熊谷信太郎の「ゴルフ場内での盗難事故」

今年9月、日本女子プロゴルフ選手権に出場していた女子プロゴルファーが車上荒らしの被害に遭ったという報道がありました。空港近くの駐車場に停めた車からクラブやDVD等を盗まれたということです。

ゴルフ場でも、駐車場で来場者の車が車上荒らしに遭い、車ごと、或いは中に入っていた金品が盗まれた場合、ゴルフ場に責任があるのでしょうか。ゴルフ場内でのゴルフクラブの盗難や貴重品ロッカーからの金品の盗難の場合、或いはゴルフ宅配便を利用した際、キャディバッグやクラブが破損していたというような場合はどうでしょうか。

ゴルフ場での盗難については以前本誌でも取り上げていますが(平成24年2月号)、改めてゴルフ場での金品の盗難や破損等のトラブルについて検討します。

 

お客から預かった物

ゴルフ場がお客から物を預かることを、法的には「ゴルフ場が客から寄託を受けた」或いは「ゴルフ場と客との間に寄託契約が成立した」等と表現します。

ゴルフ場等の商人(商法上、自己の名をもって商行為を行うことを業とする者を意味し、ゴルフ場事業者もこれにあたります)は、営業の範囲内において他人から物を預かったときは、無償であっても善良なる管理者の注意義務(いわゆる善管注意義務)をもって管理しなければならないとされています(商法593条)。ここで善管注意義務とは、取引上で抽象的な平均人として一般的に要求される注意義務を言い、自己の財産に対するのと同一の注意義務よりも重いものとされています。

さらに、ホテルや温泉宿、浴場など多数の人が出入りする場所(これを商法では「場屋」(ジョウオク)といいます)となると、盗難や紛失の危険が高まるので、商法は保管する側にさらに重い責任を課しています。

ホテルやレストランなど、お客を集めて営業する場合、お客から預かった金品については、滅失・毀損が不可抗力であったことを証明しない限り、営業者は責任を負うとされているのです(商法594条1項)。

この規定に関連して、名古屋地裁昭和59年6月29日判決は、ゴルフ場も「客の来集を目的とする場屋」に該当するという判断をしています。

この事案は、車上荒らしではなく、プレー終了後にゴルフバッグごとなくなってしまったという事案です。ゴルフ場は、プレー終了後キャディが点検してお客に確認させた時点でゴルフ場は責任を免れると主張しましたが、裁判所は、点検後はキャディがバッグを運んでしまうのだから、これはただの点検にすぎず、寄託が終了するのはもう少し先であると判断し、ゴルフ場の主張を認めず、約60万円の損害賠償を命じました。

 

お客の持ち物

一方、寄託を受けていない物品については、持ち主自身が管理すべきであって、営業者は責任を負わないのが原則です。

しかしながら、商法は、客が寄託しない物品であっても、営業者側に不注意があって客の持ち物が滅失・毀損した場合には、営業者は客に対して損害賠償責任を負うと規定しています(商法594条2項)。

ゴルフ場としては、預かった物でなくとも、ゴルフ場内において客の荷物が滅失毀損しないように、善良なる管理者の注意義務をもって管理する必要があり、これを怠ったがために紛失・毀損したような場合には損害賠償責任が生じるのです。

例えば、ゴルフ場にはゴルフ場内に設置した貴重品ロッカーを安全に使えるようにする義務があり、これを怠ったためにお客の財布等が盗まれたと認められるような場合には、損害賠償責任が生じるわけです(詳細は後述)。

 

張り紙や約款による告知

このように営業者はお客から預かっていない物についてまで滅失毀損の責任を課せられることになるわけですが、約款や張り紙で、預かった物以外は責任を負わない旨を規定しておけば、営業者は免責されるでしょうか。

この点、商法は594条3項で「客の携帯品につき責任を負わざる旨を告示したるときといえども場屋の主人は前2項の責任を免れることを得ず」と規定しています。

そのため、仮にゴルフ場が「ゴルフ場内においては、金品は自己責任で管理してください。ゴルフ場は一切責任を負いません。」などと張り紙をしたとしても、法律的な意味は厳密にはないということになります。

では、約款で預かった物以外は責任を負わない旨を規定しておく場合はどうでしょうか。

商法594条は任意規定なので、当事者間の合意により責任免除や制限をすることは可能です。張り紙は一方的な告示に過ぎず、契約になりませんが、約款であれば当事者の意思により別段の定めをすることになるので、効力が認められ、有効であると考えられます。

したがって、思わぬ高額な賠償責任を負うことを避けるためには、約款で責任の免除や限定(責任限度額)を定めておくことが有効ということになります。ただ、責任の免除というのはあまりに片面的であり、合理性もない(当事者間の合理的意思に合致しない)と考えられるので、免責ではなく責任を制限する内容の方が効力が認められ易いと思われます。

 

高価品の特則

紛失したものが高価品であった場合には、客が予め種類とその価額を明らかにして告げておくのでなければ、営業者は賠償責任を負わないと規定されています(商法593条)

例えば、営業者が、見かけはごく普通の段ボール箱を預かったが、実はその中には何億円もする貴重な宝石が入っていたというような場合、中身や価額を知らされていればともかく、それを知らされていないような場合まで営業者に何億円もの責任を負わせるのは酷ですから、その場合営業者は重い責任を負わなくてよい、という規定です。

この規定に関連し、東京・六本木の駐車場に歯科医が預けたベンツが車ごと盗まれたという事案があります(東京地裁平成元年1月30日判決)。駐車場自体はお客を集める場所ではありませんが、裁判所は同条が準用されるべきだとしつつ、通常自動車に置かれている物品どうかで、駐車場が責任を負うかどうか判断すべきだとしました。

この判断を前提にすると、ゴルフ場でお客から預かった物品についても、ゴルフバッグの中に入っているゴルフクラブやゴルフシューズ等については、ゴルフ場は原則として責任を負うべきですが、現金や時計、貴金属類が入っていたとしても、責任を負う必要はないと考えられます。

 

車上荒らしの場合

ゴルフ場駐車場での車上荒らしの場合も、基本的にはお客がゴルフ場に車(及び車内の金品)を預けたと言えるか否かが問題となります。

この点で参考になる裁判例が2つあります。

1つは営業者側の責任を肯定した事例です。ホテルを利用したお客がホテル側で車を動かすことを了承して従業員にスペアキーを渡したところ、車ごと盗まれてしまったという事案で、大阪高裁平成12年9月28日判決は、「ホテル敷地内での移動を了承し、鍵を預けたから、お客はホテルに車を預けたといえる」「<免責の告示>で免責を主張することはできない」等と判断し、ホテル側の責任を認めました。

一方、営業者側の責任を否定した事例もあります。お客が1階駐車場に駐車し、2階のレストランで飲食している間に、車の窓ガラスが割られ、車内に置いていたスポーツバッグを盗まれたという事案で、東京簡裁平成17年7月19日判決は、「車と積載品についてレストランが保管したと解することは困難」「駐車場を利用しない客も多数おり、駐車車両の管理が飲食物供給契約の付随義務となる余地は全くない」等と判断し、レストランの責任を否定しました。この事案では、「駐車場の出入りは自由であり、空いている場所に自由に駐車できる」「レストランは鍵も預かっていない」といった事実認定が前提とされています。

これらの裁判例を前提に考えると、車を預かるバレパーキング等のサービスを行っている場合は別として、多くのゴルフ場では、お客は自由に駐車場を利用できますし、お客がゴルフ場に鍵を預けることもないので、このようなゴルフ場では、お客の車を預かったということはできず、車上荒らしについて責任を負わないということになると思われます。

 

ゴルフクラブの盗難

キャディバッグやゴルフクラブの盗難の場合も同様に考えられます。

例えば、宅配便等で事前にキャディバッグが送られた場合にはゴルフ場がそれを受け取った以降、客がキャディバッグを持ってきた場合にはポーターが受け取った以降、寄託物に対する責任を負うことになります。

係の者が不在で、客が勝手にクラブハウスの玄関に置いた場合には、原則として寄託を受けたとは言えませんが、その場所が普段からキャディバッグの受渡しの場所となっていて、実際に他の客のものが置いてあるような場合には、担当者がその場を離れてしまったこと自体がゴルフ場側の不注意と判断される場合もあるので、注意が必要です。

プレー終了後も、引換券等と引換えに客にキャディバッグを引き渡すまでは、ゴルフ場に寄託物に対する責任があると考えられます。要所要所に従業員を配置する等して、盗難を防ぐような措置が大切です。

 

貴重品ロッカーからの盗難

貴重品ロッカーからの盗難の場合も、そもそも貴重品ロッカーの中の物について営業者側が寄託を受けたと言えるか否かが問題となります(商法594条1項)。

この点、寄託を受けたとは言えないという判断に落ち着いたと言ってよいでしょう。東京高裁平成16年12月22日判決も、ゴルフ場の貴重品ロッカーについては、プレイヤーがゴルフ場に対して保管を申し込み、ゴルフ場がこれを承諾して物品を受け取ったわけではないから寄託契約は成立しないと判断し、ゴルフ場の責任を否定しています。

もっとも、寄託を受けたとは言えないとしても、ゴルフ場は貴重品ロッカーを設置し管理しているわけですから、貴重品ロッカーの安全を維持確保する義務を負担していると言うべきです(商法594条2項)。この点、注意義務違反を認めた裁判例もあるのでその点の備えが必要です(ゴルフ場の事案で秋田地裁平成17年4月14日判決、スポーツクラブの事案で東京地裁八王子支部判決平成17年5月19日判決等)。

そこで、貴重品ロッカーの日常点検を怠らず、不審者に気を付け、具体的に予想される犯行手口があればそれを防止できるような措置を取ることが必要でしょう。最近では指紋認証機能のあるロッカーも発売されていますし、設備の更新を怠らないことも大切です。

 

ゴルフ用宅配便の利用

宅配便による運送の場合、消費者保護の観点から標準約款が定められており、宅配便業者の殆どはこの約款にならっています。

標準約款によると、「荷物の滅失又はき損についての配送業者の責任は、荷物を荷送人から受け取ったときに始まる」とされ、配送業者は、荷物の受取、引渡し、保管及び運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り、原則として「荷物の滅失、き損又は遅延について損害賠償の責任を負う」とされています。

このように、宅配便を利用した際、到着時にキャディバッグやクラブが破損していたというような場合、原則として配送業者の責任となります。

「ゴルフ場セミナー」2016年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎