理する鳥取県を訴えたところ、岡山地裁は、鳥取県に対し、281万円余りの支払いを命じました。

大阪地裁判決

この事故(第2事件)は、阪神高速道路湾岸線上、大阪府堺市の三宝出口付近で発生しました。平成16年1月18日午前7時ころ、Dが運転するD車が、時速60kmの速度規制があることに気付かず、その速度を超えて走行していましたが、先に事故を起こして大和川付近で停止していた車を見てやや減速し、右カーブに差し掛かった後、スリップして本線と三宝出口への側道との間に設置されていた角型クッションドラムに衝突し、D車は前面全体を損傷してしまいました。

Dは、車両が全損し、死ぬかと思うほどの恐怖を感じたとして、弁護士費用も含め143万円の損害賠償を求め、阪神高速道路株式会社及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構を訴えましたが、大阪地裁は、Dの請求を棄却しました。

 

第1事件、第2事件ともに、国家賠償請求事件です。国家賠償法2条1項は「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」と規定します。これに対し、民法717条は「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」として、土地工作物責任を定めます。国家賠償法と民法では、責任を負う主体(私人も含むか)や、適用範囲(公の営造物か、土地の工作物か)等に違いがありますが、基本的な考え方は共通しており、要は、施設を管理する者は、通常備えるべき安全性を確保しなければならない、ということです。

第1事件では、人形峠のトンネル付近の道路はスリップ事故を起こしやすく、岡山県側では凍結防止剤を3回散布し、道路状況の確認も行っていて、道路が凍結していなかったのに対し、鳥取県側では、他にも数台の自動車がスリップ事故を起こすほど、かなり危険な状態であったにもかかわらず、凍結防止剤は前日に散布しただけで、道路状況も確認せず放置した、と判断されました。また、Aの運転が不適切だという県側の主張に対しては、「Aの運転方法が本件道路で通常予想される交通方法を逸脱した異常で無謀なものであるとか、自殺行為であるとまではいえない。Aの運転方法の問題点は過失相殺を行うことにより考慮すべきである。」としました(過失5割)。

これに対し、第2事件では、事故数時間前の巡回でも異常報告はなく、凍結防止剤も危険な場所から順次散布しており、前線凍結注意等の情報も表示してあり、他の多数の車は事故を起こすことなく事故現場を通過していました。ところが、凍結のおそれのある冬道の走行経験が少なく、速度規制を見落としたDは、速度調節や前方注視を怠り、ハンドル操作を誤るなどして、事故の主な原因となった可能性も相当程度あると判断されたのです。この他、事故現場付近の高速道路は、関西国際空港へのアクセス道路にもなっており、安易に道路を閉鎖できないという事情もありました。

ドライバーに落ち度があるという点では第1事件も第2事件も同様ですが、道路管理者がやるべきことをきちんと行っていたのか、という点が判決内容の違いとなったのです。

 

大津地裁判決

道路管理者はどのようなことをなすべきか、参考例として大津地裁平成16年4月26日判決を紹介します。

この事故は、平成13年1月30日午前2時45分ころ、Eが大型貨物自動車で滋賀県西浅井町の国道303号線を走行していたところ、新栄橋の手前35mで、橋の上に2台の事故車両を発見し、ブレーキをかけたところ、橋面が凍結していたため、E車がスリップし、ハンドル操作が不能となり、橋の欄干を破って河川に転落し、E車と積荷に損害が生じたというものです。

Eの勤務する会社が原告となり、散水融雪装置からの散水で道路が凍結して事故が発生したとして、道路管理者を訴えましたが、大津地裁は、要旨以下のように述べて、原告の請求を棄却しました。

・散水融雪装置が事故前に散水を行って散水が停止したため橋面が凍結したとは認められず、装置に瑕疵はない。路面凍結は別の要因によるものであるが、被告の道路管理に瑕疵があるかが問題となる。

・道路面の凍結現象は、当該道路の地理的、気象的、地理的条件及び道路構造等が加わって発生する自然現象であり、必ずしも道路が凍結したことのみをもって道路が本来有している安全性を欠いているということはできない。国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があったといえるかは、当該営造物の場所的環境及び利用状況、管理の方法等諸般の事情を総合考慮して、道路の通常有すべき安全性を欠いているといえるかによって判断されるべきである。

・本件事故現場では12月から2月にかけてかなりの積雪量がある。散水融雪装置は一定の気象条件で作動することになっており、事故当時も正常に稼働していた。国道303号は交通の要衝であり、交通量が多くなるのは午後5時から午後6時ころである。被告の管理体制は、以下のようなものであった。

①パトロール等

道路を管理する土木事務所では、6班編成で除雪配備態勢をとっていた。事故前日29日の夕方に大雪等の注意報が発令され、8名の職員が待機した。班長は、同日午後8時の降雪量や気温を見て、主要な幹線道路である国道303号を中心にパトロールすることとし、午後9時ころ事務所を車で出発した。午後10時30分ころ、事故現場付近で下車し、路面の状況を歩いて確認した。路肩に少し雪はあったが、凍結防止剤と思われる白い粒が路側に残っており、散水融雪装置は稼働していなかった。

②凍結防止剤の散布

土木事務所は地元事情に精通した地元業者に凍結防止剤の散布を委託している。業者に対する説明会も実施され、気象状況の把握に努め、時宜に応じて凍結防止剤を散布するよう指導されていた。

委託業者は通常スケジュール通り、29日午前4時30分から午前8時にかけて、また、午後7時から午後10時にかけての2回、凍結防止剤の散布を行った。

③警告表示等の設置

事故現場手前2km強の区間に「すべりやすい」という警戒標識3基のほか、簡易道路情報表示装置など警告看板13基が設置されていた。

・この付近の事故発生数はわずかであり、凍結が原因となって事故が多発するという状況にはない。

・事故現場の橋に向っての右カーブは緩やかであり、また緩やかな上り勾配となっていて、前方の見通しも確保されている。

・以上の事実に照らせば、本件事故現場付近の道路は、通常有すべき安全性を欠いているとはいえず、土木事務所における、本件事故現場付近の道路の管理に瑕疵があったとは認められない。

 

この大津地裁判決は、凍結道路での事故に関する裁判の典型例です。凍結道路の事故においては、事故現場の客観的な状況(事故を招きやすい構造になっていないか、実際に事故は多発していないか等)に加え、道路管理者の①パトロール状況、②凍結防止剤の散布状況、③警告表示等の設置状況等を総合考慮して、通常有すべき安全性を欠いていたか否かが判断されることが多いのです。

したがって、道路を管理するゴルフ場においても、現に事故が多発する地点、あるいは事故が起きやすい構造になっている地点を中心に、パトロールを行い、凍結防止剤を散布し、警告表示等を設置するといった対応が求められることになります。とはいえ、国や県とは異なり、ゴルフ場では24時間体制でこのような対応をすることは明らかに無理ですので、夜間の路面凍結が心配されるような時期には、営業終了後、ゴルフ場が管理する道路に進入できないように閉門し、翌朝、道路の安全性を確認してから開門するといった工夫も必要でしょう。

なお、寒冷地のゴルフ場と、暖かい地域のゴルフ場では、要求される対応のレベルもおのずと異なってきます。スリップした大型貨物自動車が歩行者に衝突し死亡した事故で、地裁判決を覆し、道路管理者の責任を否定した大阪高裁昭和50年9月26日判決は、「当地方は特に積雪地帯ではなく、本件程度の積雪凍結状態である限り道路管理者に常時路面の凍結解消措置をとるべきことを義務付けることはできず、道路通行者が車両にチェーンを取り付ける等の個々人の注意義務によって交通上の危険を防止すべきである。」と述べています。

 

冒頭に述べたように、ゴルフ場の道路には、クラブハウスまでの進入路以外にも、カート道や歩道などもあります。特にセルフプレーで乗用カーを利用する場合、運転免許を持っておらず、運転に不慣れな人が乗ることもありますから、ゴルフ場としても、十分な注意を払う必要があります。本誌昨年11月号でも述べた通り、急カーブや坂道といった危険箇所をできるだけ少なくするということが根本的な解決策ですが、次善の策としては、危険な場所で無理な運転をさせない工夫をすることが大切です。危険な場所に差し掛かる前に、危険を確実に知らせることが重要ですし、減速せざるを得ないような工夫をすることも効果的でしょう。

凍結によるスリップ事故が最も心配される雪の場合にはそもそもゴルフ場がクローズされると思いますが、そうでなくても、雨が降った後や霜が降りて凍ることもありますので注意が必要です。特に乗用カーのタイヤはグリップ力が弱く滑りやすくなっていますのでより注意が必要です。コース課の担当者がカップを切るとき、カート道もチェックして、もし凍っている場所があれば、キャディーマスター室に報告し、来場者に注意を促すとともに、凍結注意徐行せよといった看板やカラーコーンを置くようにすべきでしょう。

ゴルフ場としては、来場者等に対する安全配慮義務もサービスの一環であることを自覚し、限られた人手や予算の中で、できる限りの対応をすることが求められます。

ゴルフ場セミナー2011年3月号掲載
熊谷信太郎

熊谷信太郎の「乗用カー事故」

良い天気の日に、広々としたコースを歩いてゴルフを楽しむのも良いですが、乗用カーに乗り、爽やかな風を受けてプレーをするのも快いものです。

乗用カーはたいへん便利な乗り物である反面、ささいなことがきっかけで大事故につながってしまうこともあります。

今年8月、兵庫県のLカントリー倶楽部で、乗用カーを運転していたプレイヤーの男性が、下り坂のカーブを曲がり切れず斜面を転落、運転していた男性は死亡、同乗者も怪我を負うという痛ましい事故がありました。同CCでは、その4日後にも乗用カー事故が発生したそうです。9月に入ると、北海道のゴルフ場でも、坂を走行中の乗用カーがコースを外れ、木に激突し、プレイヤー4名が重軽傷を負いました。

乗用カー事故といえば、昨年11月には、高知県のゴルフ場で、男子プロゴルフツアーが開催されている真っ最中に、報道陣の乗用カーが暴走し、観客に怪我を負わせるという事故が大きな話題になりましたが、今回の一連の事故は、死者まで出てしまったこともあり、業界紙やスポーツ紙だけでなく、全国紙でも大きく報じられています。

乗用カーの事故については、昨年の本誌7月号でも取り上げ、ゴルフ場がなぜ乗用カー事故の責任を負うのか、損害賠償、特に慰謝料の相場はどれくらいか、といった点について、実際の事件を例に挙げて説明をしました。今回は、相次ぐ乗用カー事故について、事故増加の背景を明らかにし、ゴルフ場はどのような対策をすべきかという点を中心に説明したいと思います。

 

事故増加の背景

ゴルフは本来歩いてするスポーツですが、乗用カーの登場で、キャディーなしのセルフプレーも可能になり、手軽に、かつスピーディーにプレーを楽しむことができるようになりました。最近では、多数のゴルフ場で乗用カーを導入するようになり、フェアウェイまで乗り入れることができるゴルフ場もあります。中には、フェアウェイへの乗り入れは可能であるが、乗用カーの重みでラフの芝が寝てしまうと、ラフの意味がなくなってしまうということで、ラフへの乗り入れは禁止、というゴルフ場もあります。

アメリカなどでは、早くから乗用カーが普及しており、乗用カーに慣れているプレイヤーが多いようですが、乗用カーでボールを捜しに行って、そのまま池に落ちてしまった、というような事故も時にはあるようです。また、日本とは異なり、2人乗りの小型乗用カーも多く、芝に与える負担が比較的少ないためか、フェアウェイへの乗り入れ可能というゴルフ場が多いように見受けられます。

乗用カー事故が増加した背景には様々な事情があると思われますが、以下のような理由が指摘されています。

①コース設計とセルフプレー

日本でも急速に普及してきた乗用カーですが、既存のゴルフ場は、必ずしも乗用カーの利用を前提として設計されたわけではありません。乗用カーを後から導入したため、どうしても急なカーブや坂道を通行せざるを得ない場合も多くあります。

それでも、カート道の危険個所を熟知したキャディーが運転するのであれば、急なカーブや坂道では、速度を十分に落として慎重に運転するなどの対応が可能ですが、折からの不況の影響もあり、セルフプレーが増え、プレイヤー自身が運転するケースが多くなったことが、事故増加の大きな原因であると言われています。

②法制度と運転自体の不慣れ等

乗用カーは、ゴルフ場内を走行するため、公道を走る自動車と異なり、運転免許は不要です。自動車を運転する人であれば、乗用カーの運動特性も把握しやすいと思いますが、運転免許を持っていない人の場合には、乗用カーの動き方を把握できず事故につながりやすいでしょう。数年前のアメリカ国内の調査報告によれば、アメリカ国内の乗用カー事故の3割に、子供が関わっているそうです。必ずしもゴルフ場内で起こった事故ばかりでなく、空港やイベント会場での乗用カー事故も調査対象となっているようですが、乗用カーに関する無理解が原因と思われます。

自動車の場合、飲酒運転は大変危険であり、万が一そのような行為を行えば厳罰が科されます。しかし、乗用カーの場合、お昼にビールを飲んでから乗用カーを運転するプレイヤーをゴルフ場が黙認している場合もあります。直ちに交通法規に違反するものではないかもしれませんが、乗用カーであっても飲酒運転が危険であることに変わりはありません。

また、冒頭で紹介した事故の死傷者は、高齢の方々です。乗用車の場合でも、運動能力や判断力・注意力の低下から、高齢者が起こす交通事故が問題となっていますが、乗用カーでも同じことが言えるかもしれません。

③乗用カーの設計

乗用カーの多くは左ハンドル車です。右ハンドル車を製造しようとすると、アクセルと右前輪の位置が重なってしまい、不都合だということです。日本の乗用車は右ハンドルが多いので、運転免許を持っていても、左ハンドルに不慣れで、乗用カーは運転しにくいと感じるプレイヤーもいるようです。

また、乗用カーは自動車に比べて重心が高く、坂道や急カーブで転倒の危険があります。転倒まで至らなくても、自動車と違って乗用カーにはドアがありませんから、急カーブで同乗者が乗用カーから投げ出されてしまう危険性もあります。数年前には、茨城県のゴルフ場で、キャディーが運転する乗用カーが急カーブを曲がる際、プレイヤーが乗用カーから転落、アスファルトで頭部を強打して死亡するという事故もありました。

乗用カーには、ガソリンで走行するものと、電気で走行するものがあります。電気で走行するものは、音が静かであるという意味で優れていますが、周囲にいるプレイヤーが、近づいてきた乗用カーに気がつかず、乗用カーの進路に飛び出して衝突事故が発生するということもあります。

 

求められる注意義務の程度

乗用カーの事故が増加しているとはいっても、乗用カーはセルフプレーには欠かせません。また、最近の乗用カーは、ナビゲーションシステムが搭載されていて、「グリーンまで200ヤードです」「右はOBです」などと音声で知らせてくれるものもあり、単なる移動・運搬の道具という域を超えた、大変便利なものになっています。多くのプレイヤーにとって、また、ゴルフ場にとっても、乗用カーは、なくてはならないものになっており、ゴルフ場としても、乗用カー事故への対応策を講じなければなりません。

ゴルフ場は、プレイヤーに対し、安全配慮義務を負っています。予め想定される危険については、できるだけその原因を除去し、もし除去することが難しいのであれば、プレイヤーに注意を促し、危険を回避させることが必要です。

ここでゴルフ場が気をつけなければならないのは、プレイヤーに対してどの程度の注意をすればよいか、ということです。

わかりやすく言えば、そのゴルフ場を初めて利用する人でも、どこが危険な場所なのか、必ず気がつくように工夫をしなければなりません。コースキャディーやメンバーだけが危険な場所を知っている、というのでは全く不十分なのです。また、危険な場所にさしかかったら、誰でも容易に危険を回避できるよう、注意を促すタイミング等にも気をつけなければなりません。

誰にでもわかるようにする、という意味では、最近は外国人プレイヤーも増加していますから、日本語表記をするだけでなく、英語などの外国語表記も併用するなどの対応も望まれます。最近の中国・韓国からの来場者の急増を考えると、いずれは中国語・韓国語での案内を検討するゴルフ場が増えてくるかもしれませんが、当面は日本語と英語の併用で十分なのではないかと思われます。

 

具体的な対応策

まず、根本的には、急カーブや坂道といった危険箇所をできるだけなくし、乗用カーでの事故が起こりにくいレイアウトに改修することが考えられます。しかし、昨今の厳しい経済情勢の中、それだけの予算や空間を確保できるゴルフ場は極めて少数でしょう。

次善の策としては、危険な場所で無理な運転をさせない工夫をすることが考えられます。何より、危険な場所を、プレイヤーに対し、事前に確実に知らせる、ということが重要です。危険な場所にさしかかる手前に看板等を設置するということは、実施が容易で、高い効果も見込まれることから、どのゴルフ場でも行っていると思います。しかし、せっかくの看板等も、ゴルフ場に求められる安全配慮義務を充足するレベルのものでなければ意味がありません。コースの美観を損ねないように配慮しつつも、キャディーや、そのコースに慣れたメンバーではなく、初めてそこを通ったプレイヤーであっても、また、外国人プレイヤーであっても、すぐにわかるような案内になっているか、という観点から再確認をしてはどうでしょうか。カート道に色を塗って、危険な場所を知らせるゴルフ場もあります。危険な場所に近づいた場合、アナウンスを流して音声で知らせるということも考えられます。カート道の脇に音声案内装置を設置する方法や、乗用カーに搭載されたナビを利用する方法があるでしょう。危険な場所に差し掛かる直前に、カート道に突起物を設けたり、S字クランクを設けたりして、強制的に減速させ、事故を未然に防ぐということも考えられます。衝突事故を防ぐため、電気で走行する乗用カーについては、乗用カーが近づいたことを周囲のプレイヤーに知らせるため、鈴をつけているゴルフ場もあるようです。万が一の事故の場合の損害を最小限に防ぐため、転落防止用の柵を設置することも、ゴルフ場が比較的簡単に行うことができる対応策ではないでしょうか。

プレイヤーが乗用カーに乗り込む前からできる安全対策もあります。カート道の地図を配布して危険な場所を明示して、運転するプレイヤーに注意を促すことも有効です。乗用カー利用規則を作成し、プレイヤーが来場したときには、その規則に基づいた注意書を配布し、プレイヤーには、利用規則を遵守して乗用カーを利用することを誓約のうえ、署名をしてもらう方法も考えられます。その際には、合理的な内容の免責条項も盛り込んでおくと、後々のトラブルの際の助けになり得るでしょう。自動車の運転免許を持っているプレイヤーだけが乗用カーを運転することができる、飲酒をした場合には乗用カーを運転させない、というルールを設けることも考えられます。

ゴルフ場がいくら注意をしていても、不幸にして事故が起こってしまう可能性もあります。ゴルフ場やプレイヤーが保険に加入するということも、大切なリスク回避の方法です。

「ゴルフ場セミナー」2010年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「受動喫煙防止」

2010年4月1日より、神奈川県では「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」が施行されています。この条例は、違反に対する罰則付きの条例として話題になりました。

ゴルファーにも愛煙家が多いと思いますが、今回は、受動喫煙防止に関する法律問題について説明したいと思います。

 

受動喫煙の害

愛煙家の中には、喫煙と肺癌の因果関係は立証されていないなどと強弁する人もいるようです。喫煙が自身の健康に無害であると信じることや、喫煙による各種癌や心臓血管系の疾病等への罹患リスク増加を知った上で甘受することは喫煙者の自由です。人には自己責任で体に悪いことをする自由も認められています。

しかし、問題は受動喫煙です。一般的にはタバコは身体に対して有害であると認められているうえ、喫煙者本人の害よりも、周囲の人間の受動喫煙の方がより有害であるという研究結果もあります。

ある医師の報告によれば、タバコの煙にはタール、ニコチン、一酸化炭素など、200種類以上の有害物質が含まれているそうです。中でも、タールは発癌性物質や発癌促進物質、毒性物質を含み、一酸化炭素には動脈硬化を促進させる作用があるそうです。煙に含まれる発癌物質が体に吸収されると、臓器に蓄積され、肺癌、膀胱癌、肝臓癌、子宮頸癌や、慢性気管支炎、肺気腫、心筋梗塞、胃潰瘍、クモ膜下出欠、歯周病や不妊などを引き起こす原因になるそうです。

小児の受動喫煙による喘息や下気道疾患などの呼吸器感染症等の発症率を非喫煙者の子供と比較すると、2~5割も高く、また、喫煙者と30年以上同居している人は、喫煙者と同居したことがない人と比べて認知証の発症率が約30%も高いというデータもあるようです。

周囲の人間に対する迷惑は、単にマナーの問題にとどまらないのです。

ちなみに、この医師によれば、タバコによって解消されるのは「タバコを吸いたい」という欲求から生まれるストレスだけで、それ以外のストレスは全く軽減されないのだそうです。

 

受動喫煙防止に向けた取り組み

平成15年5月1日施行の健康増進法は、多数の者が利用する施設の管理者に対して、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること)の防止措置を義務付けています(同法第25条)。ゴルフ場も多数の者が利用する施設ですから、クラブハウス内等における受動喫煙を防止する義務を負っています。しかし、同条違反に対する罰則はなく、その意味で「努力目標」にすぎませんでした。

健康増進法制定と前後して、たばこによる害の広がりは、公衆の健康に深刻な影響を及ぼす問題であることが世界的に認識されるようになり、平成16年3月9日には、我が国も「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(たばこ規制枠組条約)に署名し、同条約は平成17年2月27日に発効しました。

平成19年6月から7月にかけて、同条約の第2回締約国会合(COP2)が開かれ、日本も、同条約発効後5年以内、すなわち平成22年2月までに、公共の場所における受動喫煙がなくなるよう、例外なき保護を実施する義務が課されました。

この際に定められたガイドラインでは、「完全禁煙以外の措置は不完全だ」「全ての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきだ」「たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は、責任及び罰則を盛り込むべきだ」と定められていますが、「法的拘束力はない」とされています。

ガイドラインに定められた期限ぎりぎりの平成22年2月25日、厚生労働省健康局長は「受動喫煙防止対策について」という通知を発し、今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性を示しました。

そこでは、「今後の受動喫煙防止対策の基本的な方向性として、多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべきである。…(中略)…特に、屋外であっても子どもの利用が想定される公共的な空間では、受動喫煙防止のための配慮が必要である。」とされています。

 

神奈川県の条例

現在、受動喫煙防止に関して最も法的規制が進んでいるのは神奈川県です。

神奈川県では、昨年3月に、冒頭に述べた条例を定め、本年4月1日から施行されています。この条例は、官公庁やスポーツ施設等(第1種施設)を全て禁煙としています。ただし、これらの施設でも、喫煙所を設けることはできます。また、飲食店やホテル等(第2種施設)では禁煙だけでなく分煙も選択できますし、小規模な飲食店や宿泊施設等については、後述の罰則規定の適用はなく、この条例による規制はすべて「努力義務」とされます。

ここで、「禁煙」と「分煙」の違いについて説明しておきます。

一般的には、ある施設の中で全面的に喫煙が禁止されるのが「禁煙」、部分的に喫煙が禁止され、禁止部分に全く煙が流れ込まないような仕組みになっているのが「分煙」と言われます。ただし「禁煙」であっても、専ら喫煙のためだけに使用する「喫煙所」を設けることは許されることが多いでしょう。(屋内に専用喫煙室を設けただけでは「分煙」にとどまるとする県もあります。)

例えば、あるレストランで、喫煙所以外では一切喫煙できないというのであれば「禁煙」ですが、喫煙と禁煙の部屋を完全に分けて、禁煙の部屋に全く煙が流れ込まないように設備を整えたとしても、テーブルで喫煙できるのであれば、それは「分煙」にとどまる、ということです。

条例制定を受け、一部のファストフード店やファミリーレストランでは、神奈川県内の全店舗を禁煙化するとのことです。これに対し、居酒屋等では、禁煙としてしまうと、特に宴会等大人数で利用する場合の客足が遠のくとして、禁煙には慎重な姿勢を見せているようです。

神奈川県の条例の画期的な点は、施設管理者が禁煙措置を講じない場合等、知事は施設管理者に指導、勧告、命令ができ、命令に従わない場合には5万円以下の過料に処することとして、罰則をもって受動喫煙防止措置を義務付けた点です。

地方自治法14条3項を根拠として、地方公共団体は条例に2年以下の懲役等の罰則を定めることができますが、そもそも、国の法律で罰則が定められていないのに、都道府県レベルの条例で罰則を定めて良いのか、という問題があります。

これは結局法律の趣旨(法律に定めた趣旨、あるいは法律に定めない趣旨)の解釈の問題です。国が、その行為を一律に処罰しない趣旨で罰則を定めないのであれば、条例で罰則を定めることはできません(教科書で引用される例としては刑法改正による姦通罪の廃止等が挙げられます)。逆に、地域の実情に応じて罰則を定めても良いという趣旨であれば、条例で罰則を定めることもできます。

受動喫煙防止については、国レベルの法制度の整備が遅れているだけであって、条例で罰則を定めることを禁じるものではなく、むしろたばこ規制枠組条約のガイドラインの趣旨に照らせば、罰則を設けることが望ましいとすらいえるでしょう。

本年3月の報道によれば、知事選と重なった石川を除く46知事に対するアンケートの結果、静岡、京都、奈良、兵庫、和歌山、鳥取、鹿児島の7知事が、受動喫煙防止を目的にした独自の条例制定を検討中とのことで、京都及び奈良は、罰則の必要性も今後検討するとのことです。また、18知事が、国が罰則付きの法規制をすべきだと考えているのに対し、10知事が、国の罰則付きの法規制に反対しているそうです。

 

ゴルフ場における取組み

今後、世の中はますます禁煙の方向に進むものと思われます。ゴルフ場は、スポーツ施設ですから、特に禁煙化が強く求められるようになりますが、どのように禁煙化を進めるべきでしょうか。

クラブハウスの中をくわえタバコで歩き回るのは論外ですが、非喫煙者も利用する食堂や風呂場、トイレで喫煙をすることも受動喫煙につながりますので、法の趣旨からは認めるべきではありません。

コンペルームを原則禁煙、一部だけ喫煙可とすることは、喫煙者に配慮した穏当な方法のようにも思われますが、これではせいぜい「分煙」にとどまります。通常であれば、コンペ参加者の中に非喫煙者もいるでしょうから、受動喫煙防止という観点からは全く不十分です。

どうしても喫煙スペースを設けたいのであれば、専用の「喫煙室」を設置することが本来的な方法ですが、費用もスペースもない、という場合も多いでしょう。

そうなると、屋外に喫煙場所を設けるしかないということになります。しかし、屋外であっても受動喫煙の可能性はあります。また、ジュニアの育成が叫ばれている今、屋外においても、子供が来る可能性がある場所で喫煙をするべきではありません。日本ゴルフ協会や関東ゴルフ連盟もジュニア委員会を設け、ジュニアゴルファーの育成に力を入れています。前述した厚生労働省局長通知の「屋外であっても子どもの利用が想定される公共的な空間では、受動喫煙防止のための配慮が必要である」という指摘も忘れてはなりません。

ティーインググラウンド付近に灰皿を設置し、待ち時間に喫煙することは許されるかもしれません。ただし受動喫煙に対する配慮をしなければならないのは当然です。しかし、フェアウェーやグリーンでは、火災防止の観点やマナーの観点から、全面禁煙とすべきでしょう。コース売店でも、受動喫煙の害が大きいため禁煙とすべきでしょう。

当面、神奈川県以外の県では条例で罰則が定められていませんが、いずれ罰則付き条例が多数派になるのは目に見えています。神奈川県のゴルフ場は勿論のこと、他県のゴルフ場も早急にこれらの措置を講ずべきなのは言うまでもありません。

 

従業員への安全配慮義務

ゴルフ場において受動喫煙を防止するというのは、何もゴルフ場を訪れたプレイヤーのためだけではありません。従業員との関係においても、受動喫煙の防止は重要な課題です。

使用者は、事業遂行に用いる物的施設及び人的施設の管理を十全に行うなど、従業員の職場における安全と健康を確保するため、十分な配慮をしなければなりません。これを安全配慮義務といいます。

勿論、使用者としても、従業員の安全や健康そのものを保障できるわけではなく、結果責任を問うことは妥当ではありませんが、受動喫煙の害について広く認識されるに至った今日において、職場における受動喫煙を防止する措置を講じることは、使用者が負うべき安全配慮義務から導かれる要請です。

もっとも、工場設備の管理に明らかな不備があって事故が起こり、従業員が怪我をしたというような場合と異なり、受動喫煙と従業員の健康被害との間に相当因果関係があることを立証することは、実際問題としては非常に困難であると思われます。

しかし、訴訟等になった場合の立証が困難であるからといって、使用者が、従業員の安全と健康に配慮しなくてよいということにはならないのは当然のことです。

「ゴルフ場セミナー」2010年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎